黄昏の竜王は純白の王を抱く

八陣はち

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白い寝台で*

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「焦らなくとも、今埋めてやる」

 トルヴァディアの低い声に宥められて、指が抜けたかと思うとひくつく窄まりに熱いものが押し付けられた。指とは違う張り詰めた熱に、フィオディークは息を止めた。

 窄まりに押し当てられたそれから、目が離せなかった。
 香油がたっぷりと垂らされ、トルヴァディアの逞しいものがゆっくりと後孔に埋まっていく。フィオディークの後孔は柔く綻んで、抗うことなくトルヴァディアの猛りを受け入れた。

「ふ、う」

 堪えきれない声が漏れるたびに、トルヴァディアは動きを止める。
 気遣うような視線と目が合うたびに、フィオディークの鼓動は柔らかく響いた。
 腹の中に、熱いものが埋まっている。

「お前の腹はいじらしいな。もう、離してやらぬぞ」

 トルヴァディアの声は、興奮を押し殺したような響きでフィオディークの耳をくすぐった。

「トル、トル」

 フィオディークの呼び声に応えるのは、トルヴァディアの甘やかな笑みだ。

「フィー、愛している」

 トルヴァディアの声に包まれるような感覚に幸福感が胸を埋め、フィオディークは涙を落とした。
 つがいの本能が流させた涙だった。
 トルヴァディアの指先が零れ落ちた雫を掬う。

「うれしい。私も、です」

 伸ばした手を取られて、身体を屈めたトルヴァディアの首へと導かれる。

「掴まっていろ。手加減できなかったらすまない」

 応える代わりに、フィオディークはトルヴァディアにしがみついた。濃くなる温もりに思わず吐息が漏れる。
 トルヴァディアが笑った気配がして、フィオディークはトルヴァディアの下に閉じ込められるように抱え込まれた。

 熱い肉槍がゆっくりと奥まで進む。
 気遣うようにゆったりと始まった律動は、フィオディークの胎に柔らかな快感を生んだ。
 トルヴァディアが動くたびに、中を擦る逞しい剛直の輪郭を嫌でも意識してしまう。柔い凹凸が熟れた肉壁を擦り、張り詰めた楔が奥の襞を何度も叩く。
 フィオディークの口からは、はしたなく甘やかな声ばかりが上がった。

 喉が鈴のように柔らかな音色を奏でる。与えられる快感に身体が喜ぶのを止められなかった。
 投げ出し震えるフィオディークの白い尾に、寄り添うように黒い尾が絡む。トルヴァディアの漆黒の鱗は眩い光を受けてきらめいた。
 白昼の白い光を浴びながら、つがいとして目覚めたフィオディークの身体はトルヴァディアを受け入れ歓喜した。

 力強い律動に腹の奥を叩かれるたびに、喉奥が引き攣った。痛みはなく、痺れるような快感が身体を駆けていくばかりで、フィオディークは上擦った声を上げて身体を強張らせた。

「気持ちいい、トル、トル」
「いいことだ。もっと教えてくれ」

 甘やかに許されるたびに、身体が緩んでいく。
 何度も腰が打ちつけられ、溢れる香油が濡れた音を立てる。
 触れ合う熱い身体は溶け合ってしまいそうだった。

「ッア、トル」

 フィオディークは譫言のようにトルヴァディアを呼んだ。全身を埋め尽くす快感に、ばらばらになりそうだった。
 しがみつくフィオディークの頭を、トルヴァディアの大きな手が優しく撫でる。それだけで不安は消え失せ、後に残るのは悦楽の火だけだった。

 眩い光が降る中、肌のぶつかる音と寝台の軋みと洗い息、鈴の鳴るような音色が響いていた。
 トルヴァディアの力強い律動がフィオディークを揺さぶる。浅いところから奥の行き当たりまで、トルヴァディアの猛りが余すところなく擦っていく。

「ひ、あ」
「フィー、受け止めてくれ」

 低く唸るような声がして、緩みきった最奥をこじ開けてトルヴァディアの猛りが最奥に潜り込んだ。
 フィオディークの白い腹に熱いものが散って、下肢が跳ねる。
 フィオディークの身体の芯を、痺れるような快感が駆け抜けた。意識を白く染め、背はしなり、ぼやけた視界が白く弾けた。

 フィオディークを押さえつけるようにしてトルヴァディアは腰を打ち付ける。
 何度も奥の襞をこじ開けて、一番深い場所で熱が爆ぜた。
 トルヴァディアのものが脈打ち、腹の奥に熱が広がっていく。

「フィー」

 呼び声に笑みを返すのがやっとだった。笑えていたのかも定かではない。それでも、トルヴァディアはそっと抱きしめてくれた。
 汗の滲む肌で温もりが混ざって、そのまま溶け合うようだった。

 真昼の白い寝台の上、逃げ場のないフィオディークはトルヴァディアからとめどなく愛を注がれた。

 日が沈んでもふたりの甘やかな時間は続いた。
 夜の帳が降り、空には月が昇り青白い光を降らせる頃。寝台に沈むフィオディークが運ばれたのは浴室だった。
 トルヴァディアに抱き抱えられ、吐き出した残滓に塗れたフィオディークはトルヴァディアの手でその身を清められた。
 フィオディークは夢現の狭間で、トルヴァディアの腕にその身を委ねていた。

「フィー」

 トルヴァディアの声がフィオディークを呼ぶ。見上げた先には、トルヴァディアの金色の瞳が宵闇の中で淡い光を受けてきらめいていた。

 頬を撫でる温かな手のひらに擦り寄ると、額に唇が触れた。優しい口づけは顔中に降って、最後にフィオディークの唇に重なった。

 月明かりの下、ぬるま湯を騒がしく揺らして、トルヴァディアはフィオディークを抱いた。
 白い身体を揺らして、トルヴァディアの逞しい猛りがフィオディークの胎を掻き回した。
 フィオディークはトルヴァディアにしがみつくのがやっとだった。
 それから三日三晩、トルヴァディアはフィオディークを離さなかった。浴室で、寝台で、フィオディークは声が枯れるほど啼き、動けなくなるほど愛された。

「あ、あぅ」

 寝台に伏したフィオディークの後ろから、トルヴァディアの身体が深く重なる。トルヴァディアの猛りで胎の深くまで埋められて、フィオディークは敷布に頬を押し付けて小さく啼いた。

「とる、きもちい、おなか、あつくて」
「つがいの腹になっているのだ。お前のうなじを噛んだら、お前の腹に卵が宿るようになる。俺とお前の子だ」

 すっかり緩んだ身体に教えるように、トルヴァディアの指先がフィオディークの白い項を撫でた。そっと撫でられただけなのに、快感が全身を巡っていく。

 寝室に籠り、フィオディークをその身体の下に閉じ込めて、トルヴァディアは何度も精を注いだ。フィオディークの腹がうっすらと張るほどにトルヴァディアは精を放ち、黄昏の竜王のものだと言わんばかりに愛した。

 抱き潰され寝台の上から動けないフィオディークに、トルヴァディアは甲斐甲斐しく世話を焼いた。抱き抱えて風呂に入れ、髪を梳いて食事も与えた。
 いつのまにか着てきた法衣の手入れも終わっていた。
 ここへ連れてこられてからどれくらい経つのかよく覚えていない。フィオディークはずっと、夢を見ていたような気がしていた。絶えずトルヴァディアから愛を囁かれて、身体を重ねて、竜王の愛を注がれた。

 しかし、フィオディークにはまだやらなくてはならないことがある。このまま寝台に横たわっているわけにはいかない。隣に寄り添うように寝そべるトルヴァディアはそれを許してくれるだろうか。

「トル、もう、戻らないと」
「行ってしまうのか」

 トルヴァディアが寂しそうに眉を下げるから、フィオディークは口を噤んだ。もう何日ここにいるのかわからないが、そんな顔をされては押し切ることなどできなかった。
 しかし、トルヴァディアはいいのだろうか。竜王にも務めはあるのではないのか。フィオディークは自分がトルヴァディアの務めの邪魔をしてはいないから不安になった。

「務めは、よろしいのですか」
「ふふ、お前より大切なものなどない」

 そんなことを言われては、フィオディークにはもう咎めることなどできなかった。喉元まで出かけた言葉のやり場を失って、フィオディークは俯いた。

「街に戻りたいか」

 トルヴァディアの声にフィオディークは顔を上げた。

「民がいるのです。冬も近く、まだ支度も充分ではありません」
「そうか」

 トルヴァディアはフィオディークを抱き寄せた。

「もう一晩だけ、いてくれるか。そうしたら、お前を帰そう」
「トル」

 あんなにも強いトルヴァディアが寂しそうな顔をするから、フィオディークは思わず美しい黒髪を撫でていた。こんなにも寂しそうな、子供のような顔をするのか。フィオディークはトルヴァディアが見せる知らない顔に戸惑うばかりだった。

「約束する。必ずお前をあの街へ戻してやる」

 トルヴァディアの声は優しく、それでいて芯があった。
 それは確かに、フィオディークに届いていた。

 その夜、フィオディークはトルヴァディアとともに眠った。穏やかで、静かな夜だった。
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