悪役令嬢の私が姫に転生した件  ――それはいいのですが、なぜ魔王城に幽閉から始まるのですか?

しばたろう

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最終話

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 戦の終結、
 そして、
 アウレリア王国と魔王領の同盟締結から、
 数日が過ぎた。

 王都ルクシオンは、
 ようやく、日常を取り戻しつつあった。



 その日、
 王宮より、静かな布告がなされた。

 大仰な式典はない。
 凱旋の喧騒もない。

 集められたのは、
 重臣と諸侯、
 そして、必要最小限の立会人のみ。

 国王が、簡潔に告げる。

「――すでに周知の通り、
 アウレリア王国は、
 魔王領と相互不可侵・防衛同盟を締結した」

 一拍。

「本日は、
 それとは別に、
 私事として、
 一つの報せを伝える」

 その言葉に、
 場の空気が、わずかに変わる。

「第三王女エリシアと、
 魔王ヴァルディスは、
 婚約の運びとなった」

 ざわめきは、起きなかった。

 すでに、
 多くの者が、
 薄々、察していたからだ。



 エリシアは、
 一歩前へ出て、
 静かに頭を下げる。

「この婚約は、
 戦の結果として与えられたものではありません」

 落ち着いた声。

「同盟とは切り離された、
 私個人の意思によるものです」

 ヴァルディスも、
 短く、しかし明確に続けた。

「我が名において誓おう」

「この婚約は、
 取引でも、
 義務でもない」

「エリシアを、
 一人の伴侶として迎える」



 誰も、異を唱えなかった。

 それは、
 戦を終わらせ、
 国を守り抜いた者たちが、
 選び取った未来だったからだ。

 拍手は、
 控えめだった。

 だが――
 その静けさこそが、
 この婚約が、
 国に受け入れられた証だった。

 こうして、
 アウレリア王国の歴史に、
 新たな一行が、
 そっと、書き加えられた。

 ――
 それは、
 戦の続きではなく、
 平和の始まりとして。
 

 
 ヴァルスの屋敷。

 私たちは、これからのことについて、円卓を囲んで話していた。

「……商人ヴァルスの正体も、
 すっかり世間に知られてしまいましたね」

 私がそう言うと、
 ヴァルディスは苦笑する。

「ここに住んでいたのが、
 魔王とその幹部、
 そして王女だったとなればな。
 驚かれない方が無理だろう」

「ランドロスも、ディートリヒも、
 私の扱いに相当困っていたぞ。
 引き続き“ヴァルス”で頼むと言っておいたが……」

 少し間を置いて、

「最近は、
 “ヴァルス陛下”と呼ばれている。
 どうにも、ちぐはぐでな」

 そう言って、
 おかしそうに笑った。

 その間も――
 ヴァルディスは、
 私の手を握ったままだ。

 公に婚約したのだから、
 問題ないだろう、とは言うけれど。

(……やっぱり、少し、恥ずかしい)



 話題は、屋敷の今後に移る。

「正体を明かした今、
 この屋敷も、役目は終えた」

 ヴァルディスは静かに言った。

「私は、ヴァルスとして商いは続けるが、
 拠点は魔王城に戻るつもりだ」

「もちろん――」

 私は、即答する。

「私も、ついていきます」

 それを聞いていた父――
 アウレリア国王が、
 さも当然のように口を挟んだ。

「では、
 魔王城と、
 我が寝室に、
 転移魔法陣の設置を頼む」

 ……どうやら、
 頻繁に遊びに来るつもりらしい。



「おれは、魔王についていく」

 グラドが、短く言う。

 その隣で、
 カエデが少し緊張した様子で立ち上がった。

「わたしは、
 今後もアウレリア医療院で、看護に携わるつもりです。
 剣術以外にも、人を守る道があることを知りました。
 父も、その選択を許してくれました」

 それから、
 少しだけ声を落とす。

「でも……
 みなさんと、
 ここで暮らせなくなるのは、
 ちょっと、さみしいです」

「いつでも会える」

 グラドが即答する。

「また、
 一緒に剣を振ろう」

「……はい!
 先生!」

 カエデの目が、
 うるりと潤んだ。



 そのときだった。

 勇者クラウスが、
 おもむろに立ち上がる。

「俺は――
 旅に出るつもりだ」

 意外なほど、
 まっすぐな声だった。

「まだ、
 見ていない景色が、
 たくさんある」

 そう言って、
 彼は、セリスの前に歩み寄る。

 片膝をつき、
 その手を取った。

「……!?」

 一瞬の沈黙。

 次の瞬間。

「クラウスが、
 セリスの手を握った!」
「握った!?」
「……握った!?」

 屋敷中が、
 ざわめきに包まれる。

 ――あの、ヘタレ勇者が。

「長い旅になる」

 クラウスは、
 視線を逸らさずに続けた。

「俺と一緒に来てくれないか」
「俺の――
 妻として」

「えっ、プロポーズ!?」
「プロポーズ!?」
 ざわめきが加速する。
 
 混乱の中、
 セリスは一瞬、
 はっとした表情で――
 魔王を見る。

 ヴァルディスは、
 何も言わず、
 ただ、うなずいた。

 セリスは、
 小さく、
 しかし確かに、うなずく。

「……はい」

 頬が赤く染まり、
 瞳が、潤む。



「おめでとう」

 私は、心から言った。

「おめでとうございます。
 勇者様、セリスメイド長」

 カエデも続く。

「やれやれ……」

 ヴァルディスが、肩をすくめる。

「新しい参謀を、
 探さねばならんな」

 笑い声と祝福が、
 屋敷を満たす。

 別れと、旅立ちと、
 新しい未来。

 ヴァルスの屋敷は、
 そのすべてを見届けながら、
 静かに、役目を終えようとしていた。
 

 魔王城。
 謁見の間。

 私とヴァルディスは、
 並んで立っていた。

 天窓の向こうには、
 満天の星空が広がっている。

「……ここから、
 本当に、すべてが始まったのね。
 ヴァルディス」

「そうだな、エリシア」

 ヴァルディスは、
 私の手を握りしめたまま、言った。

「だが――
 終わりではない」

 静かな声。
 けれど、その奥に、確かな野心がある。

「アウレリア王国では、
 我々が築いた流れは、
 もはや誰にも止められぬ」

「しかし、
 世界は、まだまだ広い」

 夜空を見上げる。

「これからは、
 さらに外へ打って出る」

「人間の国を支配するには、
 まだ、先は長い」

「はい」

 その答えに、
 迷いはなかった。

 ヴァルディスは、
 私の肩を抱き寄せ、
 そっと引き寄せる。

「さて……」

 少しだけ、
 楽しげな声になる。

「次は、
 隣国の有力者に、
 そっと手を伸ばしてみるか」

「エリシア。
 何か、良い案はあるか?」

 私は、
 思わず、微笑んだ。

「それでしたら――」

 目が、自然と輝く。

「私に、策があります」
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