唯一無二のアーティファクター

るっち

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第1章 始まりの街

第24話 伝えたい想いと番人

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「……ダーメだ、全っ然思い浮かばねぇ」

 どうにかクロシェを助けつつもあの魔獣を倒せる策を考えてみたが、全く以って思い浮かばず。
 少しでも考える時間を稼ごうとゆっくり歩いてみたものの、結局は無策のまま元いた場所の手前まで戻ってきていた。

「やべっ、どうしよう……」

 焦燥に駆られて無意識にそう呟く……が、それでもやるしかないと腹を括り、クロシェを助けるために茂みの中から一気に飛び出す。

「うおりゃぁぁぁーっ!!」

 短杖を左手に持ち、両腕を顔の前でクロスさせた状態で地面に着地。
 その直後に両腕のクロスを解き、速やかにクロシェの安否を確認すると、予想外の事態へと発展していた。

「……ど、どゆこと……?」

 予想外の事態……それは、クロシェが例の魔獣の背中に乗って楽しそうにしているのだ。
 何がどうなって今に至るのか皆目見当も付かず、その場で唖然としていると、俺に気づいたクロシェが急に真顔となって喋り出す。

「……これは……違う」

 顔を赤らめて恥ずかしそうに否定するクロシェ。
 それに対し「……え? 何がだい?」と気づいてないフリをする俺。
 正直、何が違うのかを聞いてみたい気もするが、聞いたら嫌われてしまいそうなのでやめた。もし嫌われたらショックで泣くと思うし……割と本気で。

「……そう……ならいい……それと……」
 
 俺の反応に安心した表情を見せるクロシェは、何かを言い掛けると、魔獣に乗ったままゆっくりと俺の目の前まで近づき、何も言わずに右手を頭上に置いた。

「……えっ!? 急にどうしたの!? もしかして撫でてーーうわっ!?」

 てっきり頭を撫でてもらえるのかと期待した瞬間、頭の中にクロシェの〝伝えたい想い〟が流れ込んでくる。
 これはきっと、口下手なクロシェが唯一できる想いの伝え方なのだろう……そう思ったら、当然受け入れないはずもなく……ーー


【ーー……だから……このコは敵……じゃない……それと……ありがとう……】


 ……今の言葉で伝え終えたようだが、どうしよう……嬉しすぎる……
 直接想いが伝わってきたからか、言葉での「ありがとう」よりも心に響いて沁みた。
 本当はこのまま感激に浸っていたい……しかし、今はやるべきことがある。それは、最下層にいるボスを倒すことだ。
 先程伝わってきた想いの中には例の魔獣……いや、聖獣『白虎』が抱える負の想いも込められており、それをクロシェはどうにかしたいと思っている。だから、代わりに俺がやろうと決めた。クロシェのために。

「俺が助けるよ……他の精霊達も」

「……うん」

 クロシェは一瞬だけ笑みを浮かべた後に「……こっち」と真顔で茂みの奥を指差す。今までの事象を鑑みればその方角に最下層へ降る階段がある、そう確信して行動を開始した。クロシェから得た情報を思い返しながら……


 イ、白虎は魔獣ではなく聖獣と呼ばれ、精霊を守護する獣『守護獣』である。

 ロ、白虎に突然襲われた理由はクロシェを害する者として認識されていたから。

 ハ、クロシェの言う「ありがとう」とは、魔力不足の苦しみから救ったことへの強い感謝。

 二、このダンジョンにはクロシェのほか、あと3種の精霊が存在する。

 ホ、精霊の中にはダンジョンボスである『トレント』に囚われている者も。絶対に助けるべし!

 へ、不思議な結界によって、聖獣は『ボス部屋』へ入ることができない。

 ト、クロシェはスズに会いたがっている。


 ……とまぁ、こんなところだろう。
 それにしても、当然のように魔物と遭遇しないな……レーダーで調べた限りでは50匹ほどの生命反応があるのに……まるで〝エンカウントせず〟のアクセサリーを付けている気分だ……よしっ! 俺もあとで同じ効果の魔導具でも作ってみるか!

 余りにも魔物と遭遇しないため、つい考え事が多くなる道中。
 その間に閃いた魔導具を3つほど作ってみる……が、やはり歩きながらだと難しく、上手く作れずに落ち込むことも。
 そんな俺をクロシェが癒し、励ましてくれた。頭を撫でたり「……がんばれ」と声を掛けることで。

 俄然やる気が出た結果、どうにか3つとも作り上げ、その内の1つをクロシェの左手の子指へ。もしもの御守りと言って。

 それからのクロシェは左手を翳してずっと眺めている。俺がプレゼントしたピンキーリングを。水分補給の時も俺や白虎が足を休めている時も再び歩き出した時やその後もずっとずっと眺め続けており、その嬉しそうな姿を眺めているだけで不思議と心が満たされていた。


 ……あれからずっと穏やかな時間を過ごしていると、遂には目的地の階段まで不戦闘のまま辿り着く俺たち。
 本来なら茂みに隠されたこの階段も発見が困難なはずなのだが、それすらも難なく見つけ出してしまうクロシェ。最早チートすぎて、このダンジョンに対して少しだけ申し訳ない気持ちに。

「なんかすまん……といっても、すっごく助かってるから止めたりしないけどね」

 そんな独り言を言いながら階段に足を踏み入れた途端、後方の茂みから飛び出す1匹の魔物が。
 その魔物は木々が絡み合ってできた『ウッドゴーレム』らしく、見た目からしてこの階層の番人かと。
 体長は5mほどの痩せ型で、手には指もきちんとあり、まるで人を模したかのようなナリをしている。とはいえ、別に戦う必要はない。この階段を降ればいいだけの話だ。
 そう考えた俺は、ウッドゴーレムを無視して階段を降ろうと一段下に足を運ぶ。するとその時……


「……待って……あれ」

「……え? あれ? あれって……あぁっ!」

 クロシェが指差す方向を見てみると、ウッドゴーレムの中心から光が漏れ出していることに気づく。
 その光は10cmほどの球体状で、クロシェが精霊体となった時のように白い輝きを放っている。

「あれは……精霊?」

「……そう」

 やはりあの球体は精霊らしい……ということは、あの精霊を助ければ残りはあと2種となるわけだ。ただ、てっきり3種ともトレントに囚われているものだと思っていたので、都合が良いやら悪いやら。とはいえ、どちらにせよ助けることに変わりはなく、どうせならアイツに任せよう……と、白虎の顔を覗き見る。

「……あ、やっぱそうですよねぇ……」

 白虎は鼻先でウッドゴーレムを指し示す。要は、俺に奴を倒せと言っているのだ。
 本音は白虎に任せたいところだが、それを察してなのか、低音で喉を鳴らして圧を掛けてくる。

「はぁ、しょうがない……やるしかないか」

 白虎の圧に屈し、仕方なくウッドゴーレムと一戦交えることに。だが確かに「俺が精霊達を助ける」と宣言している以上、この状況は必然なのかもしれない。
 そう気持ちを切り替えてゴーレムの前まで歩き出す。どのように倒し、どのように救うのかを考えながら。


「よし、先ずは狙ってみるか」

 右腕を上げ、俺を叩き潰そうとするゴーレムに対し、動じることなく顔面を狙って『ビーム』を放つ。
 
「ゴォォォーッ!?」

 よろめくウッドゴーレム。俺の先制攻撃を受けて後退りすると、突然四つん這いの体勢を取った。
 ……しかし、特に何も起きず、単なるポーズだと判断。一気にカタを付けようと、短杖の先端に魔力を集中させる。


「思ったより呆気なかったな……よし、あと少しで溜まーーなっ!?」

 つい油断した隙を突かれ、あっという間に全身を木の根に覆われてしまった。
 どうやら木の根は俺の足元から伸びているようで、根と根の隙間から覗いてみると、ウッドゴーレムの両手から地中を通ってきているのが分かる。

 身体を動かしてなんとか脱出を試みるが、木の根が想像以上に力強いため脱出は無理な様子。寧ろ、徐々に締め付けが強くなっており、このままでは締め殺されてしまう。まさか『オートガード』が発動しないなんて……
 だがそれ以上に不味いのは、木の根に短杖が奪われてしまったことだ。これでは攻撃する手立てが何もなく、言うなれば詰み……そう、以前の俺であれば……


「……はぁ、まさかこんなに早く使うことになるなんてな……しょうがない、ウーレムくんには実験台になってもらうとするか」

 勝手に渾名を付け、新たに付けた指輪へ魔力を注ぎ込むと、指輪が青く光った直後に俺を覆っていた木の根は瞬時に凍りつく。するとその直後から、木の根を操るウッドゴーレムまでもが手元から次第に凍りついていき、終いには氷漬けとなって自重で崩れることに。

 当然ながら俺を覆っていた木の根も崩れ、身体は自由となった。それもほぼ無傷の状態で。それは『オートガード』が発動したわけではなく、元から対象以外は凍らないよう創造してあるからだ。まぁ、軽い凍傷くらいはするかもしれないが。

「ふぅ、取り敢えず上手くいったな……さて、肝心の精霊はっと……」

 精霊を探すため、氷漬けとなった木の根の瓦礫に近づくと、瓦礫の中心から白く輝く球体が姿を見せた……
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