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小早川秀秋の章
第四話 波およぎ兼光、誕生
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秀俊には、どうしても渡航する前に行かねばならない場所があった。否、秀吉から餞別として贈られたその刀を見て思い出したのだ。
高野山青巌寺、柳の間。秀次が命を絶ったその場所の前に、秀俊は立っていた。五月とはいえ、山の空気は肌寒い。秀俊は、僅かに身を震わせた。
「正成、暫し待っていろ。ここから先は、私とこの刀だけで良い」
秀俊は、傍らに立つ男にそう伝えた。稲葉正成。秀俊が小早川家の養子となる前から、秀吉の命により秀俊の家老となっていた男である。平素真面目な男であったが、また気づかいも絶やさぬ男であった。
「それは……。せめて、刀だけでもお預け頂けませんか」
最悪の事態を想定したのやもしれない。正成はせがむ様に手を差し出す。
「大丈夫。変な気を起こしたりはしない」
秀俊はどこか寂しげに微笑み、柳の間へと入っていった。
襖を閉じると、驚くほどの静寂に包まれる。不意に、秀俊の身体から力が抜けた。気が付けば、秀俊はうずくまるように刀を抱きしめ涙を流していた。
平生、このような姿は周囲に見せないようにしている。
若く、いや、幼くして中納言という地位に立った秀俊である。常に自分を見る目というものは気にして、気を張っていた。
その張った糸が、不意に途切れたのである。堰を失った涙は、とめどなく流れ落ちるばかりであった。
「義兄上……」
絞り出したような声で、呻く。
「……どうして。どうして私だけが……生き残ってしまったのでしょうか」
頭では解っていた。隆景の元に居たからだ。例え太閤殿下といえど、小早川の後継を明確な証拠無しに処罰は出来ない。
小早川は毛利の臣下である。下手を打てば毛利を刺激しかねない。以前であればともかく、秀次の一件で諸将の不信感と恐怖は強まっていた。如何に事実無根の罪であろうと、太閤殿下が首を縦に振れば処罰されるのだ、と。
毛利に同調した諸大名らがこぞって反旗を翻す事も考えられぬ事ではない。
それでも、何故自分だけが未だ生きているのかという疑念を消すことは出来ない。
秀次は三兄弟であった。しかし、三男の秀保は若くして病死、次男の秀勝は朝鮮の戦で無理が祟り病死、そして秀次は秀吉により腹を召すまで追いつめられた。
やはり秀頼様の御為には、我らは邪魔だったのでしょうか?
答えの無い問いを、中空へと投げる。
私は、生きていてはいけなかったのでしょうか。だから、まさか、この刀を。
その時。声が聞こえた。
――生きてくれ。
懐かしくも温かい、義兄の声であった。無論、部屋には己と兼光のみである。しかし、幼き頃より慣れ親しんだ義兄の声を秀俊が聞き間違える筈もない。
義兄は、今際の際に何を思ったのか。義兄が亡くなった今、如何に思案しようともその解は分からないだろう。だが秀俊は、義兄は少なくとも誰かを呪って死んでいったのではない、と確信めいた考えを胸に抱いていた。
そして、もし最期の時に義兄が私の事も思い返してくれていたのだとすれば。きっと、私が生きることを望んだだろう。
今はまだ、義兄の為かもしれない。それでも秀俊は、生きようと、生き抜こうと決めた。
秀俊は、もう泣かなかった。
「待たせたな、正成」
柳の間を出た秀俊の表情に、正成が安堵の溜息を漏らす。
「いえ……もう良いのですか?」
「良い」
秀俊はにこりと笑み、短くそう言った。少し寂しげではあるが、何かが吹っ切れたような爽やかな笑顔である。
このお方なら、もう大丈夫だろう。正成は確信した。
高野山の麓には川がある。山に登る為にも、山から下る為にも、この川を渡る必要がある。事を終え、安堵の心で僅か、気が緩んでいたのやもしれない。秀俊も正成も、忍び寄るその気配にまるで気付かなかったのである。
がさり。
秀俊の背後の草叢が、揺れた。
「筑前中納言殿、御覚悟!」
合口を構えた男が飛び出す。
秀俊が咄嗟、振り返る。無意識の内、腰の兼光に手を掛けていた。
「曲物ッ!」
正成に取り押さえられる男。しかし男は正成の手を振りほどき、川へと駆ける。
その背中を、袈裟切りに斬り付けた。
骨を断つ感触。秀俊の鼓動が早まる。
しかし男はそのまま川へ入り、対岸へと泳ぎ出した。仕損じたかと叫び、渡し船へと走る正成。
仕損じた? いや、しかし――。
秀俊の手には未だ感触が残っていた。刃にべたりと付いていた血と脂を懐紙で拭い取り、鞘へと収める。
男が川から這い上がる。正成が追い付くより先に、男は川を泳ぎ終えたらしい。しかし、男は矢庭に倒れた。
漸く向こう岸に辿りついた正成が、男を検分する。
既に、事切れていた。肩から脇腹まで、見事に両断されている。これで生きていられる筈が無い。
だが、此の男は。正成は驚愕の表情を浮かべ、秀俊の方を見た。
川を渡る前、確かに秀俊様に斬られた筈。秀俊様は、是程までの使い手であらせられたか。それとも、あの刀は是程までの業物なのか。
或いは、其の両方か。正成は息を呑んだ。
早まっていた秀俊の鼓動が、落ち着きを取り戻していく。次第に冴え渡ってゆく脳裏で矢継ぎ早に状況を整理する。
刺客は敢えて秀俊を「筑前中納言」と呼び、襲った。なれば、野党の類ではないだろう。恐らくは暗殺者だ。
ならば、誰の手の者だと言うのか。秀俊は毛利輝元かと思ったが、例え含むことがあろうとも、「隆景の倅」である私を殺しはしない筈だとすぐさま思い直した。
毛利輝元は、毛利家の現当主である。秀吉に実子・鶴松が生まれた際、秀俊はこの輝元の養子となる予定であった。しかし、輝元は不服を申し立てた。其れは豊家による毛利家への介入だと。養子縁組で数々の家を自身の支配下に置いた毛利元就の嫡孫である。事の重大さは熟知していたのであろう。
だが、秀俊は結果的に隆景の養子となった。輝元の叔父であり、毛利の重大な決定は全て下してきた男の倅となったのである。輝元が如何に秀俊を苦々しく思っていようとも、隆景を敵に回すほど愚かではないだろう。
と、なれば。考えられる人物は他に一人しか存在しない。
やはり太閤殿下にとって、私は邪魔者だと言うのか。だからこそ、私に義兄・秀次の首を落とした刀を渡し、義兄・秀勝が命を落とした朝鮮の地へ送ろうとしているのか。
それでも、と秀俊は真っ直ぐ顔を上げ、刀の柄を握り締めた。あの場所で、義兄の愛したこの刀に誓ったのだ。生きてみせる。生き残ってやる、と。
そうだろう。波およぎ兼光。
波およぎ兼光。斬られた者が川を渡り絶命したと伝わる名刀。
この時より、この刀は「波およぎ兼光」と呼ばれるようになる。
遠くに潮騒が聞こえる。鼻孔に香る、潮香の微か混じった線香の匂いが心地良い。
「強くなったな」
病床の己の元を訪れた「息子」に、隆景はそう声を掛けた。
備後、三原。秀俊に筑前を譲り隠居していた隆景は、元々の領地であるこの地に居を構えていた。秀俊が隆景の元へ養子入りしたのもまた、この三原である。
大坂の港より筑前に向かう航路は瀬戸の海を通る。即ち、港町である三原も通過することになる。
数日がかりの船旅である。当然、道中の停泊地を確保する必要があった。秀俊は、停泊地としてこの三原を選んでいた。無論、小早川家の土地であれば乗船する家臣らの宿の手配が易かったこともあるが、何より隆景に会いたかったが故である。
「いえ、私などまだまだ半端者です」
秀俊は隆景の枕頭に座り、布団に横たわったままの義父に返した。
随分痩せられた、と秀俊は思った。
隆景は、秀俊に家督を譲ってのち病で床に伏せることが多くなっていた。だからこそ、今この時父に会わねばならぬと秀俊は半ば強引に三原行きを決めたのである。
「いや、目が違う。これならば儂がおらぬ様になっても大丈夫だ」
死期を悟っているかの様な義父の言葉に、秀俊は居ても立っても居られなくなる。思わず、隆景の顔を覗き込むように顔を近づけた。
「義父上には、まだまだ教えて頂きたいことが沢山御座います!」
気づけば、叫ぶ様に言い放っていた。
この父と、まだ時を過ごしたかった。父と子としての時間は、あまりにも短すぎた。
「馬鹿者が……」
叱るような言葉尻であったが、その声色はとても優しい。秀俊の頬を愛おしく撫でながら、隆景は続けた。
「最期に一つ、父らしい事をさせてくれぬか」
秀俊は無言で頷く。この父と本当に親子になれるのならば、どの様な事でも構わないと思った。
「ヒデアキ。お主をそう名付ける」
名付け。思いもよらぬ餞別に、秀俊は目を丸くする。
「ヒデアキの『アキ』とは……春夏秋冬の『秋』で御座いましょうか?」
「それは己自身で考えるが良い」
秀俊の胸が熱くなった。この名を名乗る限り、私は父と共にある。そして、この手には義兄の想いがある。
どの様な定めが待ち受けていたとしても、負けはしない。
「強くなった。だが、お前はまだ強くなれる。強くなれ、ヒデアキ」
秀俊は、力強く頷いた。
六月十二日。小早川隆景は三原にてその生涯を終えた。
とゝめをきて しづみははてぬ きみがなを
波のたよりに きくぞかなしき 秀秋
――私を置いて亡くなってしまった、あなたの名前を波のたよりで聞いた事が、とても悲しいのです。
秀俊は渡海する直前、赤間神宮に歌を奉納している。そして、この歌で初めて彼は「秀秋」と署名したのである。
そう、隆景の死を契機として秀俊は名を改めたのだ。
「小早川秀秋」と。
「秀俊」
七月十七日。釜山に到着した秀秋は、かつての名で呼ばれた。張り詰めた、どこか冷たい声。秀秋はその声に覚えがあった。
「今は秀秋です、秀包殿。義父上にそう名付けて頂きました」
義父上、と秀秋が言うやいなや、その男の眉間に深い皺が刻まれる。そのまま男はフンと鼻を鳴らしそっぽを向いた。
毛利秀包。毛利元就の末子であり、かつては兄である小早川隆景の養子として「小早川秀包」と名乗っていた男である。だが、秀秋が隆景の養子となった事で廃嫡となり、今は毛利家の分家として「毛利秀包」と名乗っていた。
「貴様がその名を称すにはまだ早い。俺は貴様が兄上の跡を継いだとは未だ認めてはおらん」
秀包は顔を背けたまま眼だけを動かし、まるで射抜くように秀秋を睨んだ。端正で美しい顔が殊更その冷淡さを引き立てる。
秀包は元とはいえ小早川隆景の養子。つまり、秀秋にとっては義兄と言える存在である。だが、秀秋にはどうしても秀包を兄だとは思えなかった。
「秀包殿に認めて貰わずとも私は……!」
隆景の優しい顔と力強い声を思い出す。義父上は、父としての餞別にこの名を下さったのだ。今更前の名を名乗るなど、秀秋には考えられぬ事であった。
「俺は、貴様が小早川に相応しい者であるか見定めるよう兄上に託されたのだ。貴様が小早川に来る前にな。そして、貴様が相応しく無ければ……」
そう言うと、秀包は腰に差した刀の柄に手を乗せた。
鉄砲兼光。波およぎ兼光と同じく、名工・備前長船兼光により打たれた刀である。一説には、この刀で火縄銃を斬り落としたためこの名が付いたのだと言う。秀包は戦場に於いては火縄銃・雨夜手拍子を愛用していたが、武士として刀は要る。故に、この鉄砲兼光を帯刀していたのである。
「好きにして良いと兄上から仰せ付かっておる」
秀包は秀秋へと向き直り、その冷たい目で秀秋を見下す様に睨んだ。
「私は、義父上に……小早川に恥じぬ将に成ります、必ずや」
秀秋も負けじと秀包を見上げ、眉を吊り上げ言った。
「精々総大将の務めを果たす事だな」
それだけ告げると、秀包は踵を返し秀秋に背を向け歩き出した。その口角は僅かに上がっていたように秀秋には感じられた。
安骨浦。秀秋の上陸した釜山とは比較的近い港である。秀秋の元を発った秀包はこの場所へと足を向けていた。
「それで、秀包は秀秋殿が嫌いなのか?」
肌にひり付くほどの潮風、盛夏の日差しを返し煌く漣。海を望む楼の上に、秀包とその男は居た。
秀包はふう、と溜息を吐くと海に向けていた視線を男に向け直した。その表情は冷たい美しさこそ其儘であったが、秀秋と向き合っていた時分より些か柔らかかった。秀秋に対してが氷であれば、この男に対しては冷水といったところであろうか。
「宗茂。何時もお前は単刀直入に過ぎるな」
「今更隠し立てする様な仲か?」
立花宗茂。筑後・柳川の大名であり、かつて肥後国人一揆の折、隆景の元で秀包と義兄弟の契りを交わした男であった。以来、秀包とは幾度も戦場を共にしている。
武人らしい体つきでありながら、その物腰は何処か気品を感じさせた。
「まあ、好いていない事は疑うべくも無いな」
その秀包の返答に、宗茂の顔が思わず綻ぶ。相変わらず素直では無い男だ、と。
「やはり、秀秋殿が家督を奪ったからか」
「……その事については、元より覚悟していたのだ。兄上は太閤殿下に倣って切支丹への冷遇を強めていたからな」
秀包が遠い目で海に目をやる。秀包は切支丹であった。この時代、知識を広めるため或いは付き合いで信徒になる者も多かった。だが、彼は熱心な部類の信徒であった。
「俺は、己の信ずる途を択んだ。それだけの事だ。そこに奴は関係無い」
「そうか」
そう言って宗茂もまた海に目をやった。
「俺は兄上を誇りに思い、尊敬している。なればこそ、その跡を継ぐには其相応の者で無くてはならぬのだ」
遠くで海が鳴っている。
「……分かる気はするな。俺も立花家には養子として入った身だ」
そう語りながら、宗茂は腰に差した二振りの刀に手を触れる。備前長船長光の剣と備前長船兼光の刀――それぞれ彼の二人の父、高橋紹運と立花道雪から賜った刀剣であった。
備前長船長光の剣は、宗茂が立花家に入るにあたり実父である紹運から手渡された物である。この剣を息子に渡す際に紹運は、今後は私の事を夢にも父と思うな、立花家と高橋家が争うことになればこの剣で私の首を取れと言い残していた。
そして、備前長船兼光の刀は道雪が戦場で何時も差していた愛刀であった。譲り受けた宗茂もまた、戦場ではこの刀を差していたのである。
「養子に入りてはその家の者、か」
何時しか波は夕日を映し紅く染まり、潮風には微かに秋が混ざっていた。
高野山青巌寺、柳の間。秀次が命を絶ったその場所の前に、秀俊は立っていた。五月とはいえ、山の空気は肌寒い。秀俊は、僅かに身を震わせた。
「正成、暫し待っていろ。ここから先は、私とこの刀だけで良い」
秀俊は、傍らに立つ男にそう伝えた。稲葉正成。秀俊が小早川家の養子となる前から、秀吉の命により秀俊の家老となっていた男である。平素真面目な男であったが、また気づかいも絶やさぬ男であった。
「それは……。せめて、刀だけでもお預け頂けませんか」
最悪の事態を想定したのやもしれない。正成はせがむ様に手を差し出す。
「大丈夫。変な気を起こしたりはしない」
秀俊はどこか寂しげに微笑み、柳の間へと入っていった。
襖を閉じると、驚くほどの静寂に包まれる。不意に、秀俊の身体から力が抜けた。気が付けば、秀俊はうずくまるように刀を抱きしめ涙を流していた。
平生、このような姿は周囲に見せないようにしている。
若く、いや、幼くして中納言という地位に立った秀俊である。常に自分を見る目というものは気にして、気を張っていた。
その張った糸が、不意に途切れたのである。堰を失った涙は、とめどなく流れ落ちるばかりであった。
「義兄上……」
絞り出したような声で、呻く。
「……どうして。どうして私だけが……生き残ってしまったのでしょうか」
頭では解っていた。隆景の元に居たからだ。例え太閤殿下といえど、小早川の後継を明確な証拠無しに処罰は出来ない。
小早川は毛利の臣下である。下手を打てば毛利を刺激しかねない。以前であればともかく、秀次の一件で諸将の不信感と恐怖は強まっていた。如何に事実無根の罪であろうと、太閤殿下が首を縦に振れば処罰されるのだ、と。
毛利に同調した諸大名らがこぞって反旗を翻す事も考えられぬ事ではない。
それでも、何故自分だけが未だ生きているのかという疑念を消すことは出来ない。
秀次は三兄弟であった。しかし、三男の秀保は若くして病死、次男の秀勝は朝鮮の戦で無理が祟り病死、そして秀次は秀吉により腹を召すまで追いつめられた。
やはり秀頼様の御為には、我らは邪魔だったのでしょうか?
答えの無い問いを、中空へと投げる。
私は、生きていてはいけなかったのでしょうか。だから、まさか、この刀を。
その時。声が聞こえた。
――生きてくれ。
懐かしくも温かい、義兄の声であった。無論、部屋には己と兼光のみである。しかし、幼き頃より慣れ親しんだ義兄の声を秀俊が聞き間違える筈もない。
義兄は、今際の際に何を思ったのか。義兄が亡くなった今、如何に思案しようともその解は分からないだろう。だが秀俊は、義兄は少なくとも誰かを呪って死んでいったのではない、と確信めいた考えを胸に抱いていた。
そして、もし最期の時に義兄が私の事も思い返してくれていたのだとすれば。きっと、私が生きることを望んだだろう。
今はまだ、義兄の為かもしれない。それでも秀俊は、生きようと、生き抜こうと決めた。
秀俊は、もう泣かなかった。
「待たせたな、正成」
柳の間を出た秀俊の表情に、正成が安堵の溜息を漏らす。
「いえ……もう良いのですか?」
「良い」
秀俊はにこりと笑み、短くそう言った。少し寂しげではあるが、何かが吹っ切れたような爽やかな笑顔である。
このお方なら、もう大丈夫だろう。正成は確信した。
高野山の麓には川がある。山に登る為にも、山から下る為にも、この川を渡る必要がある。事を終え、安堵の心で僅か、気が緩んでいたのやもしれない。秀俊も正成も、忍び寄るその気配にまるで気付かなかったのである。
がさり。
秀俊の背後の草叢が、揺れた。
「筑前中納言殿、御覚悟!」
合口を構えた男が飛び出す。
秀俊が咄嗟、振り返る。無意識の内、腰の兼光に手を掛けていた。
「曲物ッ!」
正成に取り押さえられる男。しかし男は正成の手を振りほどき、川へと駆ける。
その背中を、袈裟切りに斬り付けた。
骨を断つ感触。秀俊の鼓動が早まる。
しかし男はそのまま川へ入り、対岸へと泳ぎ出した。仕損じたかと叫び、渡し船へと走る正成。
仕損じた? いや、しかし――。
秀俊の手には未だ感触が残っていた。刃にべたりと付いていた血と脂を懐紙で拭い取り、鞘へと収める。
男が川から這い上がる。正成が追い付くより先に、男は川を泳ぎ終えたらしい。しかし、男は矢庭に倒れた。
漸く向こう岸に辿りついた正成が、男を検分する。
既に、事切れていた。肩から脇腹まで、見事に両断されている。これで生きていられる筈が無い。
だが、此の男は。正成は驚愕の表情を浮かべ、秀俊の方を見た。
川を渡る前、確かに秀俊様に斬られた筈。秀俊様は、是程までの使い手であらせられたか。それとも、あの刀は是程までの業物なのか。
或いは、其の両方か。正成は息を呑んだ。
早まっていた秀俊の鼓動が、落ち着きを取り戻していく。次第に冴え渡ってゆく脳裏で矢継ぎ早に状況を整理する。
刺客は敢えて秀俊を「筑前中納言」と呼び、襲った。なれば、野党の類ではないだろう。恐らくは暗殺者だ。
ならば、誰の手の者だと言うのか。秀俊は毛利輝元かと思ったが、例え含むことがあろうとも、「隆景の倅」である私を殺しはしない筈だとすぐさま思い直した。
毛利輝元は、毛利家の現当主である。秀吉に実子・鶴松が生まれた際、秀俊はこの輝元の養子となる予定であった。しかし、輝元は不服を申し立てた。其れは豊家による毛利家への介入だと。養子縁組で数々の家を自身の支配下に置いた毛利元就の嫡孫である。事の重大さは熟知していたのであろう。
だが、秀俊は結果的に隆景の養子となった。輝元の叔父であり、毛利の重大な決定は全て下してきた男の倅となったのである。輝元が如何に秀俊を苦々しく思っていようとも、隆景を敵に回すほど愚かではないだろう。
と、なれば。考えられる人物は他に一人しか存在しない。
やはり太閤殿下にとって、私は邪魔者だと言うのか。だからこそ、私に義兄・秀次の首を落とした刀を渡し、義兄・秀勝が命を落とした朝鮮の地へ送ろうとしているのか。
それでも、と秀俊は真っ直ぐ顔を上げ、刀の柄を握り締めた。あの場所で、義兄の愛したこの刀に誓ったのだ。生きてみせる。生き残ってやる、と。
そうだろう。波およぎ兼光。
波およぎ兼光。斬られた者が川を渡り絶命したと伝わる名刀。
この時より、この刀は「波およぎ兼光」と呼ばれるようになる。
遠くに潮騒が聞こえる。鼻孔に香る、潮香の微か混じった線香の匂いが心地良い。
「強くなったな」
病床の己の元を訪れた「息子」に、隆景はそう声を掛けた。
備後、三原。秀俊に筑前を譲り隠居していた隆景は、元々の領地であるこの地に居を構えていた。秀俊が隆景の元へ養子入りしたのもまた、この三原である。
大坂の港より筑前に向かう航路は瀬戸の海を通る。即ち、港町である三原も通過することになる。
数日がかりの船旅である。当然、道中の停泊地を確保する必要があった。秀俊は、停泊地としてこの三原を選んでいた。無論、小早川家の土地であれば乗船する家臣らの宿の手配が易かったこともあるが、何より隆景に会いたかったが故である。
「いえ、私などまだまだ半端者です」
秀俊は隆景の枕頭に座り、布団に横たわったままの義父に返した。
随分痩せられた、と秀俊は思った。
隆景は、秀俊に家督を譲ってのち病で床に伏せることが多くなっていた。だからこそ、今この時父に会わねばならぬと秀俊は半ば強引に三原行きを決めたのである。
「いや、目が違う。これならば儂がおらぬ様になっても大丈夫だ」
死期を悟っているかの様な義父の言葉に、秀俊は居ても立っても居られなくなる。思わず、隆景の顔を覗き込むように顔を近づけた。
「義父上には、まだまだ教えて頂きたいことが沢山御座います!」
気づけば、叫ぶ様に言い放っていた。
この父と、まだ時を過ごしたかった。父と子としての時間は、あまりにも短すぎた。
「馬鹿者が……」
叱るような言葉尻であったが、その声色はとても優しい。秀俊の頬を愛おしく撫でながら、隆景は続けた。
「最期に一つ、父らしい事をさせてくれぬか」
秀俊は無言で頷く。この父と本当に親子になれるのならば、どの様な事でも構わないと思った。
「ヒデアキ。お主をそう名付ける」
名付け。思いもよらぬ餞別に、秀俊は目を丸くする。
「ヒデアキの『アキ』とは……春夏秋冬の『秋』で御座いましょうか?」
「それは己自身で考えるが良い」
秀俊の胸が熱くなった。この名を名乗る限り、私は父と共にある。そして、この手には義兄の想いがある。
どの様な定めが待ち受けていたとしても、負けはしない。
「強くなった。だが、お前はまだ強くなれる。強くなれ、ヒデアキ」
秀俊は、力強く頷いた。
六月十二日。小早川隆景は三原にてその生涯を終えた。
とゝめをきて しづみははてぬ きみがなを
波のたよりに きくぞかなしき 秀秋
――私を置いて亡くなってしまった、あなたの名前を波のたよりで聞いた事が、とても悲しいのです。
秀俊は渡海する直前、赤間神宮に歌を奉納している。そして、この歌で初めて彼は「秀秋」と署名したのである。
そう、隆景の死を契機として秀俊は名を改めたのだ。
「小早川秀秋」と。
「秀俊」
七月十七日。釜山に到着した秀秋は、かつての名で呼ばれた。張り詰めた、どこか冷たい声。秀秋はその声に覚えがあった。
「今は秀秋です、秀包殿。義父上にそう名付けて頂きました」
義父上、と秀秋が言うやいなや、その男の眉間に深い皺が刻まれる。そのまま男はフンと鼻を鳴らしそっぽを向いた。
毛利秀包。毛利元就の末子であり、かつては兄である小早川隆景の養子として「小早川秀包」と名乗っていた男である。だが、秀秋が隆景の養子となった事で廃嫡となり、今は毛利家の分家として「毛利秀包」と名乗っていた。
「貴様がその名を称すにはまだ早い。俺は貴様が兄上の跡を継いだとは未だ認めてはおらん」
秀包は顔を背けたまま眼だけを動かし、まるで射抜くように秀秋を睨んだ。端正で美しい顔が殊更その冷淡さを引き立てる。
秀包は元とはいえ小早川隆景の養子。つまり、秀秋にとっては義兄と言える存在である。だが、秀秋にはどうしても秀包を兄だとは思えなかった。
「秀包殿に認めて貰わずとも私は……!」
隆景の優しい顔と力強い声を思い出す。義父上は、父としての餞別にこの名を下さったのだ。今更前の名を名乗るなど、秀秋には考えられぬ事であった。
「俺は、貴様が小早川に相応しい者であるか見定めるよう兄上に託されたのだ。貴様が小早川に来る前にな。そして、貴様が相応しく無ければ……」
そう言うと、秀包は腰に差した刀の柄に手を乗せた。
鉄砲兼光。波およぎ兼光と同じく、名工・備前長船兼光により打たれた刀である。一説には、この刀で火縄銃を斬り落としたためこの名が付いたのだと言う。秀包は戦場に於いては火縄銃・雨夜手拍子を愛用していたが、武士として刀は要る。故に、この鉄砲兼光を帯刀していたのである。
「好きにして良いと兄上から仰せ付かっておる」
秀包は秀秋へと向き直り、その冷たい目で秀秋を見下す様に睨んだ。
「私は、義父上に……小早川に恥じぬ将に成ります、必ずや」
秀秋も負けじと秀包を見上げ、眉を吊り上げ言った。
「精々総大将の務めを果たす事だな」
それだけ告げると、秀包は踵を返し秀秋に背を向け歩き出した。その口角は僅かに上がっていたように秀秋には感じられた。
安骨浦。秀秋の上陸した釜山とは比較的近い港である。秀秋の元を発った秀包はこの場所へと足を向けていた。
「それで、秀包は秀秋殿が嫌いなのか?」
肌にひり付くほどの潮風、盛夏の日差しを返し煌く漣。海を望む楼の上に、秀包とその男は居た。
秀包はふう、と溜息を吐くと海に向けていた視線を男に向け直した。その表情は冷たい美しさこそ其儘であったが、秀秋と向き合っていた時分より些か柔らかかった。秀秋に対してが氷であれば、この男に対しては冷水といったところであろうか。
「宗茂。何時もお前は単刀直入に過ぎるな」
「今更隠し立てする様な仲か?」
立花宗茂。筑後・柳川の大名であり、かつて肥後国人一揆の折、隆景の元で秀包と義兄弟の契りを交わした男であった。以来、秀包とは幾度も戦場を共にしている。
武人らしい体つきでありながら、その物腰は何処か気品を感じさせた。
「まあ、好いていない事は疑うべくも無いな」
その秀包の返答に、宗茂の顔が思わず綻ぶ。相変わらず素直では無い男だ、と。
「やはり、秀秋殿が家督を奪ったからか」
「……その事については、元より覚悟していたのだ。兄上は太閤殿下に倣って切支丹への冷遇を強めていたからな」
秀包が遠い目で海に目をやる。秀包は切支丹であった。この時代、知識を広めるため或いは付き合いで信徒になる者も多かった。だが、彼は熱心な部類の信徒であった。
「俺は、己の信ずる途を択んだ。それだけの事だ。そこに奴は関係無い」
「そうか」
そう言って宗茂もまた海に目をやった。
「俺は兄上を誇りに思い、尊敬している。なればこそ、その跡を継ぐには其相応の者で無くてはならぬのだ」
遠くで海が鳴っている。
「……分かる気はするな。俺も立花家には養子として入った身だ」
そう語りながら、宗茂は腰に差した二振りの刀に手を触れる。備前長船長光の剣と備前長船兼光の刀――それぞれ彼の二人の父、高橋紹運と立花道雪から賜った刀剣であった。
備前長船長光の剣は、宗茂が立花家に入るにあたり実父である紹運から手渡された物である。この剣を息子に渡す際に紹運は、今後は私の事を夢にも父と思うな、立花家と高橋家が争うことになればこの剣で私の首を取れと言い残していた。
そして、備前長船兼光の刀は道雪が戦場で何時も差していた愛刀であった。譲り受けた宗茂もまた、戦場ではこの刀を差していたのである。
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