異世界はつらいよ~この聖剣が目に入らぬか!~

コーヒー牛乳

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神様仏様サンタさんとにかく誰か本当にお願い早く来てー!!

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「私もそう思って!女を殴る奴なんて最低って殴り返してやったの!しつこく追いかけてくるから、ここに匿って」

狭い木造アパートの底冷えするダイニングに、妙に軽快な親友の声が響いた。

念のために言うが、我が家は鉄壁の要塞でも、オートロック付きのマンションでは無い。
ガードマンはいないし、私も強靭な鋼の肉体を持ったマッチョではない。

ピザ屋のチラシが入り放題の野ざらしポストと、昔ながらの木目シートが貼られたドア一枚と、中には米五キロをスーパーから持って帰るだけで疲れて眠くなってしまう貧弱な独身女性、つまり私がいるだけである。

 色々と突っ込むことが多すぎてポカーンと親友の顔をまじまじと見返していると、ズザッズザッと重い足音が聞こえた。まさか、と血の気が引く。
 野ざらしポストがガコンと派手な音を立てた。ポストが殴られたか蹴られたのかもしれない。お前の運命はこうだ、と言われているような恐怖に体が縮こまった。
 渦中のユミにもしっかり聞こえていたのか、泣きそうな顔で私の背中にしがみついた。泣きたいのはこっちだ。

 でも。ユミの震えを感じ、足に手に力が入る。昔から私はなぜだか頼られると頑張ってしまう性格なのだ。どんなに無理そうでも、頼られたら黙ってはいられないのだ。自分でも損な性格だと思うけれどもしょうがない。

「だ、大丈夫。ポストにも表札にも名前出てないし……!」

 ユミを安心させようとしている風で自分にも言っているが、やっぱり怖くて小声になってしまう。

「えっ、でもタカシ、リオの部屋知ってるよ⁈」

 バァン‼ 部屋の扉が殴られたか蹴られたのか、派手な音がなった。もちろん、我が家の部屋の扉である。なぜタカシ(タカシって言うんですね。知りませんでした)は私の部屋の場所を知っているのかなんてことを聞く暇も無い。ここで突っ立っていたら私はユミの目の前で3分クッキングの「次はこのようになります」のお手本の見せしめにされてしまう。

 ポスト→玄関扉→私の順に見せしめられてしまうに違いない。

 急いで極狭家賃月額3万木造アパートの一口コンロキッチンにある武器を手に取った。
 包丁は過剰防衛だとか、逆に取られて武器にされてしまうと聞いたことがあるので、そこらへんにあった雑巾に包んで冷蔵庫に隠した。
 あわあわ慌てた私は、いにしえの不良はお腹に少年ジャ●プを仕込むという先人の知恵を活かし、お腹を守るためエプロンのフロントポケットに鍋の蓋を仕込み、塩のポットから塩を手に握りこみ(小脇に抱えていたもので)、お玉を構えた(そこにあったから)

 お察しの通り、パニックになっている。
 いくら頼られて奮い立っていても、こういう荒事の経験はないのだ。

 そうこうしている間に、無残にも扉を突破され(というか鍵が閉まってなかった。なんで????)木製アパートの特性を生かし「火事だーーーーー‼」と叫んだ。
この情けない叫び声を聞いた他の住民が来てくれるか、助けを呼んでくれるだろう。消防士か警察か強そうな人でお願いします。呼んでほしい。来てほしい。助けて‼

悲しいかな、この街では「誰かー」「警察呼んでー」では誰も様子を見に来ないのだ。みんなも覚えておいてね!
「火事だ!」は絶対誰か見に来るから!!だからお願いします神様仏様サンタさんとにかく誰か本当にお願い早く来てー!!

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