《完結》幼馴染の女上司と異世界召喚された僕ですが、勇者じゃなく“標的”でした ~殺し屋に命を狙われるとか聞いてない~

月輝晃

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第一章 田中悠斗

決着

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――空気が軋む。

 散らばったはずのメスが、まるで糸に吊られた操り人形のように宙に浮かび、銀色の光を月光に反射させながら円を描く。
 数は十、二十――いや、もっとだ。俺の目でも正確に数えられない。

 魔法? 奇術……? それとも……。

「……チッ」
 思わず舌打ちが漏れる。

 ジャックの指がわずかに動くたび、メスの群れがうねりを上げる。血の匂い、鉄の匂い、そして――死の匂い。

「ワイのとっておきやが」
 ジャックが低く笑い、血で濡れた右手を掲げる。

「どうや? 芸術的やろ。ワイにとっちゃ、この子らは絵筆で、楽器なんや」

 ――メスが一斉にこちらへ突き出される。

 瞬間、俺は床を蹴った。
 影の爪で数本を弾き落とし、身をひねって残りを紙一重でかわす。だが完全に避けるのは難しい。頬に一筋の切り傷が走り、冷たい感触と共に血が滴った。

「サーラ!」
 リネットの悲鳴が聞こえる。

 壁がまた破裂音を立てて抉られる。
 鉄板が弾け、火花と木片が散り、悠斗の肩すれすれに弾丸が突き刺さった。

「……くそっ、近い! 完全に狙われてる……!」
 悠斗が叫ぶ。

 ――そうだ。狙撃手は俺たちを見失っていない。
 むしろ……ジャックの合図に合わせて、狙撃のリズムが変わっている。

 ――通信機か……。時々、ジャックの口元が動くのが見える。

「おい……お前、狙撃手を操ってるな」
「フフフ、操ってる言うより、演出やな。舞台には観客と音響が要るんや」

 その言葉を合図に、メスの群れがさらに増えた。既に数百は浮かんでいる。
 光の残像を描きながら、うねりを上げて襲いかかってきた。

「――なら、切り裂くだけだ」

 俺は二刀を構えた。
 右に影の爪。左に姉妹刃。

 次の瞬間、銀の豪雨が降り注ぐ。
 無数のメスが月光を反射し、空間を埋め尽くしながら襲いかかってくる。

 刹那、俺は二刀を振るう。

 ザシュウッ! 横薙ぎで五本を叩き落とすと、メスが床に弾け飛ぶ。
 ギィンッ! 跳ね上げるように逆手で切り払い、七本が火花と共に砕ける。
 シャラララッ! 背後に回り込んだ刃を振り返りざまに薙ぎ払い、十本が残響を残して転がる。

 ジャキィィン! ジャラララ……!
 金属音と火花が倉庫を赤く染める。

 しゃがみ込み、足元を狙った群れを低く構えた二刀で一気に両断。
 斬撃の軌跡が弧を描き、さらに十五本が粉々に砕け散る。

 天井から降る束を逆袈裟に斬り上げ、二十本をまとめて切り裂いた。

 三十本……四十本……五十本……。
 銀の雨を斬り裂くたび、倉庫の空気は鋭い鐘の音で満たされていく。

 七十本。八十本。九十本。
 呼吸も鼓動も数えるように、俺の腕は止まらず振り抜かれる。

 九十九本――。

 ジャックの笑みが引き攣った。
「な、なんやこの速さ……!」

 だが――終わりではない。
 さらに浮かび上がるメス。百を超え、数百の残像を描く銀の群れ。

「……まだだ」

 ギャギィィィンッ! ザシュウウッ! ドシュウウンッ!
 斬撃が連なり、残光が渦を巻く。
 床を蹴り、俺は銀の嵐そのものを押し返す。

 ――気付けば、床は切り落とされたメスの山で埋め尽くされていた。
 金属片が散乱し、倉庫の床は光の瓦礫の海となっている。

「化け物かァ! なんぼ増やしても、全部斬り伏せやがる!」
 ジャックが怯えを隠せず叫ぶ。

 影の爪と姉妹刃は交差し、無数の閃光を斬り裂きながら進み続けた。
 銀の嵐すら呑み込む斬速――それは既に、人外の域にあった。

 ――今だ。

 腰のポーチから取り出した時限式の手りゅう弾を、リネットの手に握らせる。

「リネット。街の壁の外――北の尾根に見える旗のところまで、これを飛ばせ」
「な、なにこれ……!? わ、私……風魔法は得意じゃなくて……!」

 その肩に、悠斗が手を置いた。
「大丈夫だ、リネット。僕が……一緒にやる」

「――【2倍】!」

 リネットの体が光に包まれ、魔力が膨れ上がる。
 息を呑むほど鮮烈な風が巻き起こり、手りゅう弾を包み込む。

「いけぇぇぇぇっ!!」

 轟音と共に、手りゅう弾は矢のように飛んだ。
 空を裂き、北の闇へ――そして。

 ――ズドォォォォォォォォン!!!!

 閃光。衝撃。爆炎。
 目標に届いた瞬間、光の柱が立ち上がり、そこから 炎が地を這うように広がっていく。

 次の瞬間、山の斜面が燃え上がった。焼夷弾だ。
 爆風の後に残ったのは火の雨。仕掛けておいた罠は、ただ爆発するだけでなく、広範囲を炎の地獄に変えるためのもの。

 倉庫の窓から見える夜空が、断続的に上がる火柱と炎の海に照らされる。
 逆光となった炎が、悠斗とリネット、そして俺の影を長く伸ばした。
 燃え盛る山脈の稜線は、まるで巨大な焔の壁のように浮かび上がる。

「な、なんやと……!? 焼夷弾やと……!」
 ジャックの顔から、初めて余裕が消えた。

 ――そうだ。あの森を駆け回っていた時、俺とウミャウで仕掛けたのはただの爆薬じゃない。焼夷弾を繋ぎ、連鎖的に燃え広がる炎の檻。10キロ先までも想定済みだ。

 火の手は次々と広がり、狙撃手の位置も炎に飲まれていく。
 気配は……消えた。生死は不明だが、少なくとも撤退は確実だ。

 気付いた時には、ジャックの姿もまた倉庫から消えていた。
 炎に照らされた影の中へと、溶けるように――。
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