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二章【分散】
十九話 帰還そして再出発
しおりを挟むカルロとミーンは皆の帰りを待とうと中央の研究室から出たところだった。転送魔法陣の部屋からスティアとナスティが現れたのだ。
「やったー! 帰れた!」
「帰れましたね! スティアさん!」
と二人が喜んで手を握り飛び跳ねている。そんな二人を愕然とした様子で見るカルロとミーン。
「あ、あんたら! どうやってここに?」
「スティアはともかく、ナスティはどうやって……」
と聞いていると、声を聞いた研究員が走ってきた。
「何事ですか! え、スティア様とナスティ様が帰ってきた? まて、スティア様はともかくナスティ様は精霊と契約が」
「したのですー!」
とナスティはカルロとミーンと研究員に精霊石を見せた。それを見て研究員は中央研究室の中に顔を覗かせ
「おい! 魔力探知機の反応は? キレリア方面の印に変化はあるか?」
と聞く。魔法盤の傍にいる研究員が
「反応は変わってないわ、そのままキレリアになってる。それにスティア様以外の魔力反応も変わってない」
と言う。
「どこか、設定ミスでもあったのか」
研究員が頭を抱えているとさらに転送魔法陣の部屋から人が現れる。
「おー、本当に戻ってこれた」
「まだ本格的な魔法は使えませんが、凄いですね」
とヴィッツと姫が顔を出してきた。
「ヴィッツ!」
「姫!」
カルロとミーンは次々と帰って来る面々に驚く。そして少しして
「戻った」
とグレイも転送魔法陣の部屋から出てきた。
「おおおー! 兄貴も無事戻ってきた! 兄貴と姉貴の二人が本当に心配だったからほぼ時間差なく帰ってきてよかった……」
泣き崩れるカルロ。
「でも魔力探知機が動かなかったのは何故かしら」
ミーンがそう言っていると中央研究室から声が聞こえる
「ここ、数値が間違ってる!」
「設定したのは?」
「えっと国王陛下……」
「ああ、やはり徹夜でご無理なさってミスがあったということか……」
研究員たちが修正した結果、魔力探知機が反応し全員の印がサウザントに移動し、色も全員変わった。研究員たちがほっと一息つく。
「今回は無事皆様が帰ってきたからよかったものの、これが分からなかったら本当に大変なことになっていました。せっかく大急ぎで済ませたというのに、カルロ王子申し訳ございません」
今回の急ピッチな調整に関わった全員が頭を下げる。
「いや、あんたたちのせいじゃないから気にするな。とりあえず俺たちは親父に魔力探知機で転送先を捕捉できた全員が帰ってきたことを伝えに行く」
「はっ」
そう言ってカルロはペンダントでディア王を謁見の間に呼んだ。研究員たちに見送られてカルロたちはディア王に会いに行く。飛ばされた者たちが今日までの出来事や契約した精霊のことを話しながらゆっくり城の中に歩いていく。そして
「親父ー! 兄貴たちが、無事帰ってきたぞー!」
とカルロが帰ってきた者たちを連れてきた。ディア王は驚きのあまり王笏を落として立ち上がる。
「お前! 魔力探知機はどうなった! 反応が、連絡が一切なかったではないか!」
と言う。カルロが
「親父が調整した部分にミスがあったってさ」
と言うとディア王は頭をフル回転させて調整したところを思い出し、そしてハッとした顔をした瞬間、へなへなと玉座に座り込んだ。
「ああああああ……。あの部分か……。私がやらかしていたか……」
元気がなくなってしまったディア王にカルロは
「だーかーら。親父は徹夜せずに万全の体制で研究してくれよ。今回は大事に至らなかったからよかったけど。親父、無理すんな」
と励ました。親衛隊の一人が玉座への階段を上がり、床に落ちた王笏を持ちディア王に差し出す。
「国王陛下。王子の言うとおり、本当にご無理はなさらないでください」
「国王陛下は本当に頼りになるお方ですが、何事も全力でされますから皆お体を心配しております」
二人の親衛隊の兵がそう言って
「徹夜明けで寝ていたところを起こしてしまいましたし、国王陛下は今日一日ごゆっくりお休み下さい」
「ではお部屋までお送りいたします」
そう言ってディア王は親衛隊の二人と一緒に謁見の間を後にした。
「はぁー。親父、徹夜の上に失敗と来て、余計に落ち込んでるわ。あっ、そういや、ザントどうすっかな……。連絡手段がねぇ」
ザント以外がサウザント城にいることを伝えたいが、伝える手段もいる場所も分からない。すると全員の精霊が現れた。
「カルロ、僕たちの存在を忘れちゃいけないよ。僕ら八人いれば精霊同士で会話が可能。エレスに対して連絡をしておくから安心してほしい」
アズがそう言って一斉に姿を消す。少しして再び現れ
「エレスには伝えておいたから、ザントにも伝わったはずだよ。さあ、全員転送魔法陣が無くても一度行った場所には行けるようになっているから、転送魔法を覚えるんだ」
そう言ってカルロたちを魔法の演習場に連れて行く。
「カルロ。ディア王のところには行かなくていいのか?」
ヴィッツがそう訊ねると
「どうせ今行ったところで爆睡してるだろうからなぁ。魔法の練習し終わった頃に行くさ」
とカルロは答えた。全員自力での転送魔法を使ったことがないため、各自の精霊たちに説明を受けながら転送魔法を覚えていった。こうして全員が魔法を習得し終わったとき
「エレスから連絡です。明日改めてエルフの森に集まるように、とのことです」
とミーンの精霊であるリリアが言った。
「そんじゃあ明日の朝に出発か」
ヴィッツは背伸びをする。
「ならゆっくりできるな。俺は親父のところに行ってくる。また後でな」
とカルロは走っていった。
「なんだかんだ言って親子似てるわね」
ミーンが笑うと
「そうね。カルロの家系って言うか血筋っていうか、そっくりだわ。これなら退屈しなくて済みそう」
とスティアが言う。
「あら、もう結婚する気満々ね」
とミーンがからかうが
「うん、カルロなら安心できるから、私としては不満はもうないわ。あれだけしっかりしてるもの。お互い力を合わせてやっていけると思う……とは言っても私は嫁ぐ側だから何もできないかもだけどね。私としてはこの城の皆も優しくしてくれるし、不安はないわ。国を支えるのはカルロになるわけだし、私はそのカルロを支える人に……なれるかしら」
と冷静に結婚のことを判断していた。
「なら大丈夫よ。何かあったとしても二人がいれば大丈夫。そう、未来は見ることが出来ないけれど、たとえ魔王が襲ってくることがあっても二人がいれば充分倒せるわ」
「なによそれ! 私が気にしてるのは国民の生活とか経済とか治安とかそういうところ。もう、まるで化け物二人がいるから何がかかってきても倒せるみたいな言い方しないでよ」
「ふふっ、冗談よ。自分は学がないってカルロは言うけど分析や判断は得意だし、あなたは知識に長けてるし。そう言う意味でもバランス取れてると思うわ」
「へぇ、あんなに最初冷たい態度だったミーンもずいぶん優しくなったわね」
とスティアが言うと
「そうかしら? 私いつも通りにしてるつもりだったけど。そうね、皆とあの島でご飯食べて少し打ち解けられたのかしら。あとは姫が無事見つかった安心感もあるかもしれないわね」
とミーンは話す。一方
「グレイと姫さんは魔法覚えるの苦戦してたな」
とヴィッツが二人に話しかける。
「ああ、俺とこいつの魔法は上位の中でも最上位の魔法。制御が難しい」
「光と闇はこの世界の根本である基礎属性ですから、その分とても複雑でした」
グレイと姫はそう答えた。
「あーそういや俺の魔法も上位の方に入るんだっけか」
とヴィッツが話していると
「私の魔法もヴィッツさんと対になってる魔法なんですよね」
とナスティも加わった。
「でも静と動はある意味『時』を司る魔法ですから、そういう点では転送魔法は比較的楽に覚えられましたね」
「空間を移動する『時空』の魔法だからなんだっけか? ビストがなんか言ってたような気がするが、確かに簡単に覚えられた」
「私は敵の動きを遅くしたりする魔法が得意みたいです。これで敵の動きを鈍らせて手数を稼げる戦いができます」
「俺は逆に味方の動きを速くしたりするのに長けてるみたいだな。ザントの魔法より速いのかな」
「あーザント君は力を抑えられてましたからね。そのあたりどうなんでしょう」
とヴィッツとナスティが話す。二人が盛り上がっている間
「お前は精霊と契約するとき、何か変化はあったか?」
グレイは姫に聞く。
「えっと、私の時は目の前に精霊が現れて石を渡されて、そして握ると体に力が湧いて。それで終わりでした。グレイは何かあったのですか?」
姫の問いにグレイは
「俺の時は闇の精霊が俺を見てこう言った『お前は本来なら水の精霊と契約するはずだった』そして『闇の精霊と契約しなければならない運命になっている』と。契約の際、激しいめまいに襲われた。精霊は『この力は強力で副作用が大きい』と言っていた。本来契約する精霊とは違う精霊と契約したためか体に異常が出た」
と精霊と契約をしたときのことを話した。姫も
「あ、そういえば。私は精霊は関係ないのですが、とある森に飛ばされた際に雨が降っていました。その雨は魚人族にかかわる人が浴びると体に異常をきたすそうです。私は直接体の中に沁みていたせいもあって体調を崩してしまった。そしてヴィッツさんにご迷惑をおかけしてしまった」
普段のグレイならここで姫を叱っていた。グレイはポンと姫の頭に手を載せ
「お互い異常があったが、特に影響はどちらにもないようだな。無事ならそれでいい」
と言った。そして
「もうすぐ俺とお前は別人になる。もうお前も俺の中に入る必要はない。枷にはならない、お互いに」
とグレイは話す。それを聞いて姫は微笑み
「別々の人間になったとしても、貴方と私はずっと一緒に過ごしてきた仲です。この旅が終われば私は元の時代に戻ってしまうでしょう。でも、貴方は一人ではありません。ほら」
そう言って姫はヴィッツたちの方を向いた。
「ここにいる人たちだけではありません。ここの城の方々もいらっしゃいますし、今後の旅で出会う方もいるでしょう。貴方はもう独りじゃありませんよ。だからきっと寂しくありません」
姫の言葉に今までなら鼻であしらっていたけれど、何故か涙腺が緩む。
「俺は、少し出かける」
そう言って涙を隠すようにその場から消えた。
「あれ。グレイはどっか行ったのか?」
振り向いたヴィッツが見ると、そこには姫だけが立ってた。その言葉にナスティとミーンとスティアも振り向く。四人に姫は
「すこしお出かけ、だそうです」
と笑顔で答えた。
「そっか」
ヴィッツはそう言って
「そろそろ昼飯の時間かな。あーザントの食いっぷり見てねぇな」
「そう言えばそうね。一人で寂しくないかしら」
「大丈夫よ、故郷のエルフの森にいるんですもの」
「お父さんやお母さんに会ってるかもしれませんね!」
「姫さん! あんたは飯食えねぇけど、雑談くらいは混ざれるだろ? 一緒に行こうぜ」
そう言ってにぎやかに食堂に行く面々に姫は嬉しそうについて行った。
眠っていたディア王が目を覚ます。上半身を起こし
「ん……カルロ? 何故ここに」
そう聞くと
「そんなの、親父が心配で看に来たに決まってんだろ。無理に徹夜してこの時間まで寝てる親父を心配しない息子がいるとでも思ってんのか」
椅子の背もたれを前に向け、背もたれに腕を乗せてずっとディア王を看ていたカルロ。
「親父にはちゃんと隠居してもらって、好きに研究させっからさ。もう少しの辛抱だ。研究はしばらく研究員に任せて、今は国王としての仕事を無理しない程度にやってくれ。スティアのやつが結婚してもかまわねぇって言ってくれた。だから、この旅が終わったらさっさと即位するから」
と言うと
「お、おお……そうか。お互い認め合ったか。良かった、私は安心して休もう」
そう言ってパタンとベッドに寝た。
「いや、親父。さっきまでめっちゃ寝てただろ。飯の時間だぜ、流石に何も食ってねぇだろ。空腹は体に悪いぜ」
そう言われて再び起き上がる。
「うむ、正直腹が減って眠れなかった」
「そりゃそうだ。飯にしようぜ、飯!」
ディア王とカルロと家族全員で食事をした。こうして、ザントを除く一行は城で一夜を過ごした。
一夜明け、七人が謁見の間の前に揃う。カルロはいつもの服と違って鎧を身に着けていた。
「あれ、鎧なんか着てしてどうした?」
ヴィッツが聞くと
「ああ、親父と昨日色々話してて『そんな格好じゃ護るものも護れない』って言われて、結局軽いけど鎧着させられた」
と頭をかきながら言う。バンダナも外してサークレットになっていた。
「鎧着せられるくらいには危ない旅なんだな」
「ああ、身分は隠すが俺は一戦士としてあんたたちについて行く。そういうこった」
そんな話をしている間に謁見の間の扉が開く。そして玉座の前に揃った。
「こうして七人が無事戻ってきてよかった。だが、まだ転送装置は使えぬ。かといって一週間待つにはエルフの森に残っている者に申し訳ない」
ディア王は頭を悩ませている。すると
「あー、その点なんだが。各自精霊たちに転送魔法を教えてもらった。一度行った場所には行けるらしい。俺たちは一度エルフの森に行っているからそれで飛べるようになってるはずだ」
とカルロが話す。
「そうか。ここにいる皆、自分で転送魔法が使えるようになったか。ならば心配は無用だが、もしも魔法が使えない状態になったときは転送魔法陣を使うと良い」
ディア王の言葉に
「ああ、どうしてもって時は使わせてもらうぜ」
とカルロは答え、さらに
「今度こそ長い旅になると思う。旅の終わりまで帰れねぇかもしれねぇし、途中で顔を見せにくることもあるかもしれねぇ。とにかく、だ。親父、俺たちは世界のために旅に出る」
と改めて決意を話した。
「うむ、無理はせぬよう。お互いに、な」
ディア王の言葉にカルロは笑う。
「じゃあ皆、ザントの待つエルフの森に行くぞ」
カルロはディア王に一礼して、そして瞬間移動の魔法を唱え、各自エルフの森に移動した。全員エルフの森への立ち入りは許可されているが、中までは転送されないようで入り口の広い場所に出た。中央へ集まると
『お待ちしておりました。今からこちらへ転送いたします』
と付き人の青年の声がし、そして七人はエルフの森に飛んだ。
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