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とろける琥珀と石油王
モデルのアダム
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アダムの衣装は細身のスーツに、赤のハイヒール。長身で細身のアダムの体型を引き立てる衣装だった。
着替えを終えたアダムは先ほどまで座っていた窓辺のソファに静かに戻ってきた。
ユーシーはアダムの雰囲気によく似合っていると思った。
「ユーシーはそのままでも素敵だけど、そうだな、これに着替えてくれるかい」
ユーシーが渡されたのはリネンの白いシャツと下着のようなものだった。
「着替えはそっちの部屋でできるよ」
エゼキエルの指先が示すのは、扉に隔てられた隣の部屋だった。
ユーシーは言われるまま隣の部屋で着替えをする。
渡されたのは、柔らかなリネンのシャツに、柔らかな素材でできた黒い下着だった。普段履くのとは違う、女物のような形をしている。撮影用の衣装なのだろうが、随分と際どい。
ルイに言ったらどんな顔をするだろう。
怒るだろうか。喜ぶだろうか。
ユーシーの言葉ひとつで表情を変えるルイを思い出して、ユーシーは思わず頬を緩めた。
着替えを終えたユーシーは、アダムとエゼキエルのいるリビングへと戻った。
「これでいい?」
「ふふ、素敵な刺青だね」
シルクの下着は両サイドを紐で結ぶ心許ないものだった。それに羽織るのはシャツだけ。ユーシーが着るには大きすぎるサイズで、裸になるよりもなんだか落ち着かない。
「ルイに叱られそうですね」
アダムに言われて、余計に意識してしまう。
肌が熱くなった気がして、ユーシーは俯いた。
「大丈夫ですよ。リラックスして」
アダムの手のひらが優しく髪を撫でてくれる。ユーシーはため息をひとつ吐いた。
二人の支度ができたところで、エゼキエルはユーシーとアダムの前に何やら書かれた紙を差し出した。
紙には簡単な絵と、短い説明が並んでいた。これから撮る写真の構図のようだった。
「これから、君たち二人は恋人同士のふりをしてもらうが、構わないかい?」
「ふり?」
「ああ。こういう……」
エゼキエルの指先が指し示す先には、密着する二人の絵と『柔らかい表情で親密そうに話をする二人』と書いてある。
「ふりだけど、ちゃんと恋人らしく振る舞ってくれよ?」
なんだか、ルイに叱られそうだ。ユーシーがアダムを見ると、アダムも同じことを思ったのだろう。眉を下げて苦笑いした。
「嫌なら断っていいんですよ、ユーシー」
「ん、やるよ」
ユーシーは薄く笑う。やってみたかった。それ以上はアダムも何も言わなかった。
二人の様子を見て、エゼキエルが口を開く。
「彼はモデルで、気高く、美しく、凛としている。タイトなスーツに赤いヒールがよく似合う。そんな彼がかわいい恋人と過ごす。彼の恋人は美しいタトゥーを纏う可愛らしいボーカリスト。普段は真面目で凛としているのに、休日はモデルの彼にべったり。そんな二人の、甘やかな休日の午後の物語だ。午後の日差しを浴びながら、二人は語らう。仕事の話、明日の過ごし方の相談、来週のバカンスの話。涼やかな銀色の瞳と、甘やかな金色の瞳が交わる。二人は微笑み合って、暖かな陽だまりの中で抱き合うんだ」
エゼキエルは二人の物語を話しながら、カットの説明をする。
「これ、エゼキエルが考えたの?」
「ああ。そうだよ」
こんな物語を考えられるなんて。ユーシーは映画を観るが、こんなふうに物語は思いつかない。
「すごいな」
思わず漏れたのは心からの賛辞の言葉だ。
エゼキエルは微笑むと、説明を続けた。
「このシーンが撮れたら、次はベッドルームだ」
ベッドルームと言われて心臓が小さく跳ねた。
エゼキエルの指先が示す先には構図を簡易的に描いた絵が見えた。
二人の人間がベッドの上で密着している。どちらがユーシーでどちらがアダムかわからないが、いつもルイとしていることと大して変わらないように見える。
それをアダムとするのだ。もちろんしているふりだが、ユーシーはなんだか妙に緊張した。
「夜更けの二人の、眠りにつく前の穏やかな時間。甘やかな言葉を交わして、お互いの体温を感じて眠る。かわいい彼はいつも先に眠ってしまう。モデルの彼はかわいい恋人の寝顔を眺めながら眠りにつくんだ」
エゼキエルの説明を聞きながら、ユーシーはルイと過ごす夜を思い出す。エゼキエルが知っているわけでもないのに、そわそわした。
「これもエゼキエルが?」
「うん」
「監督みたいだ」
「ふふ、そう言ってもらえて光栄だ」
エゼキエルの笑みはどこか誇らしげに見えた。
着替えを終えたアダムは先ほどまで座っていた窓辺のソファに静かに戻ってきた。
ユーシーはアダムの雰囲気によく似合っていると思った。
「ユーシーはそのままでも素敵だけど、そうだな、これに着替えてくれるかい」
ユーシーが渡されたのはリネンの白いシャツと下着のようなものだった。
「着替えはそっちの部屋でできるよ」
エゼキエルの指先が示すのは、扉に隔てられた隣の部屋だった。
ユーシーは言われるまま隣の部屋で着替えをする。
渡されたのは、柔らかなリネンのシャツに、柔らかな素材でできた黒い下着だった。普段履くのとは違う、女物のような形をしている。撮影用の衣装なのだろうが、随分と際どい。
ルイに言ったらどんな顔をするだろう。
怒るだろうか。喜ぶだろうか。
ユーシーの言葉ひとつで表情を変えるルイを思い出して、ユーシーは思わず頬を緩めた。
着替えを終えたユーシーは、アダムとエゼキエルのいるリビングへと戻った。
「これでいい?」
「ふふ、素敵な刺青だね」
シルクの下着は両サイドを紐で結ぶ心許ないものだった。それに羽織るのはシャツだけ。ユーシーが着るには大きすぎるサイズで、裸になるよりもなんだか落ち着かない。
「ルイに叱られそうですね」
アダムに言われて、余計に意識してしまう。
肌が熱くなった気がして、ユーシーは俯いた。
「大丈夫ですよ。リラックスして」
アダムの手のひらが優しく髪を撫でてくれる。ユーシーはため息をひとつ吐いた。
二人の支度ができたところで、エゼキエルはユーシーとアダムの前に何やら書かれた紙を差し出した。
紙には簡単な絵と、短い説明が並んでいた。これから撮る写真の構図のようだった。
「これから、君たち二人は恋人同士のふりをしてもらうが、構わないかい?」
「ふり?」
「ああ。こういう……」
エゼキエルの指先が指し示す先には、密着する二人の絵と『柔らかい表情で親密そうに話をする二人』と書いてある。
「ふりだけど、ちゃんと恋人らしく振る舞ってくれよ?」
なんだか、ルイに叱られそうだ。ユーシーがアダムを見ると、アダムも同じことを思ったのだろう。眉を下げて苦笑いした。
「嫌なら断っていいんですよ、ユーシー」
「ん、やるよ」
ユーシーは薄く笑う。やってみたかった。それ以上はアダムも何も言わなかった。
二人の様子を見て、エゼキエルが口を開く。
「彼はモデルで、気高く、美しく、凛としている。タイトなスーツに赤いヒールがよく似合う。そんな彼がかわいい恋人と過ごす。彼の恋人は美しいタトゥーを纏う可愛らしいボーカリスト。普段は真面目で凛としているのに、休日はモデルの彼にべったり。そんな二人の、甘やかな休日の午後の物語だ。午後の日差しを浴びながら、二人は語らう。仕事の話、明日の過ごし方の相談、来週のバカンスの話。涼やかな銀色の瞳と、甘やかな金色の瞳が交わる。二人は微笑み合って、暖かな陽だまりの中で抱き合うんだ」
エゼキエルは二人の物語を話しながら、カットの説明をする。
「これ、エゼキエルが考えたの?」
「ああ。そうだよ」
こんな物語を考えられるなんて。ユーシーは映画を観るが、こんなふうに物語は思いつかない。
「すごいな」
思わず漏れたのは心からの賛辞の言葉だ。
エゼキエルは微笑むと、説明を続けた。
「このシーンが撮れたら、次はベッドルームだ」
ベッドルームと言われて心臓が小さく跳ねた。
エゼキエルの指先が示す先には構図を簡易的に描いた絵が見えた。
二人の人間がベッドの上で密着している。どちらがユーシーでどちらがアダムかわからないが、いつもルイとしていることと大して変わらないように見える。
それをアダムとするのだ。もちろんしているふりだが、ユーシーはなんだか妙に緊張した。
「夜更けの二人の、眠りにつく前の穏やかな時間。甘やかな言葉を交わして、お互いの体温を感じて眠る。かわいい彼はいつも先に眠ってしまう。モデルの彼はかわいい恋人の寝顔を眺めながら眠りにつくんだ」
エゼキエルの説明を聞きながら、ユーシーはルイと過ごす夜を思い出す。エゼキエルが知っているわけでもないのに、そわそわした。
「これもエゼキエルが?」
「うん」
「監督みたいだ」
「ふふ、そう言ってもらえて光栄だ」
エゼキエルの笑みはどこか誇らしげに見えた。
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