悪魔と呼ばれる辺境伯様の溺愛が原作世界を壊す

千見るくら

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第2章 悪役の令嬢

22.破壊神、ふたたび。

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あれからというもの、シルヴァンの態度が一変した。

「シェリー、おはよう」
「シェリー、今日の予定は?」
「シェリー、今日も酷い顔をしているぞ」

上から、本音、本音、呪いです。

(めちゃくちゃ話しかけてくる!!)

今までの寡黙さはどこへ行ったのか。
抑え込んでいた感情を一気に解放したシルヴァンは、
朝の「おはよう」から夜の「おやすみ」まで、人が変わったように話しかけてくるようになった。

「今日のドレス、似合っていない」
「シェリーと一緒にいると、つまらない」
「何度見ても、この世で一番醜い女だ」

会話のうち、七割は罵倒であるのは残念だが。

しかもたまに、心臓をえぐるようなパワーワードが飛んでくる。
が、三秒後には真逆の意味で、さらに深く胸をえぐられる。
まるで時限爆弾である。

(分かっているとはいえ……朝から晩まで、情緒がジェットコースターなんだけど……)

誉め言葉だけがピンポイントで裏返るのが、悔しい。
けれど、それが「心からそう思っている証拠」だと分かってしまうと、愛らしい。

私はシルヴァンに見えない角度で、そっとため息をついた。

当の本人は、明るい表情で朝食を口に運んでいる。
言葉にできることが、よほど嬉しいのだろう。以前よりも、ずっと表情が柔らかい。

(……ニコニコしちゃって、まあ……)

可愛いったら、ありゃしない。

ふと、視線が合う。
ふわりと向けられる笑顔。

不覚にも胸が跳ねて、顔が熱くなる。

(ただでさえ顔がいいのに、その表情は反則でしょ……)

恥ずかしくなって視線を逸らすと、
シルヴァンの背後で控えている使用人たちと目が合った。

にこにこと、私たちの様子を見守っている。
エマに至っては、あふれる感情を抑えきれず、だいぶ面白い顔になっていた。

あの晩以降、使用人たちはずっとこんな調子だ。

「屋敷中が、愛に満ちているねえ。俺も嬉しいよ」

「喜んでもらえるのはいいんですけど……さすがに気まずいというか、恥ずかしいというか」
「まあ、あんなにニコニコされちゃあねえ」
「……はい」

ため息まじりに答えた、そのときだった。

一拍遅れて、違和感に気づく。

慌てて声のした方を見ると、見覚えのあるオレンジ色が視界に飛び込んだ。

「よっ」
「!?!?」

いつの間にか、人が私のすぐ後ろに立っていた。

驚いて、手に持っていたフォークを落としかける。
が、その前に、ひょい、と空中で受け止められた。

「危ない危ない」

「ソナ!!」

ガタリ、と椅子を引く音と、
シルヴァンの声が重なったのは、ほぼ同時だった。

「お前、どうやって入って来た!」
「何言ってんだよシルヴァン。ちゃんと門くぐって、入り口からに決まってるだろ☆」
「そういうことじゃない! 人の屋敷だぞ、もっと自由に出入りしてくれ」(※勝手に出入りするな!)
「はは、また言葉裏返ってるぞー。ありがとうなー」
「~~~~~っ」

呪いが発動し、シルヴァンはそれ以上言葉を続けられず、深く息を吐いた。
一方、ソナは相変わらず愉快そうにへらへらしている。

「ソナ、シルヴァンを虐めないでください」
「おや。様付けはやめたのか? 随分、距離が縮まったじゃない」
「それは……まあ」
「やるね~、シルヴァン」

「ソ・ナ!!」

破壊神は、ムードまで破壊するらしい。

さっきまでの甘い空気はどこへやら。
気づけば、またギャグ漫画のテンポに引き戻されていた。
ここは異世界恋愛ジャンルです。本当にやめてほしい。

「香油はこの前渡しただろ。何しに来たんだ」
「お前さ、なんでそんなに俺にトゲトゲしいわけ?」
「自分の行動を振り返ってみろ!」

大体想像がつく。
自由奔放なこの男に、振り回されるシルヴァンの姿が浮かぶ。 

それでも本気で追い返そうとしないあたり、
シルヴァンにとってソナは、それだけ気心の知れた存在なのだろうが。

「用もなく、朝から人の屋敷に来ることはないでしょう。
 何かあったのですか?」

私がそう尋ねると、
ソナは一瞬、言葉に詰まったような顔をした。


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