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10、噂の七海ちゃん

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午後の授業と授業の間の、とっておきの優しい時間。

太陽の光の下でぐっすり眠っていたらきっと誰も話しかけない。

「みな......は寝てるか」

美紀は話しかけようとして、安眠しているのを見て話しかけるのをやめた。

ずっと一緒にいてみなが眠たい時には寝かせてあげないとそのあとの授業で眠たくて葛藤していることを知っているのだ。

こんなにガヤガヤうるさい教室で、よくこんなに眠れるものだなと感心しながら前を向いた。

みなが寝ている時、美紀は正直暇すぎて仕方がない。

「寝てるけど?」

廊下から声が聞こえた。
辺りの声が一瞬だけ止まって、その声だけが聞こえたのだ。

その後、健太くんも廊下に出てきてなにやら話している。

みながぐっすり眠ったまま顔を健太くんたちに向けると「かわいいなぁ」と呟いているように見えた。

みなの寝顔に、健太が耐えきれなくなったように教室の中に走っていく。

「みなー!」

ぐっすり寝ているみなの後ろから抱きしめて、クラス中から驚いた顔で見られているのも気づかないようだ。
もちろん私からの視線にも。

慣れたと思っていたけど、小さな頃から仲が良かった友達がイチャイチャするシーンを間近でみるのはやはり小っ恥ずかしい。

「あ、健太」

花が咲くような笑顔で健太くんを見るみなに、私の存在は無視か。と心の中で言って、私は前を向き直した。

「みなはなんてかわいいんだ!」

健太くんの感極まった声に、なんだか彼はあほなのかもしれないと思う。

「今、七海がそこに、、、、七海!?」

美紀は驚いた。

もしかして、あれが七海ちゃんだったのかと。




健太が七海ちゃんを連れてきてくれたのかと一瞬で私は目が覚めた。

「どこ!?」

「あいつ、教室戻っちまったわ」

「えー!初対面だったのに!」

私はがっかりして健太を睨んだ。

「俺のせいじゃないだろ!」

健太は笑いながら私の手を引いて椅子から立たせる。

「ほら、七海のこと行くぞ!」

私の手をぎゅっと握って教室を出る。

健太と七海ちゃんは同じクラスでは無かったはずだから、私はどこのクラスか分からないまま健太に手を引かれて2クラス隣の教室まで来た。

健太は七海ちゃんがいるか確認するように教室の中を伺って、そして笑顔になった。

「あ、いたいた!あれが七海だよ!」

本を読んでいるシルエット。

まさか...。

「あの人が?」

健太の顔を見上げたとき、それが本当だと分かった。


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