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第1章 出発~正しい選択
(1)始まりの夜明け
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砂漠の国は夜明けが早い。
新しく国を守るべきことを担う為に日々、剣士としての修行をしている剣士の卵たちは、早朝から剣士の広場で汗を流す。
「でやー!」 「とーう!」
口々に大きな声を発しながら、自らの剣を振るう。
その中でも一番小さな身体をしているのがディタ・キュンメルだ。
「ディタ、今日は行く日じゃないか、何でここに来ている」
教師であるホーゼス教官は、ビックリした様子でディタを見つめる。
「はい、分かっています。だけど行くまでに時間がありますから、僕、足で纏いになりたくないんです。
行くからにはせめて、ちゃんと役に立ちたい。
と、言っても僕にはまだ無理ですよね?」
自嘲的に言って少し顔を曇らせるディタにホーゼスは言う。
「そうでもないと思う。認めたくはないが、あのエリオルの言う通りだ。お前はほんの少しの間で、誰よりも上達した。
まあ、役に立つかどうか分からんが、足で纏いになることはないだろう」
「ホーゼス教官」
初めて褒めてもらえて、すごく嬉しかったディタが、感極まった表情をする。
「俺は他の国になど行ったことはない。お前はまだ若い。他の国がどんなものか、その目に焼き付けて来るがいい。ラミンナ国は剣士の国としても有名だから、きっといい収穫があるはずだ」
「はい! 僕、がんばります」
ホーゼス教官の言葉に、ディタはその純粋な目を真っ直ぐに向け誓う。
丁度その頃、エリオルとハワードは、起きて旅の準備のチェックをしていた。
「エリオル、紙切れは持っていても邪魔にはならないだろうから、持って行け」
ハワードの式神は優秀なので、あるとすごくありがたい。
「ありがとう、ハワード。ハワード、ディタの剣なんだけど、やっぱりそろそろ本物の剣を持たした方がいいと思うんだが」
よほど気にかかるのか、ディタの剣の話をするエリオル。
「ああそれなら、しばらくはあの剣で大丈夫だ。今回、ラミンナ国には連れては行くが、戦力とは考えてねーから。
まあ、本人は一生懸命だとは思うが、でもかなり早い段階であいつは化ける! だからこそ、今回無理しても連れて行くんだ」
エリオルは誰よりも、ハワードの先生としての能力の高さを知っている。そんなハワードがこれだけ言うんだから、ディタは後のタムール国を守っていく素晴らしい剣士になることだろう。
「何かいいな。ディタ、ハワードにこんなに見込まれて」
「おいおい、お前の腕が一番なのはいちいち言わなくても公然の事実じゃないか。なんで今更、子ども相手に嫉妬する必要がある?」
「うーん、ハワードに褒められることだけを目標に剣の稽古してたからな。今、褒められることないし」
「おい、子どもか! 全くお前は面白いやつだよな。
俺が教えた生徒の中でナンバーワンはお前だよ。それは間違いない!」
断言するハワードに、笑顔を向けるエリオル。
「ありがとう。ハワード、とにかく気を付けて。何かあっても助けられないが、ラミンナ国が敵国にならないことを祈っている」
現状、正確な状況は分からない。
つまりどんな状況にもなり得る可能性をはらんでいる。
「ああ、エリオル、お前の方こそ。無茶だけは絶対にするなよ!
別に正体がばれることは構わないが、力の乱用のせいで後で長く寝込まれるのは困る。あの力、放っていられる時間が正確に分からんだろう?」
ハワードの指摘に一言も返せないエリオルは、ほんの少しだけ苦笑を浮かべる。
「分かった。心して行くよ。ハワードがいない時にあの力を使うと後が大変だから、そもそも封印されているものだし、なるべく使わない方向で行きたいとは思っている」
「よし、よし。それが分かっているなら、俺は何も言うことはねえ。後はベストを尽くすだけだ」
ハワードの言葉に大きく頷きを返すエリオル。
そのタイミングで扉がノックされる。
「はい、どうぞ」
ハワードの声に扉が開くと、キールがニコニコ顔で立っていた。
すぐ後ろには、食事を運んでくれる女官たちの顔も見える。
どうやら朝食を持ってきてくれた様だ。
「おっ、いいタイミングだな」
「そうですか? 今日は早く行くことになるので、少し早いですが朝食をお持ちしました。ついでに私の分も持って来ましたので、一緒にいいですか?」
キールの問いかけにハワードはこの上ない優しい笑みを向ける。
「勿論だ。一緒に食べようぜ。キール、エリオルのこと、くれぐれもよろしく頼む!」
最終的にはそこになるのか、ハワードは心配気にキールに言う。
キールは苦笑すると言った。
「いくらかわいいからって、過保護は良くありませんよ。
ハワードにだけしか心を開けないなんて、悲しいじゃないですか。
これを機に私にもしっかり、しゃっかり心を開いてくださいね。
エリオル」
何とも言えない優しい笑みを浮かべて、キールはエリオルに言った。
「おいおい、俺のエリオルを懐柔する気か?」
完全に私物化して言うハワードにキールは苦笑する。
「ハワード、あなたのその病気は治りそうもありませんね」
呆れた様子で言うキールに、ハワードは少しだけ怒った口調で言い返す。
「それはお互い様だろうが。ライアス王に対してはお前も似た様なもんだぞ」
「そうですかね。まあ、主に対してはそうなってしまうんでしょうね。あっ、エリオル、たくさん食べてくださいね。
ラバット国は砂漠ではありませんが、ゴツゴツした岩肌が多い国で砂漠と同じくらい体力を消耗しますから。
食べ物は保存食を持っては行きますが、重いと大変なので、なるべくコンパクトにして行こうと思います」
キールの言葉にふたりして納得の表情を浮かべる。
この世界は広い。七国同盟があっても、いちいちその国に行かなければ、どんな国かは分からない。
それに正確には国と呼べる存在のものは、まだ方々に点在しているらしい。
「まあ、こちらにはキルシュがいますから、国に入り込むのには何の問題もないとは思いますが」
ハワードに干し肉を差し出しながら言うキール。
エリオルはふたりの会話を聞きながらも、大人しくパンや干し肉をほおばっている。
「大丈夫なのか? キルシュはラバット国を出て、結構経つんだろう?」
ハワードはそれでも心配気に問いかける。
月日が過ぎれば、人も環境も変わる。
また、国とはそうでなければ、発展しない。
「まあ、それはそうですが。彼、ラバット国では盗賊の首領だったんです」
いきなりのカミングアウトは、超驚きの内容だった。
「はあ? 俺はここに来てから、こればっかり言ってる気がするな。なんだそれ?」
「ですから、言ったまんまです。父親がそうだったんですから、仕方ないじゃないですか!
でも、彼はとってもいい人ですよ。
ラバット国の姫君がさらわれた時も、助け出して王様の元に帰したのは彼ですから」
「王様と知り合いってそう言うことか」
納得したハワードの顔を見ながら、キールは少しだけ考える仕草をする。
「でもまあ、月日は良くも悪くも人を変えてしまいますよね。
ハワード、あなたは貴方のまんまでホッとしました。
ですから今はタムール国の為に、ライアス王の為によろしくお願いいたします」
改めてそう言われると、何だか戸惑った気分になる。
「よせよ、そう言う堅苦しいのが嫌いだって知ってるだろうが。
とにかく、最善は尽くす。この国がより良い国となる為に、お前の王は必ずやそれを成し遂げて行くだろう」
まるで予言者の様に言って、ハワードはキールを見つめる。
「どうでしょうかね? でも私はただ、あの無茶苦茶な王について行くだけです。向かう先にどんなことがあろうとも、選択権はないですから」
キールの決意は、ハワードのエリオルに対する決意に似ている。
『仕える』ということは、そういうことなのかもしれない。
たっぷりと朝食を食べ、三人一緒に城の入り口へと向かう。
みんなの集合場所をそこにしていた。
「おはようございます」
元気な声をかけてきたのは、剣士の卵のディタだ。
「おはよう。早えーな。俺らが一番だと思っていたんだがな」
ハワードの言葉に、ディタはニコニコ顔で答える。
「剣の稽古、剣士の広場でしてから来ましたから」
何事もないかの様にケロッと言うディタに、ハワードは舌を巻く。
「あはは、オレみたいな奴だな。だけどディタ。お前、やっぱり強くなる」
エリオルが、さも楽しげに言う。
ディタにはその意味が分からず、ポカンとエリオルを見つめた。
「若いっていいよな、キール。俺にゃあ考えられねー。これから砂漠へ出ようってのに、剣の稽古だとさ」
とりあえず同調してくれそうなのがキールしかいなかったので、ハワードはキールに言った。
「でもまあ、将来有望な人物がいて良かったですよ。ハワード、しっかり育ててくださいね」
「はあ、まあ、いいけどよ」
同調してくれるはずのキールが同調してくれなかったので、ため息を零すハワード。
「あーら、早いのね。おはよう」
「おはよー」
「おはようございます」
アーメル・キルシュ・ネビィスがそれぞれやって来た。
見なくても口調と声だけで誰かはすぐに分かる。
すぐ後にライアスとカリナ・ガールダーがほぼ同時にやって来た。
役者は全員揃っていた。
「みんな、おはよう。朝早くからご苦労。では予定通り、キルシュ・ネビィス・エリオル・キールの班はラバット国に。
ハワード・アーメル・カリナ・ディタの班はラミンナ国へとそれぞれ向かってくれ。
分かっているとは思うが、くれぐれも気を付けて行動してくれ。
相手の目的もよく分からない。深追いなんて絶対にしないこと。
ヤバいと思ったら、すぐに逃げること。
逃げることは恥ではない! ちゃんとした選択のひとつだ。
いいな? ひとりひとり命を大切にしてくれ。
お前たちは皆、これから先、俺が造っていく国を同じ様に造っていってくれる頼もしい仲間だ。
決して死んで欲しくはない。心して行動してくれ。以上だ」
ライアスはすでに王の風格でそう言うと、みんなを見つめた。
「ライアス様」
それぞれに頷き、礼を取る。
とにかく今は、ライアス王とタムール国の為に・・・・・・
それぞれが想い、歩み出す。
二つの班は剣士の広場を抜け、農民エリアを通り過ぎると、大きな門の前まで行く。
ここから先は砂漠が広がっている。
二つの班はここで二手に分かれて歩き出す。
「じゃあな。エリオル・キール・キルシュ・ネビィス。気を付けて行けよ」
「ああ、ハワードたちも」
「ライアス様、大人しくしていてくださいね。
ガーリオ、ライアス様の監視をお願いします」
見送りに来たライアスとガーリオにキールは当然の様に話かける。
「おいおい、キール。信用ないな俺」
「当然でしょう。今までの自分の行動を振り返ってみてください」
キールにそう言われば返す言葉などない。
「分かった、大人しくしてるよ。みんな、幸運を祈っている」
そう言って手を振るライアスとガーリオに見送られて、それぞれ歩み始める。
彼方に待ち受けているものが何なのか、勿論知る由もない。
新しく国を守るべきことを担う為に日々、剣士としての修行をしている剣士の卵たちは、早朝から剣士の広場で汗を流す。
「でやー!」 「とーう!」
口々に大きな声を発しながら、自らの剣を振るう。
その中でも一番小さな身体をしているのがディタ・キュンメルだ。
「ディタ、今日は行く日じゃないか、何でここに来ている」
教師であるホーゼス教官は、ビックリした様子でディタを見つめる。
「はい、分かっています。だけど行くまでに時間がありますから、僕、足で纏いになりたくないんです。
行くからにはせめて、ちゃんと役に立ちたい。
と、言っても僕にはまだ無理ですよね?」
自嘲的に言って少し顔を曇らせるディタにホーゼスは言う。
「そうでもないと思う。認めたくはないが、あのエリオルの言う通りだ。お前はほんの少しの間で、誰よりも上達した。
まあ、役に立つかどうか分からんが、足で纏いになることはないだろう」
「ホーゼス教官」
初めて褒めてもらえて、すごく嬉しかったディタが、感極まった表情をする。
「俺は他の国になど行ったことはない。お前はまだ若い。他の国がどんなものか、その目に焼き付けて来るがいい。ラミンナ国は剣士の国としても有名だから、きっといい収穫があるはずだ」
「はい! 僕、がんばります」
ホーゼス教官の言葉に、ディタはその純粋な目を真っ直ぐに向け誓う。
丁度その頃、エリオルとハワードは、起きて旅の準備のチェックをしていた。
「エリオル、紙切れは持っていても邪魔にはならないだろうから、持って行け」
ハワードの式神は優秀なので、あるとすごくありがたい。
「ありがとう、ハワード。ハワード、ディタの剣なんだけど、やっぱりそろそろ本物の剣を持たした方がいいと思うんだが」
よほど気にかかるのか、ディタの剣の話をするエリオル。
「ああそれなら、しばらくはあの剣で大丈夫だ。今回、ラミンナ国には連れては行くが、戦力とは考えてねーから。
まあ、本人は一生懸命だとは思うが、でもかなり早い段階であいつは化ける! だからこそ、今回無理しても連れて行くんだ」
エリオルは誰よりも、ハワードの先生としての能力の高さを知っている。そんなハワードがこれだけ言うんだから、ディタは後のタムール国を守っていく素晴らしい剣士になることだろう。
「何かいいな。ディタ、ハワードにこんなに見込まれて」
「おいおい、お前の腕が一番なのはいちいち言わなくても公然の事実じゃないか。なんで今更、子ども相手に嫉妬する必要がある?」
「うーん、ハワードに褒められることだけを目標に剣の稽古してたからな。今、褒められることないし」
「おい、子どもか! 全くお前は面白いやつだよな。
俺が教えた生徒の中でナンバーワンはお前だよ。それは間違いない!」
断言するハワードに、笑顔を向けるエリオル。
「ありがとう。ハワード、とにかく気を付けて。何かあっても助けられないが、ラミンナ国が敵国にならないことを祈っている」
現状、正確な状況は分からない。
つまりどんな状況にもなり得る可能性をはらんでいる。
「ああ、エリオル、お前の方こそ。無茶だけは絶対にするなよ!
別に正体がばれることは構わないが、力の乱用のせいで後で長く寝込まれるのは困る。あの力、放っていられる時間が正確に分からんだろう?」
ハワードの指摘に一言も返せないエリオルは、ほんの少しだけ苦笑を浮かべる。
「分かった。心して行くよ。ハワードがいない時にあの力を使うと後が大変だから、そもそも封印されているものだし、なるべく使わない方向で行きたいとは思っている」
「よし、よし。それが分かっているなら、俺は何も言うことはねえ。後はベストを尽くすだけだ」
ハワードの言葉に大きく頷きを返すエリオル。
そのタイミングで扉がノックされる。
「はい、どうぞ」
ハワードの声に扉が開くと、キールがニコニコ顔で立っていた。
すぐ後ろには、食事を運んでくれる女官たちの顔も見える。
どうやら朝食を持ってきてくれた様だ。
「おっ、いいタイミングだな」
「そうですか? 今日は早く行くことになるので、少し早いですが朝食をお持ちしました。ついでに私の分も持って来ましたので、一緒にいいですか?」
キールの問いかけにハワードはこの上ない優しい笑みを向ける。
「勿論だ。一緒に食べようぜ。キール、エリオルのこと、くれぐれもよろしく頼む!」
最終的にはそこになるのか、ハワードは心配気にキールに言う。
キールは苦笑すると言った。
「いくらかわいいからって、過保護は良くありませんよ。
ハワードにだけしか心を開けないなんて、悲しいじゃないですか。
これを機に私にもしっかり、しゃっかり心を開いてくださいね。
エリオル」
何とも言えない優しい笑みを浮かべて、キールはエリオルに言った。
「おいおい、俺のエリオルを懐柔する気か?」
完全に私物化して言うハワードにキールは苦笑する。
「ハワード、あなたのその病気は治りそうもありませんね」
呆れた様子で言うキールに、ハワードは少しだけ怒った口調で言い返す。
「それはお互い様だろうが。ライアス王に対してはお前も似た様なもんだぞ」
「そうですかね。まあ、主に対してはそうなってしまうんでしょうね。あっ、エリオル、たくさん食べてくださいね。
ラバット国は砂漠ではありませんが、ゴツゴツした岩肌が多い国で砂漠と同じくらい体力を消耗しますから。
食べ物は保存食を持っては行きますが、重いと大変なので、なるべくコンパクトにして行こうと思います」
キールの言葉にふたりして納得の表情を浮かべる。
この世界は広い。七国同盟があっても、いちいちその国に行かなければ、どんな国かは分からない。
それに正確には国と呼べる存在のものは、まだ方々に点在しているらしい。
「まあ、こちらにはキルシュがいますから、国に入り込むのには何の問題もないとは思いますが」
ハワードに干し肉を差し出しながら言うキール。
エリオルはふたりの会話を聞きながらも、大人しくパンや干し肉をほおばっている。
「大丈夫なのか? キルシュはラバット国を出て、結構経つんだろう?」
ハワードはそれでも心配気に問いかける。
月日が過ぎれば、人も環境も変わる。
また、国とはそうでなければ、発展しない。
「まあ、それはそうですが。彼、ラバット国では盗賊の首領だったんです」
いきなりのカミングアウトは、超驚きの内容だった。
「はあ? 俺はここに来てから、こればっかり言ってる気がするな。なんだそれ?」
「ですから、言ったまんまです。父親がそうだったんですから、仕方ないじゃないですか!
でも、彼はとってもいい人ですよ。
ラバット国の姫君がさらわれた時も、助け出して王様の元に帰したのは彼ですから」
「王様と知り合いってそう言うことか」
納得したハワードの顔を見ながら、キールは少しだけ考える仕草をする。
「でもまあ、月日は良くも悪くも人を変えてしまいますよね。
ハワード、あなたは貴方のまんまでホッとしました。
ですから今はタムール国の為に、ライアス王の為によろしくお願いいたします」
改めてそう言われると、何だか戸惑った気分になる。
「よせよ、そう言う堅苦しいのが嫌いだって知ってるだろうが。
とにかく、最善は尽くす。この国がより良い国となる為に、お前の王は必ずやそれを成し遂げて行くだろう」
まるで予言者の様に言って、ハワードはキールを見つめる。
「どうでしょうかね? でも私はただ、あの無茶苦茶な王について行くだけです。向かう先にどんなことがあろうとも、選択権はないですから」
キールの決意は、ハワードのエリオルに対する決意に似ている。
『仕える』ということは、そういうことなのかもしれない。
たっぷりと朝食を食べ、三人一緒に城の入り口へと向かう。
みんなの集合場所をそこにしていた。
「おはようございます」
元気な声をかけてきたのは、剣士の卵のディタだ。
「おはよう。早えーな。俺らが一番だと思っていたんだがな」
ハワードの言葉に、ディタはニコニコ顔で答える。
「剣の稽古、剣士の広場でしてから来ましたから」
何事もないかの様にケロッと言うディタに、ハワードは舌を巻く。
「あはは、オレみたいな奴だな。だけどディタ。お前、やっぱり強くなる」
エリオルが、さも楽しげに言う。
ディタにはその意味が分からず、ポカンとエリオルを見つめた。
「若いっていいよな、キール。俺にゃあ考えられねー。これから砂漠へ出ようってのに、剣の稽古だとさ」
とりあえず同調してくれそうなのがキールしかいなかったので、ハワードはキールに言った。
「でもまあ、将来有望な人物がいて良かったですよ。ハワード、しっかり育ててくださいね」
「はあ、まあ、いいけどよ」
同調してくれるはずのキールが同調してくれなかったので、ため息を零すハワード。
「あーら、早いのね。おはよう」
「おはよー」
「おはようございます」
アーメル・キルシュ・ネビィスがそれぞれやって来た。
見なくても口調と声だけで誰かはすぐに分かる。
すぐ後にライアスとカリナ・ガールダーがほぼ同時にやって来た。
役者は全員揃っていた。
「みんな、おはよう。朝早くからご苦労。では予定通り、キルシュ・ネビィス・エリオル・キールの班はラバット国に。
ハワード・アーメル・カリナ・ディタの班はラミンナ国へとそれぞれ向かってくれ。
分かっているとは思うが、くれぐれも気を付けて行動してくれ。
相手の目的もよく分からない。深追いなんて絶対にしないこと。
ヤバいと思ったら、すぐに逃げること。
逃げることは恥ではない! ちゃんとした選択のひとつだ。
いいな? ひとりひとり命を大切にしてくれ。
お前たちは皆、これから先、俺が造っていく国を同じ様に造っていってくれる頼もしい仲間だ。
決して死んで欲しくはない。心して行動してくれ。以上だ」
ライアスはすでに王の風格でそう言うと、みんなを見つめた。
「ライアス様」
それぞれに頷き、礼を取る。
とにかく今は、ライアス王とタムール国の為に・・・・・・
それぞれが想い、歩み出す。
二つの班は剣士の広場を抜け、農民エリアを通り過ぎると、大きな門の前まで行く。
ここから先は砂漠が広がっている。
二つの班はここで二手に分かれて歩き出す。
「じゃあな。エリオル・キール・キルシュ・ネビィス。気を付けて行けよ」
「ああ、ハワードたちも」
「ライアス様、大人しくしていてくださいね。
ガーリオ、ライアス様の監視をお願いします」
見送りに来たライアスとガーリオにキールは当然の様に話かける。
「おいおい、キール。信用ないな俺」
「当然でしょう。今までの自分の行動を振り返ってみてください」
キールにそう言われば返す言葉などない。
「分かった、大人しくしてるよ。みんな、幸運を祈っている」
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