終末レンタル家族

井上シオ

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第4章:母の痕跡

第32話「家族センター侵入」

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ヒカルは、ノートをバックパックにしまい、住宅街を走っていた。

目的地は「家族センター」。
レンタル家族の管理と更新を担う中枢施設。
そこには、すべての“家族データ”が保管されているはずだった。

本物の母、浅葉結花を見つけるためには、そこしかなかった。

センターは郊外の丘の上にあった。
周囲は柵で囲まれ、「関係者以外立入禁止」の看板が並ぶ。

「入れるわけないよな……」

一度立ち止まりかけたヒカルの肩に、小さな重みが乗った。

「……おもち?」

いつの間にか、ペットロボットの“おもち”がついてきていた。
もぞもぞと前足でヒカルのバッグを引っ張る。

「……お前、まさか……」

おもちの背中から、小さなICカードが出てきた。
そこには微かに擦れた文字が浮かんでいる。

【管理端末 No.7】浅葉 結花

ヒカルは息を呑んだ。

「母さん……これ、母さんの……?」

おもちはぴょこぴょこと頷いたように見えた。

カードを握りしめ、ヒカルは裏門のセキュリティにかざす。
──ピッ。
一瞬の間のあと、ドアが開いた。

「……マジで、入れた……!」

中は静かだった。無機質な廊下。白い光。
人の気配がないのが、逆に不気味だ。

おもちは慣れたように先を歩いていく。

「おもち、行き先がわかるのか……?」

まるで“母に会わせよう”としているかのようだった。

地下フロア。廊下の奥に、一枚だけ重厚なドアがあった。
そこにはプレートが掲げられていた。

【被保管対象:浅葉結花】

ヒカルの手が震える。

本当に、母さんがこの向こうに?

しかし、ドアは開かなかった。
今度はカードだけでは足りなかった。

「……パスコード?」

おもちが、再びバックパックを引っ張った。

ノート。

──最後のページに、メモのような走り書きがあった。

「ヒカルの誕生日と、私の旧姓。忘れたくないもの。」

ヒカルは思い出す。母の誕生日。父と結婚する前の名前。

「0314…Kirisawa」

手元の端末に打ち込む。

──アクセス承認。

鍵が解除される音がした。

ドアが、静かに開いていく。

白い光。モニター。チューブ。
その中心に、ひとりの女性が、眠るように横たわっていた。

髪は伸び、頬はやせ細っていたが──
間違いなかった。

「……母さん……!」

ヒカルは駆け寄ろうとする。

だがそのとき、背後で警報が鳴り響いた。

「侵入者を確認──隔離措置を実行します」

無機質なアナウンスが、響き渡った。
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