いつまでアイドルを続けられますか?

terasu2022

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27、乱戦

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4日目の公演も熱演だったが攻城戦の時に岡田さんが鼻血を出したようだ。このままでは変な噂を立てられてしまう。マネージャーさんもそう思ったのか僕に注意してきた。「本当に鼻血が出たんです。演出ではないんです。」「本当?気負い過ぎてたのかしら…。」「でも流血シーンはその血を使いました。迫力が出ましたよ」「やめなさいよ、そういうこと」「はい、すいませんでした」周りの俳優たちも岡田さんをほめているがただ彼らは疲労しすぎていた。仮眠か居眠りか判別できないが休んでいる人がいた。疲れすぎだろ。まあ、普通は疲れるか。奴らの場合舞台以外にもゲームとかやり過ぎなんだがな。プロ意識から最も遠い方々の集まりともいえよう。

岡田さんのマネージャーに怒られて、岡田さんに食事をおごってもらう展開が続いている。今日はカレー店に来た。どうも秘密が漏れやすい状況が続く。「あまり高い店に行けなくてすいません。でもどんどん食べてくださいね」なんだか母性を感じた。さっき池崎さんにお小遣いをいただいたんでね、と言おうと思ったがやめた。「それにしても大阪の店、よく知っているね」「両親によく連れて行ってもらいました」うらやましい限りだ。彼女は舞台の前にフランスに行ったようだ。「ドン・レミ村の他にランス、リヨンに行ったんですよ」リヨンはジャンヌ・ダルクとあまり関係がなさそうだと思った。突然携帯が鳴った。「ああ、うんうん。おう、」注意深そうに岡田さんが俺を見ている。ふと思ったが岡田さんは西村さん以外の役者と一緒に行動していないようだ。修正が全くない演劇などないのだから誰からでも少しでも学んだ方がいい。盗めるものは盗めばあっという間に成長する。赤崎さんが厳しく注意しているのでみんな腫れ物に触るようになっているのか。そうなると俺は安全牌とみられているようで気分はよくない、と普通は考えるがこの際は仕方がない。会話を終えて携帯をしまった俺に岡田さんがすかさず聞いた。「仕事の話、ですか」「プライベートの話です。」「プライベート」「大学の後輩で付き合っている子がいてね」「は、そうなんですか」声が沈んだように思えた。正直に言ってまずかったのだろうか。でも疑われてはまずいからな。「頑張ってくださいね」「頑張らなきゃいけないのはハタ、ハタ子さんでしょ」「あはっ、そうですよね」「明日も明後日もその次も頼むよ。」これで食事に誘われることは無いかもしれないな、別にいいか。ちょっと街をぶらついた。街の夜景が素晴らしく輝いている。酒も飲んでないし歩いてホテルに行こうかなと思った。

翌朝6時きっかりに携帯が鳴った。「おはよう、岡田みゆきの兄だ」「ああ、小説を書いている方ですね」「そんなことは今の話とは関係がない。聞きたいことがある。昨日の夜電話で話した際みゆきが落ち込んでいたようだがどうしたのか。誰かが叱ったのか」「いや、誰も叱らなかったし舞台も成功でいずれ好評の記事が出ると思いますよ。あえて言うなら」「何だろうか」真剣な声「電話の後に私の付き合っている人の話をして、その時に少し落ち込んだようなんです。」「あんたなあ」「今の状態でも大丈夫だと思うが少し気になりますね」相手の声が怒りを帯びていた。「嘘でもいないと言ったらどうなんだ」「でも、事実を曲げるわけにはいきません」「まあいい。俺が何とかする」「何とかしてくれるんだったら頼みます。。彼女は歴史に残る立派な女優になる素質があるんです。俺のせいでそれをつぶしたらいけない」「今の言葉は録音した。忘れるなよ」「何なら念書を書いてもかまいません」「結構だ。なにかあったらまたかけるぞ」「すいません、あの小説のことですが」切れた。朝だというのに疲れた。劇場に入って岡田さんに会う。大丈夫だ。赤崎さんと腹の探り合いにも似た会話。岡田さんは今日は元気なのだから何とかなるだろう。控室にいた岡部さんに差し入れが届いたらしい。彼はフランス軍の兵士を演じている。「ハタ子さん、体の動きはいいんですけど。すこし元気がなさそうですね」わかってしまったか。「何でもいいから誉めるんだ。君が良くやってるようにさ」彼の手口というかよく人をほめるタイプなのだ。「わかった。やってみる。」「彼女がいないとフランス軍負けてしまうからな。頼む」「俺がいなくても勝てないさ」「わかってるわかってる。」岡田さんがCMをしている菓子メーカーからチョコが届けられた。チョコはあまり好きでないが食べた。おいしかったので妹にもあげようと思う。

午前8時ころに岡田さんの兄からまた電話が来た。「岡田みゆきの兄だが今空いてるか。」たとえ用事は無くてもこの時の思索が重要な経験になるんだが電話が来てしまったのだから何とか対応する。聞いてもいないのに岡田さんの恋愛遍歴を伝える兄貴。これでも彼なりに深刻に考えている。俺も軽く考えすぎていたのだ。中学時代はバレーボール部の若い監督に惹かれていたらしい。その前は男友達の前島君。彼とは会話だけの関係らしい。らしいが多いね。「あんたがみゆきを管理するための必要な情報だと思ったので伝えた。なお、わかっているだろうがこの情報を外に漏らした暁にはあんたにそれ相応の必要な措置をとるのでそのつもりで」そういうことは最初に語ってほしいものだ。無論どこにも漏らすつもりはない。「蛇足だが妹の成績が落ちているそうだ。何か気が付いたことは無いか」「彼女の私的なことにあまり興味はないのですが、舞台に関係にあることだったら何とかしてみます。で、どのくらい悪くなったんですか」「中間テストの前は学年1位を狙えるほどだったのが5位から10位の間をうろうろするようになったようだ。」危うく、なんだといいかけるところだった。どっと肩の力を落とす。「それくらいですか、びっくりした。学年5位なら立派なもんだと思うが親御さんが心配しているんだったら何とかしないといけませんね。まあ数学とかは少し授業を欠席するだけでつまずくものですからね。数学や化学方面に集中して補修をするとかしたらどうですか。」俺はできなかったけど「俺もよくできないがみゆきの友人に頼んでみる。」「お礼を言うのは変かもしれないがありがとうございます。」会話は終わった。

小道具大道具の確認。正直俺一人が確認したところでどうしようもないのだが。なにも衣装などに瑕疵はないようだ。岡田さんが男装したジャンヌの衣装のままでやってきた。少し殺気を帯びているように見えた。「早いね」俺はどういうわけか落ち着いている。「はい。今日も全力で頑張ります」まるで即攻撃を主張するどこかの聖女にだぶって見えた。「とにかくまだ先は長いのであまり焦らずに」「でも」「落ち着いてラ・カンパネルラさん」沈黙が怖かったが彼女がクスッと笑った。「なんですかー、それ」笑ってくれてよかった。相手のやる気をそぐ坂内メソッド。まあ少し落ち着いたほうが良い。話題を変える。「成績、落ちてるんだって?」静かな間があった。こんな時に限って何の音もしない。周りの車の音もしない。周りでは会話もない「あ・・・。はい。」誰から聞いたんだろうという顔をしている。「こういう活動をしているとやっぱり授業に出られないからさ。」「わかってます。事務所の人も十分考えてくれてます」眠れる獅子を起こしてしまったような緊張感ができてしまったようだ。「苦手な教科があったらそこに重点、というのも既にやっていそうだね。」「うーん。でも化学がちょっと追いつかなくなりました。」「そこは先生の傾向をうまくつかまないと」「なるほど」「僕の使っていた参考書をあげるよ」「ありがとうございます」何とか穏やかになったようだ。とにかく収まっていい演技をしてくれれば僕の財産の半分を上げてもいい。それは早まりすぎか。沼地にはまり込んだラ・ピュセルを救い出した名前知らずの修行僧は行き先を告げることもなくどこかに旅立っていったという寸劇を思いついた。俺のことはもうどうでもよくなったようで何より。自動販売機のある場所を探してうろつく。と思ったが岡田さんがついてきそうな雰囲気がしたのだったので荷物の置いてあるロッカーに移動する。「ふーっ、タバコ吸いてえ。煙草が、すいたいんだあ」わざとらしい行動だ。正野からメールが来た。館内にいるのにメールなんかするなよ。既読にしてまた移動。フィガロの結婚の原作者の半生を舞台化しようとたくらんでいる池崎さん。前に俺が書いた台本を池崎さんが5枚ぐらい読んで没にされたことを思い出した。結構長い時間をかけて自信をもって作成したものだっただけに「どうしてだよ」と憤ったことがあったが今考えてみるとあの没案をどう膨らませてもうまくいかないだろうな、という結論に達した。なにをかんがえているのかわかりにくい登場人物、どういう人生を送ってきたのかわからない登場人物、なんでそうなるんだと言いたくなるような展開、最後にいきなり出てきた人物が話を閉める不条理さ。小説ならいざ知らず、舞台化できるようなものではなかった。今でも必死に書いてはいるのだがなかなかまとまらない。ただ最初に書いた作品ほど説明できない勢いはなかなか出せないものだなと思う。

公演は順調に終わる。あともう少しだ。俳優たちの呼吸もあっている。岡田さんは強さと優しさを併せ持っている感じだがただ、あのジャンヌと俺はわかりあえるのだろうかと疑問を持った。ちょっと気負っている感じがする。いや岡田さんが気負っているというわけではなくて。演じている役柄がという意味だがそれは演出批判につながるので自制する。舞台のジャンヌはまだイングランドと交渉の余地がありそうだが史実のジャンヌはイングランド兵を皆殺しにしそうな勢いである。あそこまでしなければ殺されることは無かったのではないか。そうだ。岡田ジャンヌに欠けているのはそれか。それにしても乙女ジャンヌというのは美少女戦士や美少女仮面と同じネーミングセンスに思えた。

 
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