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すごろく
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部室の窓から春の風が吹き込み、畳の香りがふんわりと立ち上る午後。座道部に新たな風が吹き込んできたあの日から、ゆずはちゃんはすっかり馴染んでいた。
「今日からゆはりんって呼ぶね」
「え?なんです?それ?」
「座道部のしきたりだよ。あだ名にりんって付けなければならない」
「じゃあ私もかりりん?って呼ばないといけないんですか?」
「かおりんにして……」
ゆずはちゃん――ゆはりんは、頬を赤くして少しモジモジした後
「かおりん……きゃっ、恥ずかしい」
――可愛い
「かおりさん、今日って“特別活動日”なんですよね?」
そう尋ねてきた彼女の瞳は、ちょっとだけキラキラしていた。
――ホント、可愛い
姉――しおりんは私に対してこういう気持ちだったのか
「うん、座道の精神を“遊び”で学ぶ日。奈々が提案してくれたんだよ」
「それって、座りながらゲームするとか……?」
「まあ、そんな感じ」
そのとき、奈々が風のように滑り込んでくる。
「遅れてごめん! ちゃんと持ってきたよ、座道部オリジナル・すごろく!」
彼女が掲げたのは、畳一枚分の手描きのすごろくマット。マス目には「正座30分」「茶碗の名を一つ言う」「呼吸を整える」「隣の人をほめる」など、いかにも座道部らしい項目が並んでいる。
「これ……手作り?」
「もちろん! 正座しながら描いたから、ちょっと歪んでるけど」
「そこに座道魂、感じます……」
ゆはりんの真顔コメントに、みんなが笑った。
*
駒は、和紙を丸めた小さな球。サイコロは市販のものだけど、ひとつだけ、目の「6」だけが桜の模様になっていた。
「これ、桜目が出ると……?」
「“即座に一段上の精神”ってことで、一気にゴール近くまでジャンプできるんだよ!」
「急にスピリチュアルだね……」
「座道は心の修行だからね~!」
奈々の軽やかなノリに、わたしたちは笑いながらも、しっかり正座してゲーム開始の準備をした。
*
最初にサイコロを振ったのは奈々だった。
「いっくよー!」
転がるサイコロ。「4」
「“4歩進んで、『今の気持ちを一句』”? うわ、いきなりハード!」
奈々は数秒考え、きりっと顔を整えて言った。
「春光や 正座しながら くすぐったし」
「正座の途中でくすぐったいって、精神統一できてないんじゃ……」
「いやいや、これが“ありのまま”の心だから!」
そんなやりとりが続くたびに、部室は笑いに包まれた。
*
私の番。
「えいっ……“3”。『お茶の銘柄を三つ答える』?」
「うわ、それ地味に難しい……」
「うん……でも、いける」
私は静かに呼吸を整えた。
「雁金、宇治の昔、抹茶“葵の白”……」
「すごっ、ガチすぎる……!」
「ふふ。座道部の名にかけて、ね」
奈々が私の肩をぽんと叩く。ちょっとだけ誇らしかった。
*
ゆはりんも、最初は照れていたけれど、だんだんと笑顔が自然になってきた。
「“となりの人の姿勢をほめる”……え、じゃあ奈々さん……背筋が、まっすぐで素敵です……胸も強調されますし……」
「わ、うれしー! でもそれ、すごく照れる!」
ゆはりんが照れて下を向くと、奈々もつられて顔が赤くなる。
わたしはその様子を見ながら、なんだか嬉しくて、そっと笑みをこぼした。
*
すごろくは続き、時には「雑念タイム(1ターン休み)」や「姿勢再調整(30秒静止)」など、なかなかハードなマスもあった。
「これは……ゲームだけど、ちゃんと座道してる気がする」
奈々が言ったとき、わたしも深くうなずいた。
「ところで、奈々さんは奈々りんって呼ばなくていいんですか?」
――ぎく
「え?何それ?」
――しまった。気が付いたかぁ
「座道部のしきたりで、あだ名にりんって付けなければならないそうです。だから私はゆはりんになりました。」
「すると私は、ななりん?かおり?呼ばれたことないんだけど?」
「かおりさんは、かおりんです。」
「どういうこと?」
――奈々がにらんでる。うーん、奈々は奈々なんだよなあ。いまさら変えるのも……
「わかりました。今日から私は『かおりん』です。」
「了解、かおりん!かおりん!かおりん!」
奈々は完全に乗り気だ。
「私は……?」
奈々が怪しく笑う。
「ななりん……ななりんになりました。」
「よし!」
春の風が吹き込む中で、部室に笑いが溢れていた。
*
夕方。すごろくも終わり、部室には静けさが戻ってきた。
「じゃあ、次回の“特別活動日”に向けて、また作ろうか」
「かおりん、イベント担当ね!」
「えっ、わたし!?」
そんな会話をしながら、部室を片付けていく。
最後に三人で正座し、深呼吸。
すごろくで笑ったあとの呼吸は、不思議と深くて、心の芯まで届いた気がした。
「今日からゆはりんって呼ぶね」
「え?なんです?それ?」
「座道部のしきたりだよ。あだ名にりんって付けなければならない」
「じゃあ私もかりりん?って呼ばないといけないんですか?」
「かおりんにして……」
ゆずはちゃん――ゆはりんは、頬を赤くして少しモジモジした後
「かおりん……きゃっ、恥ずかしい」
――可愛い
「かおりさん、今日って“特別活動日”なんですよね?」
そう尋ねてきた彼女の瞳は、ちょっとだけキラキラしていた。
――ホント、可愛い
姉――しおりんは私に対してこういう気持ちだったのか
「うん、座道の精神を“遊び”で学ぶ日。奈々が提案してくれたんだよ」
「それって、座りながらゲームするとか……?」
「まあ、そんな感じ」
そのとき、奈々が風のように滑り込んでくる。
「遅れてごめん! ちゃんと持ってきたよ、座道部オリジナル・すごろく!」
彼女が掲げたのは、畳一枚分の手描きのすごろくマット。マス目には「正座30分」「茶碗の名を一つ言う」「呼吸を整える」「隣の人をほめる」など、いかにも座道部らしい項目が並んでいる。
「これ……手作り?」
「もちろん! 正座しながら描いたから、ちょっと歪んでるけど」
「そこに座道魂、感じます……」
ゆはりんの真顔コメントに、みんなが笑った。
*
駒は、和紙を丸めた小さな球。サイコロは市販のものだけど、ひとつだけ、目の「6」だけが桜の模様になっていた。
「これ、桜目が出ると……?」
「“即座に一段上の精神”ってことで、一気にゴール近くまでジャンプできるんだよ!」
「急にスピリチュアルだね……」
「座道は心の修行だからね~!」
奈々の軽やかなノリに、わたしたちは笑いながらも、しっかり正座してゲーム開始の準備をした。
*
最初にサイコロを振ったのは奈々だった。
「いっくよー!」
転がるサイコロ。「4」
「“4歩進んで、『今の気持ちを一句』”? うわ、いきなりハード!」
奈々は数秒考え、きりっと顔を整えて言った。
「春光や 正座しながら くすぐったし」
「正座の途中でくすぐったいって、精神統一できてないんじゃ……」
「いやいや、これが“ありのまま”の心だから!」
そんなやりとりが続くたびに、部室は笑いに包まれた。
*
私の番。
「えいっ……“3”。『お茶の銘柄を三つ答える』?」
「うわ、それ地味に難しい……」
「うん……でも、いける」
私は静かに呼吸を整えた。
「雁金、宇治の昔、抹茶“葵の白”……」
「すごっ、ガチすぎる……!」
「ふふ。座道部の名にかけて、ね」
奈々が私の肩をぽんと叩く。ちょっとだけ誇らしかった。
*
ゆはりんも、最初は照れていたけれど、だんだんと笑顔が自然になってきた。
「“となりの人の姿勢をほめる”……え、じゃあ奈々さん……背筋が、まっすぐで素敵です……胸も強調されますし……」
「わ、うれしー! でもそれ、すごく照れる!」
ゆはりんが照れて下を向くと、奈々もつられて顔が赤くなる。
わたしはその様子を見ながら、なんだか嬉しくて、そっと笑みをこぼした。
*
すごろくは続き、時には「雑念タイム(1ターン休み)」や「姿勢再調整(30秒静止)」など、なかなかハードなマスもあった。
「これは……ゲームだけど、ちゃんと座道してる気がする」
奈々が言ったとき、わたしも深くうなずいた。
「ところで、奈々さんは奈々りんって呼ばなくていいんですか?」
――ぎく
「え?何それ?」
――しまった。気が付いたかぁ
「座道部のしきたりで、あだ名にりんって付けなければならないそうです。だから私はゆはりんになりました。」
「すると私は、ななりん?かおり?呼ばれたことないんだけど?」
「かおりさんは、かおりんです。」
「どういうこと?」
――奈々がにらんでる。うーん、奈々は奈々なんだよなあ。いまさら変えるのも……
「わかりました。今日から私は『かおりん』です。」
「了解、かおりん!かおりん!かおりん!」
奈々は完全に乗り気だ。
「私は……?」
奈々が怪しく笑う。
「ななりん……ななりんになりました。」
「よし!」
春の風が吹き込む中で、部室に笑いが溢れていた。
*
夕方。すごろくも終わり、部室には静けさが戻ってきた。
「じゃあ、次回の“特別活動日”に向けて、また作ろうか」
「かおりん、イベント担当ね!」
「えっ、わたし!?」
そんな会話をしながら、部室を片付けていく。
最後に三人で正座し、深呼吸。
すごろくで笑ったあとの呼吸は、不思議と深くて、心の芯まで届いた気がした。
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