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第1章 スプリング×ビギニング

第15話 トウコウ アトヘン ソノサン ~ ソノヨル

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「多分、経吾のベッドの中だ。一緒に寝てた時にとれたんだと思う」

園崎の発した一言により、俺達(園崎除く)の周りの空間が凍りついた
「ベッドって・・・それって・・・それって・・・つまり、ふたりで・・・せ、せ、せ、せ、せ」
「ま、待て委員長!変な誤解すんな。俺達はただ・・・」
委員長の眼鏡が顔からの熱で曇っていく
そして・・・

突然、糸の切れた操り人形のように崩れ落ちそうになった
「・・・っと!?」
すんでのところで俺はその体を横から支えた

「な、ななななななな・・・・何してるのよ!?経吾!」
突然今度は園崎が女の子モードでキレる

「いやいやいや、支えなきゃマズいだろ。なんか委員長気絶したっぽいし」
「だ、だからってそんな密着して・・・ダメダメダメッ!!」

園崎は顔を真っ赤にして目尻に涙を溜め、俺を非難する
俺はそんな園崎を必死でなだめた

「落ち着けって園崎。とにかくおんぶでもして運ぶしか・・・」
「おんぶ・・・?ぜ、絶対ダメッ!!!委員長が孕んだらどうするのよ!?」
「孕むか!!」
どんな特殊なおんぶだそれは!?

「おろ?どしたのお前ら?」

緊張感のない声に振り向くと、そこにいたのはタナカだった
「・・・いや、なんか委員長気絶しちまってな」
「おお!タシロ、いいところに湧いた。委員長を運べ」

俺が状況の説明をしようとするが、園崎が端的な命令をタナカに下す
「湧いてねぇよ!俺は虫か!?つーかタシロじゃなくてタナカだ!!」
タナカは当然の不満を口にするが、園崎は意に介さない

「貴様の名など、どうでもいい。さっさと委員長を担げ」
「どうでもよくねーよ!なんで俺が!?」
「クラスメイトだろう?それに・・・・・・合法的に女子の尻が触れるぞ」
「俺に任せておけ!」

タナカが白い歯を輝かせて快諾した
こういう時のタナカの決断力は非常に男らしくて清々しいくらいだ
見習いたくはないが



「だらし無い奴だ。もうへばったのか?」
「う、うるせえ!男には色々事情があるんだよ!」

委員長を背負い歩き出したタナカだが、数分もしないうちに体が前に傾いてきた
そんなタナカに園崎が容赦無い言葉で責める

・・・いや、俺には解るぞタナカ

俺も前に園崎をおんぶで保健室に連れて行った経験があるが、背中全体が柔らかさと温かさに包まれて、おまけにいい匂いはするわ、首すじに吐息がかかってゾクゾクするわで体の一部分がのっぴきならない状態となる

俺達ドーテーには強すぎる刺激だ
そんな刺激と、奴は静かな闘いを繰り広げているのだ

俺は両手に鞄を下げてそんなタナカの後をついていく
ちなみに俺が持ってるのは自分のとタナカのだ
委員長のは園崎が持っている


「あれ?もしかして・・・ゆっこ?どうかしたの」
校門の手前で声をかけられ振り返ると、それはフジモリさんだった
ちなみに彼女の言う『ゆっこ』とは委員長の事だ
漢字は忘れたが確かユミコって名前だったはずだ

・・・あれ?
上の方の名前はなんだっけ?
いつも委員長って呼んでるから気にしたことないけど・・・
思い出せない・・・たしか松なんとかだったと思うんだが・・・

「フ、フジモリさん!?い、いや、これはその・・・」
突然のフジモリさんの登場に、委員長を背にしたタナカが動揺する
「あー、委員長が急に気を失っちゃって・・・タナカに運んでもらってたんだ」
可哀相に思い、俺がそう説明を入れる
「え!?そうなの?・・・貧血かな?・・・でも顔色は悪くないね」
フジモリさんが委員長の顔を覗き込んでそう言う

「でも、ありがとうねタナカくん。さすが男の子だね、頼りになるなぁ」
「こ、このくらいなんでもないって」
タナカが身を起こしてそう答える

恩に着ろよタナカ、フォローしてやったんだからな

「それじゃタナカくん、もうちょっと・・・保健室までお願い出来る」
「うん、任せといて」
フジモリさんが保健室のある方の校舎へと歩を進め、その後に委員長を背にしたタナカが続く

ふと思い出したようにフジモリさんが振り返り、口を開く
「あ、タナカくん。ちなみにね・・・」
「何?フジモリさん」
「ゆっこってね、Aカップなんだ。ゴメンね?」
タナカの体が再び傾いた

・・・ホント、あの人は



結局委員長は1時間目の授業が終わった後、教室へとやって来た
心配していた『俺と園崎が同じベッドで・・・』っていう話題については追求されることはなかった
委員長は気絶する直前の記憶を失っていたのだ

「校医の話では、余程のショッキングな出来事に遭遇したとき、脳の防御本能として断片的な記憶喪失に陥ることがあるらしい・・・義川、心当たりあるか?」
担任のそんなセリフに俺は「ありません」と即座に答えた

委員長には申し訳ないがこのまま記憶喪失でいてもらおう


◆    ◆    ◆    ◆    ◆    ◆


・・・・・ね、眠れん

その日の夜
睡眠のためベッドに潜り込んだ俺は後悔していた

朝、変な気を起こして掛け布団をぴったり閉じてしまったのは失敗だった
想像以上に園崎の残り香が濃厚で興奮して全然寝れない
それに今日は色々な事がありすぎた
考えまいとしても、どんどん脳が園崎の記憶を再生していく

---あーんしてもらった時、唇に触れた指先の感触

---俺の唇に触れたその指を舐めた園崎

---俺の食べかけの食パンを含んだ唇

---スカートの薄暗がりの中に見えたピンクのシマシマ

そして・・・、

---あったかくてやわらかかった園崎の身体

どれくらいの時間そうしていたんだろう
そうとは知らずに俺は園崎を思い切り抱きしめて身体を密着させていたんだ・・・

・・・・・・・・・・・・密着させていた?

・・・・・!!!!

その時の自分の肉体の状態に思い至った俺は、全身に冷水を被せられたような気分になる
そして全身総毛立ち、毛穴が開いて汗が噴き出してきた

俺が身体を密着させてた時、当然『その部分』も密着していたはずだ
そして『その部分』は今朝も律儀に硬化し棒状になっていたはずで・・・

そんな状態になった部分を俺は、衣服越しとはいえ園崎に密着させてた?

いや待て、目が覚めるどのくらい前から硬化するのか機能の詳細は知らないが、園崎が潜り込んできた時点では、まだそうなっていなかったはずだ
そして、俺が目覚めたときには園崎はまだ寝ていた

気付かれてない・・・か?

そうだよな、そんな状況になってれば、さすがの園崎もなにかしらの反応をするだろうが、そんなそぶりは見せてない

よかった・・・

羞恥心が引っ込むと、今度は別の感情が沸き起こってきた

罪悪感と・・・・・・歪んだ性的興奮

わざとじゃないとはいえ、硬くなったあの部分を寝ている女の子の身体に密着させてたなんて・・・

一体、どのあたりだろう・・・

あの時のお互いの身体の位置からいって・・・たぶん・・・お腹の辺り?

そう・・・園崎がコンビニで、ぼおっとした顔でさすってた辺り・・・・・

・・・・え?

まさか、いや、でも・・・・・
そんなはず、え?え?

園崎気付いて・・・・た?

あの時さすってたのって『俺の』を思い返してて・・・?

まさかそんな訳ないだろ・・・でも

あ、ヤバイ・・・すげえ興奮してきた

『経吾・・・・・』

わ、やめろ俺、変な妄想すんな

『ここに経吾の・・・・あたってた・・・・・・』

園崎がそんなこと考えてたわけないだろ!?何、勝手な想像してんだよ

『僕・・・・経吾になら・・・・・』

やめろっての、園崎そんなキャラじゃねーだろ!?

『経吾なら・・・・僕の身体・・・好きにしても・・・・』

わーっわーっわーっ!!

もう、限界だ!!

カバッ!!

俺は布団から飛び出した

このままベッドの中にいたらおかしくなる

俺は園崎の匂いの残る部屋の中から逃げ出した


◆    ◆    ◆    ◆    ◆    ◆

玄関を開けるとそこに姉さんがいた
靴を脱ごうとしているところを見ると、たった今帰ってきたところらしい

「あ、お帰り、姉さん」
「あ、えーとただいま。そしてお帰り・・・どこ行ってたの?けーくん」
「いや、ちょっと、その辺、走って、きたんだ」

俺は弾む息を整えながらそう答えた

「こんな時間に?もう12時近いよ。こんな時間に走ってると不審者にまちがわれて通報されちゃうよ?」
「う、気をつけるよ。・・・ちょっと寝付けなかったからさ。走りこんでクタクタになれば寝れるかな?と思って」

まさか溢れ出る性欲を抑えるためとは言えず、そう説明した
ベッドの中にあのままいたら園崎を使った妄想で不埒な行為に及びそうだったのだ
自分に信頼を寄せてくれてる友達を、例え想像の中でも汚すのは躊躇われる
もし、そんなことをしたら今度園崎に会った時、罪悪感でまともに顔を見ることが出来そうにない

「ふーん?せえしょおねんは色々あるんだねえ」
姉さんは分かってるのかいないのか、そんなことを言った
「ちなみにこの場合のせえしょうねんの『せい』は、こころにいきるの『せい』だからね?」

そんな、いらんことを言ってきた
ある意味核心を突いてるだけにタチが悪い

「よおし、じゃあそんなけーくんに、こころ優しいおねーさまが一晩ねっぷりお付き合いしてあげちゃうよー」
「はぁそれはどうも」

姉さんは付き合ってやる的な言い回しだが実際に付き合うのは俺だ

「で今夜はなに?ゲーム?漫画?それともアニメ?」
「んふふふふ~今日はねえ、オールナイトでアニメ鑑賞だよお。ジャンルはけーくんの大大だあ~い好きなつるぺたロリィな魔法少女モノだゾ」
「大好きじゃねえよ!!」

俺は即座に否定した

「もちろんヒロインは縞ニーソ標準装備だゾ」
「だ、大好きじゃねえよ・・・」
俺は目を逸らしながら否定した

・・・よく考えたら俺の異常なまでの縞ニーソへの執着は姉さんによる洗脳な気がする

「んふふ~今月は仕事がいそがしくてねえ、録画した分がたまってるんだ。今夜中に消化しないとねえ」

姉さんはそんなことを言いながら足取り軽く階段を上って行った

やれやれ・・・
でも助かった
部屋に戻って一人でいたら、また妄想に支配されてただろう

姉さんといれば気も紛れるはずだ

(つづく)
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