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置き去り 8
しおりを挟む魔物蔓延る場所に置き去りにされる、という普通の人にとっては最悪の日でしたが、私にとっては懐かしい恩人と出会えた得難い日だったその翌日。私は派手ではないが品の良さを感じる馬車に揺られています。
勿論、私だけではなく隣にはヴィレスタ君。向かいの席にはアンナさんとレナードさんが座っています。
だがレナードさんはうんうんと唸りながらアンナさんに膝枕をしてもらっていますがね。
「ぅぷ……気持ち悪い。でも後頭は天国」
「当たり前でしょ? 半刻で金貨二枚の膝枕よ。それをタダでしてあげてるんだから感謝しなさい?」
ニヤリと笑ってレナードさんを見下ろすアンナさん。
レナードさんは、彼女の顔を恨めしそうに見上げながらため息を吐き、目を閉じる。
「……前に君から提出された娼館の修繕と改築の件は最善を尽くそう」
「あら? ほんと? ……じゃこれはサービスしとくわ」
その言葉を聞いて笑みを深めたアンナさんは、彼の額に掌を添える。
「……前も後ろも天国になってしまった」と悔しそうに呟き目を閉じるとそう間を置くこともなく規則正しい寝息が聞こえてきた。
アンナさんの手はひんやりとしてますからね。
そもそも体全体がひんやりとしてますから、夏場の寝苦しい夜とかよく引っ付いて寝てました。
逆に寒い日は引っ付いてましたが……今思い返すとこの二人過ごした日々も『幸せな日々』だったんだなと改めて思います。
比べる日々がここ最近の日々ですから、余計そう思えてしまいます。
まぁ一番の『幸せな日々』お母さんとの日々です。
その日々を思い出しているとふと頭に過るモノが。
それは、あの時……いえ生まれた瞬間から正しく私が私だと認識できていれば、お母さんもお姉ちゃんも死なずに私の隣にいたのではないと思う心。
――嗚呼。
これが後悔という想いですか。
胸を締め付ける想い。もっと早くにと思う心。
それらが混じって鈍く疼く痛み。
じくじくと腐っていく傷を見るような不快感。
これはなかなかくるものがありますね。
……今からでも時を司る神を脅して巻き戻そうか、と思うぐらいに。
でも思うだけで、実行する気はないですがね。
そんなあれこれな想いに潜水していた思考が、名前を呼ばれたことで浮上する。
「……ティア?」
「ああ、ごめんなさい。ぼんやりしてました」
「ねぇ? やっぱりこのまま私達と一緒に――」
「アンナさん。それはとりあえず帰った後の状況次第です。それに、心配してる妹みたいな姉もいますから」
表情を曇らせたアンナさんが言わんとする事に断りを入れる。
二人にはどうして私があの町にいるのか、どうしてそうなったのかを昨日説明しました。
まぁその結果レナードさんがお酒を呷り続け、そして膝枕されている。
アンナさんも今は落ち着いていますが、話を聞き終わった直後は顔から表情が無くなり、物騒な光だけで目を爛々とさせ無言でかなり強いお酒を呷って、それを見ていたヴィレスタ君が震えるぐらいには物騒な気配を醸し出してました。
話を最後まで聞いた二人から王都まで一緒に行かないか、と誘われ今に至ります。
最初は二人と行動すると巻き込んでしまう、と危惧したのですが「今更何言ってるんだい」というアンナさんの一声で決定。
ただまぁ、このまま一緒に王都に入ってしますとあの親子が二人に目を付ける可能性があるので、私達は冒険者として、二人に護衛依頼をされた形で同伴する事にしました。
「……わかったわ。でもそういう選択肢もあるって事だけは忘れないでね?」
「ええ。ありがとう。アンナさん」
「それにしても……懐かしいわね。その恰好。ティアはほんと黒が似合うわ」
「そうですか?」と言いつつ腕を広げ自分の姿を見下ろす。
銀装飾と細い鎖が施した黒地のフード付きオーバーコート。
肌は晒さないように体の線に合わせた服。
その上に胸当てと籠手、腿半ばまであるロングブーツ。
動き易さに重点を置いた軽装備、といった感じでしょうか。
この装備は昔、アンナさんたちにお世話になっている時の物で、自重せず全力で作り上げた私のお手製だったりします。
「でも、あの頃は背も低くて、背伸びしてる感じで小っちゃくて可愛いって思えたけど……」
「え? 今でも可愛いでしょ?」
「そ、そうね……可愛い? わよ?」
アンナさんはフッと目を逸らし、なんとも言えない表情になる。
え? なんですか? その疑問符が付いてるような可愛いは。
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