初恋音物語

海音

文字の大きさ
15 / 15

初恋音物語#15大好き。

しおりを挟む
#15

「いっぱい泣いたらお腹空くよね!」

それは未来がひとしきり泣き終えた数分後のことだった

「えっ....」

未来はびっくりして思わず変な声を出してしまった

「はぁ...やっぱり、言うと思った」

海音は溜息をついた

「未来ちゃん、是非ご飯食べていってね」

「あ、ありがとうございます」

海音のお母さんはニコニコで一階に戻って行った

「良い人だね」

未来は少し笑いながら言った

「そうか?あれはあれで大変だぞ」

「でもなんだかんだ好きでしょお母さんの事」

「そりゃまあ、嫌いなんて事はないけど..」

海音は少し頬を赤らめた

「あー、海音頬赤くなってる!可っ愛い!」

少し茶化すように未来が言うと

「でも、笑ってくれて良かった」

海音はホッとした表情で言った。

「じゃあ、ご飯たべるか」

「うん!」


「おいしい?」

「最高です!」

「良かった」

海音のお母さんと未来の会話は弾んでいた

(楽しい)

未来はそう思っていた

「どっちから告白したの?」

その言葉に未来も海音もドキッとした

「私から...です」

「そーなんだ!どうやって告白したの!」

「えっ!」

そこまで踏み込まれるとは思っていなかった未来は思わず声を出した

顔が赤くなっていくのが熱とともに伝わってくる

「えっと...えっと、けだ..下駄箱にお手紙を..入れました..」

未来は恥ずかしくて両手で勢い良く顔を隠した。

「あら照れちゃって」

「どうして好きになったの?海音のこと」 

海音のお母さんはさらに追い討ちをかけるように未来に訊いた

未来は顔を隠していた手を少し緩めて海音のお母さんの方を見た

「えっと...」

未来は口籠ってしまった、その時だった


ピンポーン


インターホンの音が鳴った

「はーい」

海音のお母さんは玄関に向かった

「あら、未来ちゃんのお母さん、どうされたんですか?」

その声が玄関から聞こえた未来は思わず隣に座っている海音の服の袖を掴んだ

「うちの未来がそちらに来ているんじゃないかと思いまして、お忙しい中すいません」

「いえいえ、今丁度私と海音と未来ちゃんで夕飯を食べてた所です、お母様も一緒にどうですか?」

「夕飯までご馳走して頂いて、すいません、すぐに未来を連れて帰りますので」

「未来ー、帰るわよー」


「嫌だ、帰りたくない..」

未来は海音の腕をぎゅっと抱きしめた


「まあお母さん、取り敢えず一回うちあがってください」

「失礼します」

「未来..」

お母さんが不安そうな表情でリビングに入って来た

「嫌だ、来ないで..来ないで!」

「未来大丈夫だから、安心して」

未来のお母さんは未来の手首を掴んだ

「触るなっ!」

未来は勢い良くお母さんの手を振り払った

「何知らないくせに..何わからないくせに...そんな事言うんじゃねえよ!私が苛められてどんなに辛かったか苦しかったかも..」

「帰るよ」

お母さんは冷めた声でそう言った後再び未来の手首を今度は振り払われないように強く握った

「嫌だやめろ、離せ!」

未来の言葉を無視してお母さんは無理矢理未来の事を引っ張って連れ出そうとした

未来は勢い良く手を振ったがお母さんがその手を離すことはないと悟って、反対の手でポケットに入れてあったカッターを取り出して刃を勢い良く出してお母さんに突き付けた

「ふざけるな、何様だよ」

「未来、落ち着いて」

海音は必死に未来を落ち着かせようと声を掛けた

「離れて!」

「それ以上近づいたら、今ここで死ぬから」

そう言うと未来は首にカッターの刃を近づけた


パチンっ!

「何バカな事してんの!」

その声と頬に走った衝撃で未来はカッターを落としてしまった

再び腕を掴まれて、今度は抵抗できず、ただなるがままに未来は引っ張られそのまま車の助手席に乗せられてシートベルトをつけられて車が出発した

家に着くまでの間、放心状態だった未来はずっと窓の外を眺めていた

外はもう暗くて上を見上げれば綺麗な星が見えそうな気がして、視線を上げてもそこには車の天井しかなかった

そうしているうちに車は家の駐車場に止まっていた。

未来はふらつく足で家に入って自分の部屋に向かおうとした

「ちょっと待って、リビングでお話ししましょう」

断っても無駄だと感じた未来は黙ってリビング行って椅子に座った

未来の向かい側の椅子にお母さんが座った

数秒の沈黙の後、お母さんがゆっくりと口を開いた

「未来..ごめんね、あなたの言うと通りだよ、未来のこと、私ちゃんとわかってなかった、でもね、一つだけわかって欲しい事があるの、未来の事を愛してる。未来のためなら自分の命を投げ打っても良いと思えるくらい未来の事を愛してる」

未来の顔色はずっと暗いままだった

「もう終わり?」

暗い声で尋ねた未来

「そうよ」

その言葉を聞くと未来は何も言わずに立ち上がり自分の部屋に行った

「わかんないなら、ほっといてよ」

その言葉だけを残して未来はリビングから出て行った。

自分の部屋に入ると、ドアを閉めてベットに倒れ込んだ

このまま消えれたらどれだけ幸せか

そんな考えが頭の中をぐるぐると回っている

ふとスマホを手に取りYouTubeを開いた、急に出て来たおすすめ動画が目についた、今まで見た事もないようなジャンルの動画だった

ミュージックビデオのようだが、未来はその曲も歌ってるアーティストの事も知らなかった

何も知らないはずなのに、何故か前から知っている気がした

未来は妙に惹かれてその動画をタップして再生した

「良いな、この曲」

未来はイヤホンをつけてその人の曲を片っ端から聴いた

この人の曲は「死」や「絶望」とか、暗い歌詞が多かった、でもそれは今の未来にとってはすごく心地よくてたまらなかった

我を忘れて無我夢中で聴き続けた。

「未来ごはんできたけど、食べる?」

部屋のドア越しにお母さんの声が聞こえた

未来は無視した、お腹は空いていたけどそれよりこの曲を聴き続けていたかった


気づけば夜は明け、カーテンの隙間から挿す光が顔を照らし未来は腕で目を覆った

「ん、んー」

未来は大きく伸びをして体を起こして、まだうまく開かない目を擦った

「未来ー、朝ごはん食べる?」

未来はお布団にくるまって顔を沈めた

「未来?起きてるの?返事だけ良いから声を聞かせて」
「入って良い?」

未来は何も答えなかった

「未来?入るわよ」

お母さんがゆっくりとドアを開けた

「やめてっ!」

未来はお母さんに向かって勢い良く枕を投げつけた

「未..」

「ほっといてって言ってるでしょ!」

未来は叫んだ

「ごめんね...」

お母さんはそう言ってドアを閉めた


ぴんこん!


スマホの通知が鳴った、海音からだ

「今日学校来る?来るなら家まで迎えに行くよ」

「ごめんね、海音、今は行けそうにない」

「わかった、じゃあ放課後遊びに行って良い?」

「ありがとう、待ってる」

とは言ったものの、果たして私は今海音と会って良いのかわからなかった

「家にも居づらいな」
「久しぶりに会いに行こっかな」

未来は準備をして家を出た。

数時間電車に揺られて着いたのはとある田舎町、前に星を見に来た所だ

でも今日は星が見たいわけじゃない、おばあちゃんに会いに来た

「お久しぶりです、おばあちゃん」

未来は引き戸を開けておばあちゃんに挨拶をした

「あら、この前のお姉ちゃん今日はどうしたんだい?」

「ちょっと...家に居づらくて..」

「そーかい、好きなだけここに居て良いよ」

「ありがとうございます」

未来は端っこの席に座ってスマホを取り出した

"ごめんなさいごめんなさい"

メモアプリに書き連ねた言葉は自責の念ばかりでもっと自分が嫌いになった


「未来!どうしてここに!?」

「瑠夏..」

未来は怯えた顔で瑠夏を見ていた

「ごめんなさい!」

未来は吐き捨てるように言ってお店から出て行った。


走って走って、山を登ってこの前星を見た展望台まで来た

未来は木の陰に隠れるように座って空を見上げた

空はまだ明るくて星なんか見えそうになかった

塞ぎ込むように体育座りをして、泣きじゃくった。

「もう無理だよ」

そう呟いとき

「何が無理なの?」

ちょっぴり天然っぽい質問を投げ返してきた

「瑠夏なの?」

「誰だろうねー?顔を上げたらわかるかもよ?」

煽るように放つ言葉は不思議と嫌な気持ちは感じなかった

「どうして?」

「それも、顔を上げたら教えてあげる」

優しかった、温かった。

それでも未来は顔を上げなかった、どうせ後悔する

自分を信じないから誰も信じれない。

「自分の事を信じてないから誰も信じれないのかな?」

心情を当てられて動揺した

「わかるよ、その気持ち」

急に空気が静まり返った気がした

「あれー、ここに私のじゃないスマホがあるー、なんか海音って人と頻繁にやりとりしてるなー、もしかして彼氏とかかなー?」

「ちょっとやめて!」

未来は反射的に体が動いていた

「やっと可愛い顔が見れた」

「えっ」

笑顔で瑠夏に見つめられて目を丸くした

「ほらっ!」

「あっ!やめて」

不意に瑠夏にスマホを取られて未来は瑠夏に手を伸ばす

「ほら、だ~い好きな海音君からいっぱいLINEがきてるよ~」

笑いながらスマホの画面を見せてきた

"海音さんからメッセージ"

という通知が数件来ていた

「えーっと内容は何かな?」

瑠夏は未来のスマホを開こうとする

(ちゃんとパスコード掛けてるから大丈夫)

そう思っていた未来の考えは甘かった

「パスコードはたぶん..」

そう言いながら瑠夏はパスコードを打つ

「当たった!」

その言葉に未来の心臓はドキッと跳ね上がった、頬が赤くなるのを感じる

「やめて!!」

未来は飛びかかるように瑠夏からスマホを奪い取った

「凛の言う通りだ」

「どういうこと?」

「ううん、何でもない」

「海音のこと好き?」

瑠夏は誤魔化すように話題を変えた

「えっ..と、その....」

うまく言葉にできない未来を見て瑠夏は言った

「素直に"好き"って言えば良いんだよ」

「好き...だよ」

息を呑むように言った

「じゃあ会いに行こう!」

「えっ!!!」

未来は驚く間もなく瑠夏に手を掴まれ歩き出す

「もう..無理だよ」

美来は瑠夏を引き止めるように瑠夏の袖を掴みながら言った

「無理だよ、だって知られちゃったもん。本当の私、汚くて醜くて嘘つきな私。だからもう一緒に居られない」

「代わりになるかわからないけど、本当の私の事教えてあげる」

「見てこれ」

瑠夏は袖を捲って手首の傷跡を見せた

「自分でやったんだよ」

「自分を殺したかった、消したかった」

「どうして?」

「小学生の時に苛められた、怖かった辛かった、ずっと独りだった」

「やめて!」

未来は大きな声を出して無理矢理瑠夏の話を止めた

「辛くなるだけだよ..」

小さな声で未来は呟いた

「とにかく...行こ」

「やめてよ!」

手を引こうとする瑠夏を振り払って未来はポケットに入れていたカッターを取り出して刃を限界まで出して瑠夏の方に向けた。 

震える手を自分の首に近づけた

「ダメだ!」

聞き覚えのある声と共に誰かに抱きつかれた、思わずカッターを地面に落としてしまう

「もう、自分の事を傷つけないでくれ」

未来が顔を上げるとそこには海音の顔があった

「これ以上自分を責めないで、塞ぎ込まないで、全部吐き出せ」

未来を抱きしめる海音の腕はより強くなった

「やめて!!」

未来は勢いよく海音の腕を振り払って思いっきり海音の頬を叩いた

「もう..海音の...ばか..ばか!ばか!ばか!」

右頬、左頬、右頬...

そう叫びながら何度も海音の頬を叩いた

「海音も凛も好亜も瑠夏も..皆んな皆んな大嫌いだ!!」

未来は地面に落ちたカッターを拾おうと走った、でもそれよりも先に瑠夏がそのカッターを拾い上げた

「嘘つき!」

瑠夏大きな声でそう叫んだ

「本当に嫌いなら自分のスマホのパスコードを海音の誕生日なんかにしないでしょ!それにさっき海音のこと"好き"って言ってたじゃん!!」

未来は動けなかった、今すぐにでもカッターを奪い取って自分を殺したいはずなのに。

そのまま崩れ落ちるように地面に座り込んだ

「わかってるよ....そんなこと..」
「でももう無理なんだよ!ありのままでいるのは!私にはもう耐えられない、だから独りで居ることにしたの!なのに!どうして邪魔をするの!どうして...」

未来は座り込んだ状態から今度は両腕を地面につけるようにして蹲った

「ほら、素直に話してごらん」

瑠夏は未来の前にしゃがんで優しく背中をさすってくれた

「す..好きだよ、でも私は好きでいちゃいけないんだよ、だって皆んなに迷惑をかけるから、独りでいなきゃいけないんだよ...私だって独りでいるのは寂しいし悲しいし辛いよ、でも..でもそうしてなきゃいけないから」

未来は泣いていた。

「手を出して」

海音が優しく言った

未来は俯いたまま右手を少し上げた

「よし!」

海音は勢いよく未来の手を引いて未来のことを抱きしめた

「やめてよ、また..戻りたくなっちゃうじゃん、泣きたくなっちゃうじゃん!」

「あったかい」

今すぐにでも突き放したいはずなのに、何故か未来は海音の背中にゆっくり手を回していた。

(今放したら、もう二度とこの温もりを感じれない気がする)

「どうして...」

「大好き」

後ろから瑠夏にも抱きしめられてまた少し心が温かくなった気がした

「吐き出して良いし、泣いて良い、独りになって考えても良い、でも、全部独りで抱え込んで辛くなって耐えられなくなるくらいなら私とか海音とか凛とかに頼って良いんだよ」

瑠夏は優しい強さで未来を抱きしめながら言った

未来は泣いた、いっぱい泣いた。

「もう、わかんないよ。でも大好き」

素直な言葉だった。


しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

百合短編集

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

灰かぶりの姉

吉野 那生
恋愛
父の死後、母が連れてきたのは優しそうな男性と可愛い女の子だった。 「今日からあなたのお父さんと妹だよ」 そう言われたあの日から…。 * * * 『ソツのない彼氏とスキのない彼女』のスピンオフ。 国枝 那月×野口 航平の過去編です。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

処理中です...