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攻める九戸
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九戸城を包囲して、二日目の朝を迎えていた。
「戦場で能などと。夕べは下らぬ戯れ言を見せられて、酒が不味くなった」
武骨漢の堀尾吉晴は、不機嫌であった。
「少しばかり城に向けて進軍させれば、向こうも動こう」
堀尾吉晴が、南部の信直と津軽の為信に対して兵を進めるように指示した。
信直と為信は、反目しながらも互いに共通の思いを抱いていた。
猪突猛進の無策に付き合って、いたずらに自兵を失う訳にはいかぬと。
政実は一筋縄では立ち行かぬというのは、痛い目を見なければ分からぬであろ
う。
だが、武者大将の指示であれば致し方なしと見て、形だけ進軍する振りをした。
矢楯を前面に押し出しながら両者は、ゆっくりと九戸城に寄せて行った。
敵が攻めて来た。
「信直と為信が先鋒か。因果なものよの」
椰がしつらえた陣羽織を着た政実は、昨夜能を舞った櫓から城に迫り来る敵方
の様子を窺っていた。
門柱に吊るされた滑車に繋いだ鎖で引き上げる桔橋や引き入れる引橋を全て可
動させ、大手門に通じる橋を残して城への通行路を遮断した。
戦時が長引く事を予想して、政実は兵の士気の高さを維持するため、血縁や役
職に拘らず実力本位で人事を配した。
そのためか、城内は緊迫した戦中にあっても活気に満ちていた。
後詰の曲輪である若狭と石沢の両館では、襷掛けした椰と女達が炊き出しをし
ていた。
腹が減っては戦は出来ぬ。
梅が一つ入れられ、粗塩を振った白い握り飯が山のように積まれた。
大樽の中に熟成させておいた糠みそから取り出した漬け物が、俎に乗せられて
庖丁で小さく切り分けられていく。
大鍋では大量の味噌汁が作られている。
朝夕、兵糧としての五千人分の握り飯と香の物と味噌汁、そして夜には酒と肴
の準備をしなければならなかった。
籠城は、女達にとっても戦場であった。
「良い塩梅だな。それでこそ、九戸を預かる頭領の妻としての本懐を遂げるとい
うもの」
椰の父である四戸宗恭が、握り飯を一つつかんで頬張りながら言った。
椰は、戦場において女でも役に立っているのが嬉しそうに煮炊きを続けた。
「籠城する我等にとって、飯は戦の要だ。我は良い妻を娶りました」
政実の言葉に、四戸宗恭は上機嫌であった。
九戸城の広大な敷地には、田畑があり米や野菜等が収穫できるようになってい
た。
野には卵を採るための鶏が放たれ、食肉用の家畜も飼っていた。
五千の兵の胃袋を満たすだけの態勢が整えられていた。
九戸城は、戦をする砦であると共に自給自足が可能な邑の様相も呈していた。
生きるとは戦う事であり、それは即ち食う事から始まると。
これは、政実が農民との交流から学んだ事であった。
兵糧は十分に運び込んであり矢弾にも困る事は無かったが、持久戦を想定する
政実は念には念を入れた。
この時、薩天の下で修行していた若かりし頃に読んだ三国志を思い出していた。
相手から射られて城内の防御板に刺さる無数の矢を回収しその矢羽を整え、鍛
冶工に矢尻を叩き直させて再使用するように命じた。
赤壁の戦いにおいて、諸葛亮が夜霧に乗じて擬装船を出し、曹操軍に射掛けさ
せて十万本の矢をせしめた一計に着想を得たのであった。
また、敵方が捨てた折れた刀や槍の穂先を持ち返らせ、それを溶かして鉄砲の
弾にするように指示した。
入念な準備を伴えば、長期戦で疲弊するのは城を守る方ではなく、夜露に野営
を強いられる攻める側であるとの考えを政実は実行しようとしていた。
信直と為信の双方は、弓矢が届くほどの間合いを詰めると、火矢を射掛けた。
守り手の城塀には、泥が塗り手繰ってあったので、火矢が刺さってもその炎が
燃え広がる事はなかった。
抜刀し、突撃を試みようとした瞬間、城の狭間から鉄砲が放たれた。
それ以上、前に進む事ができずに、南部と津軽勢は後退を余儀なくされた。
両者は、互いの利害を持ちつつ共闘するが、急造の合力軍のため連携が計れず
政実に完敗した。
そして、再び眼前の城は巌の如く動く気配を消した。
「何たる不甲斐無さ。所詮は田舎侍。蝦夷地の兵など役に立たぬわ」
信直と為信に、堀尾は罵声を浴びせた。
が同時に、堅牢な城に無闇に突撃しても無駄と知ると、策を練り直した。
「夜襲を掛ける。真の武者との違いを見せてやるわ」
堀尾は、大口を叩いて自ら兵を率いて出張る事にした。
寄せて…堀尾吉晴。
守り手…九戸政実。
日もとっぷりと暮れ、すぐに宵闇になった。
名誉の先鋒から外された信直は、堀尾の戦ぶりをお手並み拝見といった風で静
かに眺めていた。
為信は、三味線を取り出していた。
勇猛果敢な堀尾の騎馬武者達は、多くの楯と梯子を携えて一気に城の堀に向か
った。
降り注ぐ北の星座の下、三味線の音色がしみ入るようにこだました。
堀の前で突き立てた楯に梯子を横に並べ、柵にして陣形を作った。
為信の撥捌きから奏でられる津軽独特の音階は、叙情的で激しいものであった。
「忌々しい。陸奥の武士は、刀や弓の代わりに能や三味線等で戦をしているつも
りか。腑抜け共の集まりめ」
堀尾が、毒突いた。
柵の隙間から一斉に鉄砲を放った。
城からも応戦があり、銃撃戦となった。
城壁上には、板の盾では防ぎ切れない跳弾用の竹束が置かれていたため、城兵
への被害は無かった。
狂おしいほどの三味線の旋律が、発砲音に紛れて九戸城周辺に響き渡った。
ばたばたと鉄砲に倒れながらも堀尾軍は果敢に、砂色の堀に向かった。
城前の堀は、空堀の筈であった。
松明で灯して見える堀の底は浅く、容易に上り下りできる深さだった。
堀さえ越えれば、城塀まではすぐそこだった。
横一列になって、堀尾の兵達は勇んで堀に下りて行った。
飛び込むように堀に下りた兵から悲鳴が上がった。
空だと見えた堀に、水が湛えてあったのだ。
堀には、土を掘っただけの壕と水をたたえた濠の二種類があるが、九戸城に巡
らされた外堀には大量の籾殻が水面に撒かれてあり、遠目には砂地に見えたので
あった。
三味線の調べが終わった。
鎧を着込んでいた兵達は、それぞれ約五貫の重りを付けているようなもので、
抗いながらも次々に水に沈み溺れていった。
それでも、何とか渡河する兵もいた。
そこに、城の狭間から熱した油が流された。
そして、火を放たれた。
火達磨になった堀尾の兵達は消火するために、這い上がって来たばかりの堀に
飛び込んで行った。
堀の中は、阿鼻叫喚の地獄絵図が広がっていた。
「ええい、小癪な。撤退せよ」
負け戦になるとは、予想だにしなかった堀尾はやむなく兵を退いた。
夜襲の失敗に対して、豊臣方に動揺が走った。
「あれは正しく前九年の役の際、安倍宗任が厨川の戦で用いた木賊川の策」
軍監の浅野長政が、分析していた。
「お主等、知っておったな」
堀尾は、下座に居並ぶ南部信直と津軽為信を睨んで言った。
「辺境の陸奥にあっても、兵法に通暁する者がいるという証し」
何事につけ、陸奥の人間を侮った物言いをする堀尾に対して、腹に一物有った
為信が言ってのけた。
口にこそ決して出さなかったが、為信のみならず南部の将兵達も皆同様に思っ
ていた感情であった。
「貴様っ。武者大将に意見するか」
刀の柄を握りながら堀尾は怒鳴った。
為信は、堀尾の眼を見据えた。
「明日は、身共が参ろう」
険悪な二人の状況に、伊達政宗が割って入った。
堀尾が惨敗してからは、これまでとは異なり能も三味線も催される事は無く、
双方共に緊迫した空気で夜を過ごした。
九戸城を舞台にした攻防戦は、三日目の払暁に入った。
寄せて…伊達政宗。
守り手…九戸政実。
夜が明けきらぬ朝靄の中、政宗の兵は荷車に積載した多量の炭を燃やして煙幕
を張り、城からの矢弾の狙い撃ちを阻止した。
政宗は、大手門に通じる一本橋目掛けて真っ向勝負で中央突破を計った。
雲にも届きそうな高い梯子から名付けられたと云われる鉄板に覆われた雲梯を
先導させた電撃戦で、城壁の真下まで攻め込んだ。
折りたたみ式の梯子を伸ばし、城壁に掛けた。
城壁の上からは、石に綱を付けた弩が切って落とされた。
それでも、政宗の俊敏な兵達およそ三十名が、猫のように壁をよじ登りきった。
城内に闖入した政宗の兵は、三名が一組になって背中合わせで対峙した。
槍を持った九戸の兵が、政宗の兵を取り囲んだ。
「金田一城主、四戸宗恭なり。九戸当主政実が妻の父である」
昔気質の四戸氏は、戦場でも常に礼儀を重んじて名乗りを上げた。
三位一体の政宗の兵が、四戸氏に向かって来た。
「城内へ侵入させたは、小生一生の不覚。だが、この先一兵たりとも進む事許さ
ぬ」
槍を構えながら四戸氏は、言った。
政宗の兵の一人と四戸氏が槍で応戦している時、別の一人が手裏剣を投じた。
手裏剣を避ける四戸氏の一瞬の隙を突いて、もう一人が斬り掛かった。
それを防戦する間に、敵の槍が四戸氏の脇腹を貫いた。
「おのれっ」
鬼神のような形相で四戸氏は、体に刺さった槍の柄を自らの刀で切り取ると、
槍の穂先が突き刺さったまま相手を袈裟斬りした。
次に、気圧されて後ずさる手裏剣を投げた者を、渾身の力を込めて四戸氏がぶ
っ刺した。
そして、残りの一人を追い詰めてその首を飛ばした。
自身を襲った賊を征伐した四戸氏は、仁王立ちのまま力尽き、前のめりに倒れ
て壮絶な最期を遂げた。
城門前で死闘が繰り広げられる最中に、数名の政宗の兵が九戸の兵を背後から
口を押さえて喉元を掻っ切った。
そして、九戸の兵と自身の鎧兜を取り替えた。
「義父上が…」
政実が、四戸宗恭戦死の報を受けていた。
「九戸の城門は死守すると、自ら門番を買って出ておいででした」
次男の実親が、言った。
「椰には、我から伝えよう」
政実は、言葉少なげに呟いた。
「それにしても、政宗の兵は聞きしに勝る命知らず」
次々と運ばれていく戦死した兵の骸を見送りながら、三男の政則が言った。
「こたびの突入、何か裏があるやも知れぬな」
政実は、より一層警戒するように実親と政則に指示した。
篝り火に、太閤桐が揺らめいていた。
幕内では、戦況を振り返っていた。
「勇んで出張った割には、他愛も無い」
堀尾が、ざまは無いといった風で政宗をあげつらった。
「策は、これからでござる」
政宗が、意に介さずに言った。
「何っ」
人を食ったような政宗の態度に、目を剥いて堀尾が言った。
「仕込みを城内に潜ませるのが、こたびの狙い」
不敵な笑みを、政宗は浮かべていた。
「黒脛巾衆か」
浅野長政は、噂に聞く諜報や暗殺等、隠密裏に行動する忍びを政宗が放った事
を知った。
「隙に乗じて、中から大手門を爆破する手筈。門さえ開けば、後は城内になだれ
込み落城させるまで」
政宗が、言った。
九戸城に、東の空から陽が射してきた。
四角形の広場の枡形において、起立した全員の点呼が取られていた。
「朝晩大分しばれるようになったもんだ。ご苦労さんでがんす」
九戸の侍大将により、寒さが増してきた早朝に集まった事への慰労の言葉が添
えられた。
「長月の三日。今朝は、ひふみよのよでがんす。ひっ」
そう言って、侍大将は掛け声を始めた。
「ひ」
兵達が、声を合わせた。
「ふっ」
侍大将は続けた。
「ふ」
兵達も追随した。
ひふみの数えはそれぞれ、ひ(日)・ふ(風)・み(水)・よ(土)・い(草)
・む(虫)・な(魚)・や(鳥)・こ(獣)・と(人)を意味すると云われる。
吐く息の白い冷気を吹き飛ばすかのように、広場の空気は人いきれで満ちてい
た。
四順に入ったひふみの数え歌の三番の所で、小集団に分かれていた九戸の兵達
が一斉にその場に座り込んだ。
三名だけが、ぽつんと立ち尽くしていた。
三人は、慌てて座ろうとした。
侍大将が朝礼で伝えたのは、ひふみよのよで長月の三日。つまり、四順した三
番目に座る事を意味していた。
九戸城内では、不審者に備えて人改めを行なう立選居選の法が全ての兵に周知
徹底されていた。
万一、不明の者あらば、身許が明らかにされるまで監禁された。
「ねまるな。そのまま前さ出ろ」
侍大将が、座らずに前に出るように指示した。
一人が刀を抜いて侍大将に斬り付けたが、背後から複数の槍で背中を突かれて
絶命した。
もう一人は、腹に巻いて隠し持っていた火薬を晒して見せた。
「捕らえても口は割るまい。大方、門を爆破するつもりであったのであろうよ」
枡形を一望できる高見櫓から政実は、騒ぎを聞いて駆け付けた三男の政則に言
った。
火打ち石を持った男は、腹の火薬に点火させる仕種をした。
九戸の兵達が離れた瞬間だった。
「噂に聞く政宗の黒脛巾衆か」
政則は、弓の名手に指示を送りながら言った。
火薬に点火させようとした黒脛巾衆が、飛来した矢に首を射抜かれて倒れた。
陸奥の鷹の羽根を用いた征矢の命中率は随一であった。
最後の一人は、九戸の兵達に取り押さえられた。
「殺すのは簡単だが、あやつに我等の決意を伝える役目を負わせたい」
政実は、言った。
生き残った一人は、丸裸にされ火薬の代わりに塩を腹に巻かれると、馬に括り
付けられて返された。
豊臣方の本陣では、軍議が開かれていた。
南部信直と津軽為信の姿も下座にあった。
何ゆえこやつ等も同席するかといった慇懃無礼な態度で、堀尾吉晴は二人を睥
睨した。
「政宗でもてこずるほどの武将が、陸奥におったという事か」
驚嘆したように、蒲生氏郷が北の知られざる武将について語った。
陣の外では、裸にされて戻された黒脛巾衆の生首が、政宗の輩下の者によって
飛ばされていた。
「敵に塩を送ったという上杉謙信公の習いか」
浅野長政が、九戸からの塩の塊を嘗めながら言った。
「これで明白となった。兵糧に余裕のあるのは、九戸の方だと言いたいのであろ
う」
補足するように、蒲生氏郷は言った。
まだ、朝夕二度の食習慣のこの時代にあって、日に一人四合を食すとすれば、
五万人を養うのに一日五百俵の米が消費されてしまう。
一月後には、一萬五千俵が必要になる。
槍や刀を交えた実戦の無い包囲戦を取ったとしても兵は飯を食らい、当然に日
々戦費の負担は増大する。
豊臣方の一ヶ月分の同じ兵糧で、その十分の一の兵力数である九戸勢は、十ヶ
月戦える事になる。
「我等が京より持ち込んだ五萬俵の兵糧は、後一月で尽きる。その先は現地調達
しかないが、この一帯の米を政実は全て城に運び込み、五千人が一年間食ってい
けるだけの兵糧を地下の食糧庫に蓄えたと聞き及んでいる。正に、墨守なり」
浅野長政は、我欲を戒める兼愛と侵略戦争を否定した非攻を説いた墨子が城を
固守して屈しなかった故事に喩えて、戦馴れした九戸を評した。
「難攻不落の城か……政実は我が方の兵站を知っているゆえに、籠城戦を長引か
せれば我等が退くと見たのだな」
豊臣方五万の将監としての蒲生氏郷は、その十分の一の僅か五千を率いた九戸
政実勢を攻めあぐねていた。
このままだと、政実の思うが通りの展開になる。
それでは、自身が敗軍の将となる。
蒲生氏郷が、深刻な表情をした。
「即ちこの戦、籠城する九戸が守っているのでなく、むしろ我等が攻められてい
る墨攻とでも言うべきか」
浅野長政は、現下の情勢を分析した。
「馬鹿な。まさか豊臣に勝つつもりではあるまいな」
堀尾が、言った。
豊臣陣営に、事の重大さが伝わった。
「地上から容易に攻められぬなら、金堀衆を用いて城内に通じる穴を掘れば」
堀尾は、坑道を掘る事を提案した。
「そのような事をしている間に、雪が降って来よう」
蒲生氏郷によって、堀尾の案は呆気無く却下された。
「ならば、全軍を投じて一気に城の四方から総攻めする以外になかろう」
堀尾が、当て付けるように吐いた。
「確かに、それなら城は落ちよう。しかし、我が軍の兵も相当数討ち死にする」
浅野長政は、言った。
「どれほどか」
蒲生氏郷が、聞いた。
「総大将を務められる羽柴大納言秀次様は、辺境の陸奥の反乱兵など御旗の数で
脅せば、尻尾を巻いて直ぐに降参するとお考えのようであったが、白兵戦による
城攻めとなると…」
想定外の事態に、冷静な浅野長政も困惑しているようであった。
「城の前に対峙できるのは、せいぜい一万。それ以上だと、兵の数が多すぎて味
方同士動きが取れなくなる。四方をそれぞれ囲むとすれば、四万で攻める事にな
ろうが、籠城した相手との戦となれば、四分の一は命を落とすであろう。関白秀
吉様は、出来得る限り兵を失わずに戦に勝つのがお望みである」
計算しながら浅野長政は、答えた。
「たかだか五千の相手に、その倍の自軍の兵を死なせれば、戦に勝っても勝負に
は敗けたも同じぞ。豊臣の紋所を背負って戦う以上、勝つのは必然。祐筆により、
後世の恥と問われぬような勝ち方をせねばならぬ」
そう言って、蒲生氏郷は溜め息をついた。
「では、如何にする」
万策尽きた思いで、堀尾が聞いた。
「九戸がなびく手立てを打たねば」
蒲生氏郷が、一同を促した。
「調略しかあるまい」
浅野長政は、同意した。
「まさか和議を結ぶのではなかろうな」
怒ったように、堀尾が言った。
「容易に応じはすまいな」
浅野長政が、言った。
「応じさせるには、何が必要か」
蒲生氏郷が、問い質した。
「まずは、相手を知らねばならぬ。信直殿、為信殿、前へ」
浅野長政が、二人に言った。
「は」
信直と為信は、堀尾の前を通って浅野長政の面前に進み出た。
「九戸政実とは、いかな男か」
浅野長政は、二人に聞いた。
「智謀知略に優れ、文武両道の将にて、北の鬼とも称されます」
津軽為信は、言った。
「その北の鬼の弱点は何か」
蒲生氏郷が、尋ねた。
「思い当たる節が見当たりませぬ」
為信は、答えた。
「ならば、政実のその人となりについて、信直殿に伺おう」
蒲生氏郷が、南部信直に向かって言った。
「畏れながらその問いには、これなる者が適任かと」
信直の代わりに、その側近の北信愛が答えた。
信愛に促されて、中野修理が前に進み出た。
「九戸当主の末弟、中野修理でございます」
中野修理こと、九戸康実が名乗りを上げた。
「政実の弟とな」
敵の身内がいる事に驚嘆して、堀尾が聞いた。
「九戸とはとうに縁を切り、南部本家に仕えております」
中野修理は、今の自身の立場をしっかりと述べた。
「政実とは、どういう人柄か聞きたい」
政実の実弟という事で、興味津々とばかりに蒲生氏郷が聞いた。
「豪傑ではありますが、民を大切にする事でありましょうか。畑仕事など、百姓
の手伝いも率先して行なっておりました」
修理は、答えた。
「民思いの領主とな」
蒲生氏郷が、成る程という風で頷いた。
「さぞ、肉親に対する情も深いであろうな。お主を人質にして交渉したほうが早
いか」
堀尾は、本気とも取れる物言いをした。
「すでに袂を分かった身の上。例え、城の前で私が八つ裂きにされようとも、九
戸政実は決して動きますまい」
修理は、凛として答えた。
「登ったまま降りて来ぬ猿を引き摺り出すには、木を切り倒せば良い。百姓思い
と言ったの。であれば、その泣き所をついて燻り出すまで」
妙案得たりといった自信有り気な態度で、堀尾が言った。
信愛の前に控えた信直は、終始黙ったままであった。
戌の刻を回った頃であった。
夜にもかかわらずに、九戸の空は真っ赤に照らされていた。
甲高い邑の鐘楼が、九戸一帯に響いた。
劫火の如く邑々が焼き払われた。
放火したのは、堀尾吉晴一派であった。
九戸の城からも邑が焼ける様子が見て取れた。
政実は、両の拳を握り締めていた。
政実にとっては、戦で兵を失うよりも百姓がその犠牲になるほうが辛かった。
兵は戦で死ぬ事を覚悟の上だが、百姓にとっては犬死であるからだ。
「見せしめに邑を襲って、我等が城を出るのを待っている」
兄のそんな姿を見ながら、次男の実親が言った。
「兄者の民思いを逆手に取った卑劣な策だ」
政実の心情を推し量るように、三男の政則は吐き捨てた。
「亀のように頭を抱え、手足を甲羅に入れて縮こめたまま、我等が無為に籠城し
ているのでない事を知らしめねばならぬようだ」
堀尾の暴挙を止めるため、政実が出陣の支度をした。
「なりませぬ。兄者の泣き所を突き、我慢できずにこちらを引き摺り出すのが、
奴等の狙い」
無理やり出張ろうとする政実を、実親が止めに入った。
「我とて重々承知の上だ。勝算あっての出陣である」
心配しないように、政実は言った。
固く閉ざされていた九戸の城門が、遂に開かれた。
「ようやく動き出しおったか」
城の虎口から出て来た九戸軍を見て、待ってましたとばかりに堀尾が言った。
三百の騎馬鉄砲隊を率いた政実が、城を背後にして豊臣の陣営に向かって来た。
「夜では、鉄砲も使えぬ筈。飛んで火に入る秋の九戸だ」
堀尾が、ほざいた。
政実の騎馬隊が、まず火矢を放った。
戦前において、敵が陣を敷くと思われる要所にあらかじめ目印が付けられてい
た。
火矢を射て、その目印を確認すると、九戸軍は鉄砲を撃って急襲した。
「このような夜の暗がりに、なぜ我が方の正確な位置を把握しているのだ」
堀尾は、唖然とした。
九戸軍を燻り出したつもりが、勝手知ったる地の利からまるで夜目が利くが如
く縦横無尽に小部隊で出没し奇襲され、豊臣方は掻き乱されて逆に良いようにや
られてしまう。
また、豊臣陣営の本隊が動き出しそうになると、九戸の遊撃兵は複数ある桔橋
や引橋を巧みに使い、潮が引くように堅固な城に戻って行った。
「平城の特性を存分に活かして四方のどこからでも出撃し、一撃必殺で討っては
返すと帰城する。その気になれば、いつでも我等を攻撃できる優位に立っている
と知らしめるのが目的とみた」
意図的に睨み合いの状況下を続けて消耗戦を仕掛けている相手に、困惑しなが
ら蒲生氏郷は語った。
「少しばかり知恵の付いた陸奥の山猿を誉めるために、戦っておるのではない。
こうなれば九戸が降参するまで、その身代わりに南部中の邑を焼き払ってやる」
堀尾の眼は血走っていた。
「やめよ。そのような蛮行、豊臣の戦ではない」
浅野長政が、言った。
「旅人の上着を剥ぎ取る賭けをした北風と日輪の話を、知っておりましょうか」
急に、為信が話し掛けた。
「何か?」
蒲生氏郷は、聞き質した。
「初めに、北風が力任せの強風で旅人の上着を吹き飛ばそうとした。旅人は、寒
さから身を守るため、決して上着を手放さなそうとしなかった」
為信は、語り出した。
「次に、日輪の番になると、その陽射しから暑さのため旅人は自分から上着を脱
いだ」
続きを、浅野長政が話した。
「何が言いたいのだ」
昨夜の火付けで碌に寝ていない堀尾が、床几に座して眠りながら聞いた。
「力ずくで城から出そうとせず、自分から城を出るように仕向けさせる法を探れ
という事」
浅野長政は、了解していた。
為信は、信直の側近の北信愛を介して、政実の末弟である中野修理への面会を
求めた。
南部にとって、敵方に当たる津軽の申し出を良しとするものではなかったが、
現在は共闘している関係上、恩を着せるという立場で受け入れた。
「政実殿が、尊敬する人物はどなたであられるか」
為信が、中野修理に聞いた。
「九戸の菩提寺である長興寺の薩天和尚かと」
中野修理は、即座に答えた。
政実を知る者であれば、万人が政実の師匠に推す人物であったからだ。
「面識の無い拙者が参るより、弟である中野殿のほうが適役」
為信は、言った。
「何を話せと」
中野修理が、聞いた。
「その御坊に、九戸城の政実殿にお会いするよう取り計らって頂きたい」
大柄な体躯を二つに折るように深く頭を下げて、為信が言った。
「和尚に、豊臣への降伏を託すお積もりか」
中野修理は、聞き返した。
「ただ、会って頂くだけで結構」
師である僧侶の話ならば、政実は聞き耳を持ち、必ず和議に応じると考えたの
だった。
「さすれば、自ずと阿吽の呼吸で道が開ける筈」
聡明で誇り高い政実の人となりを知る為信は、自身有りげに言った。
薩天和尚を交渉役にとの進言を渋る堀尾を、為信は平身低頭の姿勢で粘り強く
説き伏せた。
為信からの依頼を受けて、中野修理は自問自答した。
先般の三戸本家と九戸との戦において、敗走する信直を政実の追手から密かに
逃がした和尚である。
唯我独尊の和尚ならば、政実と互角に渡り合える。
その末に、政実を説き伏せる事も可能かもしれない。
今は敵味方になってはいるが、血を分けた実の兄である。
賊軍となろうとも、兄には生きていて欲しい。
偽らざる本心であった。
このまま強大な豊臣と対峙していては、南部の地は火の海にされかねない。
民を大切にする兄であれば、それは望むべき事ではないのは明白であった。
戦禍から民を救い、兄をも助ける事が出来るのならと思い、中野修理は為信の
考えに乗った。
「戦場で能などと。夕べは下らぬ戯れ言を見せられて、酒が不味くなった」
武骨漢の堀尾吉晴は、不機嫌であった。
「少しばかり城に向けて進軍させれば、向こうも動こう」
堀尾吉晴が、南部の信直と津軽の為信に対して兵を進めるように指示した。
信直と為信は、反目しながらも互いに共通の思いを抱いていた。
猪突猛進の無策に付き合って、いたずらに自兵を失う訳にはいかぬと。
政実は一筋縄では立ち行かぬというのは、痛い目を見なければ分からぬであろ
う。
だが、武者大将の指示であれば致し方なしと見て、形だけ進軍する振りをした。
矢楯を前面に押し出しながら両者は、ゆっくりと九戸城に寄せて行った。
敵が攻めて来た。
「信直と為信が先鋒か。因果なものよの」
椰がしつらえた陣羽織を着た政実は、昨夜能を舞った櫓から城に迫り来る敵方
の様子を窺っていた。
門柱に吊るされた滑車に繋いだ鎖で引き上げる桔橋や引き入れる引橋を全て可
動させ、大手門に通じる橋を残して城への通行路を遮断した。
戦時が長引く事を予想して、政実は兵の士気の高さを維持するため、血縁や役
職に拘らず実力本位で人事を配した。
そのためか、城内は緊迫した戦中にあっても活気に満ちていた。
後詰の曲輪である若狭と石沢の両館では、襷掛けした椰と女達が炊き出しをし
ていた。
腹が減っては戦は出来ぬ。
梅が一つ入れられ、粗塩を振った白い握り飯が山のように積まれた。
大樽の中に熟成させておいた糠みそから取り出した漬け物が、俎に乗せられて
庖丁で小さく切り分けられていく。
大鍋では大量の味噌汁が作られている。
朝夕、兵糧としての五千人分の握り飯と香の物と味噌汁、そして夜には酒と肴
の準備をしなければならなかった。
籠城は、女達にとっても戦場であった。
「良い塩梅だな。それでこそ、九戸を預かる頭領の妻としての本懐を遂げるとい
うもの」
椰の父である四戸宗恭が、握り飯を一つつかんで頬張りながら言った。
椰は、戦場において女でも役に立っているのが嬉しそうに煮炊きを続けた。
「籠城する我等にとって、飯は戦の要だ。我は良い妻を娶りました」
政実の言葉に、四戸宗恭は上機嫌であった。
九戸城の広大な敷地には、田畑があり米や野菜等が収穫できるようになってい
た。
野には卵を採るための鶏が放たれ、食肉用の家畜も飼っていた。
五千の兵の胃袋を満たすだけの態勢が整えられていた。
九戸城は、戦をする砦であると共に自給自足が可能な邑の様相も呈していた。
生きるとは戦う事であり、それは即ち食う事から始まると。
これは、政実が農民との交流から学んだ事であった。
兵糧は十分に運び込んであり矢弾にも困る事は無かったが、持久戦を想定する
政実は念には念を入れた。
この時、薩天の下で修行していた若かりし頃に読んだ三国志を思い出していた。
相手から射られて城内の防御板に刺さる無数の矢を回収しその矢羽を整え、鍛
冶工に矢尻を叩き直させて再使用するように命じた。
赤壁の戦いにおいて、諸葛亮が夜霧に乗じて擬装船を出し、曹操軍に射掛けさ
せて十万本の矢をせしめた一計に着想を得たのであった。
また、敵方が捨てた折れた刀や槍の穂先を持ち返らせ、それを溶かして鉄砲の
弾にするように指示した。
入念な準備を伴えば、長期戦で疲弊するのは城を守る方ではなく、夜露に野営
を強いられる攻める側であるとの考えを政実は実行しようとしていた。
信直と為信の双方は、弓矢が届くほどの間合いを詰めると、火矢を射掛けた。
守り手の城塀には、泥が塗り手繰ってあったので、火矢が刺さってもその炎が
燃え広がる事はなかった。
抜刀し、突撃を試みようとした瞬間、城の狭間から鉄砲が放たれた。
それ以上、前に進む事ができずに、南部と津軽勢は後退を余儀なくされた。
両者は、互いの利害を持ちつつ共闘するが、急造の合力軍のため連携が計れず
政実に完敗した。
そして、再び眼前の城は巌の如く動く気配を消した。
「何たる不甲斐無さ。所詮は田舎侍。蝦夷地の兵など役に立たぬわ」
信直と為信に、堀尾は罵声を浴びせた。
が同時に、堅牢な城に無闇に突撃しても無駄と知ると、策を練り直した。
「夜襲を掛ける。真の武者との違いを見せてやるわ」
堀尾は、大口を叩いて自ら兵を率いて出張る事にした。
寄せて…堀尾吉晴。
守り手…九戸政実。
日もとっぷりと暮れ、すぐに宵闇になった。
名誉の先鋒から外された信直は、堀尾の戦ぶりをお手並み拝見といった風で静
かに眺めていた。
為信は、三味線を取り出していた。
勇猛果敢な堀尾の騎馬武者達は、多くの楯と梯子を携えて一気に城の堀に向か
った。
降り注ぐ北の星座の下、三味線の音色がしみ入るようにこだました。
堀の前で突き立てた楯に梯子を横に並べ、柵にして陣形を作った。
為信の撥捌きから奏でられる津軽独特の音階は、叙情的で激しいものであった。
「忌々しい。陸奥の武士は、刀や弓の代わりに能や三味線等で戦をしているつも
りか。腑抜け共の集まりめ」
堀尾が、毒突いた。
柵の隙間から一斉に鉄砲を放った。
城からも応戦があり、銃撃戦となった。
城壁上には、板の盾では防ぎ切れない跳弾用の竹束が置かれていたため、城兵
への被害は無かった。
狂おしいほどの三味線の旋律が、発砲音に紛れて九戸城周辺に響き渡った。
ばたばたと鉄砲に倒れながらも堀尾軍は果敢に、砂色の堀に向かった。
城前の堀は、空堀の筈であった。
松明で灯して見える堀の底は浅く、容易に上り下りできる深さだった。
堀さえ越えれば、城塀まではすぐそこだった。
横一列になって、堀尾の兵達は勇んで堀に下りて行った。
飛び込むように堀に下りた兵から悲鳴が上がった。
空だと見えた堀に、水が湛えてあったのだ。
堀には、土を掘っただけの壕と水をたたえた濠の二種類があるが、九戸城に巡
らされた外堀には大量の籾殻が水面に撒かれてあり、遠目には砂地に見えたので
あった。
三味線の調べが終わった。
鎧を着込んでいた兵達は、それぞれ約五貫の重りを付けているようなもので、
抗いながらも次々に水に沈み溺れていった。
それでも、何とか渡河する兵もいた。
そこに、城の狭間から熱した油が流された。
そして、火を放たれた。
火達磨になった堀尾の兵達は消火するために、這い上がって来たばかりの堀に
飛び込んで行った。
堀の中は、阿鼻叫喚の地獄絵図が広がっていた。
「ええい、小癪な。撤退せよ」
負け戦になるとは、予想だにしなかった堀尾はやむなく兵を退いた。
夜襲の失敗に対して、豊臣方に動揺が走った。
「あれは正しく前九年の役の際、安倍宗任が厨川の戦で用いた木賊川の策」
軍監の浅野長政が、分析していた。
「お主等、知っておったな」
堀尾は、下座に居並ぶ南部信直と津軽為信を睨んで言った。
「辺境の陸奥にあっても、兵法に通暁する者がいるという証し」
何事につけ、陸奥の人間を侮った物言いをする堀尾に対して、腹に一物有った
為信が言ってのけた。
口にこそ決して出さなかったが、為信のみならず南部の将兵達も皆同様に思っ
ていた感情であった。
「貴様っ。武者大将に意見するか」
刀の柄を握りながら堀尾は怒鳴った。
為信は、堀尾の眼を見据えた。
「明日は、身共が参ろう」
険悪な二人の状況に、伊達政宗が割って入った。
堀尾が惨敗してからは、これまでとは異なり能も三味線も催される事は無く、
双方共に緊迫した空気で夜を過ごした。
九戸城を舞台にした攻防戦は、三日目の払暁に入った。
寄せて…伊達政宗。
守り手…九戸政実。
夜が明けきらぬ朝靄の中、政宗の兵は荷車に積載した多量の炭を燃やして煙幕
を張り、城からの矢弾の狙い撃ちを阻止した。
政宗は、大手門に通じる一本橋目掛けて真っ向勝負で中央突破を計った。
雲にも届きそうな高い梯子から名付けられたと云われる鉄板に覆われた雲梯を
先導させた電撃戦で、城壁の真下まで攻め込んだ。
折りたたみ式の梯子を伸ばし、城壁に掛けた。
城壁の上からは、石に綱を付けた弩が切って落とされた。
それでも、政宗の俊敏な兵達およそ三十名が、猫のように壁をよじ登りきった。
城内に闖入した政宗の兵は、三名が一組になって背中合わせで対峙した。
槍を持った九戸の兵が、政宗の兵を取り囲んだ。
「金田一城主、四戸宗恭なり。九戸当主政実が妻の父である」
昔気質の四戸氏は、戦場でも常に礼儀を重んじて名乗りを上げた。
三位一体の政宗の兵が、四戸氏に向かって来た。
「城内へ侵入させたは、小生一生の不覚。だが、この先一兵たりとも進む事許さ
ぬ」
槍を構えながら四戸氏は、言った。
政宗の兵の一人と四戸氏が槍で応戦している時、別の一人が手裏剣を投じた。
手裏剣を避ける四戸氏の一瞬の隙を突いて、もう一人が斬り掛かった。
それを防戦する間に、敵の槍が四戸氏の脇腹を貫いた。
「おのれっ」
鬼神のような形相で四戸氏は、体に刺さった槍の柄を自らの刀で切り取ると、
槍の穂先が突き刺さったまま相手を袈裟斬りした。
次に、気圧されて後ずさる手裏剣を投げた者を、渾身の力を込めて四戸氏がぶ
っ刺した。
そして、残りの一人を追い詰めてその首を飛ばした。
自身を襲った賊を征伐した四戸氏は、仁王立ちのまま力尽き、前のめりに倒れ
て壮絶な最期を遂げた。
城門前で死闘が繰り広げられる最中に、数名の政宗の兵が九戸の兵を背後から
口を押さえて喉元を掻っ切った。
そして、九戸の兵と自身の鎧兜を取り替えた。
「義父上が…」
政実が、四戸宗恭戦死の報を受けていた。
「九戸の城門は死守すると、自ら門番を買って出ておいででした」
次男の実親が、言った。
「椰には、我から伝えよう」
政実は、言葉少なげに呟いた。
「それにしても、政宗の兵は聞きしに勝る命知らず」
次々と運ばれていく戦死した兵の骸を見送りながら、三男の政則が言った。
「こたびの突入、何か裏があるやも知れぬな」
政実は、より一層警戒するように実親と政則に指示した。
篝り火に、太閤桐が揺らめいていた。
幕内では、戦況を振り返っていた。
「勇んで出張った割には、他愛も無い」
堀尾が、ざまは無いといった風で政宗をあげつらった。
「策は、これからでござる」
政宗が、意に介さずに言った。
「何っ」
人を食ったような政宗の態度に、目を剥いて堀尾が言った。
「仕込みを城内に潜ませるのが、こたびの狙い」
不敵な笑みを、政宗は浮かべていた。
「黒脛巾衆か」
浅野長政は、噂に聞く諜報や暗殺等、隠密裏に行動する忍びを政宗が放った事
を知った。
「隙に乗じて、中から大手門を爆破する手筈。門さえ開けば、後は城内になだれ
込み落城させるまで」
政宗が、言った。
九戸城に、東の空から陽が射してきた。
四角形の広場の枡形において、起立した全員の点呼が取られていた。
「朝晩大分しばれるようになったもんだ。ご苦労さんでがんす」
九戸の侍大将により、寒さが増してきた早朝に集まった事への慰労の言葉が添
えられた。
「長月の三日。今朝は、ひふみよのよでがんす。ひっ」
そう言って、侍大将は掛け声を始めた。
「ひ」
兵達が、声を合わせた。
「ふっ」
侍大将は続けた。
「ふ」
兵達も追随した。
ひふみの数えはそれぞれ、ひ(日)・ふ(風)・み(水)・よ(土)・い(草)
・む(虫)・な(魚)・や(鳥)・こ(獣)・と(人)を意味すると云われる。
吐く息の白い冷気を吹き飛ばすかのように、広場の空気は人いきれで満ちてい
た。
四順に入ったひふみの数え歌の三番の所で、小集団に分かれていた九戸の兵達
が一斉にその場に座り込んだ。
三名だけが、ぽつんと立ち尽くしていた。
三人は、慌てて座ろうとした。
侍大将が朝礼で伝えたのは、ひふみよのよで長月の三日。つまり、四順した三
番目に座る事を意味していた。
九戸城内では、不審者に備えて人改めを行なう立選居選の法が全ての兵に周知
徹底されていた。
万一、不明の者あらば、身許が明らかにされるまで監禁された。
「ねまるな。そのまま前さ出ろ」
侍大将が、座らずに前に出るように指示した。
一人が刀を抜いて侍大将に斬り付けたが、背後から複数の槍で背中を突かれて
絶命した。
もう一人は、腹に巻いて隠し持っていた火薬を晒して見せた。
「捕らえても口は割るまい。大方、門を爆破するつもりであったのであろうよ」
枡形を一望できる高見櫓から政実は、騒ぎを聞いて駆け付けた三男の政則に言
った。
火打ち石を持った男は、腹の火薬に点火させる仕種をした。
九戸の兵達が離れた瞬間だった。
「噂に聞く政宗の黒脛巾衆か」
政則は、弓の名手に指示を送りながら言った。
火薬に点火させようとした黒脛巾衆が、飛来した矢に首を射抜かれて倒れた。
陸奥の鷹の羽根を用いた征矢の命中率は随一であった。
最後の一人は、九戸の兵達に取り押さえられた。
「殺すのは簡単だが、あやつに我等の決意を伝える役目を負わせたい」
政実は、言った。
生き残った一人は、丸裸にされ火薬の代わりに塩を腹に巻かれると、馬に括り
付けられて返された。
豊臣方の本陣では、軍議が開かれていた。
南部信直と津軽為信の姿も下座にあった。
何ゆえこやつ等も同席するかといった慇懃無礼な態度で、堀尾吉晴は二人を睥
睨した。
「政宗でもてこずるほどの武将が、陸奥におったという事か」
驚嘆したように、蒲生氏郷が北の知られざる武将について語った。
陣の外では、裸にされて戻された黒脛巾衆の生首が、政宗の輩下の者によって
飛ばされていた。
「敵に塩を送ったという上杉謙信公の習いか」
浅野長政が、九戸からの塩の塊を嘗めながら言った。
「これで明白となった。兵糧に余裕のあるのは、九戸の方だと言いたいのであろ
う」
補足するように、蒲生氏郷は言った。
まだ、朝夕二度の食習慣のこの時代にあって、日に一人四合を食すとすれば、
五万人を養うのに一日五百俵の米が消費されてしまう。
一月後には、一萬五千俵が必要になる。
槍や刀を交えた実戦の無い包囲戦を取ったとしても兵は飯を食らい、当然に日
々戦費の負担は増大する。
豊臣方の一ヶ月分の同じ兵糧で、その十分の一の兵力数である九戸勢は、十ヶ
月戦える事になる。
「我等が京より持ち込んだ五萬俵の兵糧は、後一月で尽きる。その先は現地調達
しかないが、この一帯の米を政実は全て城に運び込み、五千人が一年間食ってい
けるだけの兵糧を地下の食糧庫に蓄えたと聞き及んでいる。正に、墨守なり」
浅野長政は、我欲を戒める兼愛と侵略戦争を否定した非攻を説いた墨子が城を
固守して屈しなかった故事に喩えて、戦馴れした九戸を評した。
「難攻不落の城か……政実は我が方の兵站を知っているゆえに、籠城戦を長引か
せれば我等が退くと見たのだな」
豊臣方五万の将監としての蒲生氏郷は、その十分の一の僅か五千を率いた九戸
政実勢を攻めあぐねていた。
このままだと、政実の思うが通りの展開になる。
それでは、自身が敗軍の将となる。
蒲生氏郷が、深刻な表情をした。
「即ちこの戦、籠城する九戸が守っているのでなく、むしろ我等が攻められてい
る墨攻とでも言うべきか」
浅野長政は、現下の情勢を分析した。
「馬鹿な。まさか豊臣に勝つつもりではあるまいな」
堀尾が、言った。
豊臣陣営に、事の重大さが伝わった。
「地上から容易に攻められぬなら、金堀衆を用いて城内に通じる穴を掘れば」
堀尾は、坑道を掘る事を提案した。
「そのような事をしている間に、雪が降って来よう」
蒲生氏郷によって、堀尾の案は呆気無く却下された。
「ならば、全軍を投じて一気に城の四方から総攻めする以外になかろう」
堀尾が、当て付けるように吐いた。
「確かに、それなら城は落ちよう。しかし、我が軍の兵も相当数討ち死にする」
浅野長政は、言った。
「どれほどか」
蒲生氏郷が、聞いた。
「総大将を務められる羽柴大納言秀次様は、辺境の陸奥の反乱兵など御旗の数で
脅せば、尻尾を巻いて直ぐに降参するとお考えのようであったが、白兵戦による
城攻めとなると…」
想定外の事態に、冷静な浅野長政も困惑しているようであった。
「城の前に対峙できるのは、せいぜい一万。それ以上だと、兵の数が多すぎて味
方同士動きが取れなくなる。四方をそれぞれ囲むとすれば、四万で攻める事にな
ろうが、籠城した相手との戦となれば、四分の一は命を落とすであろう。関白秀
吉様は、出来得る限り兵を失わずに戦に勝つのがお望みである」
計算しながら浅野長政は、答えた。
「たかだか五千の相手に、その倍の自軍の兵を死なせれば、戦に勝っても勝負に
は敗けたも同じぞ。豊臣の紋所を背負って戦う以上、勝つのは必然。祐筆により、
後世の恥と問われぬような勝ち方をせねばならぬ」
そう言って、蒲生氏郷は溜め息をついた。
「では、如何にする」
万策尽きた思いで、堀尾が聞いた。
「九戸がなびく手立てを打たねば」
蒲生氏郷が、一同を促した。
「調略しかあるまい」
浅野長政は、同意した。
「まさか和議を結ぶのではなかろうな」
怒ったように、堀尾が言った。
「容易に応じはすまいな」
浅野長政が、言った。
「応じさせるには、何が必要か」
蒲生氏郷が、問い質した。
「まずは、相手を知らねばならぬ。信直殿、為信殿、前へ」
浅野長政が、二人に言った。
「は」
信直と為信は、堀尾の前を通って浅野長政の面前に進み出た。
「九戸政実とは、いかな男か」
浅野長政は、二人に聞いた。
「智謀知略に優れ、文武両道の将にて、北の鬼とも称されます」
津軽為信は、言った。
「その北の鬼の弱点は何か」
蒲生氏郷が、尋ねた。
「思い当たる節が見当たりませぬ」
為信は、答えた。
「ならば、政実のその人となりについて、信直殿に伺おう」
蒲生氏郷が、南部信直に向かって言った。
「畏れながらその問いには、これなる者が適任かと」
信直の代わりに、その側近の北信愛が答えた。
信愛に促されて、中野修理が前に進み出た。
「九戸当主の末弟、中野修理でございます」
中野修理こと、九戸康実が名乗りを上げた。
「政実の弟とな」
敵の身内がいる事に驚嘆して、堀尾が聞いた。
「九戸とはとうに縁を切り、南部本家に仕えております」
中野修理は、今の自身の立場をしっかりと述べた。
「政実とは、どういう人柄か聞きたい」
政実の実弟という事で、興味津々とばかりに蒲生氏郷が聞いた。
「豪傑ではありますが、民を大切にする事でありましょうか。畑仕事など、百姓
の手伝いも率先して行なっておりました」
修理は、答えた。
「民思いの領主とな」
蒲生氏郷が、成る程という風で頷いた。
「さぞ、肉親に対する情も深いであろうな。お主を人質にして交渉したほうが早
いか」
堀尾は、本気とも取れる物言いをした。
「すでに袂を分かった身の上。例え、城の前で私が八つ裂きにされようとも、九
戸政実は決して動きますまい」
修理は、凛として答えた。
「登ったまま降りて来ぬ猿を引き摺り出すには、木を切り倒せば良い。百姓思い
と言ったの。であれば、その泣き所をついて燻り出すまで」
妙案得たりといった自信有り気な態度で、堀尾が言った。
信愛の前に控えた信直は、終始黙ったままであった。
戌の刻を回った頃であった。
夜にもかかわらずに、九戸の空は真っ赤に照らされていた。
甲高い邑の鐘楼が、九戸一帯に響いた。
劫火の如く邑々が焼き払われた。
放火したのは、堀尾吉晴一派であった。
九戸の城からも邑が焼ける様子が見て取れた。
政実は、両の拳を握り締めていた。
政実にとっては、戦で兵を失うよりも百姓がその犠牲になるほうが辛かった。
兵は戦で死ぬ事を覚悟の上だが、百姓にとっては犬死であるからだ。
「見せしめに邑を襲って、我等が城を出るのを待っている」
兄のそんな姿を見ながら、次男の実親が言った。
「兄者の民思いを逆手に取った卑劣な策だ」
政実の心情を推し量るように、三男の政則は吐き捨てた。
「亀のように頭を抱え、手足を甲羅に入れて縮こめたまま、我等が無為に籠城し
ているのでない事を知らしめねばならぬようだ」
堀尾の暴挙を止めるため、政実が出陣の支度をした。
「なりませぬ。兄者の泣き所を突き、我慢できずにこちらを引き摺り出すのが、
奴等の狙い」
無理やり出張ろうとする政実を、実親が止めに入った。
「我とて重々承知の上だ。勝算あっての出陣である」
心配しないように、政実は言った。
固く閉ざされていた九戸の城門が、遂に開かれた。
「ようやく動き出しおったか」
城の虎口から出て来た九戸軍を見て、待ってましたとばかりに堀尾が言った。
三百の騎馬鉄砲隊を率いた政実が、城を背後にして豊臣の陣営に向かって来た。
「夜では、鉄砲も使えぬ筈。飛んで火に入る秋の九戸だ」
堀尾が、ほざいた。
政実の騎馬隊が、まず火矢を放った。
戦前において、敵が陣を敷くと思われる要所にあらかじめ目印が付けられてい
た。
火矢を射て、その目印を確認すると、九戸軍は鉄砲を撃って急襲した。
「このような夜の暗がりに、なぜ我が方の正確な位置を把握しているのだ」
堀尾は、唖然とした。
九戸軍を燻り出したつもりが、勝手知ったる地の利からまるで夜目が利くが如
く縦横無尽に小部隊で出没し奇襲され、豊臣方は掻き乱されて逆に良いようにや
られてしまう。
また、豊臣陣営の本隊が動き出しそうになると、九戸の遊撃兵は複数ある桔橋
や引橋を巧みに使い、潮が引くように堅固な城に戻って行った。
「平城の特性を存分に活かして四方のどこからでも出撃し、一撃必殺で討っては
返すと帰城する。その気になれば、いつでも我等を攻撃できる優位に立っている
と知らしめるのが目的とみた」
意図的に睨み合いの状況下を続けて消耗戦を仕掛けている相手に、困惑しなが
ら蒲生氏郷は語った。
「少しばかり知恵の付いた陸奥の山猿を誉めるために、戦っておるのではない。
こうなれば九戸が降参するまで、その身代わりに南部中の邑を焼き払ってやる」
堀尾の眼は血走っていた。
「やめよ。そのような蛮行、豊臣の戦ではない」
浅野長政が、言った。
「旅人の上着を剥ぎ取る賭けをした北風と日輪の話を、知っておりましょうか」
急に、為信が話し掛けた。
「何か?」
蒲生氏郷は、聞き質した。
「初めに、北風が力任せの強風で旅人の上着を吹き飛ばそうとした。旅人は、寒
さから身を守るため、決して上着を手放さなそうとしなかった」
為信は、語り出した。
「次に、日輪の番になると、その陽射しから暑さのため旅人は自分から上着を脱
いだ」
続きを、浅野長政が話した。
「何が言いたいのだ」
昨夜の火付けで碌に寝ていない堀尾が、床几に座して眠りながら聞いた。
「力ずくで城から出そうとせず、自分から城を出るように仕向けさせる法を探れ
という事」
浅野長政は、了解していた。
為信は、信直の側近の北信愛を介して、政実の末弟である中野修理への面会を
求めた。
南部にとって、敵方に当たる津軽の申し出を良しとするものではなかったが、
現在は共闘している関係上、恩を着せるという立場で受け入れた。
「政実殿が、尊敬する人物はどなたであられるか」
為信が、中野修理に聞いた。
「九戸の菩提寺である長興寺の薩天和尚かと」
中野修理は、即座に答えた。
政実を知る者であれば、万人が政実の師匠に推す人物であったからだ。
「面識の無い拙者が参るより、弟である中野殿のほうが適役」
為信は、言った。
「何を話せと」
中野修理が、聞いた。
「その御坊に、九戸城の政実殿にお会いするよう取り計らって頂きたい」
大柄な体躯を二つに折るように深く頭を下げて、為信が言った。
「和尚に、豊臣への降伏を託すお積もりか」
中野修理は、聞き返した。
「ただ、会って頂くだけで結構」
師である僧侶の話ならば、政実は聞き耳を持ち、必ず和議に応じると考えたの
だった。
「さすれば、自ずと阿吽の呼吸で道が開ける筈」
聡明で誇り高い政実の人となりを知る為信は、自身有りげに言った。
薩天和尚を交渉役にとの進言を渋る堀尾を、為信は平身低頭の姿勢で粘り強く
説き伏せた。
為信からの依頼を受けて、中野修理は自問自答した。
先般の三戸本家と九戸との戦において、敗走する信直を政実の追手から密かに
逃がした和尚である。
唯我独尊の和尚ならば、政実と互角に渡り合える。
その末に、政実を説き伏せる事も可能かもしれない。
今は敵味方になってはいるが、血を分けた実の兄である。
賊軍となろうとも、兄には生きていて欲しい。
偽らざる本心であった。
このまま強大な豊臣と対峙していては、南部の地は火の海にされかねない。
民を大切にする兄であれば、それは望むべき事ではないのは明白であった。
戦禍から民を救い、兄をも助ける事が出来るのならと思い、中野修理は為信の
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※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
ダンジョンに行くことができるようになったが、職業が強すぎた
ひまなひと
ファンタジー
主人公がダンジョンに潜り、ステータスを強化し、強くなることを目指す物語である。
今の所、170話近くあります。
(修正していないものは1600です)
久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…
しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。
高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。
数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。
そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…
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