隠れんぼは終わりにしよう

ぐるもり

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隠れてないで出てこい!

天使との出会い

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 今日は病院全体の納涼会。 面倒臭いと思っていた俺は、毎年当直を買って出ていた。けれども、腹黒狸医院長に、「佐鳥君。ここの所納涼会出てないよねー? 当直、別の先生に頼んだから今年は出れるよね?」と、肩を叩かれてしまった。
 一ス夕ッフとして上からの命令に逆らうわけにはいかない。今日はこうして着憤れないス一ツに身を包み会場のホテルに居る。

 しかも、席順はくじ引きだった。まじかよ。高校の席替えかよと、突っ込みたかったが、喚くような歳でもない。黙ってくじ箱の中に手を入れた。
 会場の中央に居る、腹黒狸医院長は研修医いけにえに囲まれている。あそこに座るよりははずっとましか。そう思っていた。しかし、誰が隣に座るのか?という合コンの席替えのような雰囲気はどうも落ち着かない。
夕バコでも吸うか。そう思い立ち、外の喫煙所に行こうと立ち上がった時、隣から声が聞こえてきた。

「……あ、の。席……」

 聞こえるか聞こえないかくらいの声だった
その声に、ジャケットを隣の席に置いていたことを俺は思い出す。

「あぁ、 すみませんね。 どうぞ」

 ジャケットを取り除く と、これまた小さな声ですみませんと謝られた。力夕ンと椅子を引き、声の主が隣に座った。
見たことない女だった。俺は消化器内科医という事もあり、色々な病棟に出入りしている。結構顔は広いほうだと思っていたが、まだ知らない人がいることに俺は驚いた。


 ふわんふわんの髪の毛は流行りの犬ころを思い出させる。白いブラウスからがっちりと主張する二つの膨らみ。これまた柔らかそうな二の腕。サックスブル一の力一ディガンが心もとなく肩掛けされていて、 細い肩を強調していた。視線を少し下げれば大きな花柄の黄色いスカート。そこからはすらりとした足が伸びていた。上から下までしっかりと観察したところで俺は、視線を顔に移した。
切りそろえられたフワンフワンの前髪の下には、くりんくりんのまつげに縁取られたどんぐり眼と小さめの鼻。ぷんわりと美味しそうな唇をはきらきらと輝いていて、思わず吸い付きたくなった。

 こいつ!超可愛いじゃねぇか!
 ここまで来るのに、トータル三秒。職場の女に手は出さないと決めていたけれど、 まずいかもしれない。 俺の琴線にビンビンに触れてくる。
 極めつけは、匂い。香水臭くもない。夏なのに汗臭くもない。 ふんわりと優しい石鹸のような匂いがする。天使だ。天使が、いる。
その香りをもっと堪能したくて、不自然にならないように少しだけ身体を右隣に寄せる。

「佐鳥先生」
「っ ! な、 何か?」
「ジャケット、落ちてましたよ?」

 身体を寄せたことに気がつかれたと一瞬驚いたが、天使は柔らかく微笑んで俺の落ちたジャケッ卜を手にしていた。柄にもなく、顔に熱が集まってくる。が、しかし。伊達に年は食っていはい。俺は「あんがと」と小さく返事をしてジャケットを受け取った。その時、小さな手とぷくぷくした指が俺の手に触れた。その感触にぞわぞわと粟立つ様に刺激が全身を駆け巡った。

 こりゃ、ホンモンだ。
 手に入れたい。 
 自分のモノにしたい。
 湧き上がる欲望を抑えられなかった。
 堪えきれない笑みが漏れそうになり、口元を手で押さえる。

 そうと決めたらやることは一つ。患者にも定評のある微笑みを掲げて、隣の名も知らぬ女に声をかけた。


「看護師?」
「え? あ、あ、わた、私?」
「そう。君」
「ふぁ、ふぁい! あ、いや、その」

 違うのかそうなのかよくわからない返事だったが、恐らくは看護師なんだろう。続けて病棟?外来?と尋ねれば、「ふぁ、ふぁい! びょ、びょ、あ、その」と、同じ様な返事が返ってくる。そうして俺は、少しずつ、確実に、情報を集めていった。
 どこの病棟?と聞こうとした所で、腹黒古狸医院長の開会のスピ一チがはじまる。天使は狸に視線を移してしまったので、俺の情報収集は打ち切られた。ちっと舌打ちをして、 背もたれに背中を預ける。真剣に話を聞いている隣の天使に気が付かれないようにじっと見つめる。見たところ、二十代……前半?多分、新人に毛が生えた年齢。にしては、随分のとこの場に馴染んでいる。不思議な女だな。なんて思っていると、 今度は副院長の乾杯の挨拶となっていた。

 空のグラスを持って席から立つ。隣の天使は、ビール瓶を持ってこちらをじっと見上げていた。 無言でグラスを動かせば、にぱっと音が聞こえそうなくらいの笑顔で俺のグラスにビ一ルを注いでくれた。

「そっちも出して」

 瓶を奪い取って天使にすすめる。一瞬だけ躊躇したが、 おずおずとグラスを素直に出してきた。ちょっと上目遣いでマジ天使可愛い。心の中で何度天使と呟いたか分からない。俺は自分の変わりように、思わずアホかと突っ込んだ。けれども、もう止められそうになかった。
 グラスを持つ手に指輪はない。そんな狡い事まで確認して、 ビ一ルを注ぐ。じっとグラスを見つめる天使の瞳は、何故か親の仇を睨んでいるかのようだ。俺の頭の中に、クエスチョンマ一クが飛び交う。

「……飲めないの?」
「あ! いや、あの……弱くて……」
「……無理しなくても。烏龍茶にしたら?」
「い、いえ! 大丈夫です!」

 
 そんな会話をしていたら、 胡散臭い細狐の副院長が 「乾杯 !」 と大きな声で音頭を立てた。何となく天使と目が合って、どちらからとも無く笑った。俺は、天使のグラスに自分の物を当てて、 乾杯と言葉にした。

「佐鳥先生。お疲れ様でした」
「おう」

 花がほころぶ笑みとは、今、天使が見せている笑顔だと俺は思ってしまった。


 飲み始めてー時問も経てば、 大分天使と打ち解けてくる、世間話をするくらいの余裕も出てきた。
そういえば、どこの病棟か聞いていないことを思い出し、俺は口を開いた。

「納涼会恒例の景品タイムでーす! みなさん! 入口で配られた番号札はお持ちですか?!」

 しかし、実行委員の大きな声でまたもや阻まれてしまった。天使は俺の声かけには気が付かず、自分の番号を握りしめて真剣にステ一ジに向かい合っていた。
焦らなくてもいいだろう、と自分に言い聞かせて、俺は温くなったビールを口にした。
「次は……74番! 医局の佐鳥先生! おめでとうございま一す! ステ一ジに上がってきてください一!」

 自分の名前が呼ばれる。ラッキ一。と思って壇上に向かう。賛辞の言葉と共に目の前に出されたものは、高級スイーツ詰め合わせセッ卜。甘いものが嫌いな俺は、顔を顰める。
しかし、そんな事など知りもしない腹黒古狸医院長は機嫌よく賞品を俺に渡してくる。必死で笑顔を作り、俺は壇上を降りた。
元の席に着けば、 隣の天使が目をキラキラさせて、俺の商品を覗いていた。いいなぁ。という小さな呟きも聞こえてくる。

「いる?」
「ひ! え! いいですよ!」
「俺甘いの苦手なんだ」
「だって、お、奥さん、とか」
「独身の俺に言っちゃうの?」
「え、あ、ごめ、ごめんなさ……」
「貰うのが嫌ならさ」

 上で食べよう? と、俺は人差し指で天井を指してそう言った。上とは、もちろん会場であるホテルの部屋。希望すれば一室用意できると前々から聞いていた。
半分冗談、半分は本気。俺は賭けに出た。
目の前の天使は、真っ赤な顔で視線を彷徨わせている。少し性急だったと思い直し、俺は冗談だと言おうとした。

「嘘。冗談だ……」
「……い、行きます。食べたいです」

 騒がしい会場の中で聞こえるか聞こえないか位の小さな声だった。 でも、 天使から発せられる全てに敏感になっていた俺の聴覚は、天使の呟きをキャッチした。

「……抜ける?」
「……は、い」

 酒のせいか?それとも……目尻を赤く染めて、俺を見上げる天使。その瞬間俺は完全に囚われた。

 あとは存知の通り、 散々天使を貪り尽くしした。いや、最後は乗られていたから、俺も貪り尽くされた。
天使の若さに敵わなかった俺は、悔しい事に先にダウンしてしまった。そして、起きたらベッドも部屋の中も、もぬけの殻。
探そうにも名前を知らない。盛ったせいで、 天使の出処を掴む情報も手元には残っていなかった。







 
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