君と初恋

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9、あなたの心

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「ごめん、お待たせ!」
「全然待ってないし、まだ時間になってないから余裕でセーフ」

 私が待ち合わせ場所に走れば遊馬くんはもう着いていて申し訳ない。
 この間の約束は早速次の土曜日ということになってあっという間にその日は来た。
 地元のショッピングモールで待ち合わせだ。

「綿谷はいつも向坂にプレゼントあげてんの?」

 遊馬くんに付き合ってウィンドウショッピングをしながら瑠衣が好きそうなものを一緒に探す。

「うん、私はいつも事前に瑠衣に聞いてあげてるんだ。瑠衣も私の誕生日のときは聞いてくれるし、二人でお互いの
欲しいものあげてる感じなの。遊馬くんはいつもはあげてないの?」

 私の何気ない質問になぜか顔を赤くする遊馬くん。

「瑠衣の誕生日に告白しようと思ってるんだ」
「……っ!」

 思わずびっくりしてしまう。
 なんとなくこの二人は改まって告白とかはしないのかと思っていたからだ。

「やっぱ、無理だよなー」

 だけど、私の表情で何か勘違いしたみたいで遊馬くんはそんなネガティブ発言をする。

「いや、違くて。もうほぼ付き合ってるみたいなものなのかと思ってたから」
「俺は結構アピールしてるつもりなんだよね。けど、進展とかはないし今更告白なんてすんの逆に不自然かなとか思うし。だから、誕生日プレゼントと一緒にだったらちょっとは特別感でるかなぁなんて」

 あんなにうまくいってそうだったのに意外な悩みだ。
 多分、告白は成功すると思うけどそんなこと言っていいのかわからなくて困ってしまう。

「瑠衣は遊馬くんのこと嫌いじゃないと思う。告白する価値はあるんじゃないかな」
「マジ⁈ それ聞いたらちょっと安心した。脈あんのか聞きたかったのも今日誘った理由の一つだったから」

 一つ、ということは何かほかにも理由があったのだろうか。



「いいの買えてよかったー! 今日は助かった。時間的に昼飯食べてから帰るか」

 遊馬くんは結局、瑠衣にハンカチを買うことにしたらしい。
 遊馬くんが散々迷ってお昼の時間を少し過ぎてしまったのもあって二人でお昼ご飯を食べてから解散することにした。

「あのさ、今日誘ったもう一つの理由話してもいい?」

 フードコートでハンバーガーを食べていたら遊馬くんが真剣な顔でそう切り出した。
 どうやらこっちのほうが本命の理由みたい。

「うん、何?」

 なんとなくハンバーガーを置いて真剣に話しを聞く姿勢になる。

「灯里のことで綿谷には知っててほしいことがある。…………綿谷、花火大会の日灯里に振られただろ」

 どこか確信をもって告げる遊馬くん。
 隠す必要もないから素直に頷けば「やっぱり」とつぶやいた。

「悪い。こんなこと言われていい気分しないよな。ただ、あいつの名誉のために言うけど灯里は君の告白について何も言ってない」
「え? でも、じゃあなんで……」

 てっきり、水瀬くんが話したんだとばかり思っていたからびっくりしてしまった。

「あいつには幼馴染がいるんだ」

 私の質問には程遠そうな切り出しを遊馬くんは真剣な顔をして続ける。それに口をはさむ気にはなれなくて黙ってうなずく。

「……。」
「俺とその子を灯里は三人で幼馴染で小学校まで同じだった。俺らが小六だった今頃の季節にやっぱり花火大会があったんだ。俺はその日、サッカーの合宿で家にいなかったから花火大会にはいかなかった。けど、灯里とその子、なのかっていうんだけどね。灯里となのかは花火大会に行った。そこでなのかはこの先一生背負わなきゃならないけがをしたんだ」
「そんな。……なんで?」

 遊馬くんの話はまだいまいち要領を得ないけど水瀬くんのことを何か教えてくれようとしてくれてるのは分かる。

「酔っ払いにぶつかられて道路に飛び出してしまったらしい。俺も詳しいことはわからないんだ。でも、灯里がすごく後悔していたのは知っている。今でもずっと」
「どうして水瀬くんが? 全然悪く……。」
「悪くないよね。俺もそう言ったよ」

 私の言おうとしたことにかぶせるように遊馬くんが告げる。
 遊馬くんの顔からはその出来事がその三人取ってひどく悲しいことだったことが読み取れた。
 特に水瀬くんがそのことをひどく引きずっているのだろうことも。

「……灯里は言ったんだって。『俺が守る』って『だから、大丈夫』ってなのかに言ったんだって。悪いとか悪くないとかじゃない。灯里が自分を許せない。もう、誰かを守るなんて怖くて言えなくなったって言ってた」

 こんな話、私が語っていいことじゃない。だけど、今とてつもなく水瀬くんに会いたくなった。
 言えることなんてきっと何もないのにそれでも会いたい。
 でも……。

「でも、なんでその話を私に?」
「『大切だから、そばにいてほしくない。』前に灯里がそう言っていたのを思い出した。守れなかったあの苦しみをもう味わいたくないからって」

 それは……。
 遊馬くんは最初に私が振られたかどうか確認していた。
 それは私が本当にあの人の『守りたい人』になったかどうかを確認するためだったんだと今更ながらに分かった。
 でも、本当に?
 ガッシャーン!
 会話の最中フードコート内に響き渡る大きな音がした。
 長話をしてお昼時はとっくに過ぎていた。満席だった席はほとんどが空席で人もまばらだ。
 そんな中少し離れたところで女の子が倒れていた。
 音の場所はそこだ。

「大丈夫ですかっ!」

 慌てて駆け寄れば女の子はわずかにこちらに反応を見せた。
 意識を失ったんじゃなくて安心した。

「ごめんなさい。少し転んでしまって」

 女の子は少し転んだにしては足が痛くて立ち上がれないみたいだった。

「でも、足が……」
「これは転んだせいじゃないの。昔の事故でたまにひどく痛むことがあって」

 女の子は何かを思い出すみたいな少し切ない顔をした。

「もしかして、なのか?」
「尊人?」

 なのか、ちゃん?
 さっき聞いたばかりのその名前に驚く。
 じゃあ、その足はさっき言っていた事故で?

「そうだよ! なのかはなんでこんなところに?」



 まさか、そんな偶然が起こるなんて。
 二人の様子からして彼らも久しぶりに会ったような口ぶりだしここにいるのは本当に偶然みたいだ。
 なのかちゃんはここの近くの病院に通っているらしくてその帰りなんだそうだ。
 二人はしばらく話していたけど遊馬くんがまだ具合の悪そうななのかちゃんに代わって近くにいるらしいなのかちゃんの親に電話をして迎えに来てもらうことになったみたいだ。

「迷惑かけてごめんね。せっかくのデートなのに」

 遊馬くんが戻ってくるまでの間、私はなのかちゃんとフードコートに座って対面する。
 すこし、いや、かなり気まずい。

「デートじゃないよ。親友の誕生日プレゼントを一緒に買いに来たの」
「そっか。いいね」

 なのかちゃんは明るく話しているように見えてまだ少し顔色が悪い。
 大丈夫なのだろうか。

「なのかちゃんは今日はどうしてここに?」
「病院がここの近くで今日はその帰りなの」
「……そうなんだ」

 気まずい沈黙が落ちる。
 元々社交的ではない上にどこまで聞いていいのかということに気を回していると、話せることがなくなってしまうのだ。

「……灯里が好き?」
「え」

 唐突な質問に明確な言葉を示せなかった。でも、なのかちゃんはそれを肯定と受け取ったみたいだった。

「灯里は優しいよね」
「はい」

 なのかちゃんはきっと本当の水瀬くんを知っているんだ。
 彼女の呼ぶ「灯里」が嫌でも親しさが滲んで見えてそんな間に介入しようとした自分に嫌悪すら湧く。
 やっぱり、私じゃ……。

「灯里を守ってください」
「っ……。」

 なのかちゃんは座ったまま私に深々と頭を下げた。
 机におでこが付いちゃいそうなくらいだ。
 そんな真摯に水瀬くんのことを考えるなのかちゃんの姿になぜだか私の心にはどす黒い靄みたいなものがかかる。
 勝てないって思わせられた。
 幼馴染よりも最強なものはないって。

「自分で決めます」

 私の口から震える声で情けない決意が零れた。
 こんなにも強い幼馴染へのちっぽけな私ができる精一杯の抵抗。
 だって友達で痛いって言われてもやっぱり好きだと心が叫んでる。
 今日、遊馬くんと話すまでは本気で友達に戻るつもりでいたのにまだ自分の気持ちを伝えられていないことに気が付いてしまった。
 ここで諦めたらきっと後悔してしまう。
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