終末レンタル家族

井上シオ

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最終章:最初で最後の家族

第93話「ヒカルの新しい記憶」

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ヒカルは、家の押し入れを整理していた。

引っ越しの予定はない。ただ、「今の自分にとって本当に必要なものだけを残したい」と、ふと思ったのだ。

段ボール箱の中には、かつての“レンタル家族”との写真や記録が詰まっていた。

「懐かしいな……」

笑顔の母親役、父親役、兄や姉役、いろんな“レンタル”が並ぶ。どの人も優しかった。でもどこか、「演技」だったような気もする。

ふと、箱の底に手が触れる。
そこにあったのは、小さな、白くて丸いもの――おもちの写真だった。

ぬいぐるみのように見えるその姿。だけど写っている表情は、まるで「生きている」もののようだった。

「ヒカル、何してるの?」

ミオが部屋の前に立っていた。

「ちょっと整理してて……見て、これ」

ヒカルは写真を差し出す。

「わあ……おもち、笑ってる」

「うん。この日さ、“初めて家の中で一緒にご飯食べた日”なんだ。おもちが、俺の箸を勝手に取ってさ、『ヒカル、おかわり』って言ってさ……」

笑いながら言ったはずなのに、言葉の途中で涙が滲んだ。

「……そっか。そんな日、あったね」

ミオも写真を見ながら、小さく鼻をすする。

その夜。

ヒカルは机の上にノートを広げた。
新しい記憶を、今度は自分の手で書き残していこうと思ったのだ。

かつては、何もかも“レンタル”されていた。
でも今は違う。自分の言葉で、自分の想いで、記録を作れる。

《今日、空の下でミオと話した。
 “全部ある”って言葉、今も心に残ってる。》

《おもちのことを、まだ話せる。泣ける。笑える。
 それってきっと、本当の“記憶”になったってことだ。》

《このノートは、俺の選んだ家族の記録にする。》

ページをめくるごとに、ヒカルの文字が増えていく。
おもちのこと、ミオのこと、自分のこと。

明け方近く、ヒカルはノートを閉じ、窓を開けた。

春の風がやさしく吹いた。

「おもち。聞こえる?」

夜空に向かってそう問いかけると、どこかでふわりと、風が頷いた気がした。

「俺、忘れないよ。お前と過ごした時間も、泣いた夜も、全部俺の“家族”だから」

誰に聞かせるでもなく、ただ自分の胸に響かせるように言った。

その夜、ヒカルは静かに、深く眠った。
夢の中で、おもちが笑っていた。

そして朝が来た。
ノートには、こう書かれていた。

《本当の家族は、血じゃない。想いでできている》
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