邪な令嬢ちゃん

ますくばろん

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置き去り 7

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 しばし待て、との事でしたので、近くにあった長椅子に座って大人しく待ちます。

 日が沈んでもここは喧騒としていますね。隣が酒場ですから尚の事でしょう。

 そんな風に周囲の風景を眺めて暇を潰していると小奇麗な格好をした男性と目が合いました。
 男性は一瞬驚いた顔して、足早に私の方へと駆け寄ってきます。

「貴女がティアさんで間違いないでしょうか!?」となにか焦ってるような感じでそう声を掛けてきます。

「ええ。私がティアですが……あなたは?」
「失礼しました! 私はディーゼルと言います。このギルドのサブマスターです。申し訳ないのですが。別室でお話を伺いたいのですが、よろしいですか?」
「あまり遅くなると宿が取れなくなってしまうのですが……。あの? 預金を下ろすだけなんですがそんなに手間がかかるんですか?」
「えーっとその辺を含めてお話をさせていただきたいのです」

 困りましたね。というか面倒になってきましたよ。
 とりあえずヴィレスタ君に念話を飛ばします。

『ヴィレスタ君?』
『え!? あ! はい!』
『宿はどうです?』
『相部屋なら取れそうなんですが……個室は少し難しいです』
『そうですか。なら相部屋でお願いします。あと預金を下ろすのに手間がかかりそうなので申し訳ないのですが宿泊費を貸してください』
『え? あーそれは全然問題ないのですが……なにかトラブルでも?』

 そう聞かれたのヴィレスタ君に現在の状況を説明します。

『サブマスが? ……妙ですね。とにかく、部屋を取ったらそちらに向かいます』
『わかりました。お手数をおかけします』

 と伝えた後、念話を切り、

「時間がないので、もういいです。タグ返してください」

 とサブマスと名乗った彼に話しかけると凄く慌てだしました。

「ちょ!ちょっとだけですので!? どうかお話を! 宿でしたらこちらで――」
「いえ、宿はどうにかなりそうなので。とにかく預金はもういいので早く返してください」

 食い下がってこられて若干イラっとしつつ、そう言うのですが、なかなかタグを返してくれません。



「返してください」「どうか話だけでも」といった平行線をたどるやり取りをしている内にヴィレスタ君がやってきました。

「ティアさん! お待たせしました。相手の方々から了承もらえましたよ」
「それは良かったです。どんな方々で?」
「えーっと商人に男性とお連れの女性。その二人だけでお互い男女という事ですんなり話が通りました」
「そうですか。では早速向かいたいのですが……」といつつ、タグを返してくれないサブマスを見つめますが、

「ですから! その! はな――」
「しつこいですよ?」と睨んで黙らせます。

「ひっ」と喉から声を漏らしながら引き攣るサブマス。

「そろそろ我慢の限界ですよ? 返せといってるでしょ? できる事なら穏便に済ませたいのですが? どうでしょうか?」

「そ、その、ですね」となおも食い下がるので、目を座らせると「ティ、ティアさん落ち着いてください、ね?」となぜかヴィレスタ君も怯えだします。

「サ、サブマスでしたか? 早くタグを返してあげてください! 彼女はもう用はないと言ってますから!」

 ヴィレスタ君が必死な顔でサブマスに詰め寄ります。

 こう理由を言わずにしつこく食い下がってこられのが一番頭にきます。
 別室に向かう理由すら言わずに「とりあえず来てください」の一手張りでしたのでね。私の我慢もそう長くは続きませんよ。

 それからヴィレスタ君の頑張りのお陰で無事タグを回収する事が出来ました。
 ついでにお金も下ろせました。
 彼の目的は『勧誘』だったようです。このギルド専属にならないか、といった話がしたかったようです。勿論丁重にお断りしました。





 それからやっと宿についた私は手早く受付を済ませて部屋に向かいます。

 置き去りにされるわ、ギルドでは足止めされるわ……まったく面倒な一日でしたよ。

「ったく……早く返せばいいものを。危うく殺すところでした」
「ティアさん。その落ち着いてください。これから相部屋になる方々にお会いするんですから」

「わかってますよ」と短く答えた後に大きく深呼吸して、気持ちを入れ替えます。

 ヴィレスタ君がドアを叩いて相手の有無を確認します。
 やや間をおいて中から男性の声が聞こえてきました。

「どちら様で?」
「すまない。先ほど相部屋をお願いした者だが、入っても構わないか?」
「ああ! たしかヴィレスタ君だったか? どうぞどうぞ」

 あれ? 相手の声に聞き覚えがありますね。誰でしたっけ、と記憶の蓋を開けて探してる内にドアが開き、中にいた男性の姿が目に映ります。

「やぁやぁ。来るのが遅いからお連れさんに何、か――」

 彼は私と目が合うと糸目を大きく開きます。

 そうこの人のよさそうな糸目の男性。長い金髪を後ろで束ねた姿はあの頃と変わってないですね。

「お久しぶりですね。レナードさん」と声を掛けるとわなわなと震え出し、

「アンナ―!! ティアだよ! ティアがいるよ!?」と部屋に向かって大声を出します。

「あんたねぇ……いくら恋しいからってティアと同じ名前の女買うのやめ――」

 というこれまた聞き覚えのある声が、奥の方からします。
 そして、ほぼ下着と言ってもいい様な格好をした銀髪の女性が現れました。

 小麦色の肌で出るとこ出てるのにも関わらず、引き締まった肢体を惜しげもなく晒した女性。
 女の私でもゴクリと喉が鳴りそうなぐらい艶やかさもあの頃のままです。

「アンナさん。お元気でしたか?」と声を掛けると彼女もサファイアのような青い瞳を大きく広げます。

 それから、前に立っていたレナードさんを押しのけ、ガバッと抱きしめられました。

 懐かしい匂いと暖かさ。彼女のひんやりした手の感触を背中に感じます。
 寒い時期になるとお腹とか背中を直接触れられましたね。
 とっても冷たくてつい変な声をあげてましたっけ。

「ティア! あんた! 元気だったかい!?」と額と額を合わされたり、頬を手で包まれたりとされるがままとなります。

「大きくなったねぇ。最後に見た時は私のお腹ぐらいしか背がなかったのに……。もう私とあんまり変わらないじゃないか。それに出るとこもちゃんと出て! いい女になったねぇ」

 頭を撫でられ、胸も撫でられます。

「アンナ! とにかく部屋に入れて! ボクは下の酒場から一番いい酒を貰ってくるよ!?」

 レナードさんはそう言い残して駆け出していきます。

「レナード! つまみ、忘れるんじゃないよ! さ、早くお入り」
「ではお邪魔しますね」

 こんな感じで、面倒だった一日の終わりが、とても懐かしく心がポカポカする日に早変わりです。






 その後大量のお酒とおつまみ、それに食事を持って帰ってきたレナードさん。

 テーブルの上にはもう他に置き場がない状態です。

「なんていい日なんだ!! ね! アンナ! 君もそう思うだろう!?」
「はいはい。それ何回目だい? あんた飲み過ぎよ? 明日から王都で店開くのに大丈夫なの?」
「大丈夫さ! なんたってティアにこうして会えたんだから! これもう成功したも同然さ!」

 と豪快にお酒を煽るレナードさん。
 こんな風にお酒飲む人だったんですね、と当時見た事のない彼の姿に多少驚きます。

 この二人は私がスラムにいた頃にお世話になった方々です。
 レナードさんは大きな商会を取り仕切ってる商人さん。
 アンナさんはレナードさんが経営する高級娼婦館の一番人気の娼婦さんです。

 お話によるとアンナさんは今では娼婦館の支配人をやってるそうで、レナードさんは相変わらず商会を大きくすることに情熱を注いでいるようです。

「それでボクの商会もそれなりに大きくなってね。この旅王都に店いくつか構える事になったんだ。でその内の一つでもある高級娼婦館の支配人にアンナを起用したわけさ」

 と話を締めくくるとまたお酒を煽るレナードさん。ほんとに大丈夫ですか?




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