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第1章 スプリング×ビギニング
第4話 カイソウ
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「ぬぅあぁぁぁあぁぁぁぁ」
自室のベッドの中
俺は堪え難い痛みに悶えていた
心の
結局あれから小一時間くらい痛恥ずかしいセリフを言わされる事になった
とりあえずその場は勢いでなんとか凌いだものの、こうして冷静になって後から思い返すと強烈に恥ずかしさが込み上げてくる
大体あいつがカッコイイとか言っておだてるから・・・!
『カッコイイ格好いいかっこいいステキSUTEKI素敵ぃぃぃぃ』
園崎の声が耳に甦る
正直、あんなにストレートに賞賛されると悪い気はしないが・・・
だけどなあ・・・
頭を抱えて懊悩していると部屋のドアがノックされた
「経吾、夕飯出来たから食べに来なさい」
そうドア越しに聞こえてきたのは母さんが声だ
「判った。すぐ行く」
俺は返事を返してのそのそと起き上がった
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
食卓につくと母さんがご飯をよそった茶碗を渡してくる
おかずは肉じゃが、ほうれん草のおひたし、それとエノキとネギの味噌汁といった定番の和食だ
いただきますを言って母さんと向かい合わせで食事をする
姉さんは就職と同時に一人暮らしを始め、父さんは仕事で家を空けることが多いのでだいたいは母さんと二人の食事が多い
昔は・・・母さんが父さんと結婚するまでは母子家庭だったから、この食事スタイルが俺にとっては基本型だ
俺が食べるのをしばらくじっと見ながら食事していた母さんが、
「経吾、なんかいいことでもあった?」
と、唐突にそんな事を言ってきた
「え、なんで?」
「うーん?なんかいつになく険しい顔してるから・・・」
「・・・なにそれ?」
俺は母さんの言葉の意味が計りかねて眉をひそめた
「アンタ、自分でも気が付いて無いみたいだけど、昔からすごく嬉しいことや楽しいことがあった時って照れ隠しでしかめ面になる癖があるのよ」
「え?・・・そう?」
改めて言われると、確かにニヤけた顔にならないように顔を意識的に強ばらせることがあったかもしれない
「経吾のそういうとこって『あの人』にそっくり・・・。本当は嬉しいのに不機嫌そうな顔するとこ。あの頃それがちゃんと解ってたら別れることもなかったかもね・・・」
そう話す母さんの言葉からは特に後悔めいた響きは感じない
こうやってたまにふっと話し出す『あの人』の思い出話を聞くのを、俺は嫌いじゃなかった
生まれた時からいないのが当たり前だったから、実の父親にあたる『あの人』に対して俺は特になんの感情も持っていない
当然、特に恨んでいるということもない
母さんが俺を身籠もっているのに気付いたのは『あの人』と別れてからのことだったらしいし、そもそも恋人として付き合ってはいたけれど結婚していたわけじゃない
俺のことを母さんは『あの人』に知らせていないから、『あの人』は俺の存在を知らない
だから『あの人』を恨むのは筋違いだし、ちゃんと俺を生んでくれた母さんは尚更だ
確かに幼い頃は『いたらいいな』・・・くらいには思ったことはあるけれど
「だから恋人が出来たら、その娘の前ではちゃんと素直になりなさい。でないと誤解されてフラれることになりかねないわよ。・・・ってゆうか、それ以前に付き合うまでにもいかないわよ」
「ん・・・まあ、気を付けるよ」
母さんの忠告めいた言葉に曖昧に応えながら、食事を終えた俺はリビングを後にした
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
なんか久しぶりに『あの人』の話を聞いた
父さんや姉さんの前では絶対にしないからな
思えば母さんが父さんと結婚して、もう6年近くになるんだな
俺は少しだけ昔の事を思い返してみた
■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■
「今度母さん結婚しようと思うんだけど・・・どうかな?」
いつもの夕食の時間
それまで無言で箸を進めていた母さんが急にそんなことを言ってきた
テーブルがわりのコタツで、向かい側から上目遣いにこちらを見ている
「へえ・・・、どうって?」
おれはとっさに言葉が見つからずにそんな答えを返す
「賛成・・・してくれる?」
母さんには珍しく気弱な口調だった
「別に反対する理由もないし・・・母さんがそうしたいんならいいんじゃない」
おれは少し考えてそう答えた
「よかった、反対されたらどうしようかと思ってたから・・・ありがとう、経吾」
母さんは胸のつかえが取れたように柔らかく微笑んだ
2~3日前から妙にそわそわしてる感じだと思っていたが、どうやらこの事を話すタイミングを伺っていたらしい
母さんの話を聞くと、相手は国立の研究機関で働く研究員で、数年前に奥さんを亡くされているらしい
母さんは仕事でタウン誌のライターみたいなことをやっている
それでしばらく前、ちょっとしたインタビューのような事をする機会があって知り合い、何回か会っているうちに惹かれ合ったらしい
■ ■
互いの紹介のため数日後の日曜、母さんの結婚相手と直接会うことになった
待ち合わせの場所に現れた男性は『眼鏡をかけた優しそうなおじさん』という印象だった
だが、その後ろに付いてきた人物は明らかな敵愾心をその表情に貼付けていた
髪を三つ編みにした眼鏡の少女で歳は十五、六といったところか
「紹介するよ。これが僕の娘の美祢(ミネ)だ」
母さんの結婚相手がそう言って後ろの少女を紹介する
「私、結婚は認めますけど・・・貴女のことは絶対お母さんとは呼びませんから!」
美祢と紹介された少女は鋭い声と共に母さんを睨みつけた
・・・まあ、これが普通の反応なのかもしれない
おれみたいにアッサリ納得してしまうほうが、子供としては異常なのかもな
「美祢!失礼だぞ。・・・その、娘がすまない」
申し訳なさそうに頭を下げる男性に、母さんは軽く首を振り微笑む
「美祢ちゃん・・・その、お父さんとの結婚を承諾してくれてありがとう。最初は戸惑うと思うけど、少しずつ仲良くなっていきましょう」
美祢という名の少女は、母さんの言葉にもそっぽを向いている
「あ、そうそう、こっちも紹介しなきゃね・・・あたしの息子の、経吾よ」
その言葉に、母さんの影から一歩出て挨拶しようとした瞬間・・・
いきなり両手を掴まれた
ぎょっとして見ると相手は先方の娘だった
「え、何?」
困惑するおれに彼女は早口でまくし立てる
「キミ、経吾くんていうの?じゃあけーくんて呼んでいい?いいよね?私の事も遠慮なくお姉ちゃんて呼んでいいからね?けーくんは小学生?何年生かな?今度ランドセル背負ってるとこ写真に撮っていいかな?いいよね?きょうだいになったんだもんね?ちょおオッケーだよね?」
・・・何?この女、スゲェ怖い
メッチャ鼻息荒いんですけど?
なんで眼鏡曇ってんの?
おれはドン引きしながら母さんとその再婚相手の男性を交互に見た
「・・・その、娘がすまない・・・」
男性が視線を逸らしながら謝る
母さんは軽く片頬を引きつらせながら
「ま、まあ二人とも、早速打ち解けて、よかったわ」
と言った
おれの姉になる予定の人物はやたらとハイテンションで奇声を上げる
「くはーッ!リアル弟キター!もしかしてアタシ勝ち組?勝ち組ですか?父さんグッジョブ!」
ビッと親指を立ててウインクしてくる娘に男性は複雑な表情を返した
■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■
・・・回想終わり
はあ・・・思い返せばあの頃に比べたら姉さんもだいぶマトモになったよなあ・・・
姉さんといい、園崎といい、なんで俺のまわりには変な女ばっか寄ってくるんだ
俺はしみじみと深い溜息をついた
(つづく)
自室のベッドの中
俺は堪え難い痛みに悶えていた
心の
結局あれから小一時間くらい痛恥ずかしいセリフを言わされる事になった
とりあえずその場は勢いでなんとか凌いだものの、こうして冷静になって後から思い返すと強烈に恥ずかしさが込み上げてくる
大体あいつがカッコイイとか言っておだてるから・・・!
『カッコイイ格好いいかっこいいステキSUTEKI素敵ぃぃぃぃ』
園崎の声が耳に甦る
正直、あんなにストレートに賞賛されると悪い気はしないが・・・
だけどなあ・・・
頭を抱えて懊悩していると部屋のドアがノックされた
「経吾、夕飯出来たから食べに来なさい」
そうドア越しに聞こえてきたのは母さんが声だ
「判った。すぐ行く」
俺は返事を返してのそのそと起き上がった
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
食卓につくと母さんがご飯をよそった茶碗を渡してくる
おかずは肉じゃが、ほうれん草のおひたし、それとエノキとネギの味噌汁といった定番の和食だ
いただきますを言って母さんと向かい合わせで食事をする
姉さんは就職と同時に一人暮らしを始め、父さんは仕事で家を空けることが多いのでだいたいは母さんと二人の食事が多い
昔は・・・母さんが父さんと結婚するまでは母子家庭だったから、この食事スタイルが俺にとっては基本型だ
俺が食べるのをしばらくじっと見ながら食事していた母さんが、
「経吾、なんかいいことでもあった?」
と、唐突にそんな事を言ってきた
「え、なんで?」
「うーん?なんかいつになく険しい顔してるから・・・」
「・・・なにそれ?」
俺は母さんの言葉の意味が計りかねて眉をひそめた
「アンタ、自分でも気が付いて無いみたいだけど、昔からすごく嬉しいことや楽しいことがあった時って照れ隠しでしかめ面になる癖があるのよ」
「え?・・・そう?」
改めて言われると、確かにニヤけた顔にならないように顔を意識的に強ばらせることがあったかもしれない
「経吾のそういうとこって『あの人』にそっくり・・・。本当は嬉しいのに不機嫌そうな顔するとこ。あの頃それがちゃんと解ってたら別れることもなかったかもね・・・」
そう話す母さんの言葉からは特に後悔めいた響きは感じない
こうやってたまにふっと話し出す『あの人』の思い出話を聞くのを、俺は嫌いじゃなかった
生まれた時からいないのが当たり前だったから、実の父親にあたる『あの人』に対して俺は特になんの感情も持っていない
当然、特に恨んでいるということもない
母さんが俺を身籠もっているのに気付いたのは『あの人』と別れてからのことだったらしいし、そもそも恋人として付き合ってはいたけれど結婚していたわけじゃない
俺のことを母さんは『あの人』に知らせていないから、『あの人』は俺の存在を知らない
だから『あの人』を恨むのは筋違いだし、ちゃんと俺を生んでくれた母さんは尚更だ
確かに幼い頃は『いたらいいな』・・・くらいには思ったことはあるけれど
「だから恋人が出来たら、その娘の前ではちゃんと素直になりなさい。でないと誤解されてフラれることになりかねないわよ。・・・ってゆうか、それ以前に付き合うまでにもいかないわよ」
「ん・・・まあ、気を付けるよ」
母さんの忠告めいた言葉に曖昧に応えながら、食事を終えた俺はリビングを後にした
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
なんか久しぶりに『あの人』の話を聞いた
父さんや姉さんの前では絶対にしないからな
思えば母さんが父さんと結婚して、もう6年近くになるんだな
俺は少しだけ昔の事を思い返してみた
■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■
「今度母さん結婚しようと思うんだけど・・・どうかな?」
いつもの夕食の時間
それまで無言で箸を進めていた母さんが急にそんなことを言ってきた
テーブルがわりのコタツで、向かい側から上目遣いにこちらを見ている
「へえ・・・、どうって?」
おれはとっさに言葉が見つからずにそんな答えを返す
「賛成・・・してくれる?」
母さんには珍しく気弱な口調だった
「別に反対する理由もないし・・・母さんがそうしたいんならいいんじゃない」
おれは少し考えてそう答えた
「よかった、反対されたらどうしようかと思ってたから・・・ありがとう、経吾」
母さんは胸のつかえが取れたように柔らかく微笑んだ
2~3日前から妙にそわそわしてる感じだと思っていたが、どうやらこの事を話すタイミングを伺っていたらしい
母さんの話を聞くと、相手は国立の研究機関で働く研究員で、数年前に奥さんを亡くされているらしい
母さんは仕事でタウン誌のライターみたいなことをやっている
それでしばらく前、ちょっとしたインタビューのような事をする機会があって知り合い、何回か会っているうちに惹かれ合ったらしい
■ ■
互いの紹介のため数日後の日曜、母さんの結婚相手と直接会うことになった
待ち合わせの場所に現れた男性は『眼鏡をかけた優しそうなおじさん』という印象だった
だが、その後ろに付いてきた人物は明らかな敵愾心をその表情に貼付けていた
髪を三つ編みにした眼鏡の少女で歳は十五、六といったところか
「紹介するよ。これが僕の娘の美祢(ミネ)だ」
母さんの結婚相手がそう言って後ろの少女を紹介する
「私、結婚は認めますけど・・・貴女のことは絶対お母さんとは呼びませんから!」
美祢と紹介された少女は鋭い声と共に母さんを睨みつけた
・・・まあ、これが普通の反応なのかもしれない
おれみたいにアッサリ納得してしまうほうが、子供としては異常なのかもな
「美祢!失礼だぞ。・・・その、娘がすまない」
申し訳なさそうに頭を下げる男性に、母さんは軽く首を振り微笑む
「美祢ちゃん・・・その、お父さんとの結婚を承諾してくれてありがとう。最初は戸惑うと思うけど、少しずつ仲良くなっていきましょう」
美祢という名の少女は、母さんの言葉にもそっぽを向いている
「あ、そうそう、こっちも紹介しなきゃね・・・あたしの息子の、経吾よ」
その言葉に、母さんの影から一歩出て挨拶しようとした瞬間・・・
いきなり両手を掴まれた
ぎょっとして見ると相手は先方の娘だった
「え、何?」
困惑するおれに彼女は早口でまくし立てる
「キミ、経吾くんていうの?じゃあけーくんて呼んでいい?いいよね?私の事も遠慮なくお姉ちゃんて呼んでいいからね?けーくんは小学生?何年生かな?今度ランドセル背負ってるとこ写真に撮っていいかな?いいよね?きょうだいになったんだもんね?ちょおオッケーだよね?」
・・・何?この女、スゲェ怖い
メッチャ鼻息荒いんですけど?
なんで眼鏡曇ってんの?
おれはドン引きしながら母さんとその再婚相手の男性を交互に見た
「・・・その、娘がすまない・・・」
男性が視線を逸らしながら謝る
母さんは軽く片頬を引きつらせながら
「ま、まあ二人とも、早速打ち解けて、よかったわ」
と言った
おれの姉になる予定の人物はやたらとハイテンションで奇声を上げる
「くはーッ!リアル弟キター!もしかしてアタシ勝ち組?勝ち組ですか?父さんグッジョブ!」
ビッと親指を立ててウインクしてくる娘に男性は複雑な表情を返した
■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■
・・・回想終わり
はあ・・・思い返せばあの頃に比べたら姉さんもだいぶマトモになったよなあ・・・
姉さんといい、園崎といい、なんで俺のまわりには変な女ばっか寄ってくるんだ
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