3IN-IN INvisible INnerworld-

ゆなお

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一章【集結】

十二話 さよなら無人島

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 七日目の昼過ぎ、全員が部屋でくつろいでいると窓から一羽の鳥がカルロの元に飛んできた。見たことない姿の鳥にヴィッツが近寄る。
「なんだ? この鳥。足に紙がくくられてるが、伝書鳩にしちゃあ変な姿だな」

 ヴィッツが不思議そうに鳥を眺めていると
「ん? 親父からの手紙か。どれどれ……」
 カルロは鳥の足にくくられた手紙を外す。ヴィッツが内容を聞く。
「何て書いてあるんだ?」
「えーと、どれどれ……予定より一日早い明後日の昼過ぎ、この島に船が来る。だってさ」
 ヴィッツの方を向き、カルロは手紙を読み終えるとテーブルの上に置いてある紙と羽ペンとインクを手に取る。返事の手紙を書きながら
「まったく……親父は本当俺を帰りたがらせるな。まあ、たまには顔出ししとくか……っと返事はこれでいいか」
 こうしてカルロは返事の手紙を鳥の足の先ほどとは反対側に括りつける。すると鳥は一瞬にして姿を消した。それを見てヴィッツが驚いていると
「親父が考案した魔法の伝書鳥。行きは目的地まで飛ばないといけないが、帰りは一瞬で元の場所に戻る。目的の相手が移動してても探知できるって言うすっげーもんだよ」
 とカルロが説明すると
「それじゃあこのキーコインもそんな感じで出来てんのか? 通信媒体になるならどこでも連絡取れるとか」
 とヴィッツが城門前で貰ったコインを取り出す。
「それは親父よりもっと昔のご先祖様が作ってる。通信機能は範囲が限られるから、この島から城にってのは無理だ。どこにいても言葉を伝えられる魔結晶なら『伝えること』は出来るけどな。どうせ親父のことだからナスティあたりに持たせてるだろう」
 名指しされたナスティは慌てて
「あ、はい! グレイたちを心配したディア様から私が預かっています。この島での生活が無事に終われば返却致します」
 と話をした。カルロは魔結晶を知らないヴィッツやスティアに簡単に内容を説明した。そして
「明後日には船が来るならここを出る準備が必要だな。俺も最低限の武器と荷物だけにして、いらない物はここに置いていく。もうここに戻ってくることもないだろうからな」
 と言う。
「十五からの修行の終わりか?」
 ヴィッツが問いかけると
「そうだな。この無人島での生活は終わり、だ。あとはあんたたちと旅をして修行は終わりかな」
 と答えた。カルロの無人島での修行は終わりになるが、この旅が終わったわけではない。むしろ、八人揃ってようやく旅が始まるのだ。こうして明後日朝までの必要最低限のものを残し、全員で荷造りを始めた。グレイと姫は小屋の屋根に移動した。グレイは難しい顔をしている。
「貴方を騙したこと……怒ってますか?」
 昨日の一件について姫はこわごわと聞いた。しかしグレイは
「……何故か分からないが、一瞬だけ……懐かしく思った。それが何か分からないし思い出せない。だが……確かにそれは懐かしい『何か』だった」
 と言った。姫に心当たりがある行動はない。もしかすると自分が目覚める前の記憶と関係しているのかもしれない。姫が
「あの事故の前の記憶かもしれませんね」
 と言うと
「そんなわけあるか。忌々しい記憶しか残っていない」
 と舌打ちしながら否定した。ふわりと風が吹き髪がなびく。この中に彼の鍵になる人がいる。姫はそう思った。

 八日目。明日はこの島から離れる。色々苦労もあったがそれぞれの距離が少し縮まったような日々でもあった。そしてカルロにとっては九年の修行の区切りでもあった。カルロは小屋から出て洞窟の入り口の方に向かって一礼し
「この島のすべての精霊たち、今まで見守ってくれてありがとう。俺はこの島から明日旅立つ。本当世話になった。えっ……と『アズィエス マナディル アット イー』」
 とおまじないを唱えた。
「なんだ、さっきの。アズなんとか……ってやつ」
 後ろにいたヴィッツが聞くと
「ああ、昔からのあるおまじないみたいなもんだ。精霊たちへの感謝とそしてこれからの俺たちに祝福をお願いします、みたいな意味合いらしいが詳しくは俺にもよくわからん。でも結構強力なおまじないらしくてな。この島へ来た時、最初に唱えたが魔物に襲われることが殆どなかった。それから結構経ってから効果が切れたのか、いつからか魔物もぼちぼち出るようになった。その頃には俺も戦えるようになっていたから、とりあえず一年に一回は精霊への感謝の言葉だから唱えてたな。親父曰く唱えすぎもよくない言葉だって聞いてる」
 そして
「それより最後に手合わせしようぜ。ちったぁマシになったか確認してやるよ」
 とヴィッツを連れて倉庫前に行き、練習用の片手剣同士で手合わせをした。お互いの剣がぶつかり金属音が響く。
「だいぶ避けられるようになったし、受け流せるようになったな」
「正直避けるのは早く覚えたが、相手にダメージ与えるのはまだ苦手だ」
「そうだな。そこは実戦あるのみだ、頑張れよ」
 カルロが励ましながらヴィッツの攻撃を剣で弾き、また逆にカルロの攻撃を何とか剣で受け止めるヴィッツ。一方、スティアはミーンとザントに見守られつつ魔法の練習をする。
「ええと、バーニングウェポン!」
 スティアが拳を前に突き出しそう唱えると、拳の周りに炎が現れた。
「なるほど、火の属性を手にまとい攻撃する。攻撃力も上がって一石二鳥ね」
「でも水魔法には弱いから、火が消えちゃうね」
 ミーンとザントがスティアの魔法を分析する。ミーンが軽く水鉄砲魔法を拳に当てると火は消えてしまった。
「あらら、こんなに簡単に消えちゃうんだ……。他にも色々魔法を使いたいけど、本当使う人のセンス次第なのね。考えるのが難しいわ」
 ミーンとザントが案を出してはそれを試すの繰り返しで、スティアはスティアなりの魔法を修得していく。こうして「攻撃補助」「防御補助」「回復」魔法の三種類は使えるようになった。大事な穢れの浄化魔法も覚えた。
「スティアは接近戦がメインだから補助魔法と回復魔法が使えれば充分よ。攻撃魔法に関してはあなたの魔力の器次第だから、使えても威力が低いとかもあるから一度街に戻ってから確認ね」
 誰にでも備わっている魔力の器。稀に魔力の器に異常があり魔力が溜まらない病気のような者もいるが、基本的には誰もが持っている。その器は人によって大きさが様々で溜められる魔力の量は生まれつき決まっている。この魔力の器を持っている状態で、かつ精霊と契約している者のみが転送魔法に乗って移動することが可能なのだ。
「なあ、カルロ」
「ん? どうしたヴィッツ」
 休憩に小屋の日陰で並んで座る二人は話をする。
「カルロはもし結婚した相手に子供が出来て、そん時に事故とかでどうしても逃げ出さなきゃならなくなったら、どうやって妻と子を護る?」
 すると
「あー、お前の両親の話かー。そうだなぁ、もし転送魔法が俺と嫁さんが使えるが腹の中の子供は使えない。同じ条件だとしたら多分俺もあんたの親父さんと同じ行動をしてただろうな。自分の身は自分で護るから嫁さんだけは安全な遠くにってな。まあ俺の場合は親父の研究で3人とも助かる術があるからさ、あんま参考にはならねぇかもしれないが」
 とカルロは答えた。それに対して
「そっか。父さんもそう言う気持ちで送ったのかなぁ。生きてんのかな。最後に母さんが父さんと交わした言葉が『必ず生きて会う』だったからさ。母さんが死んじまって父さんに合わせられねーけど」
 と少し寂し気に膝を抱えて話した。
「元気出せよ。お前の親父さんは生きてるって。猶予がないみたいだから、世界を救ったあとになるだろうけど俺は手伝うぜ」
 カルロの励ましに
「お前、本当優しいよな」
 とヴィッツが言うと
「ははっ、兄貴にも言われたよ『優しすぎる』って。なんかさ、困ってる奴がいたら助けたくなっちまう。護らなきゃってな。そういう一族の血みたいなのがあんのかもしれねぇ」
 と笑って話した。すると
「王子! ヴィッツさん! ちょうどいいところにいました。先ほど結界の端に行くと魔物が1体いるのを確認しました。少し大きめの魔物でしたので倒すのを手伝って頂きたくて来ました!」
 とナスティが駆け足でやってきた。
「卒業試験にちょうどいい。ヴィッツが無理そうなら俺とナスティで何とかする。いや、何ならミーンたちにも来てもらう。うーん……そうだ! 一対一だと厳しいから二対一でペア組んでみるか! 誰と組むか決めな」
 突然ペア戦を命じられたヴィッツは悩む。カルロと組めば楽勝過ぎる気がする。ミーンは指示がうるさそうで敬遠する。ザントは魔力が高い割には威力が低め。ナスティは一度組んでいるから後は自分の武器との相性次第。スティアは魔法を実戦で色々と試したいだろう。グレイはまず誘っても断られそうだし、姫も前回の件があって誘いづらい。ヴィッツが頭を抱えて悩んでる間に他の全員が集まっていた。
「何の騒ぎだ」
「ああ、兄貴。実は……」
「へぇ、それでヴィッツ悩んでるのね」
「誰と組んでも戦えるようにしておくのは大事だわ」
「そうですね! 魔物と戦う場合は連携して戦うことも多いですから」
「ん~、ボクの魔法まだまだ未熟だからなぁ~」
「ヴィッツさん、お相手を決めかねてますね」
 ここで悩むヴィッツを見てスティアが小屋から紙を持ってきた。細長くちぎり、紐状に七本ねじり一本だけインクを付けた。
「ヴィッツ以外の七人でこれ引いて、印が付いた紐引いた人がヴィッツと組む。それでいいんじゃない?」
 とくじ引きを提案する。満場一致でスティアが握った紐状のくじを一斉に引く。そしてその先端を見るとグレイが引いたものに印がついてあった。
「あーよりによって兄貴かぁ。姉貴以外と連携できるのかなぁ」

 カルロは頭を抱える。
「私と同じ任務でも単独行動が多いので、正直連携攻撃することがなかったです。彼女の方とはありましたけど」
 ナスティでも戦闘は一緒にしたことがなかったらしい。もう一度くじ引きをやり直しになるかと思ったが
「足を引っ張るなよ」
 とヴィッツに言いグレイは組むことを了承したようだ。ヴィッツは
「あ、ああ。頑張るよ」
 緊張した様子でヴィッツは剣を腰に下げた。グレイは外していたマスクをつける。左目に傷を負っているのは昔の爆発事故で負った傷だとは聞いている。
「何を見ている」
 どうやらヴィッツがグレイの左側に立ち、傷を見ていたことには気付いていたようだ。
「すまねぇ。片目で戦えるってすげーなって思ってよ」
「見えてはいない。だが気配で分かる」
 グレイはヴィッツの疑問にそう答えた。
「さあ、兄貴もヴィッツも行くぞ。俺たちも万が一のためについてくよ」
 こうして案内のナスティの後をヴィッツとグレイが、他の面子は前を歩く三人から少し離れてついてくる。そして結界の端に到着した。
「あそこです」
 ナスティが指さす場所には、高さは大人二人分くらいはあるだろうか、三つ目で二本の足があるベッドマットのような魔物が黒く燃えている。魔物はゆっくりとした足取りでうろうろと結界の中に入れる場所を探している。
「明日通る場所ですもの、これは確かに困るわね。恐らく結界から出た途端襲ってくるわ。どこかに行ってしまう可能性もあるけれど、私たちの気配を感じ取っているみたいだから、倒してしまった方が安全ね。ヴィッツ、グレイ。気を引き締めて行きなさい」
 ミーンがそう言って二人にあらかじめ防御魔法を唱える。ザントも速度増加、スティアも覚えたばかりの攻撃力増加を唱えた。カルロも普段使わない盾の魔法を唱え、一度だけ攻撃を無効化する効果を付けた。
「俺たちが援護できるのはここまでだ。ヴィッツの卒業試験開始! 兄貴! ヴィッツが危ないときだけ手貸してやってくれ!」
 カルロがそう言うと
「いくぞ」
 とグレイは言う。ヴィッツは急いで腰の剣を抜き構えた。それより先に結界から出たのはグレイだった。その動きにこちらを向いていた魔物はグレイの方を向き、結界から遠く離れたグレイの方にゆっくり向かう。背中に紋はないようだ。グレイが魔物を挑発している間にヴィッツが結界を出て魔物の背中に切りかかる。大きな切り傷が出来ると、魔物はヴィッツの方にゆっくりと振り向く。その正面上部に小さい三角に並ぶ三つの目の中心に紋があった。しかし大型で背が高く紋を突くには無理がある。何とか転倒させて突くしかない。ヴィッツの方に完全に向いた魔物は近寄ってくる。胴体を突き刺したら前回と同じになる。今回は弱点を掴んでいる。ヴィッツは攻撃後すぐに距離をとり、反撃の間合いから離れて少しずつ魔物の体力を削り倒れさせようとする。そして恐らくこれが最後の攻撃だと、残り少ない体力で渾身の一撃を加える。すると魔物の胴体から腕が生えてきた。
「聞いてねぇよ……こんなの……」
 体力の限界が近いヴィッツは思わずその場で膝をつく。もう終わりかと覚悟を決めたとき、背後からグレイが両方から迫る腕をクナイで突き刺し動きを止めた。そしてヴィッツの背中を足場にし魔物の頭に飛び乗り、魔物の後頭部をクナイで突き刺した。
「ヴィッツ、とどめだ」
 グレイの声に顔を上げる。魔物が徐々にこちらに倒れようとしている。この距離ならいける。ヴィッツは必死に立ち上がり、剣を突き上げて紋を突いた。みるみる光が抜けていき、そして小さな炎が地面に残った。
「スティア、浄化の魔法使ってみなさい」
 ミーンに言われてスティアは急いで炎のところへ行き
「えっと、クワイエットフレイム!」
 と魔法を唱えると白い炎が残り火を包み込み、跡形もなく消え去った。
「わー! 凄い! 私も浄化魔法使えた!」
 スティアが一人喜ぶ中、ヴィッツはグレイの目の前に行き
「助けてくれてありがとな。お前のおかげで倒せたようなもんだ。俺はまだまだ未熟で迷惑かけることもあるが、この先の旅一緒に頑張ろううな」
 そう言ってヴィッツはあえて左手を差し出した。グレイの利き腕が左なのは食事の時に左手でフォークを持っていていたのに気付いたからだ。それに合わせるようにグレイはゆっくりと左手を出し、ヴィッツと握手を交わした。
「王子が稽古をつけただけはある。実戦で鍛えていけ」
 初めて会った時握手すらしなかったグレイが自分と握手し、そして実力を少しだが評価してくれた。それが不思議と嬉しかった。そんな握手を交わす二人をカルロは愕然として見ていた。
「(あの兄貴が他人を認めるとは。ヴィッツ……、侮れねぇなぁ)」
 そして隣にいた姫も
「(彼の心を埋めるもの。それはあの人なのかも……)」
 と二人の様子を見て考えていた。卒業試験も無事合格となり、全員で小屋に戻った。そして、ヴィッツとグレイは穢れを落とすため温泉のある洞窟へと向かった。脱衣所に到着して
「あれ。お前も一緒に入るのか?」
「なんだ。俺と風呂に入るのが不服か」
「いや、なんか飯食うにしろ何にしろ一人の方がいいって聞いてたからさ」
「ああ。だがさっさと終わらせるなら同時に入る方が効率的だ」
 そういうものか、とヴィッツも特に深く考えずに服を脱ぐ。グレイも服を脱ぐがその右腕は本当に不思議な水色の透明な手だった。下も脱ぐと両足共に腕と同じものだった。
「ジロジロ見るな。見世物じゃない」
 グレイに言われて
「あっ、わりぃ」
 と言ってヴィッツは慌てて洗い場に行き体を洗う。綺麗に穢れを落とした二人は温泉に浸かる。グレイは目を閉じ、鼻の頭まで深く顔をお湯に沈めている。しばらくヴィッツはそんなグレイを見ている、が一向に鼻をそして口を水面から出さない。窒息死するのではないかと慌ててヴィッツは声をかける。
「おい、大丈夫か?」
 すると顔を水面から出して
「何がだ」
 と逆に聞かれてしまった。
「いや、普通そんなに湯の中に顔沈めてたら息できないだろう?」
 と言うとグレイは
「俺は魚人族の生まれ変わりだ。本物より能力は劣るが水には強い。だから水の中にも長時間潜れる」
 と衝撃の事実を述べた。
「え、ええええ?」
 ヴィッツが驚いていると
「そんなに驚くことでもないだろう」
 と冷めた目でヴィッツを見る。
「いやいやそんな話聞いてねーし。俺、魚人族の生まれ変わりについては話に聞いてたが、実際会うのは初めてだ」
 ヴィッツがそう言うと呆れた様子でグレイは話し始めた。
「魚人族が死ぬと人間に生まれ変わる話は知っているな。その生まれ変わりは稀に水色や青色の髪で生まれる場合もあるが、殆どが見た目も基礎能力はほぼ人間と変わらない。だが決定的な違いは水への耐性だ。俺が城に来て間もない頃、城の池に落ちたことがある。昔からある深い池らしく、底に深く沈んだ俺は心地良さを感じていた。まるで魚のように速く泳げ、陸にいるより気持ちよいとさえ感じた。慌てて駆け付けた国王陛下の声が聞こえて水面から顔を出した。国王陛下はとても心配していたが、水の中が心地良かった話を聞いて『恐らくお前は魚人族の生まれ変わりだろう』と言っていた。その後すぐに検査が行われて、魚人族の生まれ変わりだと判明した。国王陛下は何か難しい顔をしていたが、子供だった俺にはわからなかった。まあ魚人族の生まれ変わりは見た目だけでは判断できない、意外とお前の側にも居たのかもしれない、そういう存在だ。ああ、あと前世の記憶は基本ない。稀に前世の記憶を持ったまま別人として生まれ変わることもあるらしいがな」
 グレイの話に
「へぇ、そういうもんなのか。村でもやたら泳ぎが上手いヤツとかいたけど、もしかしたらそいつも魚人族の生まれ変わりだったのかもしれないな」
 とヴィッツが村のことを思い出す。
「それくらい知らなければ分からん事だ」
 そう言うと再びグレイは鼻までお湯につかる。不思議な話を聞けた。普段他人に自分のことを話さない相手がいろんな話をしてくれた。ヴィッツはゆっくり湯につかり目を閉じて疲れを癒した。一方グレイは
「(こいつと話していると何かを思い出す。でも何かまでは思い出せない。重要な……何か……。とても大事な、大事なことを……思い出せそうで思い出せない……)」
 思い出せないことにもどかしさを感じていた。ゆっくりと温泉で休んだ二人は洗濯物を持って洞窟を出る。いつもの場所に洗濯物を干して小屋の中へと入った。グレイの長い髪は濡れている。ミーンの提案でザントの魔法で乾かすことになった。
「ザントさん、お願いします」
 姫がそう言うと
「うん。長時間魔法使うの初めてだけどやってみる!」
 とグレイの顔の前にふわふわと浮かぶと
「えーとえーと、ドライウィンドぉぉぉぉー!」
 と魔法を唱え強めの風が吹き、グレイの髪がなびく。凄い風に思わず目と口を閉じたグレイ。隣にいる姫が髪の乾き具合を見て
「もう大丈夫です」
 とザントに魔法を止めるよう言った。
「はぁはぁ……ボクの風魔法をこんな形で使うとは思わなかったぁー」
 ペタンとザントは床のクッションに座り込んだ。
「グレイ、どうですか?」
 姫が聞くと
「確かに楽だな。こいつには手間をかけさせるが」
 とグレイは答えた。
「私の炎の魔法じゃ燃えちゃうわよね」
 とクッションを抱きしめてうつ伏せに寝そべるスティアが言うと
「止めろ。国王陛下への忠誠の髪だ。燃やされてたまるか」
 とグレイが言う。するとミーンが
「サウザント王国では王族直属の兵として就く場合、その忠誠の証として髪を伸ばす。流石にずっと伸ばし続けると任務に支障が出るから、ある程度伸びたら整えて切ってしまうけれども。そしてその任務を果たし退任するとき、今まで自身を雇ってもらった恩を返す意味で髪を切る。そういう風習があるからグレイもナスティも髪を伸ばしているのよ」
 と説明してくれた。
「へぇ、ちゃんとした意味があるんだ。私の国ではない風習ね」
 スティアはそう言って自分の髪を人差し指で絡めて伸ばした。そうこうしていると
「おーい。この島最後の夕飯が出来たぞー。島を出るのが一日早くなっちまったから、早く食べとかないといけないもんは大体料理しちまったがよかったよな? 長時間置いてもいい料理も作っておいた。明日の朝、さくっと食えるように準備しといたぞ」
 とカルロは料理が出来たことを話す。
「本当によかったの? 私たちが手伝わなくても」
 スティアがそう聞くと
「ここで料理するのも最後。九年間ずっと続けた最後だからよ、一人で締めくくりたかったんだ」
 そう言って料理を乗せた皿を次々と敷物の上に並べる。
「さあ食べてくれ」
 カルロの合図で皆食事を楽しむ。そこにはグレイも姫もいた。グレイの隣に座ったカルロは
「兄貴が姉貴以外とあんなにすんなりとペア組むとは意外だった。しかもヴィッツに行動を合わせてた。いつも一人が多かった兄貴に何が起こったか俺は不思議でしかたねぇんだが」
 と小声で聞いた。すると
「正直俺にも分からん。だが、あいつと話をしていると何か大事なことを……思い出せそうな気がする……」
 とグレイが言う。
「兄貴、任務中にワルトゥワの村には行ったことねぇよな?」
 カルロの問いにグレイは
「ザルド大陸方面は行ったことがない」
 とこくりと頷いた。
「うーん、なんだろうな。兄貴の思い出せそうで思い出せないことって。姉貴も兄貴から出てくるまでの記憶はねぇから分からねぇよな」
 グレイの隣にいる姫は
「はい。過去もそして現在までも、ヴィッツさんに関係するような出来事はなかったと思います」
 と答えた。三人とも不思議そうな顔をする。そして
「ま、そのうち思い出すかもしれねぇから、とにかく飯食おうぜ」
 とカルロはグレイに大盛りの皿を渡した。それを受け取り黙々とグレイは食べる。
「やはり王子の作る飯は美味い」
「そうか!」
 こうして最後の夜を迎えた。

 九日目。朝食も終え、皆島を出る準備をする。
「忘れもんとかねぇか? じゃあ行くぞー」
 大きな荷物はカルロとヴィッツが担ぐ。こうしてカルロは九年過ごしたこの小屋に別れを告げた。昨日の魔物の件もあって警戒しながら山を下る。幸いにも今日は魔物が出なかったため、安全に浜まで出ることが出来た。しばらくして、船がやってきた。最初にこの島に来たときの手漕ぎボートはグレイが浜の上の方に上げて手入れしてたことを知る。そのボートを海に持っていき全員で乗って船に向かう。梯子を登り船の甲板に上がって、ボートも回収してもらった。こうして一行は船からナトルイア島を眺めながら離れていった。
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