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第3章:幸福プログラム
第25話「壊れた家族たちの晩餐」
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その夜、ヒカルは見慣れないメッセージをスマホで受け取った。
《“記録されなかった家族”の晩餐にご招待します。場所:旧市街 第四集会所》
一瞬、悪戯かと思った。
でも、差出人欄に見覚えがあった。“ナオト”――彼が残していった唯一の痕跡だ。
翌日、ヒカルは律子に嘘をついた。
「ちょっと学校の集まりがあって……遅くなるかも」
「気をつけてね。暗くなったら、おもちと一緒に帰ってきなさいよ」
ヒカルはおもちをバッグに詰めた。
「お前も、見た方がいい気がするんだ」
旧市街。もう誰も住んでいない住宅地の一角に、かつて集会所と呼ばれていた建物がある。
入り口には灯りがともっていた。ドアを開けると、静かな空気と、ほんのりとした食事の匂いが流れてきた。
「ヒカル、来たんだな」
ナオトが、笑っていた。あのときと同じ、優しい顔で。
けれどその隣には、見たことのない大人が何人もいた。
若い女性。年配の男性。小学生くらいの兄弟。
その全員が、どこか“ぼんやりとした目”をしていた。まるで、今ここに存在していないような。
「……みんな、“レンタルが終了した”人たちだよ」
ナオトの声は静かだった。
「制度では、“契約終了”と呼ばれるけど、本当は、“家族の記憶ごと削除された”人たちさ。
でもね、誰かの心に残ったままだと、完全には消えないことがあるんだ」
誰かが皿に盛りつけたカレーを運んでくる。
「食べよう。これは“誰かのために作った料理”だから、きっとあたたかい」
ヒカルはおもちをそっと膝に乗せて座った。
スプーンを口に運んだ瞬間、不思議な味が広がった。
家庭の味……でも、どこか“誰かの記憶”の奥にあるような、曖昧でやさしい味。
ナオトが言った。
「本物の家族って、“誰かを思って作ったご飯”とか、“その人のことを考えた嘘”とか、
そういう見えないやりとりの中にしか残らないんだ」
ヒカルはゆっくり頷いた。
「……でも、制度はそれを記録しない」
「だから僕らは、名前も存在も、“無かったこと”にされた」
ヒカルはふと思う。
もし、あのとき律子を“本物じゃない”と切り捨てていたら――
この人たちと同じように、記憶の隙間に埋もれていたのかもしれない。
「ねえ、おもち」
膝の上のおもちが、ぽすん、と軽く揺れた。
「……俺、もう一回、自分の家族のこと、ちゃんと信じてみようと思う」
ナオトが微笑んだ。
「ヒカルがそう思ってくれて、よかった」
そのとき、おもちの目が一瞬、光った。
誰にも気づかれない、小さな記録サイン――“家族の選択”が、保存された合図だった。
《“記録されなかった家族”の晩餐にご招待します。場所:旧市街 第四集会所》
一瞬、悪戯かと思った。
でも、差出人欄に見覚えがあった。“ナオト”――彼が残していった唯一の痕跡だ。
翌日、ヒカルは律子に嘘をついた。
「ちょっと学校の集まりがあって……遅くなるかも」
「気をつけてね。暗くなったら、おもちと一緒に帰ってきなさいよ」
ヒカルはおもちをバッグに詰めた。
「お前も、見た方がいい気がするんだ」
旧市街。もう誰も住んでいない住宅地の一角に、かつて集会所と呼ばれていた建物がある。
入り口には灯りがともっていた。ドアを開けると、静かな空気と、ほんのりとした食事の匂いが流れてきた。
「ヒカル、来たんだな」
ナオトが、笑っていた。あのときと同じ、優しい顔で。
けれどその隣には、見たことのない大人が何人もいた。
若い女性。年配の男性。小学生くらいの兄弟。
その全員が、どこか“ぼんやりとした目”をしていた。まるで、今ここに存在していないような。
「……みんな、“レンタルが終了した”人たちだよ」
ナオトの声は静かだった。
「制度では、“契約終了”と呼ばれるけど、本当は、“家族の記憶ごと削除された”人たちさ。
でもね、誰かの心に残ったままだと、完全には消えないことがあるんだ」
誰かが皿に盛りつけたカレーを運んでくる。
「食べよう。これは“誰かのために作った料理”だから、きっとあたたかい」
ヒカルはおもちをそっと膝に乗せて座った。
スプーンを口に運んだ瞬間、不思議な味が広がった。
家庭の味……でも、どこか“誰かの記憶”の奥にあるような、曖昧でやさしい味。
ナオトが言った。
「本物の家族って、“誰かを思って作ったご飯”とか、“その人のことを考えた嘘”とか、
そういう見えないやりとりの中にしか残らないんだ」
ヒカルはゆっくり頷いた。
「……でも、制度はそれを記録しない」
「だから僕らは、名前も存在も、“無かったこと”にされた」
ヒカルはふと思う。
もし、あのとき律子を“本物じゃない”と切り捨てていたら――
この人たちと同じように、記憶の隙間に埋もれていたのかもしれない。
「ねえ、おもち」
膝の上のおもちが、ぽすん、と軽く揺れた。
「……俺、もう一回、自分の家族のこと、ちゃんと信じてみようと思う」
ナオトが微笑んだ。
「ヒカルがそう思ってくれて、よかった」
そのとき、おもちの目が一瞬、光った。
誰にも気づかれない、小さな記録サイン――“家族の選択”が、保存された合図だった。
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