異世界はつらいよ~この聖剣が目に入らぬか!~

コーヒー牛乳

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無残にもつぶれたジャガイモ

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 我が家に土足で入ってきた暴力男(タカシとやら)は目に見えて興奮していた。
 玄関の横の壁にぶら下げていたジャガイモや玉ねぎが落ちて無残にも踏まれつぶされる。ああああ私の野菜たちが!!!

ショックを受けている私には目もくれず、後ろで震えるユミしか見えていない。

「……タッタカッカシさんですか? 初めまして。私、ユミの──」
「ユミ、もう帰ろう。今なら許すから」

無視である。噛んでしまったことすら無視である。あなたが突破した扉や、今土足で上がっている部屋の名義人である私を無視である。
ユミに優しそうな声で語りかけているが、どこの世界のどなたがそんなセリフを信じるというのだ。行動とセリフが合っていない。

「ほんとにしつこい!もう終わったんだから帰って!今まで付き合った彼氏の中で最低最悪。付き合ってたって皆に言わないでよね。顔も見たくない!ね、リオ!」

ユミはなぜかこの状況で煽り始めた。なぜだ。ちゃんと見て?あなたが今、盾にしているのは強靭な鋼の肉体を持ったマッチョじゃないよ?部屋着にエプロンをつけた、ひ弱な独身女性よ???

「リオぉ……? お前かよ、いつもいつもユミに電話かけてきやがって、女が夜に呼び出すなんておかしいだろ、ヤリマンがユミを巻き込むなよ‼」

暴力男は目標物の前に立ちはだかる私をどかそうと、エプロンごと胸倉を掴んだ。
暴力男の言葉に驚いていたら反応が遅れてしまった。いつもユミから連絡があるので私からは電話をかけないし、ましてや夜に呼び出した覚えなんてない。あと念のために言っておくが、私は一人としか付き合ったことがない。なんのことだと聞き返す時間もない。
自分よりも大きな男性──圧倒的に敵わなそうな相手の暴力ほど怖いものはない。

「まっ、巻き込まれているのはこっちの方よ!暴力をふるうやつなんて最低!」

もう私を動かしているのは頼られたという使命感からなのか、恐怖から逃げたいという本能なのか、とっさに暴力男の顔面に向かって塩を投げつけた。その拍子に、つま先立ちになるぐらい胸倉を掴みあげていた手が緩んだところに横からお玉を振り回した。

たたらを踏んだ暴力男は極狭アパートの壁にぶつかったのか、足を滑らせたのか派手な音を立てて転び、寝転がってしまった。
何が起きたのか把握するまで数秒。
動かない暴力男。
足元には無残にもつぶれたジャガイモたち。

呆けた数秒後。近くに転がっていた無事なジャガイモを、寝転がったまま動かない暴力男に投げつけてもピクリとも動かない。近づいて見れば、頭から血が出ていた。

──もしかしたら、私。お玉で人を殺めてしまったかもしれない。

血の気が引いたのか、貧血なのか、体が落ちていく浮遊感を感じ、その次にくるだろう衝撃を予測して体を固くさせた。
エプロンの肩ひもを一層強い力で引く力を感じ、目を開ければ舞台役者か何かの集団がこちらを見て驚いていた。

 これが異世界転移する前の話。これからが転移後の話。
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