気が付いたら異世界で孤児だったけど、立派な宇宙海賊になってみせます~貧民惑星から始める転生成り上がり銀河無双~

渋谷千立

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にゃんにゃん大混戦!猫vs宇宙海賊!

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ケルベロス・スロット第07観測ステーション内部は、完全にカオスと化していた。

「にゃーん!」

天井裏を縦横無尽に走り抜ける猫《M-22》を、複数の勢力が競うように追いかける。

「待てコラ!」「あの毛玉、絶対捕まえる!」「くそっ、また見失ったか!」

帝国軍の精鋭部隊、ギルド内の別派閥、武装傭兵団、そして無許可の違法海賊――
あらゆる“腕利き”が猫一匹に翻弄され、狭い通路で衝突と怒号が響いていた。

「何やってんだか……」

俺たちはひとまずステーション中層の観測ブロックに身を潜め、現状をモニター越しに見ていた。

『状況を整理します』

アイカが淡々と解説を始める。

『現在、対象《M-22》は第五区画へと移動中。ドローンネットワークを掌握し、偽装ルートを多数作成しています。
さらに、セキュリティシステムへの干渉により、施設内部の重力バランスが崩壊しています』

「だからさっきから廊下がスケートリンクみたいになってんのか」

「つるっ……すべるぅ……!」

キョウカが通路でつるんと滑りながら、なぜか楽しそうに笑っている。

「おい、張り切って追いかけてたのはいいが、大丈夫か?」

「まっかせて! わたし、ネコちゃんの気持ちわかるもん!」

「わかんないでほしいな、それはそれで……」

──その頃、別ルートでは。

「待てやあああああっ!」

異様なテンションで叫びながら、違法海賊の一団がマリナを追っていた。

「ちょっと!? なんで私が追われてるの!? 酒飲んでただけなんだけど!?」

「見てたぞ!ポケットに猫を隠しただろ!」

「酒のパックだっての!! なんで間違えるの!? 色!?」

慌てて逃げるマリナの足元を、ドローンがぴゅんと通過し――突然、床の重力が反転。

「うわああああっ!? 浮いた!? なにこれ!? 重力のばかぁーっ!」

マリナが天井にぶつかりそうになったその瞬間、キョウカが滑り込んでくる。

「まてーっ、ネコちゃーん!」

「いやキョウカ! どっちかって言うと今マリナがヤバい!」

その後ろから、帝国兵と傭兵たちが滑走してきて、見事に人間ボウリング状態に突入。

「ストライクだなこりゃ……」

俺は遠巻きにその惨状を見て、思わず額を押さえた。

──その頃、猫は。

「にゃーん……♪」

研究室の端末に飛び乗り、前足で器用にホログラムを操作。
次の瞬間、廊下中に“ホログラム猫”が無数に出現した。

「増えた!?」「どれが本物だ!?」「AIか!? くそ、やられた!」

「ふふん、本物は――あっち!」

キョウカが即座に一点を指差し、誰よりも早く走り出す。

「な、なんで分かる!?」

「キョウカセンサー!」

「それ説明になってねぇ!」

が、確かにキョウカの進行方向だけは、猫の走行データと一致していた。

「……あいつ、マジで通じ合ってんのか?」

『たぶん野生的な直感ですね。類似の行動パターンを……分析不能』

アイカの無感情な声すら、どこか引きつっているように見えた。

猫《M-22》の捕獲作戦は、もはや“任務”というより、学園祭の大騒ぎじみた様相を呈していた。

――俺たちは気が付かなかった。猫が目的をもって移動していることに……



〈ケルベロス・スロット第07観測ステーション・第3観測通路〉

「いたッ! 猫、発見ーっ!!」

マリナが勢いよく角を曲がった先、そこには――
悠々と歩く、毛並みふわふわな白い猫の姿があった。

「へっへー、ようやく見つけた!お兄さん、ちょっとだけ抱っこさせてくださーい!」

完全にテンションが上がっている。すでに手にはなぜかパック酒。

「よーし……おいでー、ねこちゃーん……」

猫は、くるんと振り向くと「にゃあ」と一声鳴いた。

「かわいすぎか! よしっ、今だっ!」

マリナがダッシュで駆け寄る。

しかし――

「……スカッ」

通り抜けた。

「……え?」

背後に誰もいない。足元にもいない。

猫は、すぐ隣の壁からまた現れて、ちょこちょこと通路を横切っていった。

「え? え? 分身の術!? どゆこと!?!?」

『マリナさん、それ――ホログラムです』

アイカの冷静な声が通信越しに届いた。

『現在ステーション内部では、M-22による幻影ホログラムが最低23体展開されています。分析中ですが、どれも非常にリアルです』

「23体!? え、私いままで……あれも……それも……」

マリナが壁に手をついて、膝から崩れ落ちた。

「酒のせいじゃなかった……! 本当に見えてたんだ……!!」

「そっちじゃない意味で現実を疑ってたのか」

俺が呆れ気味に通信を入れると、マリナがパック酒を力強く吸い込む音が聞こえてきた。

「やってらんないってば……! こちとら猫に全力だったのに!」

「マリナおねえちゃん、おいかけっこしてたの、ぜんぶまちがい!」

キョウカがどこかから嬉しそうに叫ぶ。

「うるさーい! アンタは猫と以心伝心してるからズルいのー!」

通路の奥では、また1匹の猫がくるんとこちらを見て――

「にゃっ♪」

走り出す。

「本物か偽物か知らんけどっ……今度こそ!!」

パック酒を放り捨て、マリナが再びダッシュする。

そして――またもや壁をすり抜けて、転がる。

「ぶべっ!」

「マリナさん、5体目のホログラム通過です。お疲れさまでした」

「もうやだああああああああああああ!!」



〈ケルベロス・スロット第07観測ステーション・メインサーバールーム前〉

猫《M-22》が入口の前で立ち止まると、不意に周囲のホログラム群が一斉に消え去った。
「にゃーん?」と首をかしげる猫を、キョウカがすかさず捕まえにかかる、が逃げられる。

「やっぱり、ここがネコのもくてきち!」

扉のロックが外れ、猫は中に飛び込む。

すると突然、室内の端末が起動し、無数のホログラム猫が出現!
「にゃーんにゃーん!」と大合唱しながら、俺たちを囲い込む。

「……くそっ、またかよ!」

「ホログラム、さっきとは違う!数が倍増してる!」

「マリナ、今度は飲むなよ!」

「へーい、今度は見極めるから!……たぶんね?」

「これがほんもの!つかまえた!」

緊張と笑いの入り混じった空気の中、キョウカは猫をぎゅっと抱きしめる。

「にゃー……」

「……よし、これで捕獲完了だ!」

その瞬間、端末が警告音を鳴らし、施設全体の重力が逆転し始める。

「うわああああ!またか!」

「重力のばかぁーっ!」
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