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ゆなお

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二章【分散】

十八話 山岳に囲まれた孤島

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 まばゆい光に包まれ目が眩み、そして目を開くとそこは草原のど真ん中。大の字に寝ていたグレイは体を起こす。
「何が……あったんだ」
 状況を整理する。エルフの森の奥にあるエルフの杖をザントが握り、その直後にヴィッツとスティアが触れた瞬間、まばゆい光が発生して気付けばこの場所にいた。周りを見渡すと草原と遠くに高い山々が一周するようにそびえ立つ。どうやら山岳に囲まれた特殊な場所、知らない場所のようである。何をするにも情報がないグレイはその場に座ったまま風景を眺めていた。すると後ろから動物の鳴き声が近づいてくる。振り向くとそこには羊とそして少年が歩いてきた。遊牧民のような服装の少年。少年はグレイの傍まで来ると

「転送魔法の事故か何かですか?」
 と聞いてきた。あまり情報は出せないため
「あ、ああ。転送魔法の事故に巻き込まれて飛ばされた」
 と嘘をついた。すると
「なるほど、よくあるんですよね、この島に突然現れる人。大体の人が転送の失敗や転送魔法の実験で転送ミスで巻き込まれてこの島に来るんです。ここは山岳に囲まれて船からはたどり着けない、入り込めない島ですから」
 少年は
「自己紹介がまだでした。僕はアインと言います。ここで羊の世話をしながら一族と暮らしています」
 と自己紹介をした。
「俺は、グレイ」
 グレイは名前だけ言う。
「グレイ殿は精霊との契約はお済ですか?」
 アインに言われグレイは首を横に振る。
「んー、困りましたね。精霊と契約していれば転送魔法が使えなくても、この島から唯一出られる山の麓の洞窟にある魔法陣から一番近い大陸に飛べるのです。たぶん場所はユイノール大陸かグルドア大陸のどちらか、です。なにぶん僕はこの島から出たことがないし、戻る術もないのでどちらに飛ぶかは分かりません」
 そうアインが話していると精霊たちが現れる。皆、地の精霊のようでカルロの精霊と同じ格好をしている。髪型や表情はそれぞれ違うようだ。
「この人だ!」
「そうだ! 闇の精霊の人だ!」
「アイン、彼をあの祭壇のある洞窟に連れて行って!」
 地の精霊たちが騒ぐ。
「え、あの祭事のときしか入れない祭壇の洞窟に?」
 アインが困った顔をしていると
「とても大事なことなんだ!」
「早く早く!」
「この人は行かなきゃいけない!」
 と精霊が言うので
「何だか分からないけれど、精霊たちの導きなら仕方ありません。グレイ殿、どうやらあなたと契約すべき精霊が、僕ら一族が祭事のときだけ入れる洞窟にいるそうです。ご無理でなければ今から行きますが、もし時間的にも無理そうでしたら明日でも構いません。どうしますか?」
 まだ日が沈むには早い。
「ここから洞窟まではどれくらいかかる。遠いのか」
 グレイがそう聞くと
「歩くことにはなりますが、それほど長い距離ではないかと思います」
 そう言ってアインは洞窟のある場所を指さした。山との距離からして三十分ほどで到着しそうだ。
「今すぐ行く」
 グレイの言葉に
「では案内します。精霊たち、僕の羊を家まで送ってください」
 と言いアインはグレイと歩き始めた。精霊たちは羊を一生懸命誘導していた。
「お前は精霊と契約していないらしいが、あの精霊たちは一体……」
 グレイが聞くと
「ここの精霊たちはとても人に興味を持っていて、契約者ではない人の前にもよく現れるんです。僕は特に魔法が必要ないので契約していませんが、精霊たちはある意味友達のような存在です。そして崇め祀る大事な存在でもあります」
 精霊と共存する不思議な島。まるでエルフの森のような場所だ。それ以降は特に会話もなく、二人はまっすぐ祭壇のある洞窟へと向かった。山の麓に到着し、そこには大人が入れる高さの入り口が待っていた。アインが
「本来ならここは祭事の時のみ入れる大事な場所です。僕は入れませんが精霊のお導き、グレイ殿はこのまま奥へ。あっ、これ明かりです」
 そう言ってアインは腰に下げた袋から魔法石を取り出す。
「中は暗いのでその魔法石が明かりになります。戻ってきたときに返していただけると助かります」
 アインの言葉にこくりと頷き、魔法石を受け取りグレイは洞窟の中に入っていった。奥に行くほど暗くなる。手に持っている魔法石の明かりだけが頼り。どんどん入り口の明かりが消え、最奥の祭壇には人工的に彫られた石像が立っていた。グレイはあたりを見回す。すると
「こっちだ」

 と声が聞こえた。声の方を見ると、石像の影になっている部分に、黒い服とマントを身に纏い帯剣している精霊がいた。精霊はグレイから少し離れたところまで飛んでくる。グレイの顔をまじまじと見られ、怪訝そうに
「俺の顔が気になるか」
 とグレイが聞いた。すると
「お前はかなり複雑な器をしているな。本来なら水の精霊と契約するはずだったが、俺と契約しなくてはならない運命になっている」
 と精霊は言う。
「本来なら水の精霊と契約……。それは俺の過去に何かあったのか、知っているのか」
 グレイは精霊に問うが
「詳細は言えん。精霊界の掟だ。知りたければ自分で過去を辿ることだ」
 と答えてくれなかった。精霊は
「まあともかくお前は元の場所に帰らねばなるまい。俺と契約だ、左手を出せ」
 そう言ってグレイの利き手を差し出すよう言った。持っていた魔法石を右手に持ち替え、左手を差し出す。
「では、闇の精霊イグナスとの契約を行おう」
 そう言って精霊石をグレイの手のひらに乗せる。グレイは精霊石を握りしめた瞬間、激しい眩暈に襲われた。イグナスは
「この力はかなり強力だ。本来、水の精霊と契約予定だったお前だと反作用が強く出るから、転送魔法を使うなら明日にしておけ。今日はアインの家でゆっくり休め」
 そう言って姿を消した。グレイはしばらく眩暈と闘っていた。ようやく治まり、元来た道を戻る。ようやく外に出るとアインが
「グレイ殿! どうしましたか? 顔色が悪いですよ」
 と心配してきた。グレイは
「契約の際、少し眩暈がしただけだ」
 と答える。それに対して
「精霊と契約したのであればすぐに魔法陣をと思いましたが、その様子では無理そうですね。歩けるようでしたら僕たちの居住区へ案内します。そこで休んでください」
 グレイはこくりと頷き魔法石を返す。そして、アインと共に居住区へと歩いた。到着する頃には空は赤いが日は見えない、山岳に囲まれた場所の暗さになっていた。
「外の世界は魔物が出ると聞いてます。でもこの島は不思議と魔物が出ないので、こうやって土地を転々として暮らしています」
 そう言いながら居住区に来たアインは
「父上、母上。迷い込まれた客人をお呼びしました。疲れていらっしゃるようなので食事の準備をお願いします」
 そう言ってグレイを家の中に案内した。家の真ん中には敷物が敷いてあり、それを囲むようにクッションが置いてある。壁側には寝床であろうベッドのような台が置いてあった。部屋の片隅で料理をする母、父とアインはグレイの傍に座る。恐らく無人島での生活がなければ、こうやって人と食事をすることに抵抗があっただろう。任務に関しては黙秘しつつこれまでのいきさつを話す。少し冷え込み体を震わせる。
「グレイ殿、このあたりは寒いです。夜はこれを着てください」
 そう言って温かな上着を借りた。それを着て、出来た食事を食べる。食べ終えると家の外に出て空を見上げた。各家の明かり以外は何もない。でも魔物が出ない不思議な島。夜空を見上げると手を伸ばせば届きそうな星々が見える。
「ここは平地ですが意外と高い所にあるので寒さが厳しいのです」
 アインが家の入り口から出てきた。
「お前はここでの生活をどう思う」
 グレイのいきなりの問いに
「えっと、ここの生活をと言ってもこれが僕らにとって日常なので、特にこれと言って疑問を持ったことはありません」
 とアインは答える。
「そうか。それが一番いいのかもしれない」
 グレイは過去の自分はどんな風に生きていたのだろうと考える。イグナスの言っていた「本来なら水の精霊と契約をするはずだった」という言葉が気になる。そう考えていると
「今夜は冷え込みますから、もう寝ましょう。明日に備えて」
 アインにそう言われて家の中に入って、用意された寝床で眠った。

 翌朝、空は明るいが相変わらず山々に囲まれ日が昇るのは見えない。グレイは上着を着て居住区の周りを見渡す。居住区の外では羊たちが草を食べている。そんな様子を眺めていると、山の頂上から日差しが差し込んできて暖かくなった。隣にいたアインに上着を返す。
「世話になった。何も礼は出来んが」
 グレイがそう言うと
「大丈夫です。迷い人を送るのが僕らの役目でもあります。精霊と契約が出来たのでしたら、魔法陣でどちらかの大陸に行けますがどうしますか?」
 とアインが聞いてきたので
「大丈夫だ。精霊との契約が成立すれば、戻る方法を事前に聞いている」
 とグレイは答えた。
「そうですか。ではもう会うこともないでしょうが、お気をつけて。グレイ殿の旅に幸あらんことを」
 アインの旅の祝福にグレイは頷く。そして精霊石を握りしめて事前に聞いていた転送魔法陣への祈りを捧げる。
「我、彼の元に。ソルリルクス」
 そしてグレイは一瞬で姿を消した。こうして旅立ったグレイを見送って、アインはまたいつもの生活へと戻った。
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