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第十九章 首都ウォルデンⅡ Walden
第19-2話「次世代へ」
しおりを挟む『あ゛ッ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ッ゛!!!』
カザンの右足が、サー・ハーマンの腹に当たった。
ちぎれている。ヤツの足が。吹き飛んだ?
『か!! カザン!?』
気が付いたら爆発が起こり、地面が抉れて……
千切れたカザンの足が、数メートル離れた俺の元まで吹き飛んだ?
『うわあああああ!! カザンさん!!』
『サー・ハーマン!! どうかご指示を!!』
部下たちがパニックになる。
その部下の脳が、ハーマンの顔面に飛び散った。
『うわあああ!! なんなんだぁあああッ!!』
ハーマンは動揺し、部下たちは更に錯乱した。
『ああああ!! どうなってる!』
『し、死んでやがるぞおおお!!』
『逃げろ! 逃げろ!』
『待て!! 撤退するな!』
サー・ハーマンは叫びながら、状況を理解しようとする。
たしかさっき、別の破裂音がどこか遠くからした。
そしてその瞬間、目の前の部下の頭が破裂した――
その耳を裂くような破裂音は、今も鳴り続いている。
『うわああああ!!』
胴体や四肢から、鮮血を飛び散らす部下たち。
なんだ? 撃たれたのか? でも矢なんて刺さっていない。魔法か?
まさか、神の裁きだとでもいうのか。
破裂音が収まってくる。
『サー・ハーマン!! 上です!!!』
顔を上げたハーマンが、丘の上に見たのは、壁だった。
その壁に開いている穴から、かすかに獣人の姿が見える。
『い、いつのまに……!』
獣人どものくせに、壁を建てた、だと?
いや、妙な壁だ。脆そうだ。
でも万が一、あれが石造だとしたら……
あの攻撃も、もし、万が一……
『……獣人のやつら、魔術にでも目覚めたのか?』
この爆発も、見えない矢も、奴らの魔術?
『いや、ありえない』
こいつらはZランクの、神に見捨てられた、ゴミどもだ…!
『撃て!!! あの壁に向かって火を放て!!』
30人のCランクの魔術師たちが、一斉に火を放つ。
ズゴン、と壁に衝突。火花を散らし、煙が上がる。
煙が消える頃、再度壁を見るが。
『ウソだろ! まったく燃えてない。まさか石造!?』
もし石造だとしたら、何年も前から建て始めたというのか。
『伏せろ!! また来てるぞ!!』
サー・ハーマンが叫ぶが、バタバタと周辺の部下たちが倒れていく。
『……くそおおお!! なんなんだこれは!!』
数秒間、その破裂音が続き、再度沈静が。
周囲は死傷者だらけだ。まるで……
『……さ、サタンの力だ。神は獣人を祝福などしない』
なら、悪魔に決まっている。
悪魔の力で、獣人どもが一斉にAランクにでも目覚めたんだ。
ふと、見えてしまう。
『クロスボウだ……!』
壁に開いている穴から、武器らしきものが見えた。
獣人どもは、新型の弓でも持っているのか?
『……だとすれば、あの丘まで登って接近戦に持ち込めば』
ここで無様に帰ってみろ。
どうせネルソン様に殺される。
『丘の上まで駆け上がり、接近戦に持ち込む!! 』
『サー・ハーマン! しかし!!』
『進め!! 恐れるな! 仕留めるんだ!!」
しかし、半数以上の兵士たちが逃げている。
『逃げるな、バカ者――ッ!!』
勝手に撤退している仲間のひとりを、ハーマンは魔術で焼き殺した。
兵たちが止まり、ゾッとする。
『ここで逃げた奴らは、大陸に待つ家族諸共殺す!』
『……サー・ハーマン!?』
『逃げてみろ! 家族を打ち首にしてやる。何世紀後も、獣人どもを恐れた間抜けとして、吟遊詩人にその名を歌わせてやる!』
部下たちの足が、恐怖で震えた。
『進め!! 敵の武器は遠距離のみ!! 近づけば勝てる!!』
うおおおお、と1人、2人。
次第にほぼすべての部下たちが、坂を駆け上がっていく。
だが、ズゴン――と重たい爆発音。
戦闘を走る部下たちの、足が吹き飛ばされる。
『……ああああ!! 足が!!』
『サー!! 無理です! 撤退の命令を!!』
『……な、なにが起こっているんだ』
部下たちは死んでない。
ただ足を失っただけ。死ぬよりも苦しい痛みが襲っているだけ。
『うわあああ!! もうダメだ!!』
『ああああああッ!!』
爆発はさらに続く。
『無理だ! すみません、サー・ハーマン!! 全員、撤退を――』
するんだ、と言う前に、その男の額に穴が開いた。
力なく倒れる。死んでいる。
気づくと、サー・ハーマンは、太ももが焼けるように熱いのに気づきーー
『ぬわああああああ!!』
ハーマンは叫んだ。
何かが、太ももに刺さった。
骨を砕き、中に小さい物が埋まっている。
たまらず彼は叫ぶ。
『ああああ!! 撤退だ! 撤退!!!』
叫びながら、ハーマンは右足を引きずりながら撤退していく。
周囲を見ると、部隊の半分は、すでに死亡か負傷をしていた。
(……し、失敗した)
獣人たちに何かが起こった。
異変を感じた時から撤退していれば、被害は最小限で済んだのに……
◇
駐屯地にまで戻ってきた。
上陸後、すぐにトイレ用の穴を掘らせ、キャンプを立てていた場所だ。
だが部下たちはこの場所を素通りして、海へ向かう。
『ま、待てお前ら……!』
右足を引きずりながら、必死にサー・ハーマンは部下たちを止めようとする。
『おい待て!!』
止まれ! 俺を乗せろ!
そう思うが、兵たちは遠慮なく出航していた。
1隻は既に海の遥か向こうへ。もう1隻は出発中。
最後の1隻は……
『待て、俺を残すな!!』
『おい、サー・ハーマンがいるぞ!』
『出航停止!! サー・ハーマンが乗るまで待つんだ!』
助かった。ハーマンは神に感謝した。
そうだよな。Bランクの俺が、こんなところで死ぬわけがない。
こんなクソどもの島で、最期を迎えるわけがない。
左足から、血しぶきが上がった。
『ああああああ!!』
燃え上がるような痛み。
追いかけてきやがった。あの獣人ども!
徹底的に始末しにきやがった。
『ああああ!! 待て!!!』
獣人兵たちに背後から抑えられ、魔術を使えないように手を縛られた。
その様子を見て、最後の船は出航しようとする。
だが、その前に――
『あ、ああああ……!!』
人の獣人兵たちが乗り込み、何かを船内に投げ込む。
船から煙が出ている。なんだあれは。
次第に破裂音が続き、そして静かになった。
『まさかあいつら、船を奪いやがったのか……?』
もう、おしまいだ。
公国も、王国も、こんなやつらが上陸したら……
ハーマンは捕虜となっていた。
その他無数の、彼の部下たちと一緒に。
戦況
共和国 死没者0人 負傷者4人
公国 死没者56人 負傷者(捕虜)63人 逃亡 87人
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