29 / 128
第29話 ごめん
しおりを挟む「……なぁ、セリーヌ……」
「うん? なに?」
「あ、の、さ……」
(ま、マズい、声が……)
「??」
再びセリーヌの顔を見ると今度は緊張により声が出せなくなり、その姿を見たセリーヌも不思議そうにしている様子。
(……そうだ、アレを試してみよう……)
急にその場で立ち止まり、俺は自己流の呼吸法で緊張を緩和することに。
「スゥーッ……ハァーッ……スゥ」
俺式呼吸法により、どうにか声を出せそうだ。
セリーヌも俺の言葉を待つかのように立ち止まっているので、待たせてはいけないと思い声を出した。
「あ、あのさ……」
「……うん」
俺の真剣な表情を察したのか、セリーヌの顔も真剣な表情へと変わる。
そして、とうとう疑問の答えを尋ねるわけだが不安と緊張で逃げ出したい気持ちが膨れ上がり「やっぱりやめとこう……どうせ碌な結果にはならないし……」そう思い始めてしまう。
しかし「それでもセリーヌは待ってくれているんだから、これ以上格好悪い姿は見せたくない!」という凄くちっぽけな意地を貫くために、ゆっくりとだが口を開く。
「え、えっと、2日前に突然俺はフラれたわけだけど、その理由がどうしても知りたくて……」
「!? そ、それは……」
「!?」
(あの物怖じをしないセリーヌがこんなに動揺するなんて……)
この時、ヒュドラと相対した時よりも動揺して狼狽え出す。すると……
「そ、それは……あっ! ギルドだ!」
セリーヌが指を差しながら、冒険者ギルド付近まで来ていたことを告げる。
それに釣られ俺も冒……ギルドの方を見てしまい、結局はフラれた理由を聞くことは叶わなかった。
(今更、聞く雰囲気じゃないよな……)
残念に思いつつ、理由を聞くことについては一旦諦めた。
「は、早く行こうよ!」
「あ、あぁ……」
セリーヌは急かすようにギルドへ向かい出すが、その様子は明らかに動揺している。
それでも俺は、理由を聞かずにセリーヌの後を追うことにした。
(動揺するほどに話し難い理由なのか……?)
新たな疑問を抱えつつセリーヌの元へ向かい、そして追いつく。
「それじゃあ、入ろっか?」
「ちょっ、ちょっと待った!」
セリーヌの動揺する姿は既になく、いつもの堂々とした姿でギルド内へと俺を誘う。
しかし、今の俺は蘇る恐怖により身体を動かせずにいた。
「ご、ごめん……やっぱり、無理かも……」
ニカナならもしやと思ったのだが無理であることを悟り、諦めの言葉を吐くしかなかった。
「……そう、分かった……」
「セリーヌ……本当にごめん……」
「……ううん、いいの!」
そう声を上げると、突然セリーヌは俺の背後へ回り込む。
「へっ!? せ、セリーヌ!?」
「キュロス、ごめん!」
セリーヌは元気良く謝りながら俺の背中を押して、ギルド内へ突き飛ばす。
「うおぉぉぉーっ!?」
驚き叫びながらギルド内へ進入して転ばぬようどうにか踏み止まると、ギルド内の冒険者達は皆一斉に俺を見ながら茫然としている。
「は、ははは……」
当然の如く、俺は苦笑い。
だがこの時、俺にしか聞き取れないほどの小さな声でセリーヌは呟く。
「……キュロス、本当にごめん……」
その呟きが聞こえた瞬間、あの時の怪しげに微笑むセリーヌの横顔を思い出していた……
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
最強無敗の少年は影を従え全てを制す
ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。
産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。
カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。
しかし彼の力は生まれながらにして最強。
そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。
スキル【収納】が実は無限チートだった件 ~追放されたけど、俺だけのダンジョンで伝説のアイテムを作りまくります~
みぃた
ファンタジー
地味なスキル**【収納】**しか持たないと馬鹿にされ、勇者パーティーを追放された主人公。しかし、その【収納】スキルは、ただのアイテム保管庫ではなかった!
無限にアイテムを保管できるだけでなく、内部の時間操作、さらには指定した素材から自動でアイテムを生成する機能まで備わった、規格外の無限チートスキルだったのだ。
追放された主人公は、このチートスキルを駆使し、収納空間の中に自分だけの理想のダンジョンを創造。そこで伝説級のアイテムを量産し、いずれ世界を驚かせる存在となる。そして、かつて自分を蔑み、追放した者たちへの爽快なざまぁが始まる。
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
最上級のパーティで最底辺の扱いを受けていたDランク錬金術師は新パーティで成り上がるようです(完)
みかん畑
ファンタジー
最上級のパーティで『荷物持ち』と嘲笑されていた僕は、パーティからクビを宣告されて抜けることにした。
在籍中は僕が色々肩代わりしてたけど、僕を荷物持ち扱いするくらい優秀な仲間たちなので、抜けても問題はないと思ってます。
身寄りのない少女を引き取ったら有能すぎて困る(困らない)
長根 志遥
ファンタジー
命令を受けて自らを暗殺に来た、身寄りのない不思議な少女エミリスを引き取ることにした伯爵家四男のアティアス。
彼女は彼と旅に出るため魔法の練習を始めると、才能を一気に開花させる。
他人と違う容姿と、底なしの胃袋、そして絶大な魔力。メイドだった彼女は家事も万能。
超有能物件に見えて、実は時々へっぽこな彼女は、様々な事件に巻き込まれつつも彼の役に立とうと奮闘する。
そして、伯爵家領地を巡る争いの果てに、彼女は自分が何者なのかを知る――。
◆
「……って、そんなに堅苦しく書いても誰も読んでくれませんよ? アティアス様ー」
「あらすじってそういうもんだろ?」
「ダメです! ここはもっとシンプルに書かないと本編を読んでくれません!」
「じゃあ、エミーならどんな感じで書くんだ?」
「……そうですねぇ。これはアティアス様が私とイチャイチャしながら、事件を強引に力で解決していくってお話ですよ、みなさん」
「ストレートすぎだろ、それ……」
「分かりやすくていいじゃないですかー。不幸な生い立ちの私が幸せになるところを、是非是非読んでみてくださいね(はーと)」
◆HOTランキング最高2位、お気に入り1400↑ ありがとうございます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる