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9、嫉妬しないのは

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「だよな!小さい頃は七海もかわいかったのに、ひねくれちゃって」

いつものように、健太が教室まで話に来ていた。

七海ちゃんの話をする時はいつも楽しそうで、健太の笑顔がよく見れる。

「もう教室戻らないと」

残念そうに去っていく健太を見送ってから、美紀が振り向いた。

「健太くんと付き合い始めて1週間くらい経つね」

「うん、そうだね!」

「ずっと思ってたんだけど、嫉妬しないの?」

「ん?なにが?」

「ほら、健太くんって、よく七海ちゃんの話してるじゃん?」

そう言われてみれば、あんなに楽しそうに他の女の子の話をされているのにあまり何も感じない。

「それだけ健太くんのこと信じてるのかもしれないけど、少しくらい嫉妬してあげた方が健太くんも嬉しいんじゃない?」

美紀は私に少し心配するような口調で言う。

「どうして私は七海ちゃんに嫉妬しないんだろう」

「うーん、中学校の頃から知ってる私としては、やっぱりそれは、、」

美紀は何か言いかけてやめてしまう。

「なに?言いかけたなら言ってよ」

申し訳なさそうになかなか言わない美紀にやきもきした。
そんなに言いにくいことなのだろうか。

「それは、健太くんのこと友達としか見てないんじゃない?」

そんなまさか、と笑い飛ばしたかったけどできなかった。

重い石が乗っかったように、私は動けなかった。

「変な事言ってごめん!冗談!」

美紀は笑って前を向いてしまう。

そのあとすぐ授業が始まって、私は美紀に何か言う時間も無かった。

いや、何も言えなかったのだ。



「帰ろう、みな!」

放課後。
笑顔で寄ってくる健太に、私は素直に笑い返せていただろうか。

美紀に言われた一言が、未だに重くのしかかっている。

「今日の七海は、すごくみなみたいだった!ずっとうとうとしてて!」

「あはは。最近、暖かくなってきたからね」

「みなは年中だろ!」

人懐っこい笑顔も、今の私にはどうしてか苦しい。

本当なのかもしれない。
健太を好きな人としてじゃなく友達として見ているのだとしたら。

ううん、そんなはずない。

「でも、うとうとしている七海かわいかったなぁ」

愛おしそうに微笑む健太に、私は少しほっこりした。
健太がそんなに言うほどかわいい七海ちゃんを見てみたかった、と思ってしまった。

「クラスの山口くんもね、私が眠そうにしてるのかわいいって」

「えー!?その山口ってやつ、みなの寝顔見たのかよ!なぁんかモヤモヤするなぁ!」

途端にムスッとして私の手を強引に握って引き寄せた。

「みなは嬉しかったの?」

「ふふ。健太に言われなきゃ嬉しくないよ」

「だよね!」

嬉しそうにする健太に、かわいいと思った。
やっぱり私は、健太のことが好きなんだ。

だって、こんなにキュンとする。




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