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三章【記憶】
二十二話 砂漠での再会
しおりを挟む全員は白いローブに身を包み、ブーツをしっかりと履き、皮水筒を背負う。荷物と予備の水は借りたラクダに載せた。こうして一行は砂漠に向かった。村からは少し離れた場所にあるとはいえ、見える一面の砂の風景にまっすぐ進む。
「こっから南にまっすぐ行けばオアシスの町があるはずだ。どれくらいで着くかはわからねぇ。なんせ目印になるもんがどこにもねぇからな。頼れるのはこのオアシスの町を示すコンパスと地図だけだ」
カルロはそう言って村で購入した地図と小さなコンパスを手に取る。一番近いオアシスの町に設置されている魔法石を示すというコンパス。砂漠の旅での必需品だ。ラクダは動物の扱いに長けているヴィッツが担当する。
「頼むぜ。お前の力が今の俺たちには大事だからな」
ヴィッツがそう一声かけるとラクダはひと鳴きした。そして緑の地から木々が見え、そしてその木々を抜けると一面が砂漠だった。一行はコンパスを見ながら先頭を歩くカルロについて行く。じりじりと焼き付ける日差し。そして照り返す熱。話には聞いていたが想像以上の熱さだった。ミーンのそばにはスティア、ティアスのそばにはナスティ、グレイのそばにはザントが何かあったときのためにいる。一時間ほど歩き、塩分を含んだ錠菓と少しの水を口にする。やはり他の者と違ってミーンたち三人は少し多めに水分を取る。深くフードを被りコンパスの向く先に進む。どれくらい歩いたであろうか。ミーンとティアスが息を上げている。
「どこか日陰になるところでもあればいいんだけど。この砂しかない場所にあるわけないか……」
スティアがそう言うと
「いや、このあたりをもう少し抜ければ岩石砂漠地帯だ。ここらは砂砂漠で本当に砂だらけだが、ここさえ抜ければ日陰もあるだろう」
カルロはそう言って地図を見ながら
「なんとかもうちょい頑張ってくれ。そこで一休みだ」
と全員を励ました。こうして一行は砂砂漠地帯を抜け、岩石砂漠地帯に入った。日陰になる岩がある。なんとかそこに向かい、ミーンとティアスを座らせた。スティアとナスティはそれぞれ二人に水を飲ませる。
「ごめんなさい。乾燥はやはり苦手だわ。体中の水分が一瞬にして抜けていくみたい」
魚人そのものには砂漠越えは厳しいようだ。グレイもいつも以上に水分を取る。
「水の中はあれだけ心地良いのに、砂漠は不快な暑さだな」
「そうだね。僕もエルフの森で育ったから、グレイと比べれば体質的には大丈夫だけど。それでもこの暑さは厳しいよ」
一息ついた一行は岩の間を進んで行く。所々草も生えているが、下が砂なのは変わりない。そしてまた砂砂漠地帯を歩き日も真上から傾き始める。
「やべぇな。そろそろオアシスの町のはずなんだが、一向に見えねぇな」
コンパスの示す方向は漠然とした南から少し南西になっている。岩砂漠地帯に再び入り、岩陰に入る。ミーンたちは岩にもたれて座っている。もうすでに乾燥に弱い三人の水はなくなっていた。
「予想以上の消耗ね。予備もあるけど、オアシスの町でまた水を買わないといけない」
「このままでは三人とも倒れてしまいます。ここはオアシスに着くのを信じて予備の水を……」
「ちょっと待て。向こうから人が来る」
カルロがそう言って南側からラクダを連れて歩いてくる人影を見つけた。その人影はこちらに向かってきた。ラクダの背中には皮水筒の入った籠が左右に載せられていた。白いローブで顔までは見えないが男性の声で
「旅の方。私はこのあたりを定期的に巡回している者です。慣れてる方もいらっしゃいますが、初めての砂漠越えで力尽きてしまう方もいますからね。あと一時間ほど歩けばオアシスの町に着きます。まずはこの水をそちらの座られている方々に」
そう言って水筒を三つ渡してきた。カルロはその水筒を受け取り。
「あ、ああ。ありがとう。代金はどうすればいい?」
カルロがそう言うと
「とにかく水を飲ませるのが先です。お代は後で。さあどうぞ」
と言った。
「悪いな。後でキッチリ払う。水、大事に使わせてもらう」
急いでスティアたちに渡し、三人に水を飲ませる。こうして何とか危機は脱した。
「いや、本当にあんたが通りかからなきゃ。水を全部使っちまうところだった。本当助かった。あと町までの時間も教えてくれてありがとう」
カルロが代金を払いながら礼を言うと
「町にいたら精霊の反応がありまして、もしやと思い向かった次第です」
そう言って男は
「さあ、オアシスの町へ案内しましょう。ついてきてください」
カルロたちを案内する。
「とにかく兄貴たちの体調が心配だ。ここはこの人について行こう」
一行は男についていき、そして一時間後に無事オアシスの町に到着した。日はまだ沈んでいないが、空は少しずつ赤くなっていた。
「いやぁ、何とか助かったぁ!」
カルロはそう言いながら
「とにかく兄貴たちを宿で休ませよう。スティア、ナスティ。手伝ってくれ」
カルロたちはグレイたちを宿へと連れて行く。残ったヴィッツとザント。ヴィッツは宿のラクダ小屋へと自分たちが連れてきたラクダを入れて休ませる。その間残ったザントは男に礼を言う。
「あ、えっと。僕たちのことを助けていただいてありがとうございます」
そう言うと男はフードを脱ぎ顔を出した。とても優しそうな青年だった。
「いえ、お気になさらずに。これが私の勤めですから。オアシス周辺まではたどり着ける方もいらっしゃいますが、そこで力尽きてしまう方も多い。今回は精霊反応がありましたので水を持って援助に向かうことが出来ました」
その言葉にザントは疑問に思う。
「待って。僕らに気付いてからオアシスまでの距離は二時間以上はあったはず。その距離の精霊を察知できるのはたとえ精霊使いでも無理なはずだよ」
そう指摘すると
「そうですね。普通なら近距離しか出来ない。私も恐らく他の方の精霊は察知できなかったでしょう。あえて言うならあなた方の中に『旧知の仲の者がいた』から、でしょうか」
との言葉に
「旧知の仲?」
ザントが不思議そうな顔をしていると
「とにかく今は三人方のことを心配しましょう。元気になったら食事でも一緒にどうですか」
と男は言った。ザントは事情が分からないが頷いた。
宿にある大浴場でゆっくり水分を皮膚から補充して、ようやく朦朧とした意識がハッキリとした。
「俺は……」
「あ、兄貴ー……。何とか持ち直したかぁ、よかったぁ……」
浴槽に一人浸かるグレイ。カルロは服の裾を上げて、洗い場の床に屈んでいた。
「予想以上に水を使うことが分かった。魚人の生まれ変わりでもこんだけ水使うんだなぁ」
カルロがそう言うと
「面目ない」
そう言ってブクブクとお湯の中に沈んでいった。
「いや、兄貴を責めてるわけじゃない。金はかかるが水の確保は出来るだろう。ここを抜ければキレリアの街までもう一息だ」
カルロがそう言うとグレイは浮上して顔だけ出した。そして
「王子、申し訳ないが腹が……」
と言うので
「わかってるよ。腹が減ってんだろ? 兄貴、本当あの無人島生活以来、飯食うよな。姉貴と分離してもやっぱ魔力の器がでっかいからなのかな。今日は魔法使ってねぇが、魔力の器に異常があるのかもしれねぇ。しっかり食って明日の分の力にしとけよ」
カルロはそう言ってグレイを励ました。
一方女風呂の方では
「ミーン! 大丈夫? 意識は戻ったかしら」
「ティアスさん、もうお体の方は大丈夫ですか?」
スティアとナスティがそれぞれ浴槽につかっているミーンとティアスに声をかける。
「あ、ああ。朦朧とした意識がやっと戻ったわ。二回目の岩石砂漠地帯に入ったあたりで意識が飛んでたのよね」
ミーンはそう言って頭を振る。
「私もそのあたりから記憶がありません。私たち、こうやってお風呂に入ってるということはなんとかオアシスの町に着いたのですよね」
ティアスがスティアたちに聞く。
「うん。誰か分からないけど、オアシスから助けに来てくれた人がいた。水も分けてくれたし、町まで案内してくれた」
「なんでも私たちの精霊反応に気付いてきてくれたそうですよ」
スティアとナスティがそう言うと
「おかしいわね。オアシスの町からかなり距離があるのに精霊の反応に気付くなんて。普通は気付けても近距離だけよ」
湯船の縁に寄り掛かりながらミーンは顔をスティアたちの方に向ける。
「そうなの? なにか特殊な力でもあるのかしら」
スティアは首をかしげる。
「とにかくもう少し休んだら皆と合流するから、二人は先にヴィッツたちの所で待ってて」
ミーンに言われてスティアとナスティは大浴場から出て行った。
「何かしら。あの距離の精霊反応に気付けるなんて、普通じゃありえない」
ミーンはぼそっとそう呟いた。
スティアとナスティが大浴場から出ると、ロビーに男性陣四人が揃っていた。そして砂漠で助けてくれた男性もいた。
「おー。スティア、ナスティ。お二人さんの方はどうだ?」
ヴィッツがそう聞くと
「うん、もう大丈夫。もうちょっとしたら来ると思う」
とスティアが答えた。しばらくロビーのソファに座って話していると、ミーンとティアスがやってきた。
「ごめんなさい、待たせたわね」
「いいのよ。ゆっくり休めた?」
「ええ、おかげさまで」
ミーンとスティアがそう言って話していると
「これで皆さん、揃いましたね。私はフィルと申します。そしてオアシスの町へようこそ。砂漠の真ん中にあるとはいえ、なかなかの規模の町です。さあ空腹の方もいらっしゃいますし、食堂へ案内します」
そう言ってフィルは八人を食堂へと案内した。肉類は少ないものの、スープにマカロニ等の料理、そしてフルーツと色々あった。一行はフィルと共に食事をする。各自自己紹介しつつ、しばらくして
「そういえば、フィルが僕らの中に旧知の仲の人がいるって言ってたんだけど。誰かフィルと知り合いの人いる?」
とザントが皆に聞いてきた。しかし全員が首を横に振る。するとフィルは笑いながら
「そうですね。あれだけ大昔だと覚えていないでしょう。『姫、あなたは勤勉ですがお転婆な所が困りますね』『姫の教育係としては申し分ないですが、まだ甘いところがありますね』とでも言えば心当たりがある方がいらっしゃるかと……」
と言う。その瞬間、ミーンとティアスの表情が固まった。そして二人声を合わせて
「アシェラザ師匠!」
「アシェラザ老師!」
と名前を叫んだ。
「まって、私が姫の教育係として選ばれた時に、私に精霊を与えてくれた師匠?」
「ミーンが私の教育係になる前に色々勉強を教えてくれていた、老師……ですよね?」
二人は混乱している。
「師匠は私が姫の教育係に就いて、しばらくして亡くなられた」
「まさか老師の生まれ変わりがこの時代だった、というのですか」
そう独り言のようにぶつぶつと二人が言っていると
「まあ老齢故に仕方がなかったですが。まさか生まれ変わった先が千年後だったとは驚きです。その上に千年前のお二人に再会することになるとは思いませんでした。お二人が当時のまま来ているということは千年前に何かあった、ということですね」
フィルにそう聞かれ、自分たちが犯してしまった罪の償いにこの時代に来ていることを話した。そして事情を把握できてない他の者にフィルの説明をした。
「師匠。私たちの精霊を探知できたというのは『私の精霊を察知した』と言うことですよね」
ミーンがそう聞くと
「ええ、私の精霊はあなたの精霊の姉妹ですからね。リリーが『リリアが近くにいる』と言っていたのでたどり着けたのです」
とフィルが答える。ミーンは頭を抱えながら
「やはり、前世の記憶があるなら同じ精霊と契約する場合もあるのね。それにしてもあのしわくちゃだった師匠がこんな爽やかな青年になってるって違和感しかないわ」
とぼやくと
「ミーン。何か言いましたか?」
と笑顔でフィルが言う。
「あっ、な、何でもありません。師匠、こちらの時代でもお元気そうで何よりです」
と冷や汗をかきながら言ってるのを見てカルロとヴィッツが
「ミーンにも怖いもんがあるんだな」
「師匠っつーだけあって、やっぱこえぇんじゃねーか?」
とミーンの意外な一面を垣間見れて笑っていた。こうして食事を終えた一行にフィルは
「明日の朝、水の用意をしてから街を出ると、時間的にも夜までに砂漠との境目の村に着かないでしょう。明日の夕方前に水の用意をして、明後日の朝出れば最悪夜までには着くと思います」
そう助言しながら一向を導く。そこには町の真ん中にある大きな泉があった。泉の上には大きな魔法石が回りながら浮遊していた。
「地下水からの湧き水と、この水の力を増やす魔法石によって、このオアシスは成り立っています。ですからこうやって……」
フィルは魔法石を指さしてから、空になった水筒の口に指を持っていく。すると魔法石からあっという間に水の道が現れ水筒に水が溜まった。
「まあ私は水の精霊使いですので、こう言ったことが可能です。なので明日の水くみは手伝いましょう」
そう言うと
「ああ、そりゃあ助かる。だがちと気になることがある。あんた、ミーンたちの時代の生まれ変わりってことは、魚人の生まれ変わりなわけだ。こんな砂漠に住んでよく生きてられるな。兄貴でもあんなに苦労してたのに」
とカルロが疑問に思った。フィルは
「ああ、確かに元々は別の生まれでした。以前、砂漠で助けられこのオアシスに案内されました。今よりまだ規模が小さかった。何とか砂漠を旅する者が少しでも助かることになれば。そう思って見つけ出したのがあの魔法石です。その魔法石のおかげで私はこのオアシスでも、そして砂漠の巡回でも耐えられる体になりました。精霊と魔法石の相性が良かったのでしょう。こうして水に困らなくなり、この町は以前より規模を広げ、今となっては多数の旅人たちを癒す場所となり、私はこの町で暮らすようになった、という訳です」
と説明した。
「へぇ。それじゃあこの町が大きくなったのもフィルのおかげなんだな。そして俺たちやティアスたちも助けてもらった。本当に感謝しかねぇ。ありがとな」
ヴィッツが礼を言うとフィルはニコっと笑った。
「さあ、砂漠の夜は冷えます。今夜はゆっくり休んでください。また明日、何かありましたら泉のそばにいますので」
フィルはそう言って自分の家へと戻っていった。ヴィッツたちも宿に戻り、温かい格好で少し冷える夜を過ごした。
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