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ポンコツAIに続き、ポンコツ人間が増えました
しおりを挟む「で、なんで艦ないのさ?」
「いや~、ちょっとお馬さんと宇宙船がね。なかなか走ってくれなくてさ~」
「馬と宇宙船……って、それ“競馬と宇宙船レース”かよ。アル中のうえにギャンブル中毒とか、完全にダメ人間じゃん」
「いや、違うんだってば。今回はたまたま!たまたま鉄板の馬が故障しちゃってね、それを取り返そうとして宇宙船で一山当てようとして、ちょっとだけ失敗しただけで……」
「“まごうことなきダメ人間”じゃねぇか。それで借金のかたに艦を取られた、と」
「ギルドがね、私の艦を担保に借金肩代わりしてくれたんだけどさ~。なかなかお金がね、返せなくてさ~……」
「ギルドが肩代わりってことはそれなり以上に信用はあるって事だろ?艦返してもらって依頼こなさせてください、で通るんじゃないのか?」
「それがね、大きく稼ぐとまたお酒とギャンブルで使っちゃうから、しばらくは低賃金労働でもして、酒抜いてこいって言われてさ~」
――いつからギルドはダメ人間更生所になったのだろうか。
それともこのダメ人間がそれほど優秀ってことなのか。
「だからさ、ちょっと艦貸してくれない?すぐ返すからさ~」
「何が『だから』だ。貸すわけないだろうが。あんたの名前さえまだ知らないんだぞ。」
「あれ、そうだっけ。あたしはね~、マリナっていうんだ~。これで名前わかったでしょ?艦かして?」
「だれが貸すか!」
そういって俺はシミュレーター・ブースから出て行こうとする。
すると背後から、酒くさい声が追いすがってきた。
「おねがい~!一回、一回だけでいいから。ダメならせめてパイロットとして雇って~!これでもあたし優秀だよ?シミュレーター見たでしょ?安くしとくから。だから助けて~!」
「操縦はうちのポンコツに任せてるからいらない。あなたのこれからのご活躍をお祈り申し上げます。」
そして、トドメ。
「ほら、さっさと離れろ酒臭いんだよ!」
その場に、べちゃりと座り込むマリナ。
「このままじゃ“宇宙クジラ漁”に連れてかれるぅ~……!」
なぜかこっちをチラ見しながら、マリナは両手を顔に当ててワナワナ震えだした。
「むくつけき男たちに、船の上でどうにかされちゃうんだよ~……チラッ」
──うざい。
なんかチラ見のタイミングもわざとらしくて、イラッと来る。
「“人の心”があるなら、助けてくれてもいいじゃんかよ~……チラッチラッ!」
──うるさい。
こっちは“人の心”があるからこそ、関わりたくないんだが。
「どうかなさいましたか?」
──救いの女神が、降臨した。
ギルド受付の制服に身を包んだ、品の良いお姉さん。
さっきまでのカオスに比べて、まぶしいくらいまともだ。
「あ、受付のお姉さん。実はこいつに艦貸してくれって泣きつかれちゃって……」
「──マリナさんっ!!」
突然、ビシィッと怒声が飛ぶ。
受付嬢の表情が、さっきまでの“慈愛の女神”から“雷神”に変貌した。
「“三週間禁酒したら艦は返却します”って、契約書に書きましたよね!?何やってるんです!? というか、なんでお酒飲んでるんですか!」
「うぇ……あ、いや、これは違うんだよ、飲んでない飲んでない、ほらこれ水だから!ウォーター味の酒──あ、違う、水風味の──」
「マリナさんっ!!!」
その一喝に、マリナがビクッと縮こまる。
「禁酒期間中に飲酒が確認された場合、返却延期の条項、覚えてますよね? 本日から“カウントリセット”です!」
「うそぉぉぉおおお!!」
マリナは地面に突っ伏して、まるで天が崩れたかのように嘆き始めた。
さっきまでの“泣き芸”が、今度は“ガチの絶望”に変わっている。
──こうして、ポンコツとは別ベクトルのポンコツとの出会いは、最悪の形で幕を開けたのだった。
「……それにしても」
受付嬢は俺の方にすっと向き直った。
「コウキさん。あなた、マリナさんと知り合いなんですか?」
「いや、知り合いっていうか……たまたま会って、たまたま泣きつかれて、たまたま酒臭くて……」
「なるほど。運が悪かったんですね」
にこりと笑うその表情の奥に、明らかに“業務処理モード”のスイッチが入った気配があった。
「では、こういうのはいかがでしょう?」
「……はい?」
受付嬢は慣れた手つきで端末を操作し、俺のギルド登録情報を画面に表示した。
「あなたは、ユモトインダストリーの推薦を受けたC級艦長。そしてこちらが──」
隣で酒パックを抱えているマリナの情報が展開される。
「元A級艦長。操縦スキルはトップランク。ただし、素行に難あり。艦喪失、借金、禁酒違反」
「“素行に難あり”って……もうちょいオブラートに包むとか無いの!?」
「ありません」
この人、仕事に容赦がない。
「ということで、ギルドとしては“人手不足の新任艦長”と“更生プログラム中のパイロット”を、期間限定でマッチングさせる試みを現在試験運用しております」
「ちょ、ちょっと待て。それってつまり──」
「あくまで実験的措置ですので、契約期間は最短で三週間です」
「三週間!? うちに酒くさい問題児が常駐すんのかよ!」
「君失礼すぎない!? ていうか常駐って言い方やめてくれる!?」
「コウキさんには一定の拒否権がありますが、今回はユモト社からも“人の手による新装備を用いた実戦データ収集の協力要請”が来ておりますので──」
「……つまり?」
受付嬢は、あくまで優しい声で、しかし完全に逃げ道を封じる笑顔で言った。
「──断れません」
「うわぁぁああああ!!」
「やったぁぁああああ!!」
俺の叫びはマリナの歓声にかき消される。
泣き崩れていたマリナが、まるでゾンビのような勢いで立ち上がり、俺に全力で抱きついてきた。
「これで生き延びられる~!ありがとう地味くん!!」
「やめろ、離れろ、臭い! クソ、ポンコツ一体でも手に余るのに、なんでまたポンコツ増えるんだよ……!」
──こうして、俺の艦「ハイペリオン」に、
“期間限定・仮登録パイロット”という名目で、
新たなポンコツが乗り込むことになったのだった。
三週間──絶対に長い。
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