3IN-IN INvisible INnerworld-

ゆなお

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一章【集結】

十一話 残り七日の変化(後編)

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 六日目。早朝の動物たちもまだ活動していない時間を狙ってカルロは狩りに出かける。そのカルロに尾行するようにグレイが気配を消して行った。
「グレイに『早朝、王子が狩りに出かけるので護衛をお願いします』と頼んでおきました。今回の主役となる二人はすでに出かけています」
 と姫が皆に小声で言う。もしも獲物が獲れなかったときを考えて予備の素材も揃えておく。そして昼過ぎ
「おーい! 大物が獲れたぞー!」
 とカルロが小屋の外から叫ぶ。鹿を担いで帰ってきた。
「いやあ肉付きいいのが獲れた。皆で食うのにも充分だ。とにかく素早く処理しなきゃならねぇから、ちと離れたところで解体作業するわ。流石にお嬢さん方に見せるわけにもいかねぇからな」
 そう言ってカルロは鹿を担いで小屋から遠くに離れていった。
「グレイ、王子は遠くに離れています。大丈夫でしょうが、王子の護衛をお願いします」
 姫がそう言ってお願いすると、仕方ないなと言う風にため息をつきカルロの元へと向かった。
「ふぅ……。これでグレイもここにはしばらく来ないと思います。皆さん、準備頑張りましょう」
 姫は楽しそうにパーティの準備に加わる。
「姫、とても楽しそうね。グレイと対照的な性格よね」
 スティアにそう言われると少し恥ずかしそうに
「え、そうですか? なんだか皆さんがグレイのことを色々考えてくれていることが嬉しくて、つい私も楽しんでしまったようです。変、でしょうか?」
 姫は自身の行動が不思議に見えるのか聞いてきた。
「別にいいの、ううんそれよりもそういうあなたがずっと心にいたから、グレイもきっと今の状態を維持出来ていたと思うの。姫はきっとグレイの心の安定なのよ。だからあなたとは会話もよくするんでしょう?」
 スティアの言葉に
「はい。グレイとは沢山お話します。本当は誰かに寄り添ってほしいと彼は思ってるんです、助けを求めているんです。でも弱い自分を見せたら生きていけないと思い込んでいて、彼は常に本当の気持ちを殺し感情を隠し続けています。彼を温め続けていた私でも出来なかった。彼の心の救うのは恐らく私ではない別の誰か……。ずっと彼と話してそう感じたのです」
 と姫はうつむきながら言った。すると
「それが、自分の命を繋ぎとめた国王でもなく、自身と中に入った姫でもない。そう、別の人を求めている。枯渇した彼の心の隙間を埋め潤わせる存在をずっと探している。そいうことなのね」
 ミーンは全員分のクッションを端の方に積み上げながらそう言った。
「身近な人ではない、でも自分を知ってくれる人。そういう人を探している。救いを導きを探している。だからあえて相手を試そうと冷たい態度を取っている部分もあるのかもしれないわね。簡単に言うと自身の気持ちに正直に素直になれない」
 そして付け加えるように
「それが誰かは現時点では分からないけれど、今日はせっかくの日だしカルロとグレイだけでなく私たちも楽しめる食事にしましょう」
 と微笑みながら言った。こうしてカルロが捌いてきた鹿肉を持ってきて、パーティの話は内緒にしつつミーンとスティアとカルロの三人で料理する。ナスティとザントとヴィッツは邪魔にならないよう外で雑談などしていた。いつもの崖の上にグレイと姫はいる。少しうれしそうにしている姫を見て
「何か浮かれるようなことでもあったのか」
 とグレイに言われて慌てて
「あ、その……皆さんと色々お話していたので……」
 と言葉を濁す。
「やはり俺以外と話す方が気軽なのだろう。俺は所詮は独り」
 グレイがそう言うと姫は
「いいえ。独りではありません。これからはきっと……」
 と意味深なことを言った。
「あ、今日は夕食の時に王子たちがいる小屋に来てください。大事な任務の話がありますので」
 姫はそう言ってグレイを何とか夕食時に来させようと策を練る。
「任務、か」
 渋々グレイは話を聞くこととし
「それまでは少し休む。時間になったら呼べ」
 と姿を消した。姫はこれでなんとかグレイが来ることは確定出来たと、外で遊んでいるヴィッツたちに伝えに行った。その後ミーン、ザント、スティア、カルロが小屋の外に集まり何か話していた。こうしてカルロとグレイに秘密にしていたパーティの準備が整っていく。敷物の上に料理が並べられていく。ザントが早く食べたいとワクワクしているのをナスティが抱き止める。並べられた料理、そして円を描くように並べられるクッション。それぞれが座る。反時計回りでスティアとミーンの間にザントが座り、ミーンの横には姫、そしてヴィッツ、カルロとナスティでひとつの円を描く。ヴィッツとカルロの間には一人分空きがある。ヴィッツがその空きにクッションを置き
「グレイ。時間です」
 と姫が声をかけるとそこにはグレイが現れた。それに一番驚いたのはもちろんカルロだ。
「えっ!? 兄貴? 何でここに?」
 カルロが驚いていると
「任務」
 とグレイは一言だけ言った。するとスティアが
「はーい! 今日はーせっかく八人揃ったのだから皆で親睦会しましょうー。とーくーにっ、そこのお二人さんはしっかりお互いのことを理解して楽しむように!」
とカルロとグレイの方を指さす。
「さぁ、今日は満足いくまで食べてって! おかわりもたくさん用意してあるし、ケーキとまでは行かないけど食後のスイーツも用意してるわ。じゃあみんな! お茶の入ったカップは持った?」
 スティアの掛け声でグレイ以外がカップを持つ。
「謀ったな」

 そう言って姫を睨むがその間にいたヴィッツがグレイの分のカップを持ち
「お前に対しての労いもある。姫さんはお前に皆との、まあ今回はカルロがずっとお前と食事したいって言ってたのを叶えたいって皆で用意したんだ。ほら」
 と言ってグレイの手に持たせた。
「…………」
 こうして全員がカップを持ちこれからの旅の成功そして皆との交流を兼ねて乾杯をした。グレイは一口お茶を飲む。するとカルロがあれこれと皿に取りグレイに差し出す。
「兄貴っ! 普段ちょっとしか食ってないらしいけど本当は姉貴の回復にも魔力相当に使ってるんだろう? 今日はいいから食べてくれ!」
 いつもなら逃げ出していたが、カルロに肩を組まれて逃げるに逃げられない状況に観念したグレイはカルロから皿を受け取りフォークで料理を口にする。それを見て
「兄貴が……兄貴が目の前で俺の料理したもん食ってる。今まで絶対人前で食事するところ見せなかった兄貴が、俺の目の前で俺の料理食ってる……」
 感涙の嵐のカルロを見て若干引き気味のグレイ。だが
「次」
 あっという間に食べ終え皿を差し出しおかわりを要求する。
「ああ! この肉料理はその日に食べちまわないといけねぇ、どんどん食ってくれ兄貴!」
 カルロも嬉しそうに追加の料理を皿に乗せてグレイに渡す。
「今日は兄貴が護衛で来てくれてから安心して狩りが出来た。一人の時は魔物から逃げつつ獲物を獲る日もあったくらいだから助かったよ」
「そうか」
「兄貴のおかげだよ」
「王子になにかあれば国王陛下に申し訳ない」
「ああ、分かってるよ。兄貴はそういうやつだからな」
「だが今日はあいつが言うから護衛に行ったが、まさかこんな罠にはめられるとはな」
「はははっ、流石の兄貴も姉貴には敵わなかったか」
「だが、この料理は美味い」
「本当か!? 兄貴が俺の料理の感想言ってくれるとか夢にも思わなかった……。皆、ありがとうな」
 カルロは男泣きしながら協力してくれた皆に礼を言う。
「とにかく! カルロもグレイもだけど、私たちも楽しんで食べましょう」
 スティアがそう言って皆はお互いいろんなことを話しながら食事を楽しむ。姫は食べたり飲んだりすることが出来ないため、皆の料理を取り分けたり話を聞いたりしている。
「姫さんは食べられないんだっけか」
 ヴィッツの問いに
「はい。完全に実体化しているなら食べ物を魔力に変換する力がありますが、私は半実体なので彼の中で魔力の補充をします。ですので、せっかくの料理ですが食べられないのは本当に残念です」
 と姫が答える。
「肉体が手に入れば食べたりできるようになるんだよな?」
「はい。エルフの森でエルフの杖を手に入れれば可能だと、そう聞いています」
「そうだな。記憶も戻るんだっけか。早く記憶が戻るといいな」
「そうですね。でも彼の心から私がいなくなってしまうのが心配です。今まで私がいた部分にきっと大きな穴が空く。彼にそれが耐えられるかどうか……」
 姫はそう言ってグレイを心配する。そんな話をしてるうちに料理も残り少なくなってきた。カルロは突然立ち上がり
「今日はせっかくだから酒解禁だ! 親父が俺が十八になったときに送ってきたあの酒、ずっと寝かせ続けてきた。寝かせれば寝かせるほど美味くなる高級ワイン、今日それを開ける!」
 そう言って小屋を出て洞窟の涼しいところに保管していたワインを取ってきた。グレイの隣に座り直すと瓶のコルクを引き抜いてカップに注ぐ。そうしてひと口飲む。
「ふーっ! やっぱ記念にもらったワインは美味いな! 時折陸に戻って安い酒飲んでたが、それと比べられない美味さだ」
 どうやら完全に無人島だけの生活ではなく、時々街の方にも戻ってきていたらしい。何度も飲んでいたカルロはグレイの空のカップを取るとそれに酒を注ぎ持たせる。
「兄貴もたまには飲もうぜ! 今日くらいはいいだろ?」
 カルロはグレイに絡む。
「俺は……飲まん」
 グレイがやや困った様子で言うと
「あーにーきー。頼むよー!」
 とカルロが懇願する。泣きながら頼み込むため、渋々一口だけという約束で酒を口にした。次の瞬間、一瞬で顔が赤くなりふわっと後ろに倒れ始めてそのまま床に気絶するように寝てしまった。
「王子! グレイはお酒がとても弱いんです! だから……あ、私も……あぁ……」
 そう言いながら姫は主格のグレイの体に異常が出たため気絶してしまった。
「うわーっ! 兄貴ーっ! 姉貴ーっ!」
 カルロは慌ててグレイの上に姫を乗せる。姫は沈むようにグレイと中に入っていった。とりあえずこのまま寝かせては風邪を引くとグレイを寝袋に寝かせる。カルロは泣きながら
「俺、兄貴と一緒にいたの十五までだから兄貴が酒飲めないの知らなくて……。時々は街に戻って会ったり、親父の命令でこの島に来たりしてたけどさ。親父からの伝言聞くだけだった。てっきり飲めると思い込んでた。だからいつかこの記念の酒、兄貴と一緒に飲めたらと思ってたんだ……」
 カルロは号泣する。そんなカルロの背中をポンポンとヴィッツが叩き
「別に悪気があってやったことじゃねーし、まあグレイも酒が飲めないってこと言わなかったのもあるし。単に酒が苦手だったって話だ。明日、グレイが目を覚ませば謝っときゃいいんじゃねーかな。それもまた話すきっかけになるだろうし」
 と言う。
「ヴィッツ……お前本当いいやつだな」
 カルロは感極まってヴィッツに抱き着く。
「待った待った! その筋肉で締められたら、しっ死ぬ……誰か……たすけ……」
 ここで助けに行こうものなら一緒に抱き着かれて巻き添えを食らうので、誰一人助けに動こうとはしなかった。こうしてハプニングはあったものの、何とかカルロとグレイを会話させる作戦は一応成功に終わった。

 真っ暗な闇の中から何かが聞こえる。
「──────」
 声のような声じゃないような音。
「──────。──────。」
 なにか呼ばれているような音。
「──────。…………。──────。」
 その声なき音にハッと目を覚ます。
「!!」
 グレイは慌てて起き上がろうとしたが寝袋に包まれて起き上がれなかった。そっと音を立てずに寝袋から上半身を出して起こす。周りを見渡すとまだ真夜中で、カルロはソファの上に、ヴィッツは床で寝袋に入って寝ていた。
「……っ!」
 頭が痛い。恐らく昨日無理やりカルロに飲まされた酒のせいだろう。姫の気配は自分の中にあった。頭を片手で抱えながら昨日のことを思い出す。恐らくカルロ以外の全員にうまく誘導されて食事を皆ですることになった。初めて大勢の前で食事をしたその味は、今まで食べた何よりも美味しかった。新鮮な肉料理だったというのもあるが、恐らくは皆の気持ちがよっぽどこもった料理だったのだろうか、誰とも食事をしたことがないのになぜか懐かしいと思った。自分はこういう食事を望んでいたのだろうかと考える。今まで一度だけしか国王の前でも見せなかった自分の食べる姿。唯一隣にいつもいたのは姫であった。そう考えていたが、ふと自分の大事な任務を思い出し頭痛をこらえながら慌てて小屋を飛び出た。すると小屋周辺の地面に何か光る線の様なものが描かれていた。
「これは……」
 グレイがそう呟くと
「『魔物除けの結界』だよ、兄貴」
 とソファで寝ていたカルロが入り口に立っていた。
「夕飯のちょっと前にさ、ミーンに呼ばれたんだよ。俺とスティアとザントと。なんでも『今日はここに小屋周辺に魔物が入り込まない結界を張る。四大属性の四人が揃ったから大きな結界を張ることが出来る』ってさ。最初は兄貴がいつも見てるからいいのにって思ってたけど『この小屋を中心に結界が長距離張れるか確かめたい』って言うから、まあそれならいいかって手伝ったけど。本当の理由は兄貴が今夜は見張りに出られないかもしれないからだって、後でわかった」
 カルロは笑いながら
「ミーンは過去は見えるが未来は見えないと思う。でも何をどうすればいいか先読みの能力は結構ある。俺もまんまと嵌められた側だけどさ、嬉しかったんだ兄貴とこうやって飯食うの夢だったからさ。兄貴と一度でもいいから一緒に飯食って話してみたかった。兄貴には迷惑だったかもしれねぇけど、俺はすごく楽しかったよ」
 と言う。すると
「……大勢で食事をするのも、悪くはない」
 とぼそりとグレイは無表情で言った。そして
「あのひよっこ王子もずいぶんたくましくなったな。だがやはり変わってない。優しすぎる」
 と言って小屋の入り口の方に向かう。カルロは少し下がり入り口を開け、グレイはすれ違いざまに
「王子に飲まされた酒で頭痛がする。俺は、もう少し眠る」
 そう言って寝袋の中に入り眠りについた。ああ、あの「独り」だった兄と慕う人が変わっていく瞬間を見た、カルロはそう思った。こうしてカルロも寝直して一夜が明けた。ヴィッツとカルロは起き、スティアたちも降りてきた。しかしグレイは一向に寝袋から出てこないまま部屋の隅で壁の方を向いて寝ている。気分がすぐれないようだ。姫の姿も見当たらない。
「大丈夫か?」
 恐る恐るヴィッツが近寄り小さな声で様子をうかがう。すると
「頭痛」
 と一言だけ言った。ザントを除いて全員がやはりと頷く。スティアが小声で
「ザント、今日はグレイの具合が悪いから静かに、ね」
 と言うとザントは声を出さずにうんうん頷いた。そしてザント以外が一斉にカルロに視線を向ける。ソファの上で座って頭をペコペコ下げて謝る。とりあえず食事は取らねばならない。昨日あれだけ色々食べたのもあって朝食はパンとお茶だけで済ませた。何かあった時にとミーンが小屋に残り、それ以外は小屋の外で音をたてないように行動することとなった。そして小屋から声が聞こえない距離まで離れた一行に
「せっかく私たちがチャンスをあげたのに、なんで台無しにしちゃうのよ」
 とスティアがご立腹の様子でカルロの前に仁王立ちする。カルロは頭を下げながら
「いや、本当に悪かった。せっかく皆が用意してくれた場をぶち壊したのは本当、ごめん……」
 と必死に謝る。
「スティア。カルロだってちゃんと反省してる。とりあえず飯はほぼ食い終わった後だし。グレイもきっとそこまでは怒ってないと思うからさ」
「そうです。私もグレイがお酒に弱いことも知りませんでしたし。あのときは姫もグレイがお酒を飲むまでこちらの話に夢中で気づいてませんでした。これ以上王子を責めるのは……」
 ヴィッツとナスティがなだめるも
「あんたたち甘いのよ! 今回は二日酔いだけで済んだからよかったけど、下手すると命にかかわるのよ! それを勢いで飲ませるとかとんでもない! 私の師匠も弟子に無理やり飲ませて病院送りにしたのよ! 辛うじて助かったけど、ほんっとうに無理やり飲ませるってダメ!」
 と怒りが治まってないようで、ヴィッツとナスティも思わず頭を下げた。そして頭を下げたまま顔を上げないカルロの側にザントが近寄り
「嫌がってる人に無理に飲ませたりしちゃだめだよー」
 と頭をポンポン叩いた。
「ハイ……」
 カルロはそう一言だけ返事をした。

 一方、ミーンはソファに座り静かに目を閉じる。グレイが少し体を起こし頭を抱えるのに気付いて、飲み水が溜められた樽からカップ一杯分の水を汲んでグレイに差し出した。
「二日酔いよ。少し水を飲むといいわ」
 頭を抱えながらグレイはミーンからカップを受け取る。一口飲み、そしてもう一口とゆっくり飲む。ミーンは水を飲むグレイを見ながら
「どうだった? 大勢で食べた感想は」
 と少し笑みを見せて聞いた。すると
「悪くは……なかった」
 とグレイは下を向いて答えた。しかし付け加えるように
「だがお前たちをまだ信用したわけではない。行動は共にする、食事も今後は共にする。だが大体お前た……うっ……」
 グレイはまだ頭痛で何もできないようで、半分飲んだカップを床に置くと寝袋に潜り込んでしまった。ミーンはそっとカップを下げて洗い場でカップを洗って拭いた。そしてまたソファに座り静かに目を閉じた。こうして小屋の中では静かな時間が昼まで続いた。昼食の時間になりカルロとミーンが料理する。スティアとナスティはここ数日洗えなかった物を温泉のお湯で洗濯する。ヴィッツとザントは小屋の離れの倉庫の外壁にもたれかかるように座って話す。
「ヴィッツ、今日で何日目かな?」
「んー、間違いなければ七日目かな?」
「じゃあもうすぐ船がここに来るんだよね」
「あーそうだな。あと少しか。もうそんなに経つんだな」
 この無人島生活もそろそろ終わりが近づいている。そんな話をしているとスティアが昼食が出来たと声をかけてきたので、二人は立ち上がって土を払い小屋の中に入った。そこにはスティアやナスティの他に、若干不機嫌そうな顔をしているグレイも座っていた。ヴィッツはグレイの左隣に座り
「もう大丈夫なのか?」
 と聞く。
「頭痛は治まった」
 と一言だけ言った。
「そっか、よかった。姫さんの方はどうだ?」
 姫について聞くと
「俺がまだ本調子じゃない。あいつが俺の中から出るのはまだ無理だ」
 と答えた。
「姫さん、やっぱお前の体調に左右されるのか。今日は食べたらまたゆっくり休め。外の結界の件はスティアたちから聞いてる。船が来る日までは持つらしいから、それまでは見張りとかせずに静かにしてたらいいさ」
 ヴィッツが気を使うと
「余計なお世話だ」
 と言いつつもスティアから差し出された皿を手に取り黙々と料理を食べだした。やはり姫を回復させるのに魔力が減っているのかよく食べている。
「お前、本当素直じゃないな」
 ヴィッツがそう言って笑うと
「?」
 グレイは不思議そうな顔をした。こうして二人は並んでヴィッツは美味しそうに、グレイは納得いかない顔で料理を食べた。
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