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32 我が儘は己を守る鎧
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一人の育成者が消えたと同時に、アインスの貴族の邸を温かくも冷たい光が包み込んだ。
その光が消えた時、邸の者達の中から一部の記憶が失くなった。しかし、その事に気づくものは誰もいない。
*****
「我が儘言うな!何が不満なんだ!かっいいだろ、レオンって!」
「グルルル~、ふざけるな!そんなありきたりな名前、この俺様にふさわしくない!真面目に考えろ!」
アケルの領主邸のある一室で、一人の青年と青い狼が大きな声で言い合っていた。
しかし、その声は外に漏れることはない。
小さな赤いフクロウが風を操り、声や音が漏れないように防音の結界を張っているからだ。
一人と一匹より少し離れた所では、4匹の小さな動物達が呆れた顔で見ていた。
「いつまで続くのなの、これ?」
「まぁ、ヨミに名付けのセンスがあるかといえば、ありよりのなしだろうな」
「そうね。優しさなのはわかるけど、ジェムリーは無理があるものね」
「そんなこと無いよ!僕の名前もカッコいいし、あのレオンって名前だってカッコいいよ!」
そんな4匹のやり取り中も、青年と狼の攻防は続いていた。
保護した狼を鑑定したら名前が無かった。
そこで、育成者の変更の了承を得てから名付けようとしたら、、、拒否られ、今に至る。
これまで拒否られた名前は、ウルフ、ラルフ、レオ、そしてレオンだ。
(いっそ、ポチって名付けてやろうか?)
と、おれ自身が闇落ちしかけた時、狼の金の瞳が不安と怯えに揺れているのに気づいた。
(せっかく産まれたのに名付けてもらえず、しかも売られた。この態度は自分を守るための虚勢なのか?)
狼の目を見て、さっきまでのイラつきは消えた。そして
「これで最後だ。拒否は認めない」
そう言って、狼の金の瞳を見つめ
「ネオ。それが君の名前だ」
名付けたと同時に、ネオが光に包まれた。
光が治まったら、手のひらサイズの狼が居たけどその色合いは変化していなかった。
「今度は俺の色を拒否か?」
そう言いながらネオを抱き抱え、あちこち見てみた。だけどどこにも藍色は見当たらなく、なんとなく毛を逆立てて見たら、下の方は色が濃かった。
「・・・リバーシブルになるな、これ」
俺の呟きに身の危険を感じたのか、俺の手から抜け出し、警戒態勢をとった。
「・・・剥ぐわけないだろう?しかし、まさか下の方が藍色になってるとは。面白い」
ネオと名付け、完全に俺の庇護下になったことでラグ達がネオに群がり、自己紹介をして色々と話していた。
俺はネオの事をラグ達に任せ、セドリックさんに戻ってきたことの挨拶をするために部屋を出た。
部屋の掃除のためか、何人かの使用人が部屋の前で困った顔をしていて、俺が部屋から出てきたのを見て、驚きのあまり叫んだ。
使用人の叫び声に、なんだなんだと人が集まりだし、常駐の騎士達まで駆けつけるといった、ちょっとした騒ぎになった。
「いや~、なんかすいません」
クリスさんの手腕で騒ぎを治め、セドリックさんが仕事先から呼び戻され、今セドリックさんの執務室にいる。
「ヨミが帰ってきたなんて聞いてないが?」
とセドリックさんが言うと
「私もお聞きしていませんね」
とクリスさん。
そんな二人に笑ってごまかす俺。
しかし、二人の冷ややかな視線はそのままだった。
俺は姿勢を正してちゃんと謝り、緊急脱出をしたため、直接セドリックさん邸の部屋に転移した事を言った。
俺の言葉を聞き、クリスさんが使用人を呼び、なにかを指示した。
俺が首を傾げてクリスさんを見ていると
「今のヨミは不法侵入状態だからな。領主権限で門番にヨミの入領の手続きをしてもらうんだ」
「アハハ・・・お手数かけます」
不法入国や不法侵入にならないように気をつけていたけど、無意識にセドリックさんに甘えていたってことかな?
そんなことを考えていたなら
「そういえば、ヨミの部屋を掃除しようとしていた使用人から、ドアが開かなかったと報告を受けたが、鍵でも閉めていたのか?」
「いえ、かけてませんでしたが、、」
セドリックさんと二人して首を傾げていたら、ドアをノックする音がして、クリスさんが開けると、ジェムが入ってきた。
ジェムは俺の肩に止まると
『防音の結界を張った時に、侵入防止の結界も張ったので開かなかったのだと思う』
と念話で教えてくれた。
俺はジェムがと言わずに、話し合いのために結界を張ったから、ドアも固定されたのではと、少し濁して伝えた。
セドリックさんもクリスさんも、深くは追求せず受け入れてくれた。
ネオの登録は明日にして、今日はセドリックさん邸の人達に紹介するだけにした。
一番喜んでくれたのは、アルフレッド君とアリアちゃんで、ぎこちないながらもネオもラグ達と一緒になって遊んでいた。
▽▽▲▲▽▽▲▲
年の瀬の忙しい中、一時の休息になっていると嬉しいです。
それでは皆様、よいお年を。
その光が消えた時、邸の者達の中から一部の記憶が失くなった。しかし、その事に気づくものは誰もいない。
*****
「我が儘言うな!何が不満なんだ!かっいいだろ、レオンって!」
「グルルル~、ふざけるな!そんなありきたりな名前、この俺様にふさわしくない!真面目に考えろ!」
アケルの領主邸のある一室で、一人の青年と青い狼が大きな声で言い合っていた。
しかし、その声は外に漏れることはない。
小さな赤いフクロウが風を操り、声や音が漏れないように防音の結界を張っているからだ。
一人と一匹より少し離れた所では、4匹の小さな動物達が呆れた顔で見ていた。
「いつまで続くのなの、これ?」
「まぁ、ヨミに名付けのセンスがあるかといえば、ありよりのなしだろうな」
「そうね。優しさなのはわかるけど、ジェムリーは無理があるものね」
「そんなこと無いよ!僕の名前もカッコいいし、あのレオンって名前だってカッコいいよ!」
そんな4匹のやり取り中も、青年と狼の攻防は続いていた。
保護した狼を鑑定したら名前が無かった。
そこで、育成者の変更の了承を得てから名付けようとしたら、、、拒否られ、今に至る。
これまで拒否られた名前は、ウルフ、ラルフ、レオ、そしてレオンだ。
(いっそ、ポチって名付けてやろうか?)
と、おれ自身が闇落ちしかけた時、狼の金の瞳が不安と怯えに揺れているのに気づいた。
(せっかく産まれたのに名付けてもらえず、しかも売られた。この態度は自分を守るための虚勢なのか?)
狼の目を見て、さっきまでのイラつきは消えた。そして
「これで最後だ。拒否は認めない」
そう言って、狼の金の瞳を見つめ
「ネオ。それが君の名前だ」
名付けたと同時に、ネオが光に包まれた。
光が治まったら、手のひらサイズの狼が居たけどその色合いは変化していなかった。
「今度は俺の色を拒否か?」
そう言いながらネオを抱き抱え、あちこち見てみた。だけどどこにも藍色は見当たらなく、なんとなく毛を逆立てて見たら、下の方は色が濃かった。
「・・・リバーシブルになるな、これ」
俺の呟きに身の危険を感じたのか、俺の手から抜け出し、警戒態勢をとった。
「・・・剥ぐわけないだろう?しかし、まさか下の方が藍色になってるとは。面白い」
ネオと名付け、完全に俺の庇護下になったことでラグ達がネオに群がり、自己紹介をして色々と話していた。
俺はネオの事をラグ達に任せ、セドリックさんに戻ってきたことの挨拶をするために部屋を出た。
部屋の掃除のためか、何人かの使用人が部屋の前で困った顔をしていて、俺が部屋から出てきたのを見て、驚きのあまり叫んだ。
使用人の叫び声に、なんだなんだと人が集まりだし、常駐の騎士達まで駆けつけるといった、ちょっとした騒ぎになった。
「いや~、なんかすいません」
クリスさんの手腕で騒ぎを治め、セドリックさんが仕事先から呼び戻され、今セドリックさんの執務室にいる。
「ヨミが帰ってきたなんて聞いてないが?」
とセドリックさんが言うと
「私もお聞きしていませんね」
とクリスさん。
そんな二人に笑ってごまかす俺。
しかし、二人の冷ややかな視線はそのままだった。
俺は姿勢を正してちゃんと謝り、緊急脱出をしたため、直接セドリックさん邸の部屋に転移した事を言った。
俺の言葉を聞き、クリスさんが使用人を呼び、なにかを指示した。
俺が首を傾げてクリスさんを見ていると
「今のヨミは不法侵入状態だからな。領主権限で門番にヨミの入領の手続きをしてもらうんだ」
「アハハ・・・お手数かけます」
不法入国や不法侵入にならないように気をつけていたけど、無意識にセドリックさんに甘えていたってことかな?
そんなことを考えていたなら
「そういえば、ヨミの部屋を掃除しようとしていた使用人から、ドアが開かなかったと報告を受けたが、鍵でも閉めていたのか?」
「いえ、かけてませんでしたが、、」
セドリックさんと二人して首を傾げていたら、ドアをノックする音がして、クリスさんが開けると、ジェムが入ってきた。
ジェムは俺の肩に止まると
『防音の結界を張った時に、侵入防止の結界も張ったので開かなかったのだと思う』
と念話で教えてくれた。
俺はジェムがと言わずに、話し合いのために結界を張ったから、ドアも固定されたのではと、少し濁して伝えた。
セドリックさんもクリスさんも、深くは追求せず受け入れてくれた。
ネオの登録は明日にして、今日はセドリックさん邸の人達に紹介するだけにした。
一番喜んでくれたのは、アルフレッド君とアリアちゃんで、ぎこちないながらもネオもラグ達と一緒になって遊んでいた。
▽▽▲▲▽▽▲▲
年の瀬の忙しい中、一時の休息になっていると嬉しいです。
それでは皆様、よいお年を。
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