かみうみ異譚

八陣はち

文字の大きさ
4 / 13

秘めやかに注ぐあい1

しおりを挟む
 イザナギから生まれた神々のうち、マガツヒだけが一際異質だった。
 黄泉の国の穢れから生まれたからか、姿も性質も、他に似通うものはいなかった。
 穢れを纏い厄災を齎すそれに、イザナギとナオビだけが触れられた。
しかし実のところは、イザナギはナオビ以外が触れるのを決して許さなかった。
 マガツヒ興味を示す者はいたが、イザナギはそれを許さず、マガツヒはイザナギの宮にそっと隠されるようになった。

 白く烟る視界が何を映しているのか、マガツヒには分からなかった。
 寝台の上、向かい合うように抱かれてイザナギの温もりを感じながら、マガツヒはその身体を揺すられていた。胎の奥から湧き上がる悦楽に、イザナギと繋がっていることを教えられる。
 過ぎた快感にマガツヒの身体が跳ねると、宥めるように白い手が夜の色の肌を這う。

「マガツヒ」

 しっとりと情欲に濡れた声が吹き込まれ、身体中が火を灯したように熱くなる。

「いざなぎさま」

 啜り泣くような声を漏らし、マガツヒはイザナギに抱えられて胎の中を掻き回された。逞しい熱の塊が解れきった窄まりを目一杯拡げ、最奥までぴったりと埋める。
 イザナギの肉槍がゆったりと出入りすると、中はどこを擦られても気持ちがよくて、マガツヒはぐずるようにイザナギの白い胸元に縋りついた。

「あう、また、ぅ、くる、イザナギ、さま」

 小さく跳ねる身体を押さえつけるように優しく抱きしめ、イザナギは熱い鋒でマガツヒの柔い最奥を抉った。

「っひ、あ、ーーッ」

 引き攣ったマガツヒの喉からは、掠れた、悲鳴じみた声が上がる。
 背骨の浮き出た背を弓形にしならせ、マガツヒは言葉もなく悦楽の中にあることを訴えた。
 虚空を仰いだ金色の双眸は涙で濡れて、薄い唇が力なく開閉を繰り返す。口の端からは涎がとろりと垂れた。

「ぃ、んぁ」

 マガツヒの弛んだ唇が何かを告げようと蠢くが、うまく音にならない。

「かわいいよ、マガツヒ」

 深く貪るような口づけに、マガツヒの密やかな声は容易く掻き消えた。

 マガツヒがイザナギの寝所に連れてこられてから随分と日が経っていた。
 ナオビはマガツヒを起こし、湯浴みをさせ、手入れをして寝所に戻す役目を任されていた。
 寝台の上、くったりと横たわるマガツヒの姿を見るのは何度目だろうかとナオビは思った。

 血の河のような長い髪が寝台に散っている。もう何度も手入れをした長い赤い髪は、ここへ来てすぐの頃とは比べ物にならないくらいに柔らかく艶やかになった。
 しかし、夜の色の痩せた身体を丸めて眠るマガツヒはあまりに静かで、少し心配になった。初めて見た時よりも、背中に見える骨の凹凸が目立つように思う。
 マガツヒは食事をしない。もう魂は身体に馴染んでいるだろうに、何も食べたがらず、ナオビが持ってきたものに、首を横に振るばかりだった。
 口に含ませても、飲み込めずにすぐに吐いてしまう。

「どこか痛いのか」

 ナオビが訊いても、マガツヒは首を横に振るばかりだった。
 そうなってしまうとナオビにはなす術なかった。
 見かねてイザナギに相談すると、イザナギは苦笑いした。

「私も何か食べさせてみるよ」

 ナオビには、マガツヒは随分とイザナギに懐いているように見えた。イザナギならばなんとかしてくれるのではないか。ナオビはそんな期待を抱いていた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

【BL】捨てられたSubが甘やかされる話

橘スミレ
BL
 渚は最低最悪なパートナーに追い出され行く宛もなく彷徨っていた。  もうダメだと倒れ込んだ時、オーナーと呼ばれる男に拾われた。  オーナーさんは理玖さんという名前で、優しくて暖かいDomだ。  ただ執着心がすごく強い。渚の全てを知って管理したがる。  特に食へのこだわりが強く、渚が食べるもの全てを知ろうとする。  でもその執着が捨てられた渚にとっては心地よく、気味が悪いほどの執着が欲しくなってしまう。  理玖さんの執着は日に日に重みを増していくが、渚はどこまでも幸福として受け入れてゆく。  そんな風な激重DomによってドロドロにされちゃうSubのお話です!  アルファポリス限定で連載中  二日に一度を目安に更新しております

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

鬼ごっこ

ハタセ
BL
年下からのイジメにより精神が摩耗していく年上平凡受けと そんな平凡を歪んだ愛情で追いかける年下攻めのお話です。

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

平凡ワンコ系が憧れの幼なじみにめちゃくちゃにされちゃう話(小説版)

優狗レエス
BL
Ultra∞maniacの続きです。短編連作になっています。 本編とちがってキャラクターそれぞれ一人称の小説です。

愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない

了承
BL
卒業パーティー。 皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。 青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。 皇子が目を向けた、その瞬間——。 「この瞬間だと思った。」 すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。   IFストーリーあり 誤字あれば報告お願いします!

飼われる側って案外良いらしい。

なつ
BL
20XX年。人間と人外は共存することとなった。そう、僕は朝のニュースで見て知った。 向こうが地球の平和と引き換えに、僕達の中から選んで1匹につき1人、人間を飼うとかいう巫山戯た法を提案したようだけれど。 「まあ何も変わらない、はず…」 ちょっと視界に映る生き物の種類が増えるだけ。そう思ってた。 ほんとに。ほんとうに。 紫ヶ崎 那津(しがさき なつ)(22) ブラック企業で働く最下層の男。顔立ちは悪くないが、不摂生で見る影もない。 変化を嫌い、現状維持を好む。 タルア=ミース(347) 職業不詳の人外、Swis(スウィズ)。お金持ち。 最初は可愛いペットとしか見ていなかったものの…? 2025/09/12 1000 Thank_You!!

とある美醜逆転世界の王子様

狼蝶
BL
とある美醜逆転世界には一風変わった王子がいた。容姿が悪くとも誰でも可愛がる様子にB専だという認識を持たれていた彼だが、実際のところは――??

処理中です...