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第1章 スプリング×ビギニング
第3話 そして俺は戻れない道に一歩踏み出す
しおりを挟む
先生によりパニックは収められ、教室内は表面上ではあるがとりあえず平静を取り戻した
鼻血が止まらなくなったサトウと精神が崩壊しそうになったタナカは大事をとって保健室に連れて行かれたが、それ以外は午前の授業は何事もなかったかのように進んだ
昼休みになり何か言いたそうにする者もいたが、園崎の『何だお前らなんか用か?』的な一瞥でみんな言葉を飲み込んだ
「経吾は学食か?それとも購買でパンとかか?一緒に食べてもいいよな?」
隣から園崎がそんなことを言ってくる
教室は居づらい雰囲気だしタナカもサトウも戻ってくる気配もない・・・
「はあ・・・」
俺は溜息を一つついて席を立った
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
購買で二人でパンを買い、中庭へとやって来た
適当に空いているベンチへと腰掛ける
ちなみに俺の買ったのはコロッケパンと焼きそばパン、それに野菜ジュースだ
園崎はと見るとあんパン2個と牛乳だった
・・・なんで同じの2個?
いや、確かにあんパンと牛乳の組み合わせは最強だけどさ
「ふーん、経吾はそうゆうパンが好みなんだな・・・覚えておこう」
園崎が俺の手元を覗き込んでうんうんと頷く
「あのさ、その呼び方なんだけど・・・」
家族以外に下の名前で呼ばれた事なんてほとんど無いからくすぐったい
ましてや同年代の女子だ
出来れば止めて欲しい・・・
「偉いだろ?ちゃんとこの世界での名で呼んでるぞ。朝から一度も間違えていないぞ。―――実はうっかりクロウと呼ばないように昨日練習したんだ。家に帰ってから寝るまでの間、ずっとお前の顔を思い出しながら、経吾、経吾・・・って」
そう言って自慢げに胸を反らす園崎に俺は何も言えなくなった
まあ、俺が我慢すればいいだけだよね。そのうち慣れるだろうし
「ところでクロウ。あ、今は二人だけだからこう呼んでいいよな?・・・で、お前の前世の記憶についてなんだが、甦らせる方法がないか僕なりに色々と考えた」
「・・・ああ」
否定してもどうせ無駄なので聞き流しながらパンを頬張る
「僕に膝蹴りを入れた後、お前は微かに記憶を取り戻した」
・・・う、罪の意識が
「つまりだ、前世での体験をもう一度行うことでその記憶を呼び覚ます事が出来るかもしれない!」
・・・いや、無理だろう。そもそも前世じゃないし
「って、俺に何させるつもりだ?まさかもう一度お前と戦えなんて言うんじゃないだろうな!?」
俺の言葉に園崎はカラカラと笑った
「まさか、そんな訳ないじゃないか」
「だ、だよな?」
俺はホッと胸を撫で下ろす
「だってそんな事を始めたら・・・どちらかが死ぬことになるだろう?」
こえぇよ!やっぱ恐えよコイツ
「まあ、冗談はさて置き・・・」
冗談だったのか?笑えねえって・・・
「言魂・・・という言葉があるが、人の発した音には魂が宿るものだ」
まあ、それはよく言われる話だ
「即ち、前世に置いて発した言葉を再び口にすることで魂を共鳴させ、それにより記憶を甦らせる」
「ふむ・・・成る程、・・・ってオマエそれってまさか・・・!」
「くく、察しがいいな。・・・そう、前世でのお前のセリフ、それをもう一度言葉に発するんだ!」
うぎゃああぁぁぁ!!!!!
か、勘弁してくれ・・・またあの恥ずかしいセリフを言わなきゃならないのか
今でも思い出すたびに恥ずかしさに悶え狂うというのに・・・
冗談じゃないぞ、そんなところ誰かに見られたら
「ほ、ほら、あれだ。万が一誰かに聞かれでもしたら・・・」
「ああ、わかっている・・・もし、奴らに聞かれたらお前の正体が露呈する。リスキーな手段なのは承知の上だ。だが、少しでも可能性があるなら試すべきだ」
色んな意味で超リスキーだって・・・
「だが安心しろクロウ。打ってつけの場所があるんだ」
園崎はそう言ってニヤリと笑い立ち上がる
「さあ、行こうクロウ」
「今からかよ!?もうすぐ午後の授業始まるって」
「そんなもの・・・バッくれればいい」
バッくれねーよ!
サラっと言うな・・・
「お前の記憶を取り戻すのと、くだらない授業・・・天秤に掛けるまでもあるまい?」
授業の方が大事だよ。何万倍もな・・・
「二人で授業を欠席してみろ。何かあったのかと訝しむ人間が現れるだろう?第三者に違和感を感じさせるのは上手くないな。気取られる事になる」
俺は彼女が気に入りそうな言葉を選んで説き伏せる
「・・・ふむ、なるほどな。流石はクロウだ。・・・判った、じゃあ放課後ならいいだろう?」
「ああ、放課後・・・な」
・・・ふう、何とか納得させることができた
問題が先送りになっただけだけど・・・
やがて、昼休み終了のチャイムが鳴り俺たちは教室へと戻るため中庭を後にした
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
午後の授業が全て終わり、とうとう放課後になってしまった
一体、どんな恥ずかしいセリフを言わされるのか・・・
溜息と共に隣を見ると園崎と目が合った
園崎は微かに口許に笑みを浮かべたあと、すぐにそれを消し去った
無言でカバンに荷物を入れるとそのまま立ち上がって教室を出ていく
教室の扉をくぐる時、ちらりと俺を見やった
・・・楽しそうだな
何となくそう感じた
俺も立ち上がりカバンを手に教室を出る
廊下に出ると数メートル先に園崎の後ろ姿が見えた
ああ、回れ右して帰りたい
一瞬そんな考えがよぎるが思いとどまって園崎の背中を追う
そんな事をしたら血相を変えて追い掛けてくるに決まってる
またあの追いかけっこはゴメンだ。悪目立ちこの上ない
先を歩く園崎が廊下の角を曲がる
やれやれ・・・
しばらく間を置いてから彼女が曲がった先へと足を踏み込むと、予想通り壁に背をもたれかけ、腕組みをした園崎がいた
「・・・尾行(つけ)られていないだろうな?クロウ」
誰にだよ!?
俺は心の中でツッコミを入れつつ、
「ああ、問題ない」
と答える
いちいちツッこんでいたら時間の無駄だ
適当に合わせておいた方が話が早い
すでに俺は悟り始めていた
俺の答えに満足した園崎は
「よし、じゃあ行くぞ」
と言うと俺の手を掴んで足早に歩き始めた
俺は彼女に引っ張られるようにして後を歩く
その小柄な体からは想像出来ないほどの強い力だ
小さな掌は華奢と形容するのが相応しいほどほっそりしているのに・・・
「お、おい、何も・・・」
手を繋ぐ必要ないだろ・・・と言おうとして、やめた
このすべすべして柔らかい感触は・・・ちょっと惜しい
これからおかしな事させられるんだ
このくらいのささやかな見返り、あってもいいよな
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「・・・で、ここかよ」
俺は見覚えのある金属製の扉の前にいた
旧校舎の屋上に出る扉
最初に彼女に呼び出された因縁の場所だ
「だいたい、ここって立入禁止じゃないのか?鍵だって架かってるはずじゃ・・・」
彼女は俺の疑問に答える代わりに、ドアの前に膝をつけてしゃがむと髪からヘアピンを抜き、それを鍵穴へと差し入れる
俺が呆気に取られて見ている前で指先を軽く動かすとカチリという僅かな音が鍵穴から聞こえた
有り触れたただのヘアピンがまるでこのドア専用にしつらえられた鍵のようなスムーズさだった
「お、おまえ、それ・・・」
ピッキングだよね!?
言葉を失う俺に園崎は自慢げに胸を反らせる
「くくく・・・忘れたか?僕の前世でのクラスはアサシンだ。こんな単純な構造の鍵を開ける事など造作もない」
背中を冷たい汗が流れ落ちる
・・・てか、何だよアサシンて!
怖ッ
ニヤリと笑いを浮かべる園崎に俺は戦慄を覚える
やっぱ帰ろうかな
「ほらクロウ」
園崎は屈託のない笑顔で笑うと俺の腕を抱えるように掴んでドアを開けた
そして屋上へと足を踏み出す
「と・・・、おい」
肘に柔らかいものが当たってるんですけど!
彼女に引っ張られるようにドアをくぐると雲一つない青空が広がっていた
アア、イイテンキダナー
俺は遠い目でしばし現実逃避する
そんな俺をよそに園崎は腕を解くと軽やかな足取りで屋上の真ん中へと駆け出す
そしてその場でくるりと身体を反転させてこちらを向いた
その拍子にスカートが翻りフトモモのかなり上の位置までが見え、目を奪われる
そんな俺のことは意にも解さず彼女は楽しそうな声で説明を始めた
「・・・くくく、どうだクロウ?悪くない場所だろう。ここなら人目を気にする事もない。フェンス際に行かない限り死角になっていて、校庭からはもちろん他の校舎からもどこからも見えないから何をしていても気付かれる事などない。多少大声を出しても誰にも聞き咎められることもないしそれに・・・」
言いながら俺の方へ駆け寄り、俺の横をすり抜ける
瞬間、甘い匂いが鼻腔をくすぐる
振り向くと、今くぐってきたドアを背にして、
カチャリ
後ろ手に鍵を掛け、
「こうすれば誰も入ってはこれない・・・僕達ふたりだけの世界だ」
そう言って、はにかんだような笑みを浮かべた
・・
・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
ちょっ・・・!
こいつは今、自分がどれだけ危険な状況を作り出したか判ってるのか?
これじゃ襲ってくださいって言ってるようなもんだぞ。いや、襲わないけどな
俺は頭を振って淫らな感情をふるい落とそうとする
さっき肘に感じた柔らかい感触
翻ったスカートから覗いた滑らかな内モモ
・・・って、思い出すなよ。忘れろ。忘れろ。勿体ないけど忘れろ。ほら、血液共もそうやって一箇所に集まってくるんじゃない
「?・・・どうしたクロウ」
黙り込んだ俺を園崎が怪訝そうに見ている
「い、いや・・・す、すごいな。まるで・・・そう、結界、みたいだ」
相手が中二病の変な奴でも、同級生の女子だ
女子に、やらしい事を想像していた奴なんて思われるのは男子的に耐えられる事じゃない
俺はごまかすためにそんな中二的な表現で今の状況を言い表してみた
「けっ・・・かい・・・?」
俺の言葉に園崎は目をぱちくりとさせたあと
「結界!」
彼女の瞳が一段と輝く
「・・・そう、まさにこれは我ら以外何人も入り込むことの出来ぬ結界!」
俺の表現がツボに入ったのか園崎は妙なポーズをとりながら、何か呪文的なセリフをぶつぶつ呟き始めた
・・・・また俺、余計な事言っちまったかな
「それで、俺はどうすればいいんだ?」
あまり気が進まないが俺はそう切り出した
やるならさっさと終わらせて帰りたい
そうしないとまた変な情欲が沸き上がってきそうだ
周りから隔絶された空間に女の子と二人きりというのは精神衛生的によくない
なんかの弾みでマチガイを犯したら取り返しがつかない
「おお、そうだった。・・・本題に入ろう」
園崎は真面目な顔を作るとカバンから何か紙束を取り出した
その束から一枚を破り取り、人差し指と中指、二本の指に挟むと・・・ピッとこちらに飛ばした
俺は顔の前でそれを反射的に掴み取った
長方形の紙で、ちょうど七夕の短冊のような形をしていた
それを園崎はアニメかマンガに出て来る陰陽師の呪符のように飛ばしてきたのだ
・・・器用な奴だ
俺は感心すると同時に呆れ半分で掴んだそれを見る
そしてそれに書かれた文字を見て動きを止めた
『黒きほむらに抱き抱かれて灰燼と化せ!ダークフレイム!!』
自分の頬がものすごく引き攣っているのがわかる
「こ、これは、まさか・・・?」
「ああ、前世でお前が最も得意としていた呪業(わざ)だ。それを・・・唱えてみろ!」
「ぎゃあああああぁぁ!!!!!!!」
マジかよ!これを言えってか?
「どうした!?躊躇するな!恐れるな!」
そりゃ躊躇するって恥ずかしすぎるだろ。いきなりハードル高え!
俺は二の句を継げずに口を声無く動かした
「ん?聞こえないぞ」
急に近づいた園崎が背伸びして俺の口許に耳を寄せた
「・・・!」
うなじの辺りからふんわりと漂う香りに気を取られ、身を退くのが一拍遅れた
そのせいで彼女の耳たぶに唇が軽く触れてしまう
「すま・・・
シュザッ!!
・・・ない」
・・・って、なんだそれ!?
俺は目の前で起こったことが理解できなかった
至近距離にあったはずの園崎の身体が3mくらい離れた位置にあった
・・・全くの無動作で一瞬の内にこの距離を後退した!?
当の園崎は足を肩幅より広いぐらいの位置に開き、腰を少し落とした体勢で、俺の唇が触れた方の耳を手で押さえている
そしてその顔は紅潮して驚きに目を見開いていた
「び、びっくりした・・・いま・・・耳に・・・唇・・・いや、す、すまない。ちょ、ちょっとびっくりして・・・思わず奥義の〈無足〉を使ってしまった」
びっくりしたのはこっちだ!
なんだ奥義って!?
アサシンだから?
アサシンだからなのか?
怖えェ・・・アサシン怖えェよ
「す、すまん。少々取り乱してしまった・・・こふん、・・・改めて始めるぞクロウ」
・・・あまり考えるのはよそう。考えたら負けな気がする
俺は考えるのを放棄して、ただ早く済ませて帰ることに全力を尽くすことに決めた
クソッ・・・こうなりゃヤケだ
さっさとやって、さっさと終わらす
ふうぅ~
深呼吸
・・・・・。
よし、ふっ切れた
「黒きほむらに抱き抱かれて灰燼と化せ!・・・ダァァァクフレイム!!」
・・・・・・・・静寂
ぐあぁぁぁ!!!!!!
痛えぇぇ!!!!!
自分で発した言葉がこんなに自分自身の精神を傷つけるものだと今まで知らなかった
3年前の比じゃねえ
軽く死ねるくらいのダメージだ
園崎は、と見やると俯いて肩を震わせていた
「・・・く、くくく・・・・・・・・」
こ、こいつ俺にこんな事させて爆笑するつもりか?
ひ、ひでえ。泣くぞ?マジで
「く・・くくく・・・・くああぁぁぁっこいぃぃぃぃぃ!!!」
園崎の突然の絶叫に俺は面食らった
「カッコイイぃぃぃぃ!!!かっこいい格好いいカッコイイ(E)~!!!素敵すてきステキSUTEKIいぃィィぃぃぃぃ!!」
足をタンタンと踏み鳴らし手をバタバタさせて大興奮状態になっている
目をハートにして黄色い声を上げている姿はまるで別人だ
「クロウ!クロウ!クロウ!本物のクロウの声!超かっこいい~!きゃ~ん」
ぴょんぴょんと飛び跳ねて小躍りする園崎に軽く引きつつ俺は呟くような声でツっこむ
「つーか、・・・お前キャラ変わってねーか?」
俺の呟きに園崎はハッとした顔をするとすぐにいつもの斜に構えた不敵な笑みを浮かべた表情へと変えた
「・・・あー、今のは、アレだ。前世の、クオンエターナルの記憶を取り戻す前の・・・園崎柚葉としての人格の残滓・・・といったところだ。僕の中で完全に消え去った物と思っていたがな・・・くくっ、なかなかにしぶとい・・・・・・・・・・・・で?キャラがなんだって?」
微かに頬を引き攣らせそう詰め寄られ俺は
「いや、別に」
敢えて口に出して追求することを止めにした
「ふん・・・まあいい、だが逆に今の事からもお前がクロウであることを確信した。驚きのあまり死んだはずの園崎柚葉の人格が表出するくらいの衝撃だからな」
目を泳がせながらそれらしいセリフを喋る園崎
えーと、つまりあれか?さっきのが園崎柚葉としての素だったって事なのか?
キャラ作り過ぎだろ、コイツ
それにさっきの言い訳自体矛盾がある
俺の『クロウ』に反応するなら同じく前世の存在である『クオン』の方だろう?
あれじゃまるきり憧れのアイドルにばったり遭遇したミーハーなファンそのものだ
園崎は急に取り繕うように一つ咳ばらいする
「こふん・・・すまない、少々取り乱してしまった」
頬が少し赤い
「お前こそどうだ?・・・何か思い出さないか?前世での事?」
「・・・いや、残念ながら」
園崎のテンションに押されながらそう答える
「・・・そうか。だが、今は考えられる全ての手を尽くすだけだ。いずれ全て思い出すだろう。・・・というわけで、どんどん行くぞ」
そう言うと園崎はさっきと同じ紙を何枚か取り出し、顔の前で扇状に広げて見せた
「・・・ヒッ」
それを見た俺は短い悲鳴を上げる
「さあ、次はどれにしようかなあ」
嬉々として札を選ぶ園崎が悪魔に見えた
「やめろ・・・助けてくれえぇ」
俺の悲鳴は誰にも届くことなく屋上の空へと消えていった
(つづ・・く・・・)
鼻血が止まらなくなったサトウと精神が崩壊しそうになったタナカは大事をとって保健室に連れて行かれたが、それ以外は午前の授業は何事もなかったかのように進んだ
昼休みになり何か言いたそうにする者もいたが、園崎の『何だお前らなんか用か?』的な一瞥でみんな言葉を飲み込んだ
「経吾は学食か?それとも購買でパンとかか?一緒に食べてもいいよな?」
隣から園崎がそんなことを言ってくる
教室は居づらい雰囲気だしタナカもサトウも戻ってくる気配もない・・・
「はあ・・・」
俺は溜息を一つついて席を立った
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
購買で二人でパンを買い、中庭へとやって来た
適当に空いているベンチへと腰掛ける
ちなみに俺の買ったのはコロッケパンと焼きそばパン、それに野菜ジュースだ
園崎はと見るとあんパン2個と牛乳だった
・・・なんで同じの2個?
いや、確かにあんパンと牛乳の組み合わせは最強だけどさ
「ふーん、経吾はそうゆうパンが好みなんだな・・・覚えておこう」
園崎が俺の手元を覗き込んでうんうんと頷く
「あのさ、その呼び方なんだけど・・・」
家族以外に下の名前で呼ばれた事なんてほとんど無いからくすぐったい
ましてや同年代の女子だ
出来れば止めて欲しい・・・
「偉いだろ?ちゃんとこの世界での名で呼んでるぞ。朝から一度も間違えていないぞ。―――実はうっかりクロウと呼ばないように昨日練習したんだ。家に帰ってから寝るまでの間、ずっとお前の顔を思い出しながら、経吾、経吾・・・って」
そう言って自慢げに胸を反らす園崎に俺は何も言えなくなった
まあ、俺が我慢すればいいだけだよね。そのうち慣れるだろうし
「ところでクロウ。あ、今は二人だけだからこう呼んでいいよな?・・・で、お前の前世の記憶についてなんだが、甦らせる方法がないか僕なりに色々と考えた」
「・・・ああ」
否定してもどうせ無駄なので聞き流しながらパンを頬張る
「僕に膝蹴りを入れた後、お前は微かに記憶を取り戻した」
・・・う、罪の意識が
「つまりだ、前世での体験をもう一度行うことでその記憶を呼び覚ます事が出来るかもしれない!」
・・・いや、無理だろう。そもそも前世じゃないし
「って、俺に何させるつもりだ?まさかもう一度お前と戦えなんて言うんじゃないだろうな!?」
俺の言葉に園崎はカラカラと笑った
「まさか、そんな訳ないじゃないか」
「だ、だよな?」
俺はホッと胸を撫で下ろす
「だってそんな事を始めたら・・・どちらかが死ぬことになるだろう?」
こえぇよ!やっぱ恐えよコイツ
「まあ、冗談はさて置き・・・」
冗談だったのか?笑えねえって・・・
「言魂・・・という言葉があるが、人の発した音には魂が宿るものだ」
まあ、それはよく言われる話だ
「即ち、前世に置いて発した言葉を再び口にすることで魂を共鳴させ、それにより記憶を甦らせる」
「ふむ・・・成る程、・・・ってオマエそれってまさか・・・!」
「くく、察しがいいな。・・・そう、前世でのお前のセリフ、それをもう一度言葉に発するんだ!」
うぎゃああぁぁぁ!!!!!
か、勘弁してくれ・・・またあの恥ずかしいセリフを言わなきゃならないのか
今でも思い出すたびに恥ずかしさに悶え狂うというのに・・・
冗談じゃないぞ、そんなところ誰かに見られたら
「ほ、ほら、あれだ。万が一誰かに聞かれでもしたら・・・」
「ああ、わかっている・・・もし、奴らに聞かれたらお前の正体が露呈する。リスキーな手段なのは承知の上だ。だが、少しでも可能性があるなら試すべきだ」
色んな意味で超リスキーだって・・・
「だが安心しろクロウ。打ってつけの場所があるんだ」
園崎はそう言ってニヤリと笑い立ち上がる
「さあ、行こうクロウ」
「今からかよ!?もうすぐ午後の授業始まるって」
「そんなもの・・・バッくれればいい」
バッくれねーよ!
サラっと言うな・・・
「お前の記憶を取り戻すのと、くだらない授業・・・天秤に掛けるまでもあるまい?」
授業の方が大事だよ。何万倍もな・・・
「二人で授業を欠席してみろ。何かあったのかと訝しむ人間が現れるだろう?第三者に違和感を感じさせるのは上手くないな。気取られる事になる」
俺は彼女が気に入りそうな言葉を選んで説き伏せる
「・・・ふむ、なるほどな。流石はクロウだ。・・・判った、じゃあ放課後ならいいだろう?」
「ああ、放課後・・・な」
・・・ふう、何とか納得させることができた
問題が先送りになっただけだけど・・・
やがて、昼休み終了のチャイムが鳴り俺たちは教室へと戻るため中庭を後にした
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
午後の授業が全て終わり、とうとう放課後になってしまった
一体、どんな恥ずかしいセリフを言わされるのか・・・
溜息と共に隣を見ると園崎と目が合った
園崎は微かに口許に笑みを浮かべたあと、すぐにそれを消し去った
無言でカバンに荷物を入れるとそのまま立ち上がって教室を出ていく
教室の扉をくぐる時、ちらりと俺を見やった
・・・楽しそうだな
何となくそう感じた
俺も立ち上がりカバンを手に教室を出る
廊下に出ると数メートル先に園崎の後ろ姿が見えた
ああ、回れ右して帰りたい
一瞬そんな考えがよぎるが思いとどまって園崎の背中を追う
そんな事をしたら血相を変えて追い掛けてくるに決まってる
またあの追いかけっこはゴメンだ。悪目立ちこの上ない
先を歩く園崎が廊下の角を曲がる
やれやれ・・・
しばらく間を置いてから彼女が曲がった先へと足を踏み込むと、予想通り壁に背をもたれかけ、腕組みをした園崎がいた
「・・・尾行(つけ)られていないだろうな?クロウ」
誰にだよ!?
俺は心の中でツッコミを入れつつ、
「ああ、問題ない」
と答える
いちいちツッこんでいたら時間の無駄だ
適当に合わせておいた方が話が早い
すでに俺は悟り始めていた
俺の答えに満足した園崎は
「よし、じゃあ行くぞ」
と言うと俺の手を掴んで足早に歩き始めた
俺は彼女に引っ張られるようにして後を歩く
その小柄な体からは想像出来ないほどの強い力だ
小さな掌は華奢と形容するのが相応しいほどほっそりしているのに・・・
「お、おい、何も・・・」
手を繋ぐ必要ないだろ・・・と言おうとして、やめた
このすべすべして柔らかい感触は・・・ちょっと惜しい
これからおかしな事させられるんだ
このくらいのささやかな見返り、あってもいいよな
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「・・・で、ここかよ」
俺は見覚えのある金属製の扉の前にいた
旧校舎の屋上に出る扉
最初に彼女に呼び出された因縁の場所だ
「だいたい、ここって立入禁止じゃないのか?鍵だって架かってるはずじゃ・・・」
彼女は俺の疑問に答える代わりに、ドアの前に膝をつけてしゃがむと髪からヘアピンを抜き、それを鍵穴へと差し入れる
俺が呆気に取られて見ている前で指先を軽く動かすとカチリという僅かな音が鍵穴から聞こえた
有り触れたただのヘアピンがまるでこのドア専用にしつらえられた鍵のようなスムーズさだった
「お、おまえ、それ・・・」
ピッキングだよね!?
言葉を失う俺に園崎は自慢げに胸を反らせる
「くくく・・・忘れたか?僕の前世でのクラスはアサシンだ。こんな単純な構造の鍵を開ける事など造作もない」
背中を冷たい汗が流れ落ちる
・・・てか、何だよアサシンて!
怖ッ
ニヤリと笑いを浮かべる園崎に俺は戦慄を覚える
やっぱ帰ろうかな
「ほらクロウ」
園崎は屈託のない笑顔で笑うと俺の腕を抱えるように掴んでドアを開けた
そして屋上へと足を踏み出す
「と・・・、おい」
肘に柔らかいものが当たってるんですけど!
彼女に引っ張られるようにドアをくぐると雲一つない青空が広がっていた
アア、イイテンキダナー
俺は遠い目でしばし現実逃避する
そんな俺をよそに園崎は腕を解くと軽やかな足取りで屋上の真ん中へと駆け出す
そしてその場でくるりと身体を反転させてこちらを向いた
その拍子にスカートが翻りフトモモのかなり上の位置までが見え、目を奪われる
そんな俺のことは意にも解さず彼女は楽しそうな声で説明を始めた
「・・・くくく、どうだクロウ?悪くない場所だろう。ここなら人目を気にする事もない。フェンス際に行かない限り死角になっていて、校庭からはもちろん他の校舎からもどこからも見えないから何をしていても気付かれる事などない。多少大声を出しても誰にも聞き咎められることもないしそれに・・・」
言いながら俺の方へ駆け寄り、俺の横をすり抜ける
瞬間、甘い匂いが鼻腔をくすぐる
振り向くと、今くぐってきたドアを背にして、
カチャリ
後ろ手に鍵を掛け、
「こうすれば誰も入ってはこれない・・・僕達ふたりだけの世界だ」
そう言って、はにかんだような笑みを浮かべた
・・
・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
ちょっ・・・!
こいつは今、自分がどれだけ危険な状況を作り出したか判ってるのか?
これじゃ襲ってくださいって言ってるようなもんだぞ。いや、襲わないけどな
俺は頭を振って淫らな感情をふるい落とそうとする
さっき肘に感じた柔らかい感触
翻ったスカートから覗いた滑らかな内モモ
・・・って、思い出すなよ。忘れろ。忘れろ。勿体ないけど忘れろ。ほら、血液共もそうやって一箇所に集まってくるんじゃない
「?・・・どうしたクロウ」
黙り込んだ俺を園崎が怪訝そうに見ている
「い、いや・・・す、すごいな。まるで・・・そう、結界、みたいだ」
相手が中二病の変な奴でも、同級生の女子だ
女子に、やらしい事を想像していた奴なんて思われるのは男子的に耐えられる事じゃない
俺はごまかすためにそんな中二的な表現で今の状況を言い表してみた
「けっ・・・かい・・・?」
俺の言葉に園崎は目をぱちくりとさせたあと
「結界!」
彼女の瞳が一段と輝く
「・・・そう、まさにこれは我ら以外何人も入り込むことの出来ぬ結界!」
俺の表現がツボに入ったのか園崎は妙なポーズをとりながら、何か呪文的なセリフをぶつぶつ呟き始めた
・・・・また俺、余計な事言っちまったかな
「それで、俺はどうすればいいんだ?」
あまり気が進まないが俺はそう切り出した
やるならさっさと終わらせて帰りたい
そうしないとまた変な情欲が沸き上がってきそうだ
周りから隔絶された空間に女の子と二人きりというのは精神衛生的によくない
なんかの弾みでマチガイを犯したら取り返しがつかない
「おお、そうだった。・・・本題に入ろう」
園崎は真面目な顔を作るとカバンから何か紙束を取り出した
その束から一枚を破り取り、人差し指と中指、二本の指に挟むと・・・ピッとこちらに飛ばした
俺は顔の前でそれを反射的に掴み取った
長方形の紙で、ちょうど七夕の短冊のような形をしていた
それを園崎はアニメかマンガに出て来る陰陽師の呪符のように飛ばしてきたのだ
・・・器用な奴だ
俺は感心すると同時に呆れ半分で掴んだそれを見る
そしてそれに書かれた文字を見て動きを止めた
『黒きほむらに抱き抱かれて灰燼と化せ!ダークフレイム!!』
自分の頬がものすごく引き攣っているのがわかる
「こ、これは、まさか・・・?」
「ああ、前世でお前が最も得意としていた呪業(わざ)だ。それを・・・唱えてみろ!」
「ぎゃあああああぁぁ!!!!!!!」
マジかよ!これを言えってか?
「どうした!?躊躇するな!恐れるな!」
そりゃ躊躇するって恥ずかしすぎるだろ。いきなりハードル高え!
俺は二の句を継げずに口を声無く動かした
「ん?聞こえないぞ」
急に近づいた園崎が背伸びして俺の口許に耳を寄せた
「・・・!」
うなじの辺りからふんわりと漂う香りに気を取られ、身を退くのが一拍遅れた
そのせいで彼女の耳たぶに唇が軽く触れてしまう
「すま・・・
シュザッ!!
・・・ない」
・・・って、なんだそれ!?
俺は目の前で起こったことが理解できなかった
至近距離にあったはずの園崎の身体が3mくらい離れた位置にあった
・・・全くの無動作で一瞬の内にこの距離を後退した!?
当の園崎は足を肩幅より広いぐらいの位置に開き、腰を少し落とした体勢で、俺の唇が触れた方の耳を手で押さえている
そしてその顔は紅潮して驚きに目を見開いていた
「び、びっくりした・・・いま・・・耳に・・・唇・・・いや、す、すまない。ちょ、ちょっとびっくりして・・・思わず奥義の〈無足〉を使ってしまった」
びっくりしたのはこっちだ!
なんだ奥義って!?
アサシンだから?
アサシンだからなのか?
怖えェ・・・アサシン怖えェよ
「す、すまん。少々取り乱してしまった・・・こふん、・・・改めて始めるぞクロウ」
・・・あまり考えるのはよそう。考えたら負けな気がする
俺は考えるのを放棄して、ただ早く済ませて帰ることに全力を尽くすことに決めた
クソッ・・・こうなりゃヤケだ
さっさとやって、さっさと終わらす
ふうぅ~
深呼吸
・・・・・。
よし、ふっ切れた
「黒きほむらに抱き抱かれて灰燼と化せ!・・・ダァァァクフレイム!!」
・・・・・・・・静寂
ぐあぁぁぁ!!!!!!
痛えぇぇ!!!!!
自分で発した言葉がこんなに自分自身の精神を傷つけるものだと今まで知らなかった
3年前の比じゃねえ
軽く死ねるくらいのダメージだ
園崎は、と見やると俯いて肩を震わせていた
「・・・く、くくく・・・・・・・・」
こ、こいつ俺にこんな事させて爆笑するつもりか?
ひ、ひでえ。泣くぞ?マジで
「く・・くくく・・・・くああぁぁぁっこいぃぃぃぃぃ!!!」
園崎の突然の絶叫に俺は面食らった
「カッコイイぃぃぃぃ!!!かっこいい格好いいカッコイイ(E)~!!!素敵すてきステキSUTEKIいぃィィぃぃぃぃ!!」
足をタンタンと踏み鳴らし手をバタバタさせて大興奮状態になっている
目をハートにして黄色い声を上げている姿はまるで別人だ
「クロウ!クロウ!クロウ!本物のクロウの声!超かっこいい~!きゃ~ん」
ぴょんぴょんと飛び跳ねて小躍りする園崎に軽く引きつつ俺は呟くような声でツっこむ
「つーか、・・・お前キャラ変わってねーか?」
俺の呟きに園崎はハッとした顔をするとすぐにいつもの斜に構えた不敵な笑みを浮かべた表情へと変えた
「・・・あー、今のは、アレだ。前世の、クオンエターナルの記憶を取り戻す前の・・・園崎柚葉としての人格の残滓・・・といったところだ。僕の中で完全に消え去った物と思っていたがな・・・くくっ、なかなかにしぶとい・・・・・・・・・・・・で?キャラがなんだって?」
微かに頬を引き攣らせそう詰め寄られ俺は
「いや、別に」
敢えて口に出して追求することを止めにした
「ふん・・・まあいい、だが逆に今の事からもお前がクロウであることを確信した。驚きのあまり死んだはずの園崎柚葉の人格が表出するくらいの衝撃だからな」
目を泳がせながらそれらしいセリフを喋る園崎
えーと、つまりあれか?さっきのが園崎柚葉としての素だったって事なのか?
キャラ作り過ぎだろ、コイツ
それにさっきの言い訳自体矛盾がある
俺の『クロウ』に反応するなら同じく前世の存在である『クオン』の方だろう?
あれじゃまるきり憧れのアイドルにばったり遭遇したミーハーなファンそのものだ
園崎は急に取り繕うように一つ咳ばらいする
「こふん・・・すまない、少々取り乱してしまった」
頬が少し赤い
「お前こそどうだ?・・・何か思い出さないか?前世での事?」
「・・・いや、残念ながら」
園崎のテンションに押されながらそう答える
「・・・そうか。だが、今は考えられる全ての手を尽くすだけだ。いずれ全て思い出すだろう。・・・というわけで、どんどん行くぞ」
そう言うと園崎はさっきと同じ紙を何枚か取り出し、顔の前で扇状に広げて見せた
「・・・ヒッ」
それを見た俺は短い悲鳴を上げる
「さあ、次はどれにしようかなあ」
嬉々として札を選ぶ園崎が悪魔に見えた
「やめろ・・・助けてくれえぇ」
俺の悲鳴は誰にも届くことなく屋上の空へと消えていった
(つづ・・く・・・)
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