隠れんぼは終わりにしよう

ぐるもり

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初めての感情に戸惑う

この気持ちは?

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「先生!」
「佐鳥先生!」
「先生、お昼ですか? ご一緒させてください」
「先生、先程の患者さん何ですが……」


 最近入った研修医の子はとても元気だ。看護師の間でも、元気なよく患者対応もよいと評判だった。黒髪ポニーテールを靡かせ、溌剌はつらつと仕事をしていた。
 有志の下で。





「小村主任、頼まれていた薬処方しておいた」
「佐鳥先生。急ぎではなかったのに、すみません」

 印刷された処方箋控えを有志から受けとる。その時ちょっとだけ指が触れて、私の胸の中がかっと熱くなった。私の動揺に気がついた有志は、楽しそうに口元を緩めた。

「ちょっと……」
「……今日は定時であがれそうだ」

 触れた指先はそのまま、有志が私の耳元で囁く。ぼっと顔に熱が集まる。たまらず一歩下がると、笑顔の有志と目が合った。赤い顔を見られたくなくて、思わず目をそらした。

「ゆ、」
「有志先生っ!」

 ゆうし、と呼ぼうとしたところで、溌剌とした声に遮られた。有志はその声に振り向いた。

 あ、危なかった……

 職場なのに、名前を呼ぶところだった。
 ココ最近、自分のポーカーフェイスが崩れている。危なかったと、私は大きくため息をついた。頂いた処方を捌こうと、デスクにつく。

「処方なんて私がします! 看護師がいちいち有志先生を呼ばないでもらえますか!?」

 椅子に腰掛けた瞬間だった。ぐい、と肩を掴まれる。何事かと思う暇もなく、そうまくし立てられた。
 ぱちぱちと瞬きをふたつ。自分に言われていると理解するまでに時間を要した。

「え、と」
「処方なら私がします! 今度から私に連絡してください」
「……あの、」

 驚く私の前に、白衣が割り込んできた。有志だ。今気がついたが、有志の事を真島先生は名前で呼んでいる。何故か、ぐっと喉の奥が詰まる感覚に襲われる。

「おい! 真島! いいんだ! 麻薬内服だ! 俺じゃないとできない」
「だとしても、まずは私を通してからにして欲しいんです。有志先生の手を煩わせるわけには行きませんから」

 とても元気がよく、かつ威勢もいいな。素直にそう思った。微笑ましいはずなのに、喉の詰まりが少し落ちて、胸の奥がチリチリと痛んだ。

「あのなぁ。俺にしか話せないことだってあるだろ?」
「私も一緒に相談したいんです!」

 研修医と指導医にしては、距離が近い。背の高い有志の胸元に、真島と呼ばれた先生は入り込んでいる。めいっぱい背伸びをして、顔を上げる真島。その真島を両手で制す
有志。どちらかがもう一歩近づけば、キスすら出来てしまいそうな距離。

 また、胸の奥がチリチリと痛む。

「……?」
「小村主任?」

 俯いて黙ってしまった私を見て、有志が声をかけてきた。その声に顔を上げると、白衣の向こうで、物凄い睨みをきかせている真島先生と目が合った。
 明らかな牽制の瞳に、私は怖気づいてしまった。

「……わかりました。では、今後、急を要しない場合以外は……」
「急を要する場合も!」
「真島! いい加減にしろ!」

 声を荒げた有志に、私も真島先生も肩を震わせた。こんなふうに怒る有志を、私は見たことない。

「真島。お前の言動は高圧的すぎる。チーム医療が崩れる」
「……すみませんでした」
「謝るのは、俺にじゃない」
「……小村主任……。申し訳ありませんでした」

 明らかに不貞腐れた顔だ。謝る顔じゃない。そう思ったけれども、私は、ことを荒らげたくないため、いいえ。と返事をした。

「後は何かある?」
「……いえ、特には」
「じゃあ、有志先生! 行きましょ? 聞きたいことが沢山あるんです!」

 私と有志の間に入り込み、真島先生はそう言った。腕を引かれ、ナースステーションを後にする有志の背中を見送る。一瞬だけこちらを向いて、意味有り気に微笑む真島先生。その表情に、また胸がチリチリと痛んだ。
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