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ゆなお

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二章【分散】

十五話 もどかしい日

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 まばゆい光に目が眩み、ようやく目を開けるとそこはサウザントの街から少し離れた場所だった。
「あ、ああ……何があったんだ……って城じゃねぇか!」
 カルロがそう言って立ち上がると
「ううん……何が起こったのかしら」
 とミーンが頭を抱え隣に座り込んでいた。
「ミーンか。兄貴に姉貴に、他の皆は……いねぇな」
 そう言って周辺を探すが二人しかいなかった。
「あの光、なんだったのかしら。強制的に転送させる何かが発動したみたいだけど、私とあなただけしかここに居ないってことは全員がバラバラに飛んだみたいね」
 カルロに差し出された手を握り、ミーンは立ち上がった。
「他の皆がどこ行ったか分かるか?」
 カルロが聞くもミーンは首を横に振る。
「私にもこれは想定外の事よ。もし本当にバラバラに飛んだのなら、姫とグレイが心配だわ。あの二人は離れ離れにしてはいけない。なんとか二人一緒だといいんだけど……」
「とりあえず城に戻ろう。親父が事前に全員の記録を転送魔法陣に残している。恐らくそこから誰がどこにいるかくらいは探せると思う」
 今頼れるのはディア王が指揮する魔法科学研究所の力のみ。二人は急いで街に入り城に急いだ。
「カルロ王子に客人の方!」
「わりぃ! 親父に急用だ! 急ぐぜ!」
 門番にそう言うと急いで門をくぐる。走りながらペンダントを手にし
「親父! 聞こえるか! 一大事だ!」
 と通信を入れる。ほんの少しして反応があった。
『カルロ? お前たちエルフの森に送ったばかりでは……』
 ディア王がそう返事を返すと
「俺も正直分からねぇ。とにかく魔法科学研究所の前で待ってるから急いでくれ」
 そう言って通信を切る。
「ミーン、分かる範囲で構わねぇから親父に説明頼む。俺はどう説明したらいいか分からん」
「分かったわ」
 しばらくしてディア王が息を切らして走ってきた。
「ハァハァ……この年で全力で走るのは辛い……」
 息を上げるディア王に
「親父、本当すまねぇ。なんかとんでもない事が起こっちまったようだ」
 とカルロが困った様子で言う。
「ミーン、頼むぜ」
「ええ、分かったわ。ディア王、実は……」
 ミーンはエルフの杖にヴィッツとスティアが同時に触った瞬間、まばゆい光が辺り一帯を包み恐らく全員がどこか分からない場所に飛ばされたことを話す。
「それでここに飛ばされたのがカルロとミーンであったか」
「はい、私たち二人だけがここに飛ばされました。他の者の気配は近くにありません」
「なぁ、親父。この前、転送魔法陣に全員の情報登録しただろう? あれでなんとか追跡できねぇかな」
 カルロがそう言うと
「出来ないことはないが……恐らくこのあたりにいるだろう、くらいまでだな。精霊と契約すれば強制的にここに戻せるが、四人は精霊と契約していない。とにかく場所を特定しよう」
 そう言ってディア王たちは研究所の中心にある部屋へと入った。
「国王陛下! どうかなされましたか」
 研究員が一斉にディア王の方に振り向く。
「うむ、実は……」
 全員に状況と実行してほしいことを説明する。
「数日前に登録した情報を分析し、魔力探知機で彼らの魔力から所在を特定するには設定を調整する必要があります。最短でも一日はかかると思われます」
「一日、か。急を要する事態だ。無理はするな、と言いたいところだがお前たちにかかっている。私も手を貸そう」
 そう言ってディア王は研究室の装置の設定を始めた。
「国王陛下……。分かりました、可能な限り早急に使用出来るよう調整します」
「二人は再度エルフの森に行くために、英気を養っていてくれ。準備が整ったら連絡する」
 そう言って部屋から出されてしまった。
「親父が手を貸すほどだからよっぽど急いでんな。こっからは俺たちは無力だ。親父と研究員に任せて、俺らは待つしかねぇ」
 こうして二人は城内へと入っていった。カルロとミーンが廊下を歩いていると、前から一人の青年が歩いてきた。カルロを見るや否や
「あ、兄上! 旅に出たはずでは……もしかして、僕に会いに戻ってこられましたか!」
 と走ってくる。カルロは急いでクレセアをかわした。

「あのなぁ、クレセア。相変わらず俺にタックルかますの止めてくれねぇかな。この前も背後からしてきただろう」
 クレセアと呼ばれた青年。カルロと同じ髪色だが、かなり細身でどことなく「カルロが鍛えなかったらこうなるであろう」姿だった。
「あ……兄上、申し訳ありません。兄上との再会が嬉しかったもので、つい……。ご迷惑おかけしました……。僕が十歳の時に兄上が修行に出られ、九年間寂しい思いをしたもので、帰ってきた兄上に冷たい態度を取られたのが寂しかったのです」
 そう言ってクレセアはしょんぼりしてしまった。
「この兄にしてこの弟、ね。体格はともかくそっくりじゃない」
 ミーンがそう言って笑う。すると
「俺とクレセアが似てる? そうかなぁ」
 と考え込むと
「彼があなたを兄上と慕うように、あなたはグレイを兄貴と慕ってるじゃない。しかも両者共に一方通行の敬慕。同じ血が流れてるのがよく分かるわ」
「あ、あー。それ以上は言わないでくれ。わかったよ。クレセア、どれくらいの間かは分からねぇがしばらくはこの城にいることになる。たまにはお前と色々話すのも悪くねぇかな」
 そう言うとクレセアの顔が一瞬で明るくなった。
「兄上! 修行の話、いっぱい聞かせてください!」
「ミーン、俺はちとクレセアの相手してくる。あんたの部屋の方は用意しておくから休んでくれ」
 カルロはそう言ってペンダントで誰かに連絡を取る。そして一人のメイドがやってきた。
「ミーン様、お部屋の用意はできております。こちらへどうぞ」
 そう言ってメイドはミーンを案内し、カルロはクレセアと話しながらどこかへ行った。こうしてもどかしい一日目が終わる。

 二日目。徹夜で調整をしていたディア王は二人の研究員と共に研究所から出てきた。外はまだ夜明け前の暗い空だった。
「なんとか……夜明けまでには調整が完了したか。後の探査は頼んだぞ」
 ディア王ががくりと頭を下げてため息をつく。
「我々は交代で調整をしておりました。国王陛下は調整の一番重要な部分を休まずお一人で担っておりましたし、とにかく寝てください。お体に毒です」
 研究員の一人がそう言って通信で親衛隊二人を呼び、そしてディア王は親衛隊に支えられて自室に戻っていった。
「国王陛下もご無理をなさる。今回は特に国王陛下ご自身が調整しなければならない部分があったから仕方がないが……」
「研究員が倒れてはいけないと、私たちは国王陛下の命令で交代で休憩をとりつつで調整したけれど。本当に国王陛下は無理をなさるお方ね」
「ここから先は俺たち研究員の仕事だ。カルロ王子たちがいらっしゃるまでは他のメンバーに任せて少し休もう」
 研究員二人がそう話しながら研究室の休憩所に入っていった。こうして夜が明け、カルロとミーンは朝食を終えた後に魔法科学研究所に向かった。
「王子、お待ちしておりました! 明け方前に準備は無事完了しました!」
 研究員が言う。それを聞いてカルロは上を向きながら顔を片手で覆い
「あー、やっぱ親父無茶しやがったか。どうせ親父のことだから一人徹夜で調整して、お前たちを交代で休ませながら補助に回してたんだろう」
 カルロの言葉を聞いて
「仰る通りです。国王陛下は誰かのために、となると本当無茶をなさる。次期国王のカルロ王子からもきちんと『無理をしないように』と念を入れてください」
 と研究員が笑う。
「そのつもりだよ。で、調整の結果、皆の位置はわかったか?」
 カルロが聞くと研究員は肩幅くらいある四角い透明な魔法盤を部屋の真ん中の机に設置した。魔法盤には大陸地図が現れ、そして指さしながら
「まずはスティア様とナスティ様はここから南にあるグルドア大陸の南南西にあるキレリアの街の近くに。そしてヴィッツ様とグレイ様の分身の方がキレリアから遥か西にあるユイノール大陸の森林地帯のどこかに。そしてグレイ様はそのユイノール大陸から海を越えた遥か北の山岳に囲まれた孤島にいらっしゃることが分かりました。ザント様の反応はありませんが、恐らくエルフの森にそのままいらっしゃるようです」

 場所は大体把握した。
「まずいな……兄貴のいる島は殆ど調査が進んでない島だ。兄貴はまだ精霊と契約してないから転送魔法陣も使えねぇ。それに姉貴との距離もかなり遠いな。ヴィッツと姉貴も契約がまだだから戻せねぇ。ナスティが契約してないからスティアは一人で戻るようなやつじゃねぇし……」
 とカルロが独り言のように話す。それを聞いていた研究員の一人が
「もしもの話ではありますが、彼らが精霊と契約して転送が可能になった場合、通知が来るようにしてあります。ご覧ください」
 と言って魔法盤を指さす。キレリアの街の二つの丸印の内一つが色が他の四つの印と色が違う。
「精霊の契約の有無が大事である、と国王陛下が仰ってました。なんとか調整した甲斐があって精霊の契約有無まで追えるようにしました」
 研究員の言葉に
「そうか……皆もありがとうな。せっかく転送装置の再使用の準備してるところだったのに、迷惑かけちまった」
 とカルロが謝る。
「いえ、転送装置に関してはまだ見習いの者も含めて数名が魔力充填に回っています。こちらの、行方不明になった皆様を探す方が重要ですし、何か変化がありましたらご連絡致します。転送が可能になった方々を順を追ってこちらに呼び戻す予定です」
 そう言ってカルロとミーンに一礼し、研究員たちは休憩をとりつつ魔力探知機を動かし始めた。
「本当、こうなると俺は無力だなって感じるよ」
 カルロがそうこぼすと
「大丈夫よ。あなたにはあなたのなすべきことがある。今しばらく待ちましょう」
 ミーンの言葉に頷く。そして
「兄貴と姉貴……大丈夫かな。何とか早めに精霊見つけて契約してくれれば、最優先で二人を帰還させたい。あの二人は離れると命にかかわる」
 と二人の心配をした。こうして四人の精霊の契約が終わるのを祈りつつ、カルロとミーンは待つしかなかった。
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