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第1章 スプリング×ビギニング

第9話 ソノサキテイにて

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大きな金属製の門扉の脇

壁に設えられた金属製のドアがある

ドアノブの近くに付いた操作パネルのような物を開けてボタンを押す

内蔵された小型のカメラレンズ状の部分を園崎が覗き込むとわずかな機械音の後、ドアの中から解錠音が聞こえた

って、網膜認証?

尻込みする俺をよそに園崎がドアを開ける

「さあ、遠慮はいらないぞ」

と言って俺を促す

「お、お邪魔します」

俺はおっかなびっくりドアをくぐる

でかい

庭だけで俺んちが4つくらい入りそうだ

背後でドアがバタンと閉まりガチャリと錠がおりる

え?もしかして俺閉じ込められた?

「どうかしたか?」

園崎が腰に片手をあてて小首をかしげている

「い、いや・・・、園崎のお父さんて・・・何やってる人?」

庭は広さもそうだが手入れも行き届いている

多分、定期的に業者が入っているのだろう

どう考えても普通のサラリーマンが住めるような家とは思えない

「お前って結構お嬢様だったんだな・・・」

俺の言葉に彼女はきょとんとした顔をする

「ん?・・・ああ、確かに父はいくつかの会社を経営しているから、そういう意味では僕は社長令嬢というものにカテゴライズされるかもしれないな・・・」

口許に人差し指をあててそんなことを言った

っていうか今いくつかって言った?

一つじゃねーのかよ!超絶お嬢様じゃねーか

絶句している俺に彼女は自嘲めいた顔をして言葉を続けた

「だがそんなことは僕には全く関係がない・・・後を継ぐのは姉だしな。せいぜい僕は姉に何かあった時のスペア程度の存在だ。この世界での園崎柚葉とはその程度の価値の人間なのだよ」

そう言って片頬を歪ませて笑う園崎に俺はかける言葉が見つからず黙りこんだ

「だが!そんなことは最早どうでもいい!なぜなら園崎柚葉とはこの世界に僕が転生するために使った只の入れ物に過ぎないからだ!僕の真なる魂の名はクオン・・・クオン・エターナルダークだ」

出たよ電波設定!

しかし、さっきまでの暗い雰囲気を全て消し去り瞳を輝かせて語る彼女は、とても活き活きとして・・・綺麗だった


玄関に入るとそこも俺の家の軽く3倍くらいあった

「えーと・・・園崎、家の人は?俺、挨拶しといたほうがいいよな?」

仮にも園崎は女の子だ

娘が訳の分からない男を黙って連れ込んでるのが見つかったら色々マズいだろう

そう思ったのだが、園崎は靴を脱ぎながら、

「その必要はない。父は仕事が忙しいらしくてな、ここにはめったに帰ってはこない・・・。母は僕の幼い頃出ていった。姉もここを出てマンション暮らしだ。・・・まあ、たまに叔母が僕の世話を焼きにやってくるくらいで基本的に僕一人だ」

園崎・・・こんな大きな家に一人きりなんて・・・

俺は複雑な心境になる

上手く言葉が見つからない

「ま、お陰で色々好き勝手な事が出来る。気楽でいいもんだぞ」

そう言って園崎は笑った

・・・まあ、他人の家庭の事情だ。俺が考えても仕方ないことだよな・・・

「くはは・・・、ということだから遠慮は無用だ。さあ、上がるがいい」

園崎に促されて靴を脱ぐ

あれ、でもそうすると・・・今この家の中は俺達ふたりっきりってことか?

その事に思い至った俺は急に心臓の鼓動が速まる

「僕の部屋は2階なんだ」

園崎の後に続いて階段を上る

てか、目の高さに園崎のフトモモがあって目のやり場に困る

スカートの裾から伸びる脚線はそれを包み込む縞ニーソと相まって、もはや芸術的ともいえる

素肌の部分は絶妙な黄金比で露出しており、それが階段を一段上るたびにぷるぷると振動する

そんな蠱惑的なフトモモが手を伸ばせば触れられる位置に・・・って、なに手ェ伸ばしてんだ俺!

無意識の内に伸ばした右手を左手で掴んで押さえる

・・・ヤベェ、何やってんだ俺

「クロウ・・・いまお前、まさか?・・・」

そんな俺を園崎が上から見下ろしていた

信じられない物を見たように目を見開いて

「!、こ、これは、その・・・」

俺は必死に自分のしでかしそうになった行為を誤魔化す言葉を探す

そんな俺に園崎は瞳を輝かせながら、



「まさか!?右手の中の邪竜が目覚めそうなのか!」



と言った

俺はその右手首を左手で掴んだポーズのまま、

「クッ・・・、駄目だ。まだ早い・・・目覚めてしまったら・・・・・今の俺では制御出来ない!」

と呻く

「クロウ!?」

「グウッ・・・・・・・く、・・・・何とか・・・・押さえ込めたな」

そう苦しい表情を浮かべニヤリと笑う




・・・・・なにやってんだ俺?



「ふう、肝を冷やしたぞクロウ」

園崎が顎に伝った汗を拭う

「もう大丈夫だ・・・スマン。心配かけたな」

いや、『大丈夫だ』じゃねえだろ・・・・俺は自分の事が心配だよ

自分の不埒な行為を誤魔化す為とはいえ、あんなセリフがアドリブでスラスラ出てくるって、かなり園崎の病気が感染ってるな・・・


二階に上がり、いくつかあるドアの前で彼女が止まった

「ここが僕の部屋だ。・・・あ、ちょっと制服を着替えたい。待っててくれるか?」

そう言って園崎は自室へと入っていった

俺はドアの前で待つ

・・・しかし、さっきはヤバかった

だいたいシマシマは反則だっつーの

最近の園崎はかなりの高頻度で縞ニーソを履いてくる

お陰で俺は無意識に目で追いそうになってとても迷惑だ

あの縞模様には絶対催眠効果があるに違いない

邪まな欲望を呼び起こすような恐るべき効果が・・・

横縞なだけに・・・


って誰が上手いことを言えと?


・・・・しかし、静かだ。ホントに誰も居ないんだな

物音一つしない

聞こえてくるのはせいぜいドア越しの微かなきぬ擦れの音くらい・・・

って、耳をそばだてるなよ仕方ないだろ聞こえてくるんだから

・・・しかしまあ、着替えてくれるならそれに越したことはない

いくら転生した身体が女だっただけで魂は男だ、とか言って男みたいに喋っていても、女子の制服姿じゃ女の子以外の何者でもない

特に縞ニーソはマズイ

俺の正常な・・・理性的な判断を狂わす

しかし園崎の私服か・・・やはりボーイッシュな格好だろうか?

Tシャツにジーンズとか?

ジャージとかもありえそうだよな・・・

まさかクオンのコスプレって事はないよな・・・

俺が一抹の不安を抱いているとドアが開いた

部屋の中にいたのは・・・


深窓の令嬢といった風情の美少女だった


ベージュのロングフレアスカートに襟のところに花の刺繍をあしらったシルクのブラウス、その上に淡いピンクのカーディガン

非の打ち所のないお嬢様が立っていた

え、園崎・・・だよな?

俺は自分の目を疑った

「くくっ…待たせたな。クロウ」

非の打ち所のない可憐さをまとったお嬢様が腰に手を当てたポーズでとても残念なセリフを吐いた

ああ、園崎だわ、間違いない

しかしまあ、こういう服が自然に着こなせて様になってるんだから、やっぱり園崎はお嬢様なんだな

俺がその姿に見とれ黙り込んでいると園崎は急に不安げな表情になる

「も、もしかしてこの格好、変か?・・・その、僕はあまり服には頓着しないほうでな・・・この服も姉のお古なんだ・・・・・実はここ2、3年くらい自分の服って下着以外買ってないし・・・・」

オロオロとしながらそんなことを言いだした

「いやいや、そんなことはないって。ほら、園崎の制服以外の服装って初めて見たから、見と…戸惑ったっていうか、その、すごくかわ・・・別におかしくはないと思う」

俺はしどろもどろに答える

「そか、別におかしくはないか・・・よかった」

園崎は俺の言葉に安堵の表情を浮かべる

お互い無言になって妙に気恥ずかしい空気になった

・・・なんだこの気まずい雰囲気

「と、とりあえず入ってくれ。遠慮は要らない」

「お、おう・・・」

変な空気を払い除けるような声で彼女が部屋の中に促した

俺は初めて入る同年代の女の子の部屋に内心の緊張を気取られないよう、平静を装いつつ足を踏み入れる

意外にも・・・予想より普通だった

もっとも他の女の子の部屋なんか見たことがないのだから比較など出来ないんだが・・・

まあ、園崎の事だからピンクでファンシーな部屋とかはあり得ないとは思っていたが、もっと中二病的な散らかった部屋を想像していた

全体的にセピア色を基調とした落ち着いた雰囲気の部屋だ

中はさすがに広い
俺の部屋の倍くらいはあるだろう

正面が大きなガラス戸でベランダに出られるようになっている

床はフローリングで部屋の中央にテーブルがあり、そこだけカーペットが敷いてある

右側の壁に本棚やチェスト、テレビなどがあり左側にベッド

その上の壁にさっきまで着ていた制服がハンガーに掛けてひっかけてあった

部屋全体から甘い匂いがする

いつも園崎の身体から微かに感じるいい匂い

そしてベッドの上には先程まで園崎が履いていた縞ニーソが無造作に脱ぎ捨てられていた

なんとも淫靡な妄想を掻き立てる構図だ・・・・・

「クロウ?どうかしたか」
「うおっ!」

ふいに目の前に彼女の顔が現れ、俺は心臓が飛び出そうになった

中腰になって下から覗き込むように俺の顔を怪訝そうな表情で見ている

「何か考え事か?目が虚ろだったぞ」

「いや、なんでも、ない」

バクバク言う心臓を抑えながら俺はとぼけた

落ち着け俺、いくら女子の部屋に上がるのが初めてだからってテンパり過ぎだ

大体こいつは自分を男子だと自称してる中二病だ

こうして俺を家に上げたのだって男同士感覚で遊ぶつもりだからだ

勢い余っておかしなことをするのは、園崎の信頼を裏切る事になる

「す、すまん少しぼーっとしてた」

「大丈夫か?昨日は夜更かしでもしてたか?ってそれは僕か」

そう言いながら笑う

園崎はやたらと上機嫌でいつも以上にテンションが高い

よほど友達を家に呼んだのが嬉しいらしい

まあ、去年はずっと教室で孤立していたらしいから無理もないかもしれない・・・

「ふふん、割と奇麗にしてあるだろう?僕は掃除は嫌いじゃないんだ」
「へえ・・・、偉いな」

控え目に部屋を見回し、本棚の中に本来あるべきではない物がある事に気付く

ん?あれって?

あのよく解らない謎の波模様デザインの缶は・・・

近づいて良く見るとやはりいつも俺が好んで飲む練乳入りコーヒーの缶だ

その空き缶らしき物が飾られていた

「ああ、それか?クロウが初めて僕に買ってくれた物だからな・・・きれいに洗ってとってあるんだ」

それは初めての帰り道で買ってやった缶コーヒーの空き缶だった

「それを見るたびにあの日の事を思い出すんだ・・・それまで僕の見る景色は灰色だった・・・でもクロウに再び巡り会えたあの日、灰色だった世界は輝きに満ちた物に変わった」

ただの缶コーヒーの空き缶を園崎は愛おしい物を見るように目を細めて眺める

俺は照れくさくなって目を逸らす

缶の置いてある段は小物を置くのに使われており、他にもよくわからないアイテムがディスプレイされていた

水晶のような物でできた髑髏、埴輪っぽいもの、遮光器土偶っぽいもの、ピラミッドのミニチュアやらトーテムポールやモアイのミニチュア、謎の動物をかたどった置物・・・

あ、いつもの十字架状の髪飾りもある

それも微妙にデザインの違うのが10個以上

なんか毎日少し印象が違うなとは思ってたけど、こんなに持ってたんだな

「まあ、くつろいでいてくれ。今、お茶でも持って来よう」

そう言うと踊るような足取りでドアを開けて出ていった

ふう、とりあえず座るか

テーブル脇のカーペットに腰を下ろすとドアから園崎が首をだした

「すまん言い忘れていた」
「ん?なんだ?」



「下着はそこのチェストの一番下に入っている。それとお茶の用意に5分くらいかかると思う」

「ゴフッ」

吹いた

ちょっと待て、なに真顔で素っ頓狂なこと言ってんだ

「アホか!?そんな情報はいらん!」

俺は全力でツっこむ

そんな俺に対して園崎が驚愕の表情を浮かべる

「な・・・!下着を漁るのは女子の部屋に一人っきりになった男子のとる、お約束的行動じゃないのか?」

「間違ってる!お前、間違ってるぞ!」

どこ情報だそれは

「ハッ・・・!?そ、そうか!僕が間違っていたよ、クロウ」

ホントにわかってんのか?

「自分自身の手で探し出すのが醍醐味なのだな。それなのに最初から場所を教えてしまってその楽しみを奪ってしまうなんて、僕はなんて愚かなマネを・・・済まない、許してくれ」

「いや、だからそうじゃねえェェ!」

俺は腹の底からの絶叫を上げた


ったく・・・人をバカにしやがって

俺をからかうのも大概にしろってんだ、しまいにゃ本気で襲うぞ・・・

やっと園崎が出ていったあと、俺はテーブルに頬杖をついてぶつくさと文句を呟いていた

まあ、確かに全く興味が無いと言えば嘘になる

健康な肉体を持つ思春期真っ只中の男子高校生であれば当然だ

だが、武士は食わねど高楊枝

痩せ我慢は男の美学なのだ!などと例のチェストをチラチラ横目で見つつ考えているとあることに気付いた

チェスト脇の本棚

ハードカバーの本が数冊、コミックやライトノベルと思われるものが並べられている

そして・・・一番下の段に薄い本が沢山入ってるけど、あれって同人誌・・・じゃないのか?

だとしたらあの中に『ダークネスサーガ』もあるんじゃ・・・

俺が知ってる内容は前半のほんの一部、それもかなりうろ覚えだ

続きがどうなっているのかちょっと興味はある

俺は立ち上がって近づいてよく見る

やはり同人誌のようだ

俺は本棚の前で膝をつき、その内の一冊を取ろうと手を伸ばした

その瞬間、嫌な予感に動きを止める

そしてゆっくりそちらを向くと・・・

ドアが少し開いていて、隙間から園崎の顔が半分見えた

口許に手を当ててにんまりと笑っている

俺は自分のとっている体勢に気づいて動きを止めた

これじゃまるでチェストの一番下の引き出しを開けようとしてるみたいじゃないか?

「いや、これは違くて・・・」

園崎の俺を見る眼差しが慈愛に満ちた物に変わる

「だから違うんだあぁぁ」

俺は泣きながら絶叫した


俺は床に両手両膝をついて打ちひしがれていた

園崎はニヤニヤしながら持ってきたお茶や皿をテーブルに並べている

「いやあ、口ではあんなことを言っておきながら、実は僕の下着に興味津々だったとは・・・クロウは素直じゃないなあ」

「ぐっ・・・・」

俺はさらなる精神的ダメージを負った

「なんなら一枚くらいやってもいいぞ」

「なっ!?・・・・・くだるか!!」

「・・・くだるか?」

俺の叫びに園崎が首を傾げる

「いや・・・何でもない」

あぶねえ!、『いるか!』と言おうとしたのに口が勝手に『ください』と言いそうになった

もしそんな超神秘アイテムを手に入れてしまったら、俺はもう戻れない領域へと足を踏み入れる事になってしまう

「?・・・まあいいや。ほら、いつまでもそんなところで四つん這いになっていないでこっちに来い。お茶が冷めてしまうぞ」

園崎の言葉に俺は気をとり直してテーブルにつく

テーブルに並べられたのは緑茶、皿の上に乗っているのは羊羹だった

「前に好物だって言ってたろう?ほら遠慮するな」
「お、おう」

好物を覚えてて貰えてるってのは結構嬉しいものだ

ちょっと気恥ずかしさを覚えながら一口、口に運ぶ

ほど良い上品な甘さが口の中に広がる・・・美味い

「どうだ?結構自信作なんだぞ」

「ああ、すごく美味いよ・・・って、これお前が作ったのか?!」

「ま、まあな・・・、羊羹ていうのは結構簡単に作れる物なんだぞ」

「・・・お前、料理とか出来たんだ」

ちょっと・・・いや、かなり意外だ

「こふん、前世の記憶が目覚める前の園崎柚葉は趣味が料理だったのだよ。くくく、脆弱な女らしい趣味だ・・・そんな心だから僕に簡単に身体を乗っ取られる」

わずかに頬を赤らめながらそんなことを言う

照れ隠しなのか?

「でも、俺のために作ってくれたんだよな。ありがとな園崎」

気恥ずかしかったが、ちゃんと礼を言った

園崎は俺の礼が意外だったのか急にあたふたすると

「う、うん。経吾のために作ったの!まだ冷蔵庫にいっぱいあるからね!遠慮しないでいっぱい食べてね」

と言ってきた

また女の子モードになってる

今日の園崎はキャラ振れが激しい


しばらく二人でお茶を飲んでくつろいだ

お茶もまろやかな味わいで羊羹の甘さと絶妙にマッチして、結局残りの羊羹も全部頂いてしまった

園崎は俺が食べるのをはにかんだような嬉しそうな表情で見ていて、ちょっと照れ臭かった

やがてお茶も羊羹も無くなって腹も満ちる

一息ついてまったりとした気分でいると園崎が何か言いたそうな眼差しを送っているのに気付いた

「ん?どうした?」

俺がそう声をかけると園崎はわずかに上目遣いになり・・・

「な、なあ、クロウ。これから一緒に・・・・しないか?」

と言った

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。


「ん・・・あ、やっ・・・・そこ、ダメッ・・・・・・」

部屋の中に園崎の艶っぽい声が響く

・・・ラブコメでありがちな、お約束的状況だと思われたことだろう

そう、もちろん別に園崎と俺がエッチな事をしているわけではない

しないか?と言って園崎が引っ張り出してきたのはテレビに繋いでやるタイプのゲーム機だった

それも最新機種ではなく一昔前くらいの

中学の時に友人から譲って貰った物らしく、特に最新タイトルのゲームにこだわっているわけではない園崎は、これをずっと使っているらしい

そして今、俺達が並んで座ってやっているのは、カラフルな謎の生き物が上から落ちて来るのを、同じ色同士くっつけて消すパズルゲームだった

最初は前にゲーセンでやった時の再戦とばかりに格闘ゲームをやっていたのだが、熱くなりすぎて激しいボタン操作の末、親指が痛くなってきてパズルゲームの対戦モードに切り変えたのだ

のだが・・・

「やん・・・それズルい・・・ヤダッ・・・・・・あん」

・・・・しかし・・・・エロい

園崎はゲームに集中しすぎて自分で全然気付いてないが、完全に女の子モードになった上に変な声の呟きを漏らしている

俺はコントローラーを操作しつつ隣を横目でチラ見する

画面に集中する園崎は時折唇を舌で湿らす

軽く開いた唇が濡れ光ってなまめかしい

その唇から、

「あん、・・・や、・・・ダメ・・・・」

とか吐息のような声を漏らす

俺は悶々としたものを抱えながら必死に画面に集中する

「ぅん・・・あ・・・きゃ・・・・・・・やったあぁ、あたしのかちぃ!・・・・・・くくく、また僕の勝ちだなクロウ」 

あ、戻った

「くく・・・どうした?すでに三連敗だぞ?」

・・・そりゃ隣であんな声出されたら気になって集中出来ないって

「あ、ああ・・・強いな園崎。このゲームじゃ敵わないかもな」

俺は無難な言葉でそう褒める

だいたい精神的ハンデありすぎだ

「そ、外も暗くなってきたし・・・、俺そろそろ帰るな?」

さすがに女の子の家に暗くなるまでお邪魔しているのは良くないだろうし、この状態が続いたら、しまいにゃ俺の理性の堤防が決壊することにもなりかねない

「ええ?・・・じゃあ後一回。な?」

そう言い募る園崎に俺はひとつ溜息をつく

「じゃあ、他のな?どれか一つ、一回だけ」

これ以上あんな声を聞かされたらたまらん

保証はないがパズルゲームじゃなければそこまで集中することもないだろう

「わかった・・・どれにしようかなあ・・・・・・・」

園崎が次のゲームを選び始める

「よし、じゃあ最後はこれだ」

そう言って園崎が示したのはレースゲームだった

ディスクを入れ替えてゲーム開始

園崎は体育座りで膝の上にコントローラーを乗せた格好でプレイを始める

画面の中ほぼ同スピードで進む赤と青のマシン

・・・・・・な!?

だが、マシンが第一コーナーを抜けた直後、それに気付いた俺は思わず固まってしまった

画面の中で派手にクラッシュするマシン

しかし俺の目はそれに釘付けになったままだ

「け、経吾?どうかし・・・・・って、経吾大丈夫か!?鼻血!凄い鼻血出てるぞ!」

園崎の声が困惑から慌てた物に変わる

「何でもない、何でもないから」

俺は鼻を押さえながら必死でごまかした

・・・・・・・・・・・・・・・・。

「すまんなクロウ、長時間つき合わせた僕の責任だ。やはりゲームは一日一時間がベストなのだろう・・・昔、奴がそう言っていたのを思い出したよ」

そう言って園崎がフッと笑う

奴が誰なのかはあえて聞く事はしないでおいたが、多分黄色い帽子のアイツなのだろう

ホントに送っていかなくて平気か?と心配する園崎に大丈夫だからと断り家路についた

少し頭を冷やそう

帰路にある公園でベンチに座って冷たい缶コーヒーをあおった

園崎は俺が鼻血を出したのはゲームを長時間したためと思い込んでくれたが、もちろん本当の理由はそうじゃない

あの時、俺の目に飛び込んできたもの

テレビ台の正面、ガラスの扉に写り込んでいたものに俺の目は釘付けになった

園崎が映り込んでいた

体育座りで座る園崎が・・・




そのスカートの中身が・・・



・・・・まだ目に焼き付いてしまっている

柔らかそうな二つの白いフトモモ

そしてその間にあったオンナノコの一番大事な部分を包みこんだ布地・・・

ヤバい!思い出したらまた鼻血が出そうだ

「大体なあ・・・・」

「シマシマは反則だっつーの!!!!」

俺の魂からの叫びは夜空へと消えていった

(つづく)
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