お姉ちゃんと仲良くしような

武 働丁

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忍者はふたたび

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 武は、家に帰ってくると、その場にへたり込んだ。
 なんだか、まだ鼻の奥底で血の臭いがするような気がした。
 「ふううう」
 武は身震いした。
 あのときは、姉勇名しようなが素っ頓狂な声を出したので、
 思わずあんな行動を取ってしまったが、思えばあの女は人殺しだ。
 関わり合いにならなくてよかった。
 「あー忘れよう、忘れよう、もうしばらく秋葉原行けないや」
 武はそう言いながら両手でパンパンと顔を叩いた。
 少し落ち着いたらお腹が減ってきた。でも、今外に出る野は怖い。
 冷蔵庫を探すとカレーパックがあったので、ご飯を炊いてカレーを食べた。
 そのあと、フロに入ってくつろいでいると、コンコンと玄関のドアを誰か叩く。
 「だれだよ……NHKの集金か?テレビもってないのに」
 武がドアを開けると、そこには忍者装束の姉勇名しようなが立っていた。
 「ちょ、何やってんだよ」
 よく見ると、折りたたんでアイロンをかけた
 武のワイシャツと背広を両手の上に乗せている。
 「なんだよ、律儀だなあ」
 「借りたものは返さなきゃね」
 「それにしても、そんな格好して近所の人に変な目で見られなかった?」
 「大丈夫だよ、私忍者だから誰にも見られてないから」
 「どんな理屈だよ、とにかく服を返してくれてありがとう、じゃあ帰って」
 武は奪うように服を受け取ると、勇名を帰そうとする。
 そのとき、廊下にコツコツと足音が響く。
 「あ、あれハイヒールの音だ」
 勇名が言った。どうやら靴の音が聞き分けられるらしい。
 「や、やばい、そんな格好の女の子が玄関に居るの見つかったら変なプレイしてると思われちゃう」
 武は勇名の手を引っ張って部屋の中に入れた。
 「ちょっと中に入ってて」
 武は急いでドアを閉めて息をひそめてその場にしゃがんだ。
 コツ、コツ、コツと足音が近づいてくる。複数の足音のようだ。
 足音が武の部屋の前で止まる。
 コンコン
 ドアを誰かノックする。
 武はビクッとその場で小さく跳ねた。
 ヤバイ。
 武はゆっくりと立ち上がってドアに近づく。
 ドンドンドン
 「開けなさい!」
 ヒステリックな女性の声が響く。
 「あ、はい、ただいま」
 武は反射的にドアを開けてしまった。
 そこには紺のスーツを着た気の強そうな女の人が立っていて、
 すごい怒りの形相で武を睨んでいた。
「あんた、今コスプレした女の子家に入れたでしょ。いい年したオッサンがオタク?は?」
 女は口をゆがめて武に侮蔑の視線を向ける。
 その後ろにはサングラスをした屈強な体格を下背広の男が二人立っていた。
 「あんた、オタクでしょ?そういう顔してるわ。あのさ、青少年健全育成条例しってる?」
 「何の事でしょう?」
 「あんたみたいに女性の人権を踏みにじる汚いオタクを取り締まる法律よ」
 「あの、俺、何もしてませんけど」
 「オタクが何もしてないわけないじゃない。どうせ犯罪者か犯罪者予備軍なんだから」
 「何言ってるんですか」
 「家宅捜索よ、さあ、がさ入れしなさい」
 女がそう言うと男達が土足で武の部屋に入ってくる。
 「ちょ、やめてください、何の権利があって」
 「オタクに権利なんてないのよ!」
 「こんな事違法でしょ!」
 「は?新しい法律が可決されたの知らないの?二次元女性人権法よ」
 「え?いつそんな法律が……」
 その時である。男の一人が武の部屋の本棚から勝手にエロ忍者の同人誌を取り出す。
 「ありました!犯行の現物です」
 「やっぱりね、この犯罪者が!」
 女が武に罵声をあびせる。
 「何が犯罪ですか、同人誌は合法でしょ」
 「二次元の女性の人権を侵害した書籍を保有していれば犯罪行為なのよ」
 「じゃあ、アメリカ映画とかで女性が死ぬシーンとかありますよね、あれも犯罪?」
 「アメリカ映画は芸術だからいいのよ!」
 「そんな無茶な!」
 「この犯罪者を即座に逮捕しなさい!」
 女は屈強な男たちに命令する。
 男たちは顔を見合わせる。
 「それが、今は猶予期間中で、保有する二次元女性人権侵害図書を全て放棄すれば刑を猶予されます」
 「なによそれ!こんな気持ち悪いオタクが逮捕できないなんて!」
 女は棚に飾ってあった女忍者のフィギアを取って床にたたきつけ、足で踏みつける。
 パキーンと乾いた音がしてフィギアが割れる。
 「や、やめろー!」
 武は女に駆け寄ろうとするが、男たちに羽交い締めにされる。
 「こんなもの!こんなもの!」
 何度も女は砕け散ったフィギアを踏みつけた。
 「ああああああー!」
 武は大声で泣いた。
  男の一人が武に顔を近づける。
 「それで、どうするんだ、本と人形は放棄するのか?放棄しなきゃ逮捕するけど?」
 「……わかりました……放棄します……」
 武はその場に崩れ落ちた。
 武の言葉を聞いた男たちは無造作に同人誌をゴミ袋に詰め、フィギアはへし折って袋に入れた。
 「これに懲りたら二度とこんな人権侵害するんじゃないわよ、この人間のクズ!」
 女は武を上から見下ろし、口から唾を飛ばしながら武を罵ったあと、
 男たちを引き連れて帰っていった。
 「なんだよー、テレビ持ってないから、そんな情報しらなかったよー、ううううう」
 武の目から止めどもなく涙がこぼれ落ちる。
 その武の肩のそっと柔らかい手がふれる。
 ビクッとして武は振り返る。そこには勇名がいた。
 「なんかゴメンな、私のせいでこんな事になって」
 「もういいよ、帰れよ」
 武は鼻水をすすりながら言った。
 「せっかく、親切にしてもらったのに……何かお詫びをさせてくれないか」
 「いいよ、俺の望みなんてお前にはかなえられないから」
 「そんな事ないよ、何でも一つだけ聞いてやるぜ」
  武は涙を拭いた。
 「ほんと?」
 「ほんとだよ」
 勇名は屈託のない笑顔をみせた。
 「でも無理だ」
 「なんだ、言って見ろよ」
 「……」
 「遠慮するなよ」
 「でも……」
 「言えよ、かったるいなあ」
 「おね……」
 「オナ?」
 「違うよ、俺の夢は忍者のお姉ちゃんができることなんだよ!」
 「え?」
 勇名は体を少し引く。
 「ほら引いた。だからイヤだったんだ言うの。恥かいただけじゃん」
 「そんな簡単な事でいいのか?」
 「え?」
 今度は武が驚いて体を引いた。
 「それでいいんだな」
 「いいよ!」
 「それじゃ、契約成立!」
 「え?」
  勇名がちょっと気になる事を言った。
 「あの、契約って……」
 「さあ、私達姉弟きょうだいになったんだからいっぱい楽しもうぜ!」
 「そうだね!わーい!」
  武は勇名に抱きついた。
 「きゃ!何するんだよ」
  勇名は武を突き飛ばす。
 「なんだよ……やっぱり姉弟きょうだいとかいっても口だけかよ」
 「違うよ!身内だからこそ、Hな事はしちゃいけないんだよ!」
 「え?じゃあ、恋人になってって言ってたらHな事でもさせてくれた?」
 武がそういうと勇名はモジモジしながら下を向いた。
 「……私……処女だけど、お前にならあげてもよかったんだぜ」

 「やっちまったー!!!」
 武は頭をかかえて、その場に崩れ落ちた。
 

 
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