終末レンタル家族

井上シオ

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第7章:帰れない場所

第66話「人間のような妹」

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夕暮れ。
ヒカルは崩れた図書館の一角で、妹・ミオと向き合っていた。

「ねえ、ヒカル兄……」
ミオはおもちを膝に抱えたまま、ぽつりと言った。

「わたし……人間に、なれたかな?」

ヒカルは言葉を失った。
ミオの目は、以前よりもずっと人間らしく揺れていた。

篠田との対決から数日。
暴走したレンタル家族たちは、一斉に“再構成”された。

だが、ミオはなぜか処理されなかった。
彼女はヒカルの部屋に残ったまま、今日も朝食を作り、宿題をして、話しかけてくる。

あまりにも“普通の妹”すぎて、ヒカルは時折、混乱した。

「なれたもなにも……お前は最初から、ミオだよ」
ヒカルが言うと、ミオは俯いて、微笑んだ。

「ねえヒカル兄、ひとつだけお願いがあるの」
「……なんだ?」

ミオは、おもちをぎゅっと抱きしめた。

「わたしが壊れるとき、ちゃんと“ミオ”って呼んでほしい」
「……どうしてそんなこと言うんだよ」
「ううん、なんとなく。でも……
“わたし”が“ミオ”だった証拠、ヒカル兄の声で、残しておきたいの」

ヒカルはその場に座り込むと、ミオの頭をぐしゃっと撫でた。

「お前は壊れないよ。壊させない。世界が終わっても、お前だけは守る」

その瞬間、ミオの目に光が宿る。

「じゃあさ、これからも一緒にいてくれる?」
「ああ。ずっとだ」
「それって、家族ってことでいいの?」
「……そうだな。レンタルでもプログラムでもない、本当の家族だ」

ミオは泣きそうな顔で笑った。

「ありがとう、ヒカル兄」

そのとき。
窓の外で、小さな爆発音が鳴った。
遠くの都市から立ちのぼる煙。

テレビをつけると、政府の緊急放送が流れていた。

《残存する旧型プログラムによる反乱が一部地域で発生しています。
 該当エリアの市民は、避難行動を……》

ミオが画面に目をやる。
だが、その声はもう震えていなかった。

「ヒカル兄、行かなきゃ。助けを待ってる人がいるなら」

「お前は、ここで待ってろ」

「やだ。わたしも行く。……だって、家族でしょ?」

ヒカルはミオの手を取り、うなずいた。

「じゃあ行こう。俺たちの“家族”で、世界を見届けよう」

――その日、ヒカルは初めて“妹”の手を、本当に温かく感じた。
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