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第1章 スプリング×ビギニング

第5話 常態化しつつある彼女との異常な日常

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「義川、園崎とはうまくやってる様だな」

休み時間。廊下を歩いていると担任に声をかけられた

「上手く・・・かどうかわかりませんが、まあ、普通ですよ」

俺は当たり障りのない言葉を選んで答える

園崎との屋上でのアレは既に一週間は数える

俺は日に日にクロウの演技に慣れてきて、園崎はそんな俺に無邪気に喝采を送る

相変わらず恥ずかしいが素直に喜ぶ園崎に悪い気はしない

全く、俺も大概付き合いがいいよな・・・

客観的に自分の行動を振り返ると発狂しそうになるので、俺は滑稽な寸劇でもやってるものと割り切って辛うじて精神の均衡を保っていた

本当、本職の役者とかどんな精神力してんだよ

ともあれ俺達の中はだいぶ親密になっていた

もっとも、その親密とはクロウとクオン、男同士の友情といった意味合いの物で、男女としての親密という意味ではない

・・・いや、別にそういう男女の親密を求めているわけじゃないけどな

ただ、彼女が時折見せる無防備なエロティシズムが少々扱いに困る

いくら言葉遣いが男でもその容姿は可愛い女の子なんだから・・・

しかし、その親密な関係も放課後、屋上だけの事で教室内では必要以上には会話してはいなかった

どこからあの寸劇のことがバレるか解らないからな

「お前が隣に座ってるお陰で授業中あいつが大人しい・・・他の先生からも授業がやりやすくなったとよく言われる・・・」

「そう、ですか・・・」

いや、俺個人としては確実にやりづらくなってるんですけど

「まあ、これからも頼む。ついでにあいつの成績も改善するようにしてくれると非常に助かる。なにしろ2年に進級できたのも奇跡のようなものだからな」

丸投げですか・・・

「・・・そんなとこまで面倒見切れませんよ。俺だってそんな成績いいほうじゃないんだから・・・」

「なら二人で共に協力して成績向上に努めればよいだろう。放課後、図書室あたりで。・・・そういえばお前たち放課後はどうしてるんだ?この間、結構遅い時間に校内で見かけたが・・・」

俺は内心ギクリとした

屋上への無断侵入、無断使用はバレたらかなりヤバい

その上、仮にも男女で・・・だ

あらぬ疑惑をかけられ、下手すりゃ親呼び出しとか、最悪なら停学とかにもなりかねない

俺は答えに窮して内心冷や汗を流す

その時チャイムが鳴った

「おっと、授業が始まる。この話はまた後だな」

危ないところだった

何か言い訳を考えとかないとな・・・

教室へと向かう担任の背を眺めながら俺はそんな事を考えていた

◆    ◆    ◆    ◆    ◆    ◆

「・・・で?今日もやるのか?」

「当たり前だ。さあ時間が勿体ない・・・行くぞクロウ」

放課後、また俺達は旧棟の屋上へと向かっていた

「!・・・まずい、隠れろクロウ」

渡り廊下から旧棟に入ってすぐ、突然園崎が俺の体を壁際へと突き飛ばした

「ぐはっ」

右腕を壁に打ち付けた俺は軽く呻きを漏らす

「痛つっ・・・いきなり何すんだよオマエ?!」

俺は涙目で園崎を責める

「しっ・・・静かにしろクロウ」

園崎は廊下の柱の陰から顔だけ出して前方を伺っている

「なんだ?」

身を乗り出して彼女の視線の先を追うと見知った担任女教師の姿があった

廊下の奥で生徒達と何か話している

「ホヅミだ・・・嫌な奴に会った」

園崎は親指の爪を噛みながら呟くようにそう言った

「・・・何も隠れることはないだろう?」

「ふっ・・・クロウ、この旧棟が別名『部室棟』と呼ばれているのを知ってるな」

園崎が肩越しに視線を送りながら言う

「ああ・・・それがどうかしたか?」

「この旧棟の1、2階は主に文化系の部活の部室として使用されている。つまりこの旧棟に放課後居る者は主に文化系部員といえるが、僕もクロウも部に所属していない・・・ここで僕達の姿を見たら、『何の用でここに居るのか』とホズミは不審に思うだろう。あいつはカンのいい女だ。僕達がここの屋上を勝手に使っている事を嗅ぎ付けるかもしれない・・・」

う・・・それは確かにマズイかも

園崎の言う通りここは隠れてやり過ごした方が無難か?

「くそ・・・いつまであそこにいるつもりだ。・・・クロウ、ちゃんと隠れていろ。見つかったらどうする」

そう言いながら園崎は俺の体をぐいぐいと壁に押しやる

・・・ってゆーか、尻を押し付けるな。尻を!

気持ちいいだろーが!・・・くお・・・柔らあったけー

思春期の男子に物理的な刺激を与えるなっての!

否応なく肉体の一部に血液が集中してくるじゃないか

ちょ・・・ヤバイって

焦る俺の顔を怪訝そうに見つめる園崎と目が合った

沸き上がる劣情を見透かされたかと俺は肝を冷やすが、園崎はそんな俺の顔に両手を伸ばし、掌で包み込むようにして顔を近付けてきた

「クロウ、少し顔が赤いぞ。熱でもあるんじゃないのか?」

心配げに眉をひそめ、そんなことを言ってくる

ちょ!顔近いって・・・吐息が喉のあたりにかかって・・・くすぐったい

「きゃあっ」

突然あらぬ方向から小さな嬌声が上がる

振り向くと新入生らしき二人組の女子生徒が目を丸くして顔を赤らめ、こちらを見ていた

俺達の視線を受けると、
「す、すみませ~ん」
と言いながらパタパタと慌てて走っていく

「なんだ?まったく・・・一年は騒がしいな」

園崎は彼女達の反応が理解できなかったらしく、そんな事を言った

・・・いや、多分あの新入生達には上級生のバカップルが校内で抱き合ってラブシーンを演じているように見えたんじゃないのか?

しかし騒がしく走る彼女達に、ホヅミ先生が視線を向けるのが見えた

「む、マズイ!・・・ホヅミがこちらを見ている、ここは一旦退くぞクロウ」

園崎は瞬時に身を翻すと、あっという間に渡り廊下へと身を滑りこませた

反応速度速ェ!

俺も慌ててそのあとに続いた

◆    ◆    ◆    ◆    ◆    ◆

結局、俺達は今日のところは諦めて帰る事にした

「くっ・・・あの一年共め、あいつらが騒がなければやりすごせたのに・・・」

校内を出て帰る道すがら、園崎は悪態をついた

「まあ、しょうがないだろ。また付き合ってやるから今日は諦めろ」

隣を歩きながら俺はそう言って彼女をなだめる

まあ、俺にとっては助かったけど・・・

クロウの演技も慣れてきたとはいえ、まだ少し恥ずかしいしな

・・・って慣れんなよ!少しかよ!

俺は自分自身の無駄な対応力に愕然となる

・・・と、隣を歩いていたはずの園崎がいない

振り返ると、園崎は立ち止まってどこかあらぬ方向を見ていた

「?・・・どうしたんだ」

戻りながら声をかけると園崎は顔を横に向け何かを見詰めたまま、




「・・・クロウ、僕と戦ってみないか?」

と言った

(つづく)
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