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第2章 ラバット国と騎士団
(2)水琴の願い
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一方ハワードたちもまた、元気にタムール国を出発し、ラミンナ国へと辿り着いていた。
たくさんの水で溢れかえっている。
水に囲まれたその国を見た途端、ディタは目をキラキラと輝かせて、あちらこちらをもの珍しそうに見渡す。
その様子をハワードが楽しげに見つめていた。
「凄ーい! 本当にこんなに水がたくさん。タムール国とは違い過ぎて、夢の世界みたい。ハワード、本当に水の国ってあるんですね」
かなり興奮した様子でディタが声をあげる。
「まあ、こんなもんだ。世界ってのは広くて、俺たちの知らない国はまだ、たくさん存在している。七国だけがピックアップされてるみてーだが、それだけじゃないからな。カリナも砂漠しか知らねーのか?」
ふと思い出したかの様に問いかけるハワード。さすがに暑いのでベールは取って、素顔で同行していた。
「ああ、自分の国を取り戻すことしか考えていなかったから、そもそも他の国を見に行こうという発想が浮かばなかったな」
しみじみと語るカリナをアーメルが複雑な表情で見つめる。
「何にしても、生きていくって大変よね。どの国で生きていたとしても、きっと同じ様に悩んで、苦しんで、それでも生きていくのよね」
アーメルの生きて来たこれまでの人生というものを、少し聞いてみたいとこの時ハワードは思っていた。
「ハワード、ハワードじゃないか! どうしてここに?」
急に声をかけられたが、その声には聞き覚えがある。にこやかな表情で振り返ると見知った顔がいる。
「ヘルン、久しぶりだな。こりゃあ、ついてるぞ」
ハワードの言葉に不思議そうな顔をするヘルン。そして周りの人間を見回してから問いかける。
「おい、ハワード。どういう団体だ? それにエリオルは?
ここにはいない様だが?」
「えっ、ああ、えっと、名付けるなら『タムール国、特別編成部隊』ってとこかな?」
「それって双対国で砂漠メインのあのタムール国か?」
ヘルンと呼ばれた人物は、そこそこの知識を持っている様だった。
「ああ、そのタムール国に今はいる。エリオルもそこにいる。
あいつは二度とここには来ない」
静かなハワードの声に、少しだけ辛そうな表情を見せるヘルン。
「あいつらしいな。なあ、あいつ今、幸せか?
自分の想い全てを押し殺して、その先に少しでも幸せがあるといいんだがな」
ヘルンのひどく複雑な胸の内は、とてもよく伝わってきた。
「俺たちの思いなんて、あいつには関係ない。
それなりに人生を楽しんでいると思うぜ」
ハワードの言葉にヘルンはホッとした表情を見せる。
「にしてもピンクの髪って、確かガリアーノ国じゃなかったか?」
アーメルの目立つ髪がよほど気になったのか、ヘルンが問いかける。
「ええ、元はね。今はタムール国にいるのよ」
その声にヘルンがビックリした表情を浮かべる。
「お前、男か? はーあ、世の中変わった奴がいるもんだな」
初めて見てくれ女性、中身男性のアーメルに出会って、ヘルンはしみじみと呟いた。
「あっ、ところで今、この国に変なこと、起こってねーか?」
当初の目的を思い出したハワードがヘルンに問いかける。
「変なことって、例えば?」
思い付かないのか逆に問いかけるヘルン。
「えっ、いや、ねーんならいいんだ。じゃあ、ラミンナ姫に取り次いでくんねーかな」
「それは構わないが、一体何が目的なんだよ」
ヘルンの問いかけに、ハワードは苦笑を浮かべる。
「目的ねぇ・・・・・・まあ、強いて言えば、預かりものをラミンナ姫に届けることかな?」
本来の内容とは全く違ったことを口走ったハワードは、屈託ない笑顔を浮かべ、ヘルンを見つめる。
「わかったよ。一応、信じることにしよう。俺について来るがいい。
今はラミンナ姫の婚姻の準備でバタバタしているのは確かだが、変なことって別にないと思うぞ。
何かあれば、紋章官の俺には必ず連絡が入る」
「そうか、じゃあ、こっちじゃなかったんだな」
ボソッと呟くハワードの声をかき消すかの様に、アーメルがビックリした声をあげる。
「あなた、紋章官なの? 凄い! ハワードよくそんな人と知り合いになれたはね」
ふたりが隠されて生きてきたのだとしたら、この国にそんなに知り合いはいないと思っていたので、普通にアーメルは驚いたのである。
紋章官とは
紋章官とは紋章にまつわる事案を発議、管理し、国の儀式を手配しそれに参列する。
また、紋章や系譜の記録を保存・解釈することがメイン。
中には呪術や変わった特技を合せて扱える者も多く、その国の中でもかなり上の地位にいることが多い。
基本的に紋章師と呼ばれる人たちの中から、エリートが選出される。
「エリオルはラミンナ姫付きの護衛剣士だったからな。
隠れていた意味があったのか、なかったのか?」
微妙な言い回しで語るハワード口調から、あまり触れられたくないということは理解できた。
「あら、ごめんなさい。私、余計なこと聞いてしまったかもね」
すぐにそれを察したアーメルは、聞くことをやめた。
「こっちのチーム、このメンバーで本当に良かったよ」
しみじみとハワードが呟く。
「こっちのチームって、他にもチームがあるのかよ」
「ああ、別のチームにエリオルはいるんだ」
比較的静かな口調で言うハワードを、ヘルンがビックリした顔で見つめる。
「はあ? ハワード、正気か? あんだけ大切に護っていたエリオルを他のチームに行かせただと!」
ヘルンにとって、そのことはあり得ないと思っていたのか。
心なしか声が高くなっている。
「仕方ないさ。我が王の命令なんだから。エリオルはタムール国の王ライアスの護衛剣士だからな。
つまり、あいつはもう、俺だけのものじゃない。
いろんな人間と関わってしまったからな。
あいつのやりたいようにさせてやるさ」
一応、正論なのは伝わった様だが、それでも納得できないのかヘルンは食い下がる。
「とは言え、何かあったらどうするんだよ!
お前の命だけじゃあ、すまなくなるんだぞ」
「そんなことは分かっているさ。何年あいつといると思っている。
大丈夫だ。あれ程の剣士、探してもそうはいない。滅多なことじゃあどうにもならないさ。まあ、問題は肩入れし過ぎて、力の乱用をし過ぎないか、ってところだな」
エリオルを分かっているハワードは、そう言うと笑った。
ヘルンとハワードの会話を聞いていると、エリオルという人物が更に、訳が分からなくなってくる。
「アーメル、実際のところ、エリオルって何者なんだ?」
カリナがさすがに気になったのか、アーメルに小声で問いかける。
「それ、僕も知りたいです」
それまで大人しく話を聞くことに専念していたディタまでが口を挟む。
「悪いけど、私も知らないのよ。でも、触れてまずいことだけは確かよね。結構、物騒な話してるもの」
「ああ、の、様だな」
「ですね」
「他の奴らは知らないんだな?」
三人の小声が聞こえたのかヘルンはハワードに念押しするかの様に問いかける。
「ああ、あいつは嫌がるからな。ようやく見つけた居場所だから、それのせいで失いたくはないんだろう」
「だけど、居場所と思うなら直のこと、知ってもらっておいた方がいいんじゃないのか?」
ヘルンの言葉の意味を他ならぬハワードはよく、分かっている。
「一応、前王と王妃は知ってるみたいだ。ラミンナ様から聞いたんだろう。まあ、それこそ、あいつの好きにさせるさ」
「なるほど、まあ、いい。ついてこい。お前の名前を出せばすぐにでもやってくるだろう。あの御方は」
ヘルンは話を区切ると、ハワードたちを城の中へと促す。
「すまねえ。正直、頼れる人間がお前しか思い浮かばなかったんだが、どうやってコンタクトを取ろうか、考えあぐねていたんだよ。
まさか、お前の方から声をかけてくれるなんて、本当にラッキーだったぜ」
いかにも助かった口調で言うハワードを、ヘルンは少し嫌そうな表情を浮かべて見つめる。
「どうした? 俺、何か変なこと言ったか?」
「よく言うよ。どうせ、計算して来たんだろうがよ。
唯一この時間帯に、俺がここを必ず通ると知ってたくせに。
お前本当に頭いい奴だよな。俺はそんなお前の才能が大嫌いだがな」
仲よさげな様子のヘルンの突然のカミングアウトに、ふたりの後ろを歩いていた三人は一瞬、凍り付く。
「おい、後ろの奴らをあまり脅かさないでくれるか。中にはガキもいるんだからよ」
さすがのハワードも少しだけ困った様子でヘルンをたしなめる。
「いいじゃあねえか、これくらい。俺だってあいつのお守り役やりたかったんだからな」
「はーあ、そりゃすまなかったな。だけど、お前はやらなくて正解だったと俺は思うぞ。ラミンナ国にも、ちゃんとした紋章官は必要不可欠だ。お前という存在があるからこそ、この国はこのまま美しい国を保つことが出来ているんじゃねのかな」
それはお世辞などではなく、心からの本音だった。
「ずりー奴だな。そんな風に言われたら、怒るに怒れねえ。
本当に食えねえ奴だ」
これ以上は本当に口でも勝てないと悟ったのか、ヘルンは大人しくなると、ズンズンと城の中へと入っていく。途中ですれ違う女官たちは、皆一応に驚いた様子で、ヘルンが連れている一行を見つめていた。
そのまま、何の許しも得ないまま、謁見の間まで連れて行かれる。
「わー、さすがにタムール国よりも大きいわね。ここ」
アーメルが感心した様に口を開く。
「ああ、建物の造りもタムール国とは全然違うな」
カリナもその大きさに、さすがにビックリした声を出した。
ディタに至っては、ビックリしすぎて声も出ない様子である。
「いいのかよ。まだ、姫の許しをもらってないだろう?」
「ああ、別に大丈夫さ。もし、見とがめられたら、俺の名前を出せばいい。じゃあ、ちょっとここで待ってろ。
ラミンナ姫に謁見を申し込んで来る」
「分かった。ありがとう」
素直に礼を言って、ハワードはヘルンを見送る。
ヘルンはそのまま足早に部屋を出て行った。
「ねえ、ハワード。紋章官ってどこの国でもかなり上の地位の人じゃない? そんな人がエリオルの世話係になるはずだったの?
だったら、貴方も相当、上の地位の人よね?」
アーメルはなかなか、鋭いところを突いてくる。
「あいつの言葉はあんまり信じねえ方がいい。あいつはこの国でエリート中のエリートだ。だから紋章官にもなれた。
俺なんかとは違う。そもそも俺はベルベット国からの派遣組だから、直接この国の地位に左右されない」
「えっ、そうなの? 何だ。でも、あの口ぶりだと・・・・・・」
納得がいかないのか、アーメルはひとり、ブツブツとぼやいている。
それを無視して、ハワードは心の中で続ける。
ただし、そのベルベット国では、エリート中のエリートだったのも事実だがな。
だからこそ、エリオルの教育係を頼まれることになった。
だが、それを大っぴらに言う必要性は全くない。
「ハワード!」
もの凄い勢いで、この国の水を集めたかの様な、美しく青い髪をなびかせた、まだうら若い女性が入って来る。
ゆるくウエーブしている髪はとても長く、まるで水が流れているみたいである。更に美しい顔立ちに緑色に輝く瞳。
アーメルはラミンナ姫を知っているが、他のふたりは初対面である。
ビックリして、息を飲むのがよく分かる。
「ラミンナ姫、お元気そうで何よりです。婚姻準備は進んでおりますか?」
「はい、順調です。エリオルは・・・・・・やっぱり来てないんですね」
まるで花がしぼんでしまうかの様に、しょんぼりとするラミンナ姫の様子があまりにも痛々しい。
「姫、貴女が大切だからこそ、会えぬのです」
「分かっています。私のせいで、私の為にわざと護衛剣士を辞めたのでしょう? でも、私は・・・・・・」
「姫、血は時に争いを生む。エリオルはこの国の為に、貴女の幸せの為に身を引いたのです。後悔なんか微塵もないのだから、姫も悲しまないで欲しい」
真剣な眼差しでラミンナ姫を見つめ、ハワードは力強く言った。
「ハワード、貴方も後悔していませんか?
本当ならもっと違った選択もあったのに、エリオルとずっと共に生きねばならない人生に後悔していませんか?」
「姫、勿論です。俺は最高の御方と出会えた。あの御方と歩む人生を後悔なんてしない。これまでも、これからも、絶対に!」
普段では決して言わない様なセリフを言って、でもそれがハワードの本音なんだと知る。
口ではどうこう言っていても、結局エリオルはハワードにとっては最もかけがえのない主。それが痛いほど伝わって来る。
「あっ、そうだ! これ、あいつから。渡してくれって頼まれた」
エリオルに託されたペンダントの箱を手渡すハワード。
その箱を大事そうに受け取ったラミンナ姫は、そっと開ける。
中からは薄ピンク色の石を組んだ花のペンダントが出てきた。
「わあ、綺麗!」
思わず声をあげたラミンナ姫の手から、アーメルは黙ってペンダントを受け取ると、姫君の首にかけた。
この辺の機転は男性でも普段、女性として振る舞っているが故のものかもしれない。
「綺麗、ラミンナ姫、元々美しい方だけど、何倍も綺麗よ。エリオルにも見せてあげたいわ」
「ありがとう」
ラミンナ姫はそのまま何も言えなくなって、泣き出してしまう。
アーメルはそんな姫君を優しく見つめると、そのままそっと抱き締める。
「おい、アーメル!」
さすがにマズいと思ったハワードが声をあげるが、アーメルは静かにと言うかの様に、人差し指を立てるとそのままじっとする。
「ワア~」
我慢していたものが一気に溢れ、大声で泣きじゃくるラミンナ姫。
「姫君、心の中の悲しみを全て、吐き出してください。
ここは貴女が気にしないといけない人はいないから、思う存分泣かれて構いません。そして、泣き疲れたら強くなってください。
エリオルが貴女の心配をしなくてもいい様に」
静かなアーメルの声。この時アーメルは過去の自分とラミンナ姫をダブって見ていた。
遙か昔、ほんの少しだけ、ガリアーノ国王の正妃だった頃の自分と。
今、姫君が何をして欲しいかが手に取る様に分かる。
過去の自分の苦しみとそれは同種のものだから。
しばらく泣くと落ち着きを取り戻したラミンナ姫。
「エリオルは素敵な人たちと出会えたのですね。良かった。エリオルを頼みます。彼は私にとって大切な人。かけがえのないただひとりの」
最後のセリフを言いかけて、ハッとする。
それは明らかに何かを言いかけて止めたのが見てとれた。
「姫君、別に喋ってしまっても構わねーよ。貴女がそれ程に苦しいのなら。こいつら三人とも、言っちゃいけないことの区別くらいできる。何よりエリオルのことを知りたくてウズウズしている奴らばかりだからよ。俺はあいつとの約束があるから喋れねーが」
必死に秘密を守ろうとしている様子があまりにもけなげで、ハワードはそう言った。
「ハワード、でも・・・・・・」
ためらいが顔に出る。それは相当、大切な秘密なのだろう。
「姫君、私たちは無理に聞こうだなんて思ってないわ。
確かにエリオルが何者かは気になるけど、いずれ彼は、私たちにも心を開いて本当のことを話してくれる時が来ると思うの」
意外にもかなり前向きなアーメルの言葉に、ラミンナ姫は少しビックリした表情を浮かべる。
そして喋っても大丈夫と判断したのか、さらりと語る。
「彼は私の弟です」
静かな口調。ただし、この表現も正確ではない。表向き男となっているのでそう言っているだけで、正確には『妹』なのだが。
「えっー、うそー」
それでもインパクトは十分な様で、ディタが思わず声をあげて、次の瞬間、自分で自分の口を押さえている。
ハワードはそんなディタの様子を、さも可笑しそうに見つめていた。
「エリオルの母親は私の母、シャンディ・ノワードです。
ただ一度だけ、父以外の男性を愛し、過ちを犯してしまいました。
そのせいで、エリオルは混血種として生まれたんです。
だから隠されました。昔は身体もすごく弱くて、混血種でもキチンと生きていくことができる様に、ハワードに教師になってもらったのです」
「なるほどね。それは口が裂けても決して言わないわね。
エリオルは相当、貴女のことが大切そうだったから。貴女のマイナスになることは決して口にはしない。
ありがとう、姫君。話してくれて。私もカリナもディタも、決して喋ったりしないから、ね?」
アーメルはカリナに視線を向けた。カリナは黙ったまま、大きく頷く。
「僕だって言いません」
ディタも強い口調で言う。
ラミンナ姫はアーメルから離れると、深々とお辞儀をした。
「ありがとうございます。弟をどうか、よろしくお願いいたします。どんな小さなことでもいいの。あの子が幸せなり喜びなりを感じることを与えてあげて欲しいの。
私、結局、何もしてあげられなかったから」
「そんなことはねーよ。あいつには貴女の存在がどれだけ支えだったか。貴女に感謝しているよ」
「でも、あの子が周りから白い目で見られても、助けてあげることすらできなかった」
姫君の後悔の言葉だけでも、エリオルがどれだけ阻害されて生きて来たかは、安易に想像できる。
「あの、ハワード、本当にエリオルは大丈夫ですか?
本当にこれを届ける為だけにここに来たのですか?」
純粋な緑色の瞳が真っ直ぐにハワードを見つめる。
「ああ、エリオルは大丈夫。ただ、正確にはここに来た理由は他にある。うーん、こっちは空振りだった様だな。
ヘルンと喋った感じじゃあ、何もなさそうだし、姫君も順調なら大丈夫だろう」
ハワードの言葉にカリナがすぐに反応する。
「それじゃあ、あっちの方が?」
「ああ、多分な。あいつ無茶しなけりゃいいがな。
まあ、なるべく早く、タムール国に戻るかな。
ああ、だけど、すこし頼みがあっていいかな?」
ハワードは思い出したかの様にラミンナ姫に問いかける。
「はい、何でしょうか? 何でも言ってください。
出来ることと出来ないことはありますが、大抵のことは叶えて差し上げることができるはずです」
「すまねえ。このディタとカリナを一日でいい。この国の剣士たちと一緒に剣の稽古をさせてやって欲しい」
「ハワード・・・・・・」
ディタが不安そうにハワードを見つめる。
「大丈夫だ。お前は自分で思っているよりも強い。心配しなくてもここの剣士たちともひけはとらねえよ。
カリナは護衛剣士だからな。知識を入れておくに超したことはない。戦いの組み立て方というものを学ぶのには打って付けだからな。そもそも、その為に連れてきたんだからな」
ハワードの話を聞いて、ラミンナ姫は即答する。
「分かりました。それはすぐに取り計らいます。他には?」
「ラミンナ姫は婚姻の後、七国同盟をどうしていきたいか、それが知りたい。最近お会いになったライアス王子が王となった。
正式な届け出はもう少し後かもしれないが、ライアス王におかれては、七国同盟を更に強固にしたいとお考えだ。
タムール国はこことは違い、作物が豊富にある訳でもなければ、強い剣士を育てている訳でもない。
おそらく他の六国の輸入がなければ、タムール国自体が滅びてしまう可能性だって十分に考えられる。
だからこそライアス王は自国主義者じゃないんだ」
タムール国に来て、そんなに時間が経っている訳でも、ライアスとふたりでじっくりと話した訳でもないのに、ハワードは誰よりもライアスの心の内を見抜いていた。
そのことに気が付いた時、アーメルはこのハワードという人物はただ者じゃないと確信したのである。
「私はお顔は拝見しましたが、ライアス王という人物を知りません。しかし、エリオルを受け入れてくれた御方です。
きっと誰よりも、物事の本質を見抜く目を持っておいでの方なのでしょう。元よりラミンナ国とタムール国は双対国。
お互いに助け合っていかなければならない関係です。
もしも、タムール国に何かが起こり、困る様なことがあれば、すぐに知らせをよこしてください。できる限りの対応をさせて頂きます」
穏やかな表情の姫君の言葉に、ハワードは笑顔を向ける。
そして後ろの扉を気にする素振りを見せた。
「ありがとう、ラミンナ姫。ヘルン、立ち聞きは行儀が悪いなあ。
入って来いよ」
いつから扉の向こうにいたのか、ヘルンがその言葉で、悪びれる様子もなく、入って来る。
「あらまあ、いつからいたの?」
アーメルが問いかけて、ヘルンは顔色ひとつ変えることなく言った。
「最初から全部、聞いてた。ハワード、そもそもお前が悪いんだぞ。あんな思わせぶりな言い方されたら気になるだろうが」
それは否定出来ないところなので、ハワードは苦笑する。
「確かにな。ただ、俺としても確信があってここに来た訳けじゃねーからな。何か起こってないんならいいんだよ。
多分、ラバット国の方だろう」
そのハワードの言葉に、ラミンナ姫が何かに気付いた表情をみせる。
「ハワード、ラバット国で何か起こっているのですか?」
「いや、それも良くは分からねーんだ。どうして姫君はそう思われる?」
「いえ、少し前、ラバット国から戻ってきた剣士が変なことを言っていたので、少し気になって」
「変なことって?」
「あっ、それなら俺も聞いたぞ。確かラバット国の王がおかしくなって、旅人を次々に牢屋へ入れているって言うあれだよな。
しかもその王は色きちがいになっているらしくて、捕まえた女は慰みものにしているらしい。
にわかには信じ難い話だったんだが、その剣士はひっつかまる寸前で何とか逃げたらしい」
ヘルンの言葉にハワードは大きく頷く。
「なるほど、これはやっぱりラバット国の方だな。うーん、あっちにエリオルが行ってるんだよな」
「えーそれは、大丈夫か? 色きちがいの王が血迷ってエリオルに手を出すなんてことあるかもしれないぞ?」
ヘルンが慌てた声を出す。
「いや、仮にそうでもあの腕だぞ。返り打ちにあわせるに決まっているじゃないか。ただ、あいつ逆に自ら好き好んで捕まって牢屋に入りかねないからな。絶対的な自信があるから、手っ取り早い方法を選ぶ気がする」
さすがのハワード。この時点で確実にエリオルの行動パターンを理解していた。
「アーメル、すまないが、俺と一緒にこのまま、タムール国へと引き返してくれ。カリナとディタは予定通り剣の稽古をしてからタムール国に帰ってくればいいさ」
ひどく優しげにいうハワード。ふたりは大きく頷いて、嬉しそうに微笑んだ。
「それじゃあ、私たちは戻りましょう」
「ああ、ラミンナ姫、ヘルン。バタバタで悪いが失礼する」
今にも飛び出して行きそうなハワードを見て、ヘルンが言う。
「待てよ。俺も行くよ。ラミンナ様、このヘルンに少し休日をくれませんか? エリオルの無事を見届けてから帰ってきます。
貴女様もその方が安心でございましょう?」
なかなか知恵者のヘルンはそう言うと、ラミンナ姫を見つめる。
「ヘルン、分かりました。行って来てください。どんなことをしても、必ずエリオルを助けてください」
「勿論、分かっています。このヘルンの命に代えましても必ず!」
ラミンナ姫に一礼して、ヘルンはハワードを見る。
「よし、行こう! で、お前たち、馬には乗れるのか?」
走りながらヘルンが問いかける。
「俺はエリオルの師匠だからな。何でも出来ないとダメだろう?」
「私も中身は男だから、結構子どもの時から馬には乗っていたから大丈夫だけど」
アーメルもごく普通のことの様に言う。
「よし! それじゃあ、馬で行こう。その方が早い。すぐに三頭、用意する。少し待て!」
ヘルンはそう言うと、ハワードとアーメルを門のところで待たせ、自分は馬を調達するべく走って行った。
「ねえ、やっぱりハワードも凄い人なのよね。そしてエリオルはもっと凄い人なんだわ」
アーメルの言葉を顔色ひとつ変えず聞いていたハワードは問いかける。
「どうして、そう思う?」
「だってヘルンも貴方もエリオルが危ないかもと思った途端、かなり焦っていたもの。ラミンナ姫だって自国の紋章官であるヘルンがタムール国に行くことをすぐに許可した。
そりゃあ、大切な弟君だって言うのは分かるわよ。
でも、それだけじゃ、ない気がする」
アーメルの言葉を黙って聞いていたハワードはゲラゲラと声を出して笑い出す。
「ハワード? 私、何か変なこと言った?」
「アハハ、わりー。いや、アーメル・ヘルメス。大したやつだな。
みんなあんたの見てくれに騙されそうだが、大した眼力だ。
まあ、好きに思ってくれりゃあいい」
ハワードは決して確信を語りはしなかったが、遠回しに考えは合っていると肯定している様にも聞こえる。
「ハワード、馬、調達してきたぞ」
「すまねえ。とにかく戻ろうぜ。アーメル!」
「ええ、そうね」
見事な栗毛色の馬を借りて、走り出す。三頭の馬は風の様に軽やかに走り、タムール国を目指す。
ただし、この時点でライアスの元にはまだ、何の情報ももたらされてはいなかった。
たくさんの水で溢れかえっている。
水に囲まれたその国を見た途端、ディタは目をキラキラと輝かせて、あちらこちらをもの珍しそうに見渡す。
その様子をハワードが楽しげに見つめていた。
「凄ーい! 本当にこんなに水がたくさん。タムール国とは違い過ぎて、夢の世界みたい。ハワード、本当に水の国ってあるんですね」
かなり興奮した様子でディタが声をあげる。
「まあ、こんなもんだ。世界ってのは広くて、俺たちの知らない国はまだ、たくさん存在している。七国だけがピックアップされてるみてーだが、それだけじゃないからな。カリナも砂漠しか知らねーのか?」
ふと思い出したかの様に問いかけるハワード。さすがに暑いのでベールは取って、素顔で同行していた。
「ああ、自分の国を取り戻すことしか考えていなかったから、そもそも他の国を見に行こうという発想が浮かばなかったな」
しみじみと語るカリナをアーメルが複雑な表情で見つめる。
「何にしても、生きていくって大変よね。どの国で生きていたとしても、きっと同じ様に悩んで、苦しんで、それでも生きていくのよね」
アーメルの生きて来たこれまでの人生というものを、少し聞いてみたいとこの時ハワードは思っていた。
「ハワード、ハワードじゃないか! どうしてここに?」
急に声をかけられたが、その声には聞き覚えがある。にこやかな表情で振り返ると見知った顔がいる。
「ヘルン、久しぶりだな。こりゃあ、ついてるぞ」
ハワードの言葉に不思議そうな顔をするヘルン。そして周りの人間を見回してから問いかける。
「おい、ハワード。どういう団体だ? それにエリオルは?
ここにはいない様だが?」
「えっ、ああ、えっと、名付けるなら『タムール国、特別編成部隊』ってとこかな?」
「それって双対国で砂漠メインのあのタムール国か?」
ヘルンと呼ばれた人物は、そこそこの知識を持っている様だった。
「ああ、そのタムール国に今はいる。エリオルもそこにいる。
あいつは二度とここには来ない」
静かなハワードの声に、少しだけ辛そうな表情を見せるヘルン。
「あいつらしいな。なあ、あいつ今、幸せか?
自分の想い全てを押し殺して、その先に少しでも幸せがあるといいんだがな」
ヘルンのひどく複雑な胸の内は、とてもよく伝わってきた。
「俺たちの思いなんて、あいつには関係ない。
それなりに人生を楽しんでいると思うぜ」
ハワードの言葉にヘルンはホッとした表情を見せる。
「にしてもピンクの髪って、確かガリアーノ国じゃなかったか?」
アーメルの目立つ髪がよほど気になったのか、ヘルンが問いかける。
「ええ、元はね。今はタムール国にいるのよ」
その声にヘルンがビックリした表情を浮かべる。
「お前、男か? はーあ、世の中変わった奴がいるもんだな」
初めて見てくれ女性、中身男性のアーメルに出会って、ヘルンはしみじみと呟いた。
「あっ、ところで今、この国に変なこと、起こってねーか?」
当初の目的を思い出したハワードがヘルンに問いかける。
「変なことって、例えば?」
思い付かないのか逆に問いかけるヘルン。
「えっ、いや、ねーんならいいんだ。じゃあ、ラミンナ姫に取り次いでくんねーかな」
「それは構わないが、一体何が目的なんだよ」
ヘルンの問いかけに、ハワードは苦笑を浮かべる。
「目的ねぇ・・・・・・まあ、強いて言えば、預かりものをラミンナ姫に届けることかな?」
本来の内容とは全く違ったことを口走ったハワードは、屈託ない笑顔を浮かべ、ヘルンを見つめる。
「わかったよ。一応、信じることにしよう。俺について来るがいい。
今はラミンナ姫の婚姻の準備でバタバタしているのは確かだが、変なことって別にないと思うぞ。
何かあれば、紋章官の俺には必ず連絡が入る」
「そうか、じゃあ、こっちじゃなかったんだな」
ボソッと呟くハワードの声をかき消すかの様に、アーメルがビックリした声をあげる。
「あなた、紋章官なの? 凄い! ハワードよくそんな人と知り合いになれたはね」
ふたりが隠されて生きてきたのだとしたら、この国にそんなに知り合いはいないと思っていたので、普通にアーメルは驚いたのである。
紋章官とは
紋章官とは紋章にまつわる事案を発議、管理し、国の儀式を手配しそれに参列する。
また、紋章や系譜の記録を保存・解釈することがメイン。
中には呪術や変わった特技を合せて扱える者も多く、その国の中でもかなり上の地位にいることが多い。
基本的に紋章師と呼ばれる人たちの中から、エリートが選出される。
「エリオルはラミンナ姫付きの護衛剣士だったからな。
隠れていた意味があったのか、なかったのか?」
微妙な言い回しで語るハワード口調から、あまり触れられたくないということは理解できた。
「あら、ごめんなさい。私、余計なこと聞いてしまったかもね」
すぐにそれを察したアーメルは、聞くことをやめた。
「こっちのチーム、このメンバーで本当に良かったよ」
しみじみとハワードが呟く。
「こっちのチームって、他にもチームがあるのかよ」
「ああ、別のチームにエリオルはいるんだ」
比較的静かな口調で言うハワードを、ヘルンがビックリした顔で見つめる。
「はあ? ハワード、正気か? あんだけ大切に護っていたエリオルを他のチームに行かせただと!」
ヘルンにとって、そのことはあり得ないと思っていたのか。
心なしか声が高くなっている。
「仕方ないさ。我が王の命令なんだから。エリオルはタムール国の王ライアスの護衛剣士だからな。
つまり、あいつはもう、俺だけのものじゃない。
いろんな人間と関わってしまったからな。
あいつのやりたいようにさせてやるさ」
一応、正論なのは伝わった様だが、それでも納得できないのかヘルンは食い下がる。
「とは言え、何かあったらどうするんだよ!
お前の命だけじゃあ、すまなくなるんだぞ」
「そんなことは分かっているさ。何年あいつといると思っている。
大丈夫だ。あれ程の剣士、探してもそうはいない。滅多なことじゃあどうにもならないさ。まあ、問題は肩入れし過ぎて、力の乱用をし過ぎないか、ってところだな」
エリオルを分かっているハワードは、そう言うと笑った。
ヘルンとハワードの会話を聞いていると、エリオルという人物が更に、訳が分からなくなってくる。
「アーメル、実際のところ、エリオルって何者なんだ?」
カリナがさすがに気になったのか、アーメルに小声で問いかける。
「それ、僕も知りたいです」
それまで大人しく話を聞くことに専念していたディタまでが口を挟む。
「悪いけど、私も知らないのよ。でも、触れてまずいことだけは確かよね。結構、物騒な話してるもの」
「ああ、の、様だな」
「ですね」
「他の奴らは知らないんだな?」
三人の小声が聞こえたのかヘルンはハワードに念押しするかの様に問いかける。
「ああ、あいつは嫌がるからな。ようやく見つけた居場所だから、それのせいで失いたくはないんだろう」
「だけど、居場所と思うなら直のこと、知ってもらっておいた方がいいんじゃないのか?」
ヘルンの言葉の意味を他ならぬハワードはよく、分かっている。
「一応、前王と王妃は知ってるみたいだ。ラミンナ様から聞いたんだろう。まあ、それこそ、あいつの好きにさせるさ」
「なるほど、まあ、いい。ついてこい。お前の名前を出せばすぐにでもやってくるだろう。あの御方は」
ヘルンは話を区切ると、ハワードたちを城の中へと促す。
「すまねえ。正直、頼れる人間がお前しか思い浮かばなかったんだが、どうやってコンタクトを取ろうか、考えあぐねていたんだよ。
まさか、お前の方から声をかけてくれるなんて、本当にラッキーだったぜ」
いかにも助かった口調で言うハワードを、ヘルンは少し嫌そうな表情を浮かべて見つめる。
「どうした? 俺、何か変なこと言ったか?」
「よく言うよ。どうせ、計算して来たんだろうがよ。
唯一この時間帯に、俺がここを必ず通ると知ってたくせに。
お前本当に頭いい奴だよな。俺はそんなお前の才能が大嫌いだがな」
仲よさげな様子のヘルンの突然のカミングアウトに、ふたりの後ろを歩いていた三人は一瞬、凍り付く。
「おい、後ろの奴らをあまり脅かさないでくれるか。中にはガキもいるんだからよ」
さすがのハワードも少しだけ困った様子でヘルンをたしなめる。
「いいじゃあねえか、これくらい。俺だってあいつのお守り役やりたかったんだからな」
「はーあ、そりゃすまなかったな。だけど、お前はやらなくて正解だったと俺は思うぞ。ラミンナ国にも、ちゃんとした紋章官は必要不可欠だ。お前という存在があるからこそ、この国はこのまま美しい国を保つことが出来ているんじゃねのかな」
それはお世辞などではなく、心からの本音だった。
「ずりー奴だな。そんな風に言われたら、怒るに怒れねえ。
本当に食えねえ奴だ」
これ以上は本当に口でも勝てないと悟ったのか、ヘルンは大人しくなると、ズンズンと城の中へと入っていく。途中ですれ違う女官たちは、皆一応に驚いた様子で、ヘルンが連れている一行を見つめていた。
そのまま、何の許しも得ないまま、謁見の間まで連れて行かれる。
「わー、さすがにタムール国よりも大きいわね。ここ」
アーメルが感心した様に口を開く。
「ああ、建物の造りもタムール国とは全然違うな」
カリナもその大きさに、さすがにビックリした声を出した。
ディタに至っては、ビックリしすぎて声も出ない様子である。
「いいのかよ。まだ、姫の許しをもらってないだろう?」
「ああ、別に大丈夫さ。もし、見とがめられたら、俺の名前を出せばいい。じゃあ、ちょっとここで待ってろ。
ラミンナ姫に謁見を申し込んで来る」
「分かった。ありがとう」
素直に礼を言って、ハワードはヘルンを見送る。
ヘルンはそのまま足早に部屋を出て行った。
「ねえ、ハワード。紋章官ってどこの国でもかなり上の地位の人じゃない? そんな人がエリオルの世話係になるはずだったの?
だったら、貴方も相当、上の地位の人よね?」
アーメルはなかなか、鋭いところを突いてくる。
「あいつの言葉はあんまり信じねえ方がいい。あいつはこの国でエリート中のエリートだ。だから紋章官にもなれた。
俺なんかとは違う。そもそも俺はベルベット国からの派遣組だから、直接この国の地位に左右されない」
「えっ、そうなの? 何だ。でも、あの口ぶりだと・・・・・・」
納得がいかないのか、アーメルはひとり、ブツブツとぼやいている。
それを無視して、ハワードは心の中で続ける。
ただし、そのベルベット国では、エリート中のエリートだったのも事実だがな。
だからこそ、エリオルの教育係を頼まれることになった。
だが、それを大っぴらに言う必要性は全くない。
「ハワード!」
もの凄い勢いで、この国の水を集めたかの様な、美しく青い髪をなびかせた、まだうら若い女性が入って来る。
ゆるくウエーブしている髪はとても長く、まるで水が流れているみたいである。更に美しい顔立ちに緑色に輝く瞳。
アーメルはラミンナ姫を知っているが、他のふたりは初対面である。
ビックリして、息を飲むのがよく分かる。
「ラミンナ姫、お元気そうで何よりです。婚姻準備は進んでおりますか?」
「はい、順調です。エリオルは・・・・・・やっぱり来てないんですね」
まるで花がしぼんでしまうかの様に、しょんぼりとするラミンナ姫の様子があまりにも痛々しい。
「姫、貴女が大切だからこそ、会えぬのです」
「分かっています。私のせいで、私の為にわざと護衛剣士を辞めたのでしょう? でも、私は・・・・・・」
「姫、血は時に争いを生む。エリオルはこの国の為に、貴女の幸せの為に身を引いたのです。後悔なんか微塵もないのだから、姫も悲しまないで欲しい」
真剣な眼差しでラミンナ姫を見つめ、ハワードは力強く言った。
「ハワード、貴方も後悔していませんか?
本当ならもっと違った選択もあったのに、エリオルとずっと共に生きねばならない人生に後悔していませんか?」
「姫、勿論です。俺は最高の御方と出会えた。あの御方と歩む人生を後悔なんてしない。これまでも、これからも、絶対に!」
普段では決して言わない様なセリフを言って、でもそれがハワードの本音なんだと知る。
口ではどうこう言っていても、結局エリオルはハワードにとっては最もかけがえのない主。それが痛いほど伝わって来る。
「あっ、そうだ! これ、あいつから。渡してくれって頼まれた」
エリオルに託されたペンダントの箱を手渡すハワード。
その箱を大事そうに受け取ったラミンナ姫は、そっと開ける。
中からは薄ピンク色の石を組んだ花のペンダントが出てきた。
「わあ、綺麗!」
思わず声をあげたラミンナ姫の手から、アーメルは黙ってペンダントを受け取ると、姫君の首にかけた。
この辺の機転は男性でも普段、女性として振る舞っているが故のものかもしれない。
「綺麗、ラミンナ姫、元々美しい方だけど、何倍も綺麗よ。エリオルにも見せてあげたいわ」
「ありがとう」
ラミンナ姫はそのまま何も言えなくなって、泣き出してしまう。
アーメルはそんな姫君を優しく見つめると、そのままそっと抱き締める。
「おい、アーメル!」
さすがにマズいと思ったハワードが声をあげるが、アーメルは静かにと言うかの様に、人差し指を立てるとそのままじっとする。
「ワア~」
我慢していたものが一気に溢れ、大声で泣きじゃくるラミンナ姫。
「姫君、心の中の悲しみを全て、吐き出してください。
ここは貴女が気にしないといけない人はいないから、思う存分泣かれて構いません。そして、泣き疲れたら強くなってください。
エリオルが貴女の心配をしなくてもいい様に」
静かなアーメルの声。この時アーメルは過去の自分とラミンナ姫をダブって見ていた。
遙か昔、ほんの少しだけ、ガリアーノ国王の正妃だった頃の自分と。
今、姫君が何をして欲しいかが手に取る様に分かる。
過去の自分の苦しみとそれは同種のものだから。
しばらく泣くと落ち着きを取り戻したラミンナ姫。
「エリオルは素敵な人たちと出会えたのですね。良かった。エリオルを頼みます。彼は私にとって大切な人。かけがえのないただひとりの」
最後のセリフを言いかけて、ハッとする。
それは明らかに何かを言いかけて止めたのが見てとれた。
「姫君、別に喋ってしまっても構わねーよ。貴女がそれ程に苦しいのなら。こいつら三人とも、言っちゃいけないことの区別くらいできる。何よりエリオルのことを知りたくてウズウズしている奴らばかりだからよ。俺はあいつとの約束があるから喋れねーが」
必死に秘密を守ろうとしている様子があまりにもけなげで、ハワードはそう言った。
「ハワード、でも・・・・・・」
ためらいが顔に出る。それは相当、大切な秘密なのだろう。
「姫君、私たちは無理に聞こうだなんて思ってないわ。
確かにエリオルが何者かは気になるけど、いずれ彼は、私たちにも心を開いて本当のことを話してくれる時が来ると思うの」
意外にもかなり前向きなアーメルの言葉に、ラミンナ姫は少しビックリした表情を浮かべる。
そして喋っても大丈夫と判断したのか、さらりと語る。
「彼は私の弟です」
静かな口調。ただし、この表現も正確ではない。表向き男となっているのでそう言っているだけで、正確には『妹』なのだが。
「えっー、うそー」
それでもインパクトは十分な様で、ディタが思わず声をあげて、次の瞬間、自分で自分の口を押さえている。
ハワードはそんなディタの様子を、さも可笑しそうに見つめていた。
「エリオルの母親は私の母、シャンディ・ノワードです。
ただ一度だけ、父以外の男性を愛し、過ちを犯してしまいました。
そのせいで、エリオルは混血種として生まれたんです。
だから隠されました。昔は身体もすごく弱くて、混血種でもキチンと生きていくことができる様に、ハワードに教師になってもらったのです」
「なるほどね。それは口が裂けても決して言わないわね。
エリオルは相当、貴女のことが大切そうだったから。貴女のマイナスになることは決して口にはしない。
ありがとう、姫君。話してくれて。私もカリナもディタも、決して喋ったりしないから、ね?」
アーメルはカリナに視線を向けた。カリナは黙ったまま、大きく頷く。
「僕だって言いません」
ディタも強い口調で言う。
ラミンナ姫はアーメルから離れると、深々とお辞儀をした。
「ありがとうございます。弟をどうか、よろしくお願いいたします。どんな小さなことでもいいの。あの子が幸せなり喜びなりを感じることを与えてあげて欲しいの。
私、結局、何もしてあげられなかったから」
「そんなことはねーよ。あいつには貴女の存在がどれだけ支えだったか。貴女に感謝しているよ」
「でも、あの子が周りから白い目で見られても、助けてあげることすらできなかった」
姫君の後悔の言葉だけでも、エリオルがどれだけ阻害されて生きて来たかは、安易に想像できる。
「あの、ハワード、本当にエリオルは大丈夫ですか?
本当にこれを届ける為だけにここに来たのですか?」
純粋な緑色の瞳が真っ直ぐにハワードを見つめる。
「ああ、エリオルは大丈夫。ただ、正確にはここに来た理由は他にある。うーん、こっちは空振りだった様だな。
ヘルンと喋った感じじゃあ、何もなさそうだし、姫君も順調なら大丈夫だろう」
ハワードの言葉にカリナがすぐに反応する。
「それじゃあ、あっちの方が?」
「ああ、多分な。あいつ無茶しなけりゃいいがな。
まあ、なるべく早く、タムール国に戻るかな。
ああ、だけど、すこし頼みがあっていいかな?」
ハワードは思い出したかの様にラミンナ姫に問いかける。
「はい、何でしょうか? 何でも言ってください。
出来ることと出来ないことはありますが、大抵のことは叶えて差し上げることができるはずです」
「すまねえ。このディタとカリナを一日でいい。この国の剣士たちと一緒に剣の稽古をさせてやって欲しい」
「ハワード・・・・・・」
ディタが不安そうにハワードを見つめる。
「大丈夫だ。お前は自分で思っているよりも強い。心配しなくてもここの剣士たちともひけはとらねえよ。
カリナは護衛剣士だからな。知識を入れておくに超したことはない。戦いの組み立て方というものを学ぶのには打って付けだからな。そもそも、その為に連れてきたんだからな」
ハワードの話を聞いて、ラミンナ姫は即答する。
「分かりました。それはすぐに取り計らいます。他には?」
「ラミンナ姫は婚姻の後、七国同盟をどうしていきたいか、それが知りたい。最近お会いになったライアス王子が王となった。
正式な届け出はもう少し後かもしれないが、ライアス王におかれては、七国同盟を更に強固にしたいとお考えだ。
タムール国はこことは違い、作物が豊富にある訳でもなければ、強い剣士を育てている訳でもない。
おそらく他の六国の輸入がなければ、タムール国自体が滅びてしまう可能性だって十分に考えられる。
だからこそライアス王は自国主義者じゃないんだ」
タムール国に来て、そんなに時間が経っている訳でも、ライアスとふたりでじっくりと話した訳でもないのに、ハワードは誰よりもライアスの心の内を見抜いていた。
そのことに気が付いた時、アーメルはこのハワードという人物はただ者じゃないと確信したのである。
「私はお顔は拝見しましたが、ライアス王という人物を知りません。しかし、エリオルを受け入れてくれた御方です。
きっと誰よりも、物事の本質を見抜く目を持っておいでの方なのでしょう。元よりラミンナ国とタムール国は双対国。
お互いに助け合っていかなければならない関係です。
もしも、タムール国に何かが起こり、困る様なことがあれば、すぐに知らせをよこしてください。できる限りの対応をさせて頂きます」
穏やかな表情の姫君の言葉に、ハワードは笑顔を向ける。
そして後ろの扉を気にする素振りを見せた。
「ありがとう、ラミンナ姫。ヘルン、立ち聞きは行儀が悪いなあ。
入って来いよ」
いつから扉の向こうにいたのか、ヘルンがその言葉で、悪びれる様子もなく、入って来る。
「あらまあ、いつからいたの?」
アーメルが問いかけて、ヘルンは顔色ひとつ変えることなく言った。
「最初から全部、聞いてた。ハワード、そもそもお前が悪いんだぞ。あんな思わせぶりな言い方されたら気になるだろうが」
それは否定出来ないところなので、ハワードは苦笑する。
「確かにな。ただ、俺としても確信があってここに来た訳けじゃねーからな。何か起こってないんならいいんだよ。
多分、ラバット国の方だろう」
そのハワードの言葉に、ラミンナ姫が何かに気付いた表情をみせる。
「ハワード、ラバット国で何か起こっているのですか?」
「いや、それも良くは分からねーんだ。どうして姫君はそう思われる?」
「いえ、少し前、ラバット国から戻ってきた剣士が変なことを言っていたので、少し気になって」
「変なことって?」
「あっ、それなら俺も聞いたぞ。確かラバット国の王がおかしくなって、旅人を次々に牢屋へ入れているって言うあれだよな。
しかもその王は色きちがいになっているらしくて、捕まえた女は慰みものにしているらしい。
にわかには信じ難い話だったんだが、その剣士はひっつかまる寸前で何とか逃げたらしい」
ヘルンの言葉にハワードは大きく頷く。
「なるほど、これはやっぱりラバット国の方だな。うーん、あっちにエリオルが行ってるんだよな」
「えーそれは、大丈夫か? 色きちがいの王が血迷ってエリオルに手を出すなんてことあるかもしれないぞ?」
ヘルンが慌てた声を出す。
「いや、仮にそうでもあの腕だぞ。返り打ちにあわせるに決まっているじゃないか。ただ、あいつ逆に自ら好き好んで捕まって牢屋に入りかねないからな。絶対的な自信があるから、手っ取り早い方法を選ぶ気がする」
さすがのハワード。この時点で確実にエリオルの行動パターンを理解していた。
「アーメル、すまないが、俺と一緒にこのまま、タムール国へと引き返してくれ。カリナとディタは予定通り剣の稽古をしてからタムール国に帰ってくればいいさ」
ひどく優しげにいうハワード。ふたりは大きく頷いて、嬉しそうに微笑んだ。
「それじゃあ、私たちは戻りましょう」
「ああ、ラミンナ姫、ヘルン。バタバタで悪いが失礼する」
今にも飛び出して行きそうなハワードを見て、ヘルンが言う。
「待てよ。俺も行くよ。ラミンナ様、このヘルンに少し休日をくれませんか? エリオルの無事を見届けてから帰ってきます。
貴女様もその方が安心でございましょう?」
なかなか知恵者のヘルンはそう言うと、ラミンナ姫を見つめる。
「ヘルン、分かりました。行って来てください。どんなことをしても、必ずエリオルを助けてください」
「勿論、分かっています。このヘルンの命に代えましても必ず!」
ラミンナ姫に一礼して、ヘルンはハワードを見る。
「よし、行こう! で、お前たち、馬には乗れるのか?」
走りながらヘルンが問いかける。
「俺はエリオルの師匠だからな。何でも出来ないとダメだろう?」
「私も中身は男だから、結構子どもの時から馬には乗っていたから大丈夫だけど」
アーメルもごく普通のことの様に言う。
「よし! それじゃあ、馬で行こう。その方が早い。すぐに三頭、用意する。少し待て!」
ヘルンはそう言うと、ハワードとアーメルを門のところで待たせ、自分は馬を調達するべく走って行った。
「ねえ、やっぱりハワードも凄い人なのよね。そしてエリオルはもっと凄い人なんだわ」
アーメルの言葉を顔色ひとつ変えず聞いていたハワードは問いかける。
「どうして、そう思う?」
「だってヘルンも貴方もエリオルが危ないかもと思った途端、かなり焦っていたもの。ラミンナ姫だって自国の紋章官であるヘルンがタムール国に行くことをすぐに許可した。
そりゃあ、大切な弟君だって言うのは分かるわよ。
でも、それだけじゃ、ない気がする」
アーメルの言葉を黙って聞いていたハワードはゲラゲラと声を出して笑い出す。
「ハワード? 私、何か変なこと言った?」
「アハハ、わりー。いや、アーメル・ヘルメス。大したやつだな。
みんなあんたの見てくれに騙されそうだが、大した眼力だ。
まあ、好きに思ってくれりゃあいい」
ハワードは決して確信を語りはしなかったが、遠回しに考えは合っていると肯定している様にも聞こえる。
「ハワード、馬、調達してきたぞ」
「すまねえ。とにかく戻ろうぜ。アーメル!」
「ええ、そうね」
見事な栗毛色の馬を借りて、走り出す。三頭の馬は風の様に軽やかに走り、タムール国を目指す。
ただし、この時点でライアスの元にはまだ、何の情報ももたらされてはいなかった。
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