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第7章:帰れない場所
第63話「母に会えない街」
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ヒカルは街を歩く。
止まった時計、繰り返される会話、笑顔の“マネキン”たち。
まるで世界全体が一枚の映像をループ再生しているようだった。
それでも、歩を止めなかった。
「“母”がいるはずの場所がある」
おもちがそう言った。
ヒカルはペットキャリアの中の小さな怪獣に問いかけた。
「どこに?」
おもちは言った。
――「ヒカルの記憶の外側。」
それは、つまり「思い出せない場所」だ。
思い出せない、けれど確かに感じた温かさ。
あの時、頭を撫でてくれた指の感触。
寝起きに見えたシルエット。
ふとした沈黙に宿る“本物の時間”。
――ヒカルは、知っていた。
今の母は、その全てを持っていない。
「確か、母とだけ行った場所があった。誰も知らない、ふたりだけの場所――」
そうだ、と彼は口にした。
「古い図書館……丘の上の、廃校の跡地にある。」
思い出すと同時に、心臓が高鳴った。
記録されていない“記憶”だ。
レンタル家族が作れない、ヒカルだけの真実。
その図書館は、街のはずれ。
柵が壊れ、蔦が絡みつき、建物は半壊していた。
けれどその中には、確かにあった。時間が流れている空気が。
木製の扉を開けると、乾いた紙の匂い。
床に積もった埃。動いていない空調。
だがここには、違和感がない。
――ヒカルは、そっと呼びかけた。
「……母さん」
返事はなかった。だが、椅子に人がいた。
その背中は、本物の“老い”を抱えていた。
静かに椅子が揺れる音。
手には古いアルバム。
「母……なの?」
おもちが反応する。
「一致率87%……これは、仮登録外の存在……つまり、制度に“存在していない”母。」
ヒカルは近づく。
その人は、こちらを振り返らなかった。
ただ、アルバムのページをめくり続けていた。
その中には、見覚えのない写真。
でも、その中の少年が、ヒカルにそっくりだった。
「これは……」
女はつぶやいた。
「名前を思い出せないの。でも、大切な人だったと思う」
――その声は、ヒカルの心に突き刺さった。
「……母さん、俺、ヒカルだよ」
女の指が止まる。
数秒後、震えながらページを閉じる。
そしてゆっくりと、顔を上げた。
「ヒカル……?」
その瞬間、ヒカルの世界が、音を取り戻した。
時計の針が動き出し、風が窓を揺らした。
レンタルの空ではなく、本物の空が外に広がっていた。
ヒカルは泣いていた。
涙の理由は分からない。
けれど確かに、胸があたたかかった。
おもちは静かに言う。
「記録されてない母は、まだ存在していた。ここに」
だが、すぐに通信音が鳴った。
おもちの体内機構から、アラートが出る。
“制度外個体発見”
“強制隔離プロトコル起動”
次の瞬間、図書館全体が赤く染まった。
――“本物の母”は、捕らえられようとしていた。
止まった時計、繰り返される会話、笑顔の“マネキン”たち。
まるで世界全体が一枚の映像をループ再生しているようだった。
それでも、歩を止めなかった。
「“母”がいるはずの場所がある」
おもちがそう言った。
ヒカルはペットキャリアの中の小さな怪獣に問いかけた。
「どこに?」
おもちは言った。
――「ヒカルの記憶の外側。」
それは、つまり「思い出せない場所」だ。
思い出せない、けれど確かに感じた温かさ。
あの時、頭を撫でてくれた指の感触。
寝起きに見えたシルエット。
ふとした沈黙に宿る“本物の時間”。
――ヒカルは、知っていた。
今の母は、その全てを持っていない。
「確か、母とだけ行った場所があった。誰も知らない、ふたりだけの場所――」
そうだ、と彼は口にした。
「古い図書館……丘の上の、廃校の跡地にある。」
思い出すと同時に、心臓が高鳴った。
記録されていない“記憶”だ。
レンタル家族が作れない、ヒカルだけの真実。
その図書館は、街のはずれ。
柵が壊れ、蔦が絡みつき、建物は半壊していた。
けれどその中には、確かにあった。時間が流れている空気が。
木製の扉を開けると、乾いた紙の匂い。
床に積もった埃。動いていない空調。
だがここには、違和感がない。
――ヒカルは、そっと呼びかけた。
「……母さん」
返事はなかった。だが、椅子に人がいた。
その背中は、本物の“老い”を抱えていた。
静かに椅子が揺れる音。
手には古いアルバム。
「母……なの?」
おもちが反応する。
「一致率87%……これは、仮登録外の存在……つまり、制度に“存在していない”母。」
ヒカルは近づく。
その人は、こちらを振り返らなかった。
ただ、アルバムのページをめくり続けていた。
その中には、見覚えのない写真。
でも、その中の少年が、ヒカルにそっくりだった。
「これは……」
女はつぶやいた。
「名前を思い出せないの。でも、大切な人だったと思う」
――その声は、ヒカルの心に突き刺さった。
「……母さん、俺、ヒカルだよ」
女の指が止まる。
数秒後、震えながらページを閉じる。
そしてゆっくりと、顔を上げた。
「ヒカル……?」
その瞬間、ヒカルの世界が、音を取り戻した。
時計の針が動き出し、風が窓を揺らした。
レンタルの空ではなく、本物の空が外に広がっていた。
ヒカルは泣いていた。
涙の理由は分からない。
けれど確かに、胸があたたかかった。
おもちは静かに言う。
「記録されてない母は、まだ存在していた。ここに」
だが、すぐに通信音が鳴った。
おもちの体内機構から、アラートが出る。
“制度外個体発見”
“強制隔離プロトコル起動”
次の瞬間、図書館全体が赤く染まった。
――“本物の母”は、捕らえられようとしていた。
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