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第30話 一欠片の自尊心
しおりを挟む「せ、セリーヌ……今の言葉は、一体……?」
そう呟き後ろへ振り返ると、悲し気な表情を見せるセリーヌの姿が。
「……」
セリーヌは無言のまま俯き、尚も悲しんでいる雰囲気を漂わせる。
「セリーヌ、何故こんなーー」
声を掛け難い雰囲気ではあるが、それでも突き飛ばされた理由を聞こうとセリーヌに声を掛けたその時、俺の言葉は他の声によって遮られた。
「もう! 一体なんなの!? 全く騒々しいわね!」
その声のする方へ振り返ると、そこにはあのエリザがこちらへ向かって来るではないか。
すると、今までにないほどの悪寒と震えによって身体がどうにかなってしまいそうな感覚へと陥っていく……
「あら? 無能さん、こんなところで何をしているのかしら?」
「あ……え、エリザ……さん……」
「はぁ? 気安く名前を呼ばないでくれる? 無能を移されでもしたら困るんだから!」
「は、はい……すみません……」
「はぁ、それで? あんな大声を上げてまで来て、一体この場所になんの用なの?」
「え、えっと……そ、それは……」
本当は逃げ出したい気持ちでいっぱいなのだが、一欠片の自尊心が俺を突き動かす。
「……い、依頼を達成したので、その、報告に来ました……」
「はぁ? 全く聞き取れないわ? もっと大きな声で喋りなさいよ!」
「!?」
(だ、ダメだ、怖い……でも!)
これで諦めたらきっと立ち直れないと思い、精一杯の声を出す。
「依頼を達成したのでっ! そのっ! 報告に来ましたっ!」
『!?』
俺の大声により静寂が訪れる。
エリザも含め、その場にいる全員が気圧されたのだ。
「……ふふっ……」
先程の発言は撤回しよう。
どうやらセリーヌだけは気圧されてはいないようだ。
「そ、それで? い、一体どんなお使いをしてきたのかしら?」
(そ、そんな……ギルド職員なのに依頼をお使いと称するなんて……)
エリザの発言にショックを受けながらも、極秘任務達成の件を報告することに……
(報告中……)
「……はぁ、嘘を吐くならもっと現実味のある嘘にしなさいよ……」
「い、いえ、さっき話した内容は全て真実です! ……あっ、そうだ! これを見てもらえれば、黒箱・解放!」
あのエリザと普通に話せていることが何故か誇らしく思えたので、その勢いのまま証拠を見せることにした結果、影の中から氷漬けのヒュドラ1体と浄化草1本をその場に出現させてみた。
「!? え……う、ウソ……」
流石のエリザもこれには驚きを隠せずにいるようで、とてもあり得ないものを見たかのような表情をしては右側の口角をヒクヒクさせている。
『……嘘だろ……なんだよ……今のは……』
他の冒険者達も驚きを隠せずに騒ついていると、その最中にエリザは見当違いの解答を導く。
「……!! そ、そうだわ! これはきっと、セリーヌさんが達成した依頼なのね!?」
エリザのその発言に皆がセリーヌに注目し始めると、不正解なのに何故か不安がよぎり、思わず俺もセリーヌに注目していた。
「……フフッ……」
そして、その時に見せたセリーヌの表情は、確実に怪し気な微笑みを浮かべていた……
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