いつまでアイドルを続けられますか?

terasu2022

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14、稽古が始まる

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岡田みゆき
稽古と言っても単なる読み合わせなのだが。フランス軍の兵士は負けなれた感じにしてほしいとの池崎さんの言葉。美術の人が頑張っている。私も少し顔を汚した。まだオルレアンに到着したばかりの場面なのだが。でも多少は汚れているかもしれない。「もっとジャンヌは高等教育も受けていない、無学な女なんだということを強調した方がいい」池崎さんは私に直接言わずに演出補佐の人と話し合っている。「この時点では自分の名前も書けないような田舎女なんだ」少しむっととしてしまった。にやりとした池崎さん。「岡田さん、アンラーン、アンラーン」どういう意味だろうか。
 攻める方が難しいというのは最初の地図でわかった。もう少し時間が経過すればイギリス軍に援軍が到着していてフランス側は窮地だったという話だった。細かいところはわからないがフランスはイギリス軍を撃退しないとまずい。脚本の内容だとフランス軍にはホーム感が全然ない。

衣装を着て行う練習。慣れれば剣道着とそんなに変わらないが移動が多い。小学生のころ兄に柔道の技をかけられた苦い記憶がよみがえった。あの時はけがをしてもおかしくなかったのだと思う。あえて兄を弁護するとあの時のおかげで身のこなしが軽くなったような気がする。でもあんなことは二度としたくない。私に全財産をくれるといっても嫌だ。一生お前の奴隷になって尽くすと言われても嫌だ。バレーボールの練習そのものは大変ではないが試合は怖い時もあった。なんとか克服したと思った矢先に岩のようなレシーブを喰らったこともあった。でも何とか耐えた。池崎さんは「バラエティ番組に出るような気分で」と言っていたがそういう経験もあまりないのだ。脚本家の岩淵さんも注意深く見ている。ただ演技を行うだけでも大変なのに立ち回りなどうまくいくのだろうかと思えたが細かい動作の積み重ねだと知って少しずつできてきた。「その調子だ。」池崎さんはそういうと別のところに向かった。まるで消えていくかのように。何も言わずにただ一点を見ているかのような助手の坂内さん。しばらくして坂内さんが言った。「よし、そのままで」穏やかに言った。「その調子で、うーん、でももっと勢いがあるといいかな。」坂内さんがイングランドの兵士を演じている人にダメ出しをしていた。「これじゃ現代の兵士の匍匐前進みたいだな。」役者の人たちはみんな仲が良くて1言えば10わかるところがあった。これは長年のキャリアのたまものなのだろう。こちらは周りに溶け込もうと必死なのだがどうしようもないのだろう。坂内さんは「岡田さんをあえて浮かせる」などと私に言っていた。兵隊の中のジャンヌの孤立を表現したいのだという。立ち回りの場面は兵士役の人に恐怖を覚えたが何とかこなすことができた。なんだか坂内さんは頼りになる人に思えたがその理由はよくわからない。池崎さんに比べて優しいからだろうか。聞いたことには何でも真剣に答えてくれるからだろうか。池崎さんは少しぼかして答えているような気がする。気がするといっても池崎さんは池崎さんなりに真摯に向き合っていてその表現が違うだけなのだろう。そもそも騎士の姿で演技した経験がある人はどれだけいるのだろうかと思ったが坂内さんはよく知っている。ブーイングのようなイングランド兵の喧噪。ジャンヌは敵兵の罵りに耐えかねて泣いたそうだが私は何とか耐えてみせる、って本当に戦っているわけではないんだった。大砲による攻撃を命令するジャンヌの場面は結構難しい。合間に兄、綾ちゃん達からのメールを見る。兄は演技の相談に乗ってくれているが兄がどこまで演技について詳しいかは知らない。今は少しでも気休めが欲しいのだ。こうなるんだったら軍事の本でも読んだらよかったのだろうか。休憩時間に坂内さんに相談したいことがあった。聞きたいことは山ほどあったが心理的に安心させてもらいたかったのだ。「あ、元気そうだね」彼は本を読んでいた。「何を読んでいるんですか」「何って、イギリス文学だよ」「イギリス?敵ですか・・。」しまったという表情になった坂内さん。「ま、敵に勝つためには敵を研究しないといかないから.敵が何を考えているか、敵がどんな反応をするかということがわからないと、戦いには勝てないからね。」「どんな本ですか」「ド・クインシーの『阿片常用者の告白』だよ。」のぞきこむと「大転落」という書名が目に入った。「違うじゃないですか」「違ってたね」坂内さんは読むのに集中させろという表情をした。「これを大学時代に簡略的に舞台化したんだけどあんまりしっくりこなくってね。本格的に舞台化できないかと思ってるんだけど現在では使えない表現が多くてね、言い換えでマイルドにしてもこの面白さをどれだけ表現できるかという問題が出てくるんだ。」「面白そうですね」でも読むのはこの仕事の後にしよう。坂内さんの話は面白かった。ただ兄の話にマンネリを感じていたためかもしれなかった。兄は高校時代の成績も私より良かったしいろいろなことを教えてくれたし私の方向を決めたようなところがあるから感謝しているけれど知識の範囲が狭い気がする。坂内さんは顔が広いのでいろいろ人と知り合いだった。私の愛読書の著者とも知り合いだったし好きなテレビ番組のスタッフとも知り合いだった。まだ20代後半に見える人なのにどういう経験を積んだのだろうか。どうにかして聞いてみようと思う。

 マネージャーの赤崎さんと一緒に坂内さんと打ち合わせを兼ねて食事をする。私は今の髪型が少し恥ずかしいということもあってウィッグをつけている。赤崎さんがよく似合っていると言ってくれたのでうれしい。役者の持永さんはどういう経歴をたどってきたのだろう。出演作は調べたがどういう役をやったのかということまでは把握できなかった。坂内さんはいろいろな役者の体験談を話してくれて面白い人だ。どんどん自分が知識的に成長していくのを感じる。ただこれが役者としてどう生かせるのかはわからない。今のホテルの部屋は快適だが緊張で少し眠れなかった。ホテルのデザートはおいしそうだが今食べ過ぎるのは駄目だ。ホテル以外にもおいしそうなものを打っている店ばかりだが今は我慢だ。最終日の後好きなだけ食べたい。でもそのあと体の調子が悪くなるのがいつものパターンだ。それでもいい。

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