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『春子のタイムリープ大作戦』
しおりを挟むあの三人は売店に行ったはずだったのに、角を曲がったところで座り込み待っていた。どうやらこちらを覗いていたようだ。
一部始終をしっかり見ていたようで、『なぜ、あの!入学式で学年の女子の8割のハートを盗んだと言っても過言ではない、B組のプリンス浅田斗真に冷たくするのか!?それがテクニックなのか!?それが貴様のやり方か!?』と、敏腕刑事三人組に昼休憩いっぱい尋問される羽目になった。
結局「昔の好きな人に似ていて、嫌なことを思い出すから話したくないだけ」と返事をしておいた。
嘘ではない。
斗真のことは、まだ好きだ。けれど、同じぐらい、憎くて憎くてたまらない。そんな自分を感じるのが今は辛いのだ。
好きな気持ちか、憎む気持ちか、どちらかが無くなるか落ち着くまでそっとしておくぐらいいいじゃないか。
この、夢なんだか超常現象なんだか神様お星様のボーナスステージかわからないが、せっかくやり直すチャンスが目の前にあるのだから一度目と同じことをしてはいけないのだ。
「やり直すチャンス……」
「星野さん、独り言激しいね」
放課後になった。
朝に入部したてホヤホヤなので今回は堂々と『星座研究部』へ訪れ、朝と同じ席に着席し、特にやることも無いので授業の復習と予習をしている。
高1初期のやることなんて中学のおさらいだからと舐めていたが、忘れている部分があり冷や汗をかいた。
そしていつの間にか着席して勉強を始めていた先輩に独り言を聞かれてしまったのだ。
「独りだと思ってたので……」
「勉強してたんだよね……?」
「そのつもりだったんですけど、いつの間にか意識が宇宙へ」
「ここは星座研究部だから、間違いではないのかもね」
先輩は軽い調子で返事をするが、視線はテキストから外さない。呪文を書き連ねる手をぼーっと眺める。
「先輩は超常現象とか、タイムスリップ?タイムリープ?を信じますか?」
「映画の話?」
「じゃあそういうことにしておきましょう」
「完全に勉強するつもりないでしょう……」
先輩の大きな手を見ながら、"映画の話"としてこの現象を話すことにした。
お星さまにお願いをしたら、過去に戻ってしまったということ。
それは、私の行動次第で一度目と流れが変わってしまうこと。
もしかしてこれは夢なのか、それとも"戻る前"の方が夢で現実に戻ってきたのか……
いつの間にか先輩の手はペンを置き、あの紺色の瞳は私の方を見ていた。
「なるほど。それで、どうなるの?」
「どうなる、とは?」
頭を右に傾ける。
「その主人公はその不思議な現象に対して何かするの?」
「何か、とは?」
頭を左に傾ける。
私のポカーンとしたマヌケな顔を見て、先輩は少し呆れた顔をした。
あ!そんな表情もするもね!
「映画の紹介、下手すぎるだろ……気になるじゃないか。タイトルは?」
ぐいっと前のめりで詰め寄る先輩。
「え……タイトルですか?えーー……『春子のタイムリープ大作戦』とか?」
また新しい先輩の様子にテンションが上がり、上がったついでに適当につけた即席タイトルを教えてあげる。
「春子って君の名前じゃないか」
「え、覚えていてくれたんですか」
これは地味に嬉しい。
人とあまり馴れ合わない(先輩の普段の生活は知らないけど)動物が、飼育員(私)のことだけは憶えていたような、ハートフルな気分である。そういうジャンルの映画は見たことなかったが、良いかもしれない。これは心に来る。グッと来る。
「……まぁ。いや、そこじゃなくて、そんなマヌケなタイトルなの?SF?邦画?」
先輩は意外と映画好きらしい。
憑りつかれたかのように集中していたテキストを放り出して、スマホで検索を始めてしまった。
勝手に先輩はスマホを持っていないと決めつけていたから、驚いた。
先輩の手の中にスマホがあると普通より小さく見える。
とりあえず、先輩のスマホに私のスマホをゴチゴチ当ててアピールし、連絡先を交換することが出来た。「タイトルを思い出したら、すぐ教えて」とのことだった。
「じゃあ、先輩は猫を見つけたら写真撮って私に送ってください」
「猫?なんで?」
「動画でもいいです」
「……好きなんだね」
「はい。好きなんです」
「猫とか犬の映画って需要あるのかなって思っていたけど、君みたいな人が見るのかなぁ」
つい先ほど、そういうハートフル物語に目覚めたばかりなので全然ありです。それから先輩は映画の話を熱く語っていた。
そんなに映画が好きなのか。
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