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if終章【終点】
if四十七話 故郷と兄弟と相棒と
しおりを挟む夕方、ナスティは自室で荷物をまとめる。家族からの返事。手紙を見ながら
「もう、ディア様やグレイとも会えなくなる。王子やスティアさん、ヴィッツさんとも。でもこれからは、私としての人生を歩みます。父さん、母さん、弟妹たち。もうすぐ私は帰ります」
そう言って鞄の中にしまい込んだ。一方、酒に酔い潰れたカルロは早々に寝て、グレイはディア王と話をする。そして
「そうか、そういうことが今まであったのか。良い友に出会えたな」
ディア王の言葉に
「はい。あいつは明日には兄と共にワルトゥワの村に戻るそうです。でも、俺はずっと待ち続けたいと思っています」
とグレイは少し寂しそうに言う。
「大丈夫だ。彼ならきっと迎えに来てくれる」
こうして夜も更けて朝が来た。城を出て行くナスティ、スティア、ヴィッツ、ティルトは城門に向かう。出迎えたディア王、カルロ、グレイ、ザントそしてブルーたちとストナがいる。
「婚儀までは城に戻ります。ディア王お世話になりました。そしてこれからはこの城の一人としてまた戻ってきます」
「うむ。準備が整ったら連絡をくれれば助かる」
「はい」
スティアとディア王の会話が終わり
「ディア様、そしてグレイ。本当にお二人にはお世話になりました。私は、過去の罪を償って、エアイアの街で家族と共に暮らします」
「ナスティ。今までご苦労であった。たまにでもいい、手紙でも、またこの城に来ても良い。いつでも歓迎する」
「はい! このご恩、一生忘れません!」
ナスティとディア王の会話が終わる。ヴィッツとティルトは
「まあ俺自体は国王陛下とはあんまり話した身じゃねーからなぁ。それに兄さんだって、そもそも千年前の人間だしな。でも、えっと、この旅本当にお世話になりました!」
「いやぁ、俺に弟が出来た上に人間らしい生活もさせてもらって、これから弟の生まれ育った村での生活が楽しみだ」
と二人とものんきに話す。それを見て
「君たちは本当に楽しいな。昨日の宴でも色々な話を聞かせてもらって楽しかった。おっとヴィッツ、グレイが君に話があるそうだ」
とディア王はグレイを呼ぶ。
「どうした? グレイ」
ヴィッツが不思議そうにすると
「俺は、ずっと待っている。お前がまたここに戻ってくるのを待っている」
とグレイが言う。ヴィッツはすぐさま
「用事がありゃすぐ駆けつけるさ」
と言うがグレイはずっとヴィッツの目を見つめてきた。その真っ直ぐなまなざしにヴィッツは
「ああ、そういうことか。とりあえず時間をくれ。兄さんが村で生活できるかにかかってるから、最低一年は時間をくれ。その間にお前も魔法科学研究所に正式に入れるだろうし。それでいいだろう?」
と言うと、グレイはうなずいた。こうしてそれぞれの生活に戻り、ヴィッツはティルトと共に船でザルド大陸に向かいワルトゥワの村に帰った。帰り際の船で
「そういえばさ。ヴィッツの住んでたワルトゥワの村ってどんなところだ?」
とティルトが聞いてきた。ヴィッツは笑いながら
「ははっ。兄さんも竜の洞窟には行ったろ? あそこの村と同じだ。まあ千年前と同じかはわかんねーけど」
と言うと
「ああ、小麦畑が広がる広いけど小さな村だったな。そっか、トラースンの村と同じ感じなのか」
とティルトが言う。
「そうそう。俺んところは小麦以外だと牛とか豚とか、そっち系もやってる。俺は小麦畑担当だよ」
ヴィッツはそう言って右手を見せた。マメが出来た痕がある。
「大体は鍬とか使ってた痕。でもこの右手はさらに旅で迷惑かからないよう鍛えた分もある。竜の血が目覚めるまでは普通の人間だったから、旅は皆に迷惑かけっぱなしだったよ。兄さんはどんな旅だったんだ?」
ヴィッツがそう聞くと
「ああ俺の旅はそうだな……」
こうしてザルド大陸に着くまで船でティルトの旅の話を聞いた。そして港から北上し、村に着いて早々に
「お! ヴィッツ! 帰ってきたのか! 親父さんはどうだった? ん? 隣の人は?」
ちょうど村の入口にいたハーミルに声をかけられ
「ああ、ティルト。俺の兄さんだ」
とヴィッツは答える。
「えっ! ヴィッツ兄弟いたのか!? じゃ、じゃあ親父さんは……?」
真実を話すことは禁句なため、事前の打ち合わせ通りに
「ああ、兄さんと一緒に最期を看取ってきたよ。町ももうねぇようなもんだからさ。兄さんと帰ってきたってわけだ」
と話す。
「そうか。ギリギリ最後に会うことが出来たんだな。悔しいだろうけど、仕方がないか。えっとヴィッツの兄さん、ティルトって言ったかな。俺はハーミル。ヴィッツとは幼なじみだ。なあ、ヴィッツ。村に戻ってきたってことは、またここで生活するってことか?」
ハーミルがそう言うと
「まあ、兄さんがここの生活に合うかどうか、だな。合うなら兄さんはここで暮らす。俺はちと野暮用があって、もしかしたら村をまた出なきゃならねーかもしれねぇ」
とヴィッツは話す。
「なんだ、彼女でも出来たのか?」
ハーミルがからかうと
「なんつーか。大事な相棒が出来たってところかな」
とやれやれといった様子でヴィッツが笑う。
「なんか分かんねーけど、とりあえずお前の家はいつも掃除して綺麗にしてるからさ。まずは家に入れ。この天気じゃそろそろ雨が降りそうだ」
ハーミルが空を見上げると雲行きが怪しくなっていた。ヴィッツとティルトは駆け足で家に戻り、台所と寝室を整えた。こうして一年かけてティルトはワルトゥワの村での生活に慣れていくことになった。
こうして一年が経ち
「あー今日の畑仕事も疲れたが、いい汗かいた!」
そう言ってティルトは家に帰ると台所の椅子に座った。あとからついてきたヴィッツは
「兄さん、馴染みすぎ。本当畑仕事好きだよな」
とヘトヘトな状態で家に入る。
「だってお前、千年も閉じ込められてたんだぞ? こんなに動けることが楽しくないわけないじゃないか」
この様子だと村での生活には充分馴染めたと見て
「兄さん、そろそろ一年くらい経つだろう? 俺、サウザントに行きたいんだ」
とヴィッツは話を持ちかける。ティルトは
「分かってるよ。待たせてる奴がいるんだろ? ちゃんと迎えに行ってやれよ。俺は一人で充分過ごせる」
そう言って笑う。ティルトの言葉に安心し、ヴィッツはサウザントへ向かう準備をした。
翌日、ティルトに見送られてヴィッツは転送魔法でサウザントの街に向かう。そして途中で雑貨屋に寄り、城へと向かった。名を名乗りキーコインを見せて城に入れてもらう。魔法科学研究所は現在忙しいらしく一般の立ち入りが禁じられているようで、謁見の間に向かう。今度会うのはディア王ではなくカルロ王である。謁見の間に到着するやいなや
「うおぉぉぉ! ヴィッツ! 助けてくれっ!」
とカルロが近づいてくる。
「なんだよ。またザントに怒られる様なことでもしでかしたのか?」
今まで何度かザントやカルロと手紙でやりとりをしていたため、色々話は聞いていた。だが
「カルロがオロオロしてるのはそういう意味じゃないんだ」
と側近となったザントが言う。
「実はスティアの出産が近くてね。心配でオロオロしてるんだよ」
「だってよぉ。もうすぐ生まれるってのに『あなたは国王としての仕事に専念しなきゃダメ!』ってよぉ。せめてそばにくらい居させてくれたって良いのに、俺は仕事場に缶詰だよ……」
とさめざめと泣く。
「あー、もうすぐ初めての子供が生まれるのか。そりゃあ夫としても父親としても居たいわな」
「そうなんだよ……」
カルロの頭をぽんぽんと撫ででいると
「国王陛下! もうすぐお生まれになります!」
と声をかけられる。
「ザント! 俺もう仕事休んでもいいよな!」
「そんな確認してる暇あったらさっさと行きなよ」
「うおぉぉぉ!」
そう言ってカルロは大急ぎでスティアの部屋へと走って行った。そんなカルロを見送ったザントは
「改めて、一年ぶりくらいかな? ヴィッツ、久しぶりだね。カルロは見ての通り、国王らしくはなったけど、初めての子供が生まれるってしばらく前からずっとソワソワしてたんだ。あと一時間くらいの間には生まれるんじゃないかな。男の子かも女の子かも分からないけれど、とにかく元気な子が生まれると良いね」
と一年前と変わらない様子でザントが声をかけてきた。
「子供が出来た話は知ってたが、まさか今生まれる真っ最中とは驚きだ」
ヴィッツがそう言うと
「そうだろうね。まあ生まれたら礼拝堂の鐘が鳴るからすぐ分かるよ。ちょっと散歩しようか」
そう言ってザントはヴィッツを連れて城の外に出かける。
「旅の時には説明がなかったけど、ここがお城の礼拝堂。精霊への祈りを捧げる場所だね」
「あー、見かけたことはあったが、当時これが何かは聞いてなかったな」
「でしょ。あ、そうそう。ブルーたちは半年ほど前に旅に出たよ。やっぱり静かなところで暮らしたいって。またどこか辺鄙なところに雑貨屋建てて経営するのかな?」
「ははっ。あいつららしいな。ブルーたち四人はまあそういうことになったわけか。ストナは? あいつの研究はどうなった?」
ヴィッツの言葉にザントは眉をひそめ
「実はストナは行方不明になった。というか正確には『この世界から存在が消えた』が正しいかもしれない」
と言う。
「そりゃ、どういう意味だ?」
ヴィッツが尋ねると
「どれくらい前だったかな。ある日の朝、ストナの部屋の窓が開いてたんだ。前の日は開いてなかった。事前に研究所で登録はされてたから所在は分かるはずなんだ。でもあの子の存在がこの世界のどこにもなかった。とても謎の現象だけれども、仮説としては『別の世界軸に引っ張られた』んじゃないかって話だったよ。僕は研究所関連は携わってないから詳しくは分からないけどね」
とザントは状況を説明した。
「どれくらいしたら帰ってくるか分からない。僕が生きている間に帰ってきてくれれば良いんだけどね」
そうこうしていると、礼拝堂の大きな鐘の音が響き渡った。鐘はしばらく鳴らされた。
「この鐘の長さだと男の子が生まれた。第一王子誕生、だね」
ザントが笑顔で言うと
「そっか。無事生まれたってことか。カルロも一安心だろうなぁ」
とヴィッツも笑った。
「ああ、そうだ。もうこんな時間か。そろそろ五時になる。グレイが研究所から出てくる時間だよ」
とザントはヴィッツに言う。
「そんな早くに出てくるのか? なんか研究所ってくらいだから研究所に缶詰なイメージだったんだが」
ヴィッツの言葉にザントは
「ディア様が気を遣ってくれてるんだよ。グレイにはちょっと過保護だからね。だからなのか、グレイは今は街の方に家を借りて住んでるよ。城暮らしはもういいみたい」
と肩を少しすくめて笑う。そうこうしているうちに魔法科学研究所の前に到着し、二人はしばらく一般人立ち入り禁止の札がかかった扉の入口前に立つ。そして五時が回ったのか、扉が開きグレイが出てきた。制服を入れた鞄を手に持っていたが、目の前に立っている人物に思わず手荷物を落とす。
「ヴィッツ……?」
二人はゆっくりと近づく。そしてお互い向かい合うと
「迎えに来たぜ、相棒」
とヴィッツはグレイの額に自身に額を当てる。グレイは少し涙目になりながら
「ヴィッツ……待っていた。ヨウア、ヴィニィ……。スェトリァ……リーヴィティトル。イー、ジヌェリア、ディスァ……」
と言う。それを聞いたヴィッツは
「本当、待たせちまったな。ほら、これ土産。取っとけ」
と言ってグレイに小さな紙袋を渡した。
「ちゃんとしたのは後でやっから。お前の家、案内してくれ」
そう言ってヴィッツは門の方に向かう。グレイは慌てて落とした鞄を取りに戻り、そしてヴィッツの後に駆け寄った。そんな二人を見送ったザントは夕暮れの空を見上げてこう呟いた。
「精霊たち、彼らに大いなる祝福を。僕たちのこの世界に平穏を……」
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