終末レンタル家族

井上シオ

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第2章:ほころびの家

第12話「名前を取り戻す作戦」

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 翌朝、ヒカルはナオトたちの仲間と共に、古びた地図の上に身を乗り出していた。
 そこには、巨大な建物の構造が記されていた。

 【中央記録管理庁舎】――通称、「箱庭(はこにわ)」。
 国が“理想の家族”制度を動かすための、あらゆる記録と判断を一括管理する中枢施設。

 そこに、ヒカルの“母の名前”は消された。
 同時に、“消された家族たち”の痕跡も、すべてそこに集められている。
 

「ここに入るには、3つの壁を超えなきゃならない」

 ナオトが言った。地図を指差しながら説明を続ける。

「第一は、外周監視ドローン。夜間にしか目の隙がない」
「第二は、生体認証のゲート。正規の市民番号が必要になる」
「そして最後の第三が……削除記録保管層。
 そこに辿り着けるのは、内部コードを持つ“登録者”だけだ」
 

 ヒカルは小さく息を呑んだ。

 自分はまだ、制度の中に“家族登録”されている身だ。
 解除申請は出したが、処理はまだ完了していない。
 それを利用すれば――少なくとも“登録者”として、一度だけゲートを通ることができる。
 

「……行けるよ。俺なら」

 そう言ったヒカルの声に、場が静まった。

 ナオトが静かに頷く。

「いいか、ヒカル。
 これは、“記録”を取り戻す戦いだ。
 でも、それだけじゃない。
 君がそこに踏み込むってことは、“制度そのもの”に質問するってことでもある」

「――“家族とは何か”を、直接問いかけるんだ」
 

 その言葉が、ヒカルの胸に刺さった。
 制度が与えてくれたものは、確かに安心だった。
 あたたかさも、笑顔もあった。
 けれど、名前を呼ばれることも、心を見つめ合うこともなかった。

 母だけが、それをしてくれた。
 だから、あの人を、取り戻したい。
 

 「必要なのは、ただひとつ」

 ナオトが言う。

「本物を選び取る、覚悟だけだ」
 

 その夜、準備が整った。

 ヒカルは、最低限の荷物と、胸の中に強くしがみついた名前を連れて、
 おもちとともに暗い道を進む。

 ナオトが手渡してくれた偽装IDは、“制度登録下の少年”としての身分をそのままにしていた。
 削除申請が完了する前の、ほんの短い猶予。
 それが、この作戦の鍵だ。
 

 高層ビル群の奥。光のない区画。
 中央記録庁――“箱庭”がそびえ立っていた。

 完璧に磨かれたガラス壁。
 入口に配置された無人受付装置。
 その奥に、重厚な自動ゲートが待ち構えている。
 

 ヒカルは、ゆっくりと一歩、踏み出す。

 その背中に、おもちのぬくもりが寄り添う。
 

 ドアが音もなく開いた。
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